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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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目が覚めるとまず隣に手を伸ばす。
カーテンの隙間から漏れ出る朝日はいつも彼女の肩のあたりに光の筋をつくっていて、それを頼りに手を伸ばす。
どこか遠くで早起きの犬が鳴いて、家の前をランニングするじいさんの足音も聞こえて、紛れもない朝がやってきていたけど、ナミさんはそんなこと気にも留めずにすこすこと寝ている。そんな彼女の髪をふわふわと少し撫で、顔の向きによっては起こさないようそっとどっかにキスして、ようやくベッドから起き上がる。日課だ。

でも、今日は隣に手を伸ばした時からなにかがちがった。

「あれ」

思わず声が出る。隣の布団はぺたんとしぼんでいて、シーツは冷たくなっていた。
ナミさんがいない。

「あれえ」

寝ぼけている自覚があったので、夢かもしれないと思い、無作為に隣をまさぐる。信じられない寝相で彼女がうずくまっている可能性も無きにしも非ずだ。
しかし、手と足を使ってもぞもぞやっても、どこにも彼女はいなかった。
ここでようやくおれは目を開ける。開いたことで、今まで閉じていたのだと自覚した。
やっぱりいない。

なんで、なんで、と急に悲しくなった。
昨日は一緒に寝たのに、夜中目が覚めてちゃんと彼女が腕の中にいることまで確認したのに。
のろのろと頭をもたげ、起き上がる。
ベッドの横の小さなローテーブルに置いた目覚まし時計。午前7時半。
たしかナミさんは、今日は仕事も休みで、用事もなんにもないし、朝急がなくていいから泊まってってもいいかも、とそう言った。
帰っちゃったのかね。
朝は彼女のために特別うんまいコーヒーを入れて(パティの店からぶんどってきた50グラム1万2千円くらいのやつ)、さくっと朝食を作って朝からたのしませようとばかり思っていたのに。

「あーあー」

がっくり。ため息の反動で伸びをしたとき、隣の部屋からジャーと水音が聞こえた。
隣はリビングキッチン。
え、おれの音の部屋だよな。ナミさんいるの?
ミーアキャットのように首を伸ばし、音を感知すると、同時に香ばしくてほんのり甘い小麦の香りがふわんと音楽のように流れ込んできた。

──パンケーキ?
少し焦げの強い香りも感じて、やっぱりそうだ、パンケーキを焼くにおいだと確信する。
ナミさんだ。ナミさんがおれのキッチンで、パンケーキを焼いている。

お、おれのためにィ!? とぶっ飛んで天井に突き刺さる勢いで気分が浮上し、慌ててスリッパにつま先を突っ込み部屋を飛び出そうとした。
いやでも、待てよ。
ナミさんが黙っておれより先に起きて、ひとりで(おそらく)朝めしの用意をしている。きっと、たぶん、絶対、おれを驚かそうとしているのだ。

嬉しい、とじんわり胸の中に温かい水がしみこむ。
でも、だからこそ、彼女の気持ちを無碍にするわけにはいかない。おれはしっかり朝寝坊したように起きてきて、出来上がった彼女のパンケーキの前でわっと驚き感動しなければならない。
もう十分驚いたし、感動もしたけど。それこそひゅるんと顔が緩むくらい、喜んでいるが。
どうしよう、どうする、こっそりキッチンの前まで言って、様子を見るか。でも様子を見てんのがばれたら、ナミさんは怒るだろうしなあ。
思い立って、キッチン側の壁に近づいた。壁にくっつけてあるデスクの上のものを肘から下を使ってざっと退かし、浅く腰掛けて壁に頭を付けてみた。
至って静かだが、ときおりナミさんの声と思われる小さな独り言が届いた。
「よ、ほ、とりゃ」と掛け声らしきものが聞こえる。パンケーキをひっくり返そうとしているのかもしれない。
その声の可愛さの威力を前に、おれはひれ伏す。
がっくりと頭を垂れて、膝に額をくっつけたまま数十秒。彼女の可愛さに殺されかけたことなどあまた知れないが、その威力たるや。

おれはまた、懲りずに壁に耳を付けた。
ガチャガチャと皿の鳴る音がして、ぺちんと気の抜けた音もした。パンケーキを皿に移したんだろう。
完成かな、まだ焼くのだろうか、とソワソワ様子を見ているうちに、ナミさんはジャバジャバと激しく水を使い始めた。
どうも手を洗っているような様子ではない。完成したのなら、片付けは後にするだろう。皿に耳をくっつけて、神経を研ぎ澄ます。
キュッと歯切れよく水音がとまり、ざかざかと軽いものがこすれる音が聞こえる。
なるほど、野菜だ。レタスか何かを洗っていたのだ。
サラダを作るつもりなんだろう。パンケーキに添えるのかもしれない。
野菜を先に洗って準備しておけば、パンケーキは焼き立てで食えるのに、多分勢い余ってパンケーキから焼いちゃったんだろうなあ、とこれまた可愛らしさにもだえる。

でも、そろそろ完成だろう。おれもこっそり部屋を抜け出し、先に顔を洗ってこようか。
ナミさんが引き出しをいくつか開け、カトラリーを探している気配がある。
食器棚の右から二番目の引き出しさ、と頭の中で答えながらおれは机から腰を上げた。

と、隣の部屋から小さく声が聞こえた気がした。

「え」

足を止め、素早く壁に耳を付けるが、もう声は聞こえない。ときおりカトラリーのぶつかる音が聞こえるだけだ。
いま、いま、「いただきます」って聞こえた気がした。

さ、先に食べちゃうのかい。

しんとした朝のキッチンで、ナミさんが一人でもぐもぐやっている姿を思い浮かべるとやっぱり可愛かったが、ナミさんが嬉しそうにおれを起こしに来て、「朝ご飯作ったの」とちょっと照れながら言うところをばっちり期待していたおれは思わずへなっと座り込んだ。
しかしすぐに、笑いが込み上げる。
目が覚めてしまって、おなかがすいて、おれを起こそうか迷って、でも寝かしておいてやろうと思って、ひとりキッチンへ向かったんだな。
冷蔵庫の中、勝手に開けてもいいかなとかちょっと迷って、その中にパンケーキの材料が綺麗にそろっているのを見つけて、作ってみちゃおうかと手を伸ばす。
野菜は昨日の夕食でおれが作った残りがあったから、きっとそれを洗って。

「あれ、起きてたの」

唐突に壁越しではない彼女の声が届いて、びくっと情けなく反応した。しゃがみこむおれを怪訝な顔で見下ろして、ナミさんはおれが貸した寝間着代わりのTシャツ姿で入り口のところに立っている。

「なにやってんの」
「や……なにも。今起きたとこ。ナミさん早いね」
「うん、あのね」

てくてくとナミさんは歩み寄ってくると、おれの真横にすとんとしゃがみこんだ。

「朝ご飯の準備しようと思って。勝手に冷蔵庫の中使っちゃった。ごめんね」
「や、もちろん構わねェよ。あれ、でも、あれ」

盗み聞きしていたなんて言えず、「でも先に食べてたんじゃ」とも言えなくてもごもごするおれを不思議そうに覗き見てから、ナミさんは目を逸らして言った。

「でも、上手くできなかったから。やっぱりサンジ君が作って」

パンケーキ、焦げちゃった。
納得がいかないし、ふがいないし、気まずいけど、といった雰囲気満載の顔でナミさんは言った。
焦げちゃったのか。そうか。それで、焦げたやつを自分で片付けてたんだな。

「まだ一枚、焦げたのがあるんだけど」
「じゃあそれはおれにちょうだい。おれが焼いたのをナミさんが食って」

ナミさんの手を取って立ち上がる。
開いたままの扉からは、パンケーキのこうばしくて力強い香りがどんどん流れ込んできた。
彼女の手を引いてキッチンへ行くと、コンロの上にフライパンと、横にパンケーキの生地がそのまま余っていた。
彼女を座らせ、作ってもらったタネを使わせてもらう。

「また、朝めし作ってよ」
「もうやだ」
「なんで」
「なんでって、あんたの方が上手いからでしょ」
「でも、たまにはさ」
「まあ、たまにはね」
「普段はおれが作るから」

ねえ、と突然ナミさんが笑いだしたので、パンケーキをくるんとひっくり返してから彼女の方を見遣った。
肩を揺らして、彼女は言う。

「別に私たち一緒に住んでないのにね」

じゅう、と焼けていない面が音を立てる。

「じゃあ、一緒に暮らそうよ」

口をついて出た言葉に、ナミさんはおれを見上げる。
そのまま彼女がなにも言わないので、しまった、さいあくだ、しにたい、とどんどん焼けていくパンケーキを睨みながら自分を呪う。
「いいんじゃない」と彼女が答えたとき、おれは初めてパンケーキを焦がしたことに気付いた。

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無題
もー愛しい!って様子が微笑ましく
テーブルを囲んだシーンが目に浮かびます。また脳内妄想がチラチラと活動してますよ笑
さちよ 2015.10.18 Sun  22:36 Edit
material by Sky Ruins  /  ACROSS+
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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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