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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
朝起きるともう、彼女はいなかった。
スプリングの効いたソファからもそりと身を起こし、遮光カーテンの隙間から漏れる朝日の筋をぼんやりと眺める。
それだけで彼女が出て行ったのだとわかった。

狭いスペースに体を無理に収めていたせいで、腰と肩がギシギシと軋む。
腰に手を当ててひねると嫌な音が鳴った。
スリッパに足を突っ込むと、冷たさに体が震える。
三月の朝はほのかに温かく、しかし部屋に残った冷気は容赦がない。
長方形の小さなガラステーブルに昨夜のマグカップが残っている。
片手の指に引っ掛けるように掬い上げ、キッチンへ向かった。





「あんまり遅いから心配したよ」

ラスターをこなして帰ってきたおれよりもさらに遅く帰ってきた彼女の背中に、つい非難がましい声をかけた。
編み上げブーツの紐を解いていた彼女は、しこたま飲んだのだろうにけろっとした顔で、「あれ、メールしなかったっけー?」と顔も上げず言った。

「届いてねェぜ」
「あーごめん、じゃあ忘れてたわ」

よいしょ、と可愛らしい掛け声で立ち上がった彼女は慰めるようにおれの肩をぽんとひとつ叩いて、横を通り過ぎた。
そのまま一直線にキッチンへ向かい、水色のアラベスク模様が綺麗なお気に入りのマグカップに水を汲んで、コートも脱がずにがぶりと飲み干していた。
彼女が放り出したカバンがソファを陣取っていたのでそれを脇にどけて座る。
飲みかけのワインに栓をしようと手を伸ばすと、目を留めた彼女が「私も飲むー」と言って寄ってきた。

「ナミさんはもう相当飲んだろ。おれももう飲まねェから栓するよ」
「やだ、のむ」

そう言って彼女はずいとマグカップを差し出した。
水を飲んでいたのと同じものだ。

「酔ってんの?」
「はぁ? 酔ってないわよ。いいじゃない、毒を持って毒を制すのよ」
「はあ」

けらけらと笑う彼女はやはり少し酔っている。
楽しい飲み会だったようでなによりだが、どこか蚊帳の外にされたようなつまらない気分が胸に広がる。
彼女はおれからボトルを奪うと、自分でマグカップに注いでしまった。

「あーあー、せめてワイングラス出そうぜ」
「いいのよ家なんだから。グラスでもマグカップでも変わんないわ」
「確かに安いやつだけどさ」

グラスはワインを美味しくするし、香りも変える。
ただし今そんなつまらないことを言ったところで彼女は聞きやしないだろう。
マグカップに半分くらい注いだワインを、ナミさんは呷るように喉を鳴らして飲んだ。

「誰かに送ってもらったのかい」
「んー? 終電間に合ったから駅から歩いて帰ってきたわよ」
「え、まさか一人?」
「んもうサンジくんうるさい」
「ダメじゃねぇか、連絡してくれたら迎えに行ったのに」
「だってサンジくんも仕事終わったばっかじゃない。それにたかだか10分くらいへーきよ」
「危ねぇから連絡してくれって前も言ったろ、頼むから」
「んもうサンジくんうるさい」

二度目のうるさいをいただいて、カチンときた。
それ以上に彼女が帰ってくるまでの心労と呆れが濃いため息になって零れた。

「──心配してんだろ」

乱暴にソファにもたれかかってそう言うと、彼女は目のふちを赤くしたまま仁王立ちでおれを睨み、見下ろした。

「なによ、ちょっと遅くなっただけでしょ」
「それはいいんだって、ただ連絡」
「だからもう謝ったじゃない。いつまでもしつこいわね」

言葉を失って黙り込む。失意のせいではないことを、彼女はおれの顔を見てきちんと読み取った。
眉を吊り上げて彼女は続ける。

「別にいつも迎えに来てもらってるわけじゃないし。一人で帰るときもあるもん」
「その度におれは連絡してくれって再三言ってるけどな」
「たかが10分程度の夜道でしかも住宅街! なにが起こるってのよ」
「さあ」

たった一杯飲んだだけのワインが今更回ってきた。
彼女との応酬が若干ものくさくなってきて、投げやりな言葉を返す。
さあってなによ! と彼女は激昂する。
ああ怒ってる、怒らせた──と思いつつ、いつものように丁寧に彼女の心を掬って持ち上げてあげることができない。
優しくなれない自分に信じられないような思いを抱く反面、まあいいやと顔を背ける心がある。
面倒くさそうに口を閉ざしたおれに、ついには彼女も黙り込んだ。
深夜を刻む針の音が響く。アパートの外を通り過ぎるバイクの音が夜を引き裂く。
バイクが行き過ぎると、観葉植物の呼吸まで聞こえそうなほど静かになった。

彼女はきびすを返し、浴室へひたひたと歩いて行った。
そのままリビングには戻らず、しばらくすると寝室の扉が閉まる音がした。
胸にくすぶったものとかすかな頭痛をそのままに、ソファに背中から沈む。
目を閉じると彼女の怒った顔と笑った顔が交互に思い出された。





ワインの染みが赤黒く残ったマグカップを丁寧に洗う。
冷たい水ですぐに手の感覚がなくなった。
無心で手を動かしているうちに、身体はいつものルートを辿る。
気付いたらコーヒー豆をごりごりと挽いていた。
淹れるまえの豆の、新鮮で青臭い香りがかすかに広がる。
休日の朝はよくこうしてゆっくりコーヒーを淹れていた。
忙しい朝はもちろんインスタントだ。彼女がそれでいいと言った。
豆を挽くのはおれの役目だ。
豆の引っ掛かりを取りながら上手く回すのは少しコツがいる。
がるがるがるとリズムよく手を回していると、がるがるがりっと手が止まる。
おれは少し手の力を緩め、ミルを支える反対の手を撫でさするように少し動かしてからまたハンドルを回す。
すると簡単にまた、がるがるがるとハンドルが小気味よく回り始めるのだ。
彼女が豆を挽くと、引っ掛かったとき力任せにハンドルを引っ張ったり、ミルを机の角にぶつけてみたりと試行錯誤する姿が可愛くて、いつも笑ってしまう。

引いた粉をフィルターに落とし、水を入れてスイッチを入れた。
オレンジ色の灯りがともり、しばらくするとフスフスと音をたてはじめた。

朝めし、と思いながらキッチンカウンターを見渡した。
馬鹿でかいビニール袋の中に、食パンが2枚、しなっと力なく倒れている。
袋が馬鹿でかいのは、食パンを二斤まるごと買ったからだ。
二斤と言うと、あの、スーパーとかで売っているサイズがふたつ横にくっついた長さだ。
食パンの美味いブーランジェリーがあると彼女がどこかから聞いてきて、しかしそこは朝一で並ばないと途端に売り切れるとの情報で、ならば休みの日にと二人で朝の6時半から買いに行った。
自転車で、彼女を後ろに乗せて。
二月の冷たい朝の空気をぶった切るように、通勤中のサラリーマンを追い越して、家の前を掃くばーさんのスカートを巻き上げて、坂道を下った。
スピードを上げれば上げるほど彼女は嬉しそうに声をあげた。
調子に乗りすぎると、後頭部を殴られた。

目当てのパンを無事に買い、帰りはパンを抱きしめる彼女を乗せて坂道を上る。
必死の形相でペダルをこぐおれを、彼女は口をあけて笑った。
ほらー、がんばれー、と口先だけの応援をして、自分は腕に抱えた温かな食パンの焼きたての香りを吸い込み、しあわせそうな息をついていた。

パンは思わず取り落としそうになるほど美味かった。
トーストにして、シンプルに何もつけず食べたのだが、驚くほどきめが細かく焼いた表面は香ばしく、練り込んである生クリームの味がしつこくなくて美味かった。
「ウマッ」と「おいっし!」というふたりの声が重なる。
丸くした目を合わせると、ふたりとも次の瞬間には黙ってばくばくと食べ始めた。
おれが二枚目をトースターに乗せていると、彼女は「私もー」と言って、おれのパンの横にねじ込むように自分のそれを並べたのだった。

いつのまにか最後の2枚となっている。
普通の一枚と、片面が耳になっている一枚。耳になっている方をトーストした。
淹れたコーヒーをカップに移し、軽く焼き色を付けたトーストを皿に乗せる。
ダイニングテーブルに置きっぱなしの食卓塩をぼんやりと眺めながら、トーストをかじった。

え? と思い、一口かじったトーストを思わずまじまじと眺めた。
もう一口、大きめにかじってみる。
美味くない。
むしろ不味い。
こんな味だったっけ、と思いながら口の中のものを咀嚼してコーヒーで流し込んだ。

焼いた表面は口に刺さって痛いし、きめ細かいパン生地はもっちりとしたかみごたえがない。
二斤を食べきる前に湿気でやられたのだろうかと思いながら食べ続けていたが、向かい合ったイスの背を見ながら口を動かしているうちに、次第と腹が立ってきて、ついには食いかけのトーストを皿の上に放り出した。

なんだこれは。
なんだおれは。

淹れたてのコーヒーの、黒い水面に窓が写る。
白い光がダイニングを照らす。
こまごまと物の多いキッチンカウンターで小さな葉をたくさんつけたシュガーパインが、風もないのにほのかに長い茎を揺らしている。


コーヒーは苦く、トーストは不味く、彼女は出ていった。
おれたちの家を出ていった。


「ナミさん」

声はどこでもない場所に瞬く間に収納される。一瞬で吸い込まれていった。
身体のど真ん中にあるなにかおれを支える大事な部分が、すこんと抜き取られるのを感じた。

ナミさん。


乱暴に椅子を引き、食いかけのトーストが乗った皿をシンクまで連行する。
「クソが」と悪態をつきながら三角コーナーに向かって腕を突き出した。
しかし直前で手が止まり、結局は皿が割れる勢いでカウンターにトーストを放り投げた。
安物のプラスチックの皿からトーストは呆気なく浮かび上がり、カランと軽い音が響く。

彼女のいないこの部屋に、美味いものなどなにひとつない。
なにひとつ。

もう一言クソと吐き出して、弾かれたように踵を返した。
アパートの鍵をひっつかみ、玄関へ続く扉を叩き割る勢いで開け、部屋を飛び出した。

胸の真ん中に、何かがぶちあたった。

「キャア、いったぁ!」

やわらかく跳ね返ったそれは、鼻の頭を押さえておれを睨みあげた。

「ちょっと! 危ないでしょ、そんな走り出してきたら! 朝っぱらからなに慌ててんのよ!」
「な、ナミさ」
「……どこいくの?」

彼女は不審そうにおれを下から上まで眺め回した。
昨日の夜着替えた洗いざらしの部屋着。重力を無視した寝癖に、裸足の足は スリッパを履いている。
どこいくのよあんた、と彼女はもう一度聞いた。

「や……あれ? ナミさ……え?」
「寝ぼけてんの?」
「ちが……あれ、」

え、そうなの。おれは寝ぼけてたの。
そう聞き返したら、知らないわよ、と彼女は吹き出して、おれを押しのけて部屋に入っていった。
勢いを失ったおれは、すごすごと彼女の後に続く。

「あー寒かった。3月なのにこんなに寒いなんて。しかも遠い」
「ナミさんどこ行ってたの」
「これ」

マフラーを振り払うように解いた彼女は、長い髪を後ろに払いながら右手に提げたエコバッグをおれに差し出した。
思わず受け取るとずしりと重い。
底を支えるように手のひらで持ち上げると、生き物のように温かった。

「……パンだ。あそこの」
「そう。もうなくなりそうだったでしょ」
「一人で買いに行ってたのかい、あそこまで」
「そうよ、あんたの自転車漕いでね。あー寒かった」

言いながらナミさんはくるりと背を向けたが、すぐに、思い切ったようにまたこちらに顔を向けた。

「昨日はごめんなさい。心配させたのに、連絡もしないで」
「や……そりゃ昨日聞いたし、おれが」
「でもサンジくん怒ってた」

うつむいた彼女の声がほんの少し揺れる。

「怒ってたから」

ぎょっとして距離を詰めると、彼女の方からぶつかってきた。
怒ってなんかねぇさとすぐさま抱きしめると、彼女の髪からはまだ冬の朝の匂いがした。
鼻が鳴るのは寒さのせいだと言わんばかりに彼女は盛大に鼻をすすりあげ、おれの胸に頬をつけたまま、買ってきたのを食べると言う。

「一斤丸ごと、フレンチトーストにして。残りのもう一斤は、今晩食べるの」
「丸ごと!? そんで今日で食い切っちまう気!?」
「うん」

彼女はたまにわからないことを言う。
おれがわからないと言うとすごく怒る。

「──んじゃ、卵が4つはいるな。あとはちみつもあるだけぶち込んで甘くしよう」
「アイスも乗せたい」
「粉砂糖も散らすか」
「ベランダからミント取ってこなきゃ」
「豪勢だね」
「誕生日だから」

彼女が顔を上げる。

「誕生日だから」

形のいい唇を引き締めてわざとまじめくさった顔をしていたのが、次第にニヤニヤとした笑みが小さな顔いっぱいに広がった。

「誕生日だから、トーストはフレンチだし、アイスも乗るし、ミントも飾るのよ」
「──おれの誕生日だから」
「そう」
「君のために」
「私のために」

最高だ、と強く引き寄せる。
痛い痛いと嬉しそうな声が上がる。
おめでとう、と背中を叩かれて、ありがとう、と強く目を瞑った。

卵を割っていたら、彼女がなにこの食べかけ、とキッチンに放り出された食いかけのトーストを指差した。
笑ってごまかし、寂しく横たわったそれを口に詰め込んだ。



意味がなくても、理由がなくても、料理はできる。
人は食べる。おれは作る。
美味いかどうかは、彼女次第だ。



【Sanji Happy Birthday‼︎ 2016.3.2】



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