OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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大きなパールのイヤリングを付けてみたいと思っていた。
本当はピアスの方が格好がつくのだけれど、耳に穴を開けるなんてやっぱり怖くて私には到底出来そうもない。
そもそもアクセサリーをほとんど持っていないから、それを手に取ることが気恥ずかしくて自分に似合うのかすらもわからなかった。
ずっとずっと昔、家の誰かがおもちゃだけどシルバーのシンプルなネックレスをお土産に買ってきてくれたことがある。
ドキドキしながら首に付けると、一回り大人になれた気がしてすごくうれしかった。
でもすぐに、ネックレスが触れたところが猛烈に痒くなって外してみたら赤く鎖の跡が白い肌にくっきりと浮かんでいて、それを見たメリーがネックレスをどこかに持って行ってしまった。
それきりアクセサリーは付けていない。
だから、目の前に座った彼女の黒くまっすぐな髪の隙間からちらりと純白の光が見えたとき、あっと思わず声をあげそうになった。
チーズケーキを上品に口に運ぼうとしていた彼女は、伏せていた目を上げ、微かに微笑んで私を見た。
「なにかしら」
「あ、いえ、なにも、ごめんなさい」
誤魔化すように笑って胸の前で小さく手を振る。
隣に座ったナミさんとその向かいのビビさんがとめどなかった会話をふっと吸い込むように止めて、私たちを見た。
ロビンさんは不自然に間の空いた沈黙を埋めるように、「このチーズケーキすごくおいしいわ」と静かなのによく通る声で言った。
ナミさんがパッと大きく口を開けて「でっしょ!」と嬉しそうな声をあげる。
「こないだお土産でもらってねー、すごくおいしかったから他のケーキも食べてみたいと思ってたの」
「私のマロンケーキも洋酒が効いてておいしいけど……チーズケーキにすればよかったかなぁ。ナミさんのは?」
「ん、たくさんフルーツ乗ってるしタルト生地はアーモンドのかおりもいいし最高。あー来てよかった」
「カヤさんのは? シンプルないちごショートなんて、いつからってくらい私食べてないわ」
ビビさんが私のショートケーキに視線を向ける。
台形になったケーキの上にはバランスよくイチゴが乗っていた。
赤と白のコントラスト。ノートに引いた赤線の様に私らしい。
「私、ケーキと言えばこれなの。生クリームがすきで」
「ここの生クリームくどくなくておいしいのよねー。こないだ会社の人が買ってきてくれたケーキがさ、すんごく甘ったるくて油っこくてびっくりしたんだけど」
ナミさんがフォークの先を舐めながら離し始めた矢先、私のカバンからごく控えめな音楽が響いた。
特に気に留める程の音量ではなかったのに、向かいのロビンさんがいち早く気付いて「出たら?」と言ってくれた。
「あ、でも」
「なに電話? 気にせず出て」
「じゃ、じゃあごめんなさい」
鞄をつまむように持って、ナミさんの後ろを通って移動した。
肩をすぼめて店員に会釈をし、店の軒先に出てからやっと携帯を取り出す。
着信はまだ続いていた。
私に電話をかけてくるのは、家の者か彼くらいだ。
「もしもし」
「よぉー、今大丈夫だったか?」
「えぇ、外ではあるんだけど」
「かけ直すか?」
「大丈夫。なにか?」
「そうそうおめーが見たいっつってた美術館の特別展、チケット取れそうだから買おうかと思ったんだけどよ、日にち指定だからいつがいいか訊こうと思って」
「本当!? すごい、前売りはすぐに売り切れるって聞いてたのに」
「おれ様の人脈を使えばこんなもんよ。で、いつがいい?」
「えっと、特別展は来月いっぱいまでよね。明後日の月曜から来月の中ごろまで実習だから、それが終わってからならいつでも」
「おし、んじゃー22日の土曜でもいいか?」
「えぇ、ありがとう」
「おうおう、んじゃーな!」
歯切れよくあっさりと切れた携帯電話をカバンに滑り落とし、席へ向かった。
むずむずと胸が痒くなる。
「おかえりー」
ナミさんが少し椅子を引いて私を通らせてくれた。
椅子に座って一息つき、ふと顔を上げるとなぜか3人の視線が私に向いている。思わずびくっと頭が揺れた。
「な……なにかしら」
「んーん、今の電話、ウソップからでしょ」
「えっすごい、どうしてわかるの」
何故か三人が一様ににこにこしているのが気になった。
「わかるわよー。嬉しそうな顔しちゃって」
「あ、それはね、ずっと行きたかった美術展のチケットをウソップさんが取ってくれるっていう連絡があったから嬉しくて」
「へぇー、デートのお誘いだったわけ」
「デート? やだ、違うわよ」
思わず笑ってしまう。デートなんて響きが小恥ずかしくてくすくす笑い続けると、3人は一様にきょとんとしてみせた。
「ちがうの?」
「ちがうわよ、ただ美術展に行くだけだもの」
「えーっと」
ビビさんが顔に笑いを残したまま、少し困ったようにナミさんを見た。
「カヤさんとウソップさんは……付き合ってるのよね?」
尋ねられたナミさんがいとも簡単に「そうよ」と答え、当事者の私は驚いてごくんと喉を鳴らしてしまった。
一拍遅れて、慌てて「ちがうわよ!」と大きな声を出す。
「えっ」
「ちがうわよ、もうびっくりした。ウソップさんは友達よ」
「うそぉ。あんたたち付き合ってるんじゃなかったの」
「つ、付き合ってないわ。幼馴染だけどそんな関係じゃ」
ロビンさんがコーヒーカップに口を付けながら目元だけでくすりと笑った。
「ナミの早とちりだったわけね」
「うっそだぁ、絶対付き合ってるもん。めちゃくちゃ仲いいじゃないの」
「だってそれは……幼馴染だし……友達だし……家も近いし」
「じゃあそういうふうに見たことはないの?」
「ないない! だからそういうのじゃないんですって」
ぶ、と唐突にナミさんが吹き出す。
「まぁねー、たしかにウソップってそういうタイプじゃないのよねー。いいやつだし面白くてすきだけど、友達って感じすぎて」
「ナミは彼と大学が一緒だったのよね確か」
「そうそう、そもそもカヤさんより先にウソップと出会ってて、ウソップ通じてカヤさんと話すようになった感じ。ね」
大きな丸い瞳に見つめられて、どきどきしながら何度もうなずく。
うなずきながらも、出会いに関しては少しちがう、と思った。
ナミさんに初めて出会ったのは、蜃気楼が立ち上るような真夏の炎天下だった。
外に出るときは必ず帽子をかぶるように家の者からきつくきつく言い渡されていたにもかかわらず、私はうっかりと何も被らず真夏の日の下に出てしまい、あっというまに肌は真っ赤に焼けて打ち上げられた小エビの様になった。
その日は確かウソップさんと本屋で待ち合わせをしていて、家からたった1キロほどの道のりにもかかわらずその道中で小エビになってしまった私はふらふらと電柱の陰に隠れて立ち往生していた。
家に電話をして迎えに来てもらおうと思ったが、帽子を持って出なかったことはもちろんのこと、誰か家の者を付けなかったことや徒歩で行こうとしたことなどあれこれ叱られるのが目に見えていて、子どものようだけれどそれが嫌でためらった。
ウソップさんに迎えに来てもらおうと思ったが、きっと迎えに来てくれたその足で家に連れ戻される。それも嫌だった。
細長い日陰でうじうじと悩んでいた私の顔を、唐突に覗き込んだのがナミさんだった。
「あんた大丈夫? 気分悪いの?」
「あ……え、と」
「汗かいてないし、熱中症なりかけてんじゃない。どこかで休んだ方がいいわよ」
つばの大きな帽子をかぶったナミさんは、真面目な顔で私にそう言った。
「あ、はい……あの、でも」
「ひとり? 送ろうか?」
「や、すみません。あの、大丈夫です。ありがとうございます」
彼女にひとつ頭を下げたのがいけなかった。
ふっと目の前が一瞬緑色のようになり、視界がぶれる。
倒れかけた私をナミさんは慌てて受け止めて、「ちょっとぉ!」と驚いたような大声を上げた。
意識を失ったわけではなかったので焦って身体を持ち上げようとするのだけど力が入らず、すみませんとごめんなさいを繰り返して彼女の腕の中でもがいていた。
そしてそのまま、気付いた時には家のベッドに逆戻りしていた。
時刻は夕方で、様子を見に来たメリーに散々お小言を言われて、その最後にここまで送ってくれたのがウソップさんであると聞いた。
たしかに、ぼんやりと起きていた頭で彼の背中に揺られた記憶がある。
到着の遅い私を心配して迎えに来てくれたのだ。
メリーが私の部屋を出ていくと、見計らったように部屋の窓から飄々とウソップさんが顔を出した。
「よっす」
いつもと変わらない彼に安心して、今日のお礼を言って謝った。
いーってことよ、無理すんなと彼は優しい。
きっとメリーに嫌味の一つや二つ言われたはずなのに。
「私道で知らない女の子に声を掛けられて」
「あー、ナミな。おめーとナミが道でこんがらがってるところを見つけたときゃびっくりしたぜ」
「ナミ? 知ってるの?」
「おー、大学いっしょだ。たしかいくつか授業かぶってんだよな」
彼女はウソップさんに私を預けてそのまま立ち去ったという。
ヒーローのように突然現れて、凛々しい目で私を覗き込んだ気の強そうな女の子。
なんてかっこよかったのかしらと胸が熱くなった。
「またお礼が言いたい。会えるかしら」
「んじゃ今度ナミに会ったら言っとくわ。ひーなんかあれこれ訊かれそう」
ウソップさんが顔をしかめていった「あれこれ」を私は具体的に思いつけなかったけれど、数日後ウソップさんに呼び出されて出かけた喫茶店で、ナミさんは待っていた。
「えらい、ちゃんと今度は帽子かぶってるわね」と強気な顔で笑っていた。
彼女との出会いを思い出すと、眩しくもあり、果てしなく私とは違うと感じる。
フルーツタルトの最後のひと切れを惜しげもなく飲み込んで、ナミさんは含み笑いをした。
「でもさ、アイツがカヤさんのことどう思ってるかはわかんないわよね」
「あらナミ、聞いてないの?」
「聞いてない聞いてない! そもそもアイツとそんな話しないし、てっきり二人は付き合ってるもんだと思ってたから。最近カヤさんとどーお? って聞いても普通に元気だぜーとかどこどこに行ったとか返してくるし」
「それって、ウソップさんは付き合ってるつもりなんじゃないかしら」
神妙な顔で呟いたビビさんを、私含め他の3人はつと見つめてしまった。
「だって」と彼女は続ける。
「ふたりで出かけるんでしょ。彼から誘うんでしょ。しかもナミさんにそうやって訊かれて否定しないのもおかしいし」
「あ、ありえる」
目を丸くしてそう言ったナミさんの言葉をかき消すように、私はまたもや「ないない!」と声をあげた。
「そんな、だって、一度も、なにも、私」
「いやなの?」
突然手を伸ばされて頬をつねられたような程よい鋭さで、ロビンさんが尋ねた。
「ウソップとそんなふうになるのはいやなの?」
「い……」
いやだとかそんなこと、考えたことなかった。
「だって、お付き合いとかそんな……私まだ結婚のことなんて考えられないし……」
すっと息を呑むような音が聞こえて顔を上げたら、ナミさんとビビさんは同じタイミングで目をまたたかせていた。
え、と戸惑って思わずロビンさんを見る。
形の良い目がにっこりと笑う。
「あなたのそういうところを彼は大事にしたいのね」
そういうところ、と復唱してしまう。
隣ではナミさんとビビさんが顔を寄せ合って、眩しそうに目を細めていた。
「やだ、私もう浄化されて消えそう」
「まだ世界にはこんな綺麗な人がいたのね」
なんだか自分が中心の話になっていると落ち着かない。
俯いて話が反れるのを待ったのに、その甲斐なく彼女たちはどんどん切り込んできた。
「じゃあさ、ウソップに改めて付き合ってって言われたらどうする?」
「えっ考えられな」
「だめ、今考えるの」
厳しい言葉とは裏腹にナミさんは心底楽しそうだ。
今!? と卒倒しそうになりながら私は考える。
ウソップさんのことは間違いなく好きだし、でもそれが世にいう男女のお付き合いとなるとどうだろう、そもそもお付き合いしたら何をするんだろう。何をするのって今訊いてもいいのだろうか。ああでもそんなことを聞いたら本当の世間知らずのようで恥ずかしい。
「……ナミ、あんまり困らせちゃだめよ」
ぐるぐると考え続ける私にロビンさんが助け船を出してくれた。そのことにほっとするも束の間、今度はその彼女から切り込まれる。
「むしろ他の人でいいなって思ったりしないのかしら。ウソップじゃなくて」
「それも……あんまり考えたことがなくて」
「カヤさん高嶺の花すぎて他の男もなかなか手が出せないところもあるものね」
「ふふっでもさー、ウソップとキスしたりなんだりって考えるとさ」
「あ、鼻が」
3人口を揃えて「鼻が」と言った次の瞬間には、私以外の全員が臆面もなく吹き出していた。
「ね! 絶対顔にぶつかるわよねー!」
「やだ、具体的に想像したくないのに」
「笑ったら悪いとは思うのだけど」
ひーひーと笑い転げる3人を前に、私はカップを握る指先まで赤くなる。
けして気づまりではないけど、ただただどこか恥ずかしい。
「ご、ごめんねカヤさん」
目の端に滲んだらしい涙まで拭って、ビビさんが柔らかく笑う。
「ウソップさんのこと、ちょっと見方変えてみたらどう転んでも楽しいかもしれないわ」
「ん、そうね、ビビいいこと言うわ。楽しいのよきっと」
「えぇ私もそう思うわ。もちろん先のことを考えるのは大事だけど、今どうしたいんだろうって考えてみたら?」
「今……」
考え込んだ拍子に目線を下げたら、食べかけのショートケーキが目に飛び込んできた。
台形の大きさはほとんど変わっていない。食べるのが遅いのだ。
今どうしたいとか、具体的な望みなんてなにもないとわかっている。
ただずっとこうやっていられたらいいのにと漠然と思うだけで、いっぱいいっぱいだ。
「ま、ゆっくりね」
ロビンさんがそう言って肩をすくめたのを見ると、どこか気持ちが弛緩した。
私は何に付けても遅く、弱いから、ゆっくりねと言ってもらえると安心する。
「あ、やば。もうこんな時間」
腕時計をさっと見下ろしたナミさんは慌てて鞄を手元に寄せた。
「ごめん、私今から一個アポあって。もう休みなのに本当にやだ」
「あ、じゃあそろそろ出ましょうか」
「んーん、まだゆっくりしてていいから。ごめん先行くね」
自分の分の代金ぴったりをテーブルに置いて、ナミさんは高いヒールをカツンと鳴らしてぶれもしない足取りであっという間に去って行った。
リズミカルに揺れるウェーブしたオレンジ色の髪を見送って、どこまでもいいなぁと思う。
*
「これ」
美術館に入る手前で突然差し出された小さな紙袋を咄嗟に受け取った。
受け取ってから、彼を見上げて「これは」と尋ねる。
「んあー、こないだこういうの造ってる事務所と一緒に仕事して、いいのがあったから」
こういうの? と聞きながら紙袋をそっと傾ける。
ころんと白い球体がふたつ転がってきて、目を丸めた。
「おめーピアスは開けてねェだろ。アクセサリーもつける趣味じゃねェかもだけど、一応、一個くらいあったっていいかと思って」
「イ、イヤリング?」
「ん。あ、付け方わかるか?」
「た、たぶん」
一つをつまみ上げて耳元に持っていく。
小さな金具を指先でいじって耳たぶを挟もうとするのだが、やっぱり鏡を見ないと難しい。
苦戦する私に「なんかめんどくさそーだなー」と顔をしかめた彼が、「ほれ貸してみろ。おれ様のが器用だからな」と手を差し出した。
耳と頬に触れた感触を確かなものにする間もなく、彼はあっというまに両耳にイヤリングを付けてくれた。
「お、いーじゃん」
ひゅぅ、と口笛を吹く真似をして、ウソップさんは「んじゃいこーぜ」とさっさと歩き出した。
慌ててそのあとを追いながら、耳たぶにじわじわと感じる圧力が気になってなんども指先で耳に触れた。
私が思い描いていた大きなパールより二回り以上小さなそれは、確かに私の耳元で揺れていた。
宝石箱を買わなくちゃ、と思った。
家に帰ったら、これはそっとはずして宝石箱にしまっておこう。
スカスカの宝石箱はいつしかアクセサリーで一杯になる。
高いヒールの靴だっていつか履いて、ぶれることなくまっすぐに歩く。
それも全部、私の宝石箱に入れるのだ。
本当はピアスの方が格好がつくのだけれど、耳に穴を開けるなんてやっぱり怖くて私には到底出来そうもない。
そもそもアクセサリーをほとんど持っていないから、それを手に取ることが気恥ずかしくて自分に似合うのかすらもわからなかった。
ずっとずっと昔、家の誰かがおもちゃだけどシルバーのシンプルなネックレスをお土産に買ってきてくれたことがある。
ドキドキしながら首に付けると、一回り大人になれた気がしてすごくうれしかった。
でもすぐに、ネックレスが触れたところが猛烈に痒くなって外してみたら赤く鎖の跡が白い肌にくっきりと浮かんでいて、それを見たメリーがネックレスをどこかに持って行ってしまった。
それきりアクセサリーは付けていない。
だから、目の前に座った彼女の黒くまっすぐな髪の隙間からちらりと純白の光が見えたとき、あっと思わず声をあげそうになった。
チーズケーキを上品に口に運ぼうとしていた彼女は、伏せていた目を上げ、微かに微笑んで私を見た。
「なにかしら」
「あ、いえ、なにも、ごめんなさい」
誤魔化すように笑って胸の前で小さく手を振る。
隣に座ったナミさんとその向かいのビビさんがとめどなかった会話をふっと吸い込むように止めて、私たちを見た。
ロビンさんは不自然に間の空いた沈黙を埋めるように、「このチーズケーキすごくおいしいわ」と静かなのによく通る声で言った。
ナミさんがパッと大きく口を開けて「でっしょ!」と嬉しそうな声をあげる。
「こないだお土産でもらってねー、すごくおいしかったから他のケーキも食べてみたいと思ってたの」
「私のマロンケーキも洋酒が効いてておいしいけど……チーズケーキにすればよかったかなぁ。ナミさんのは?」
「ん、たくさんフルーツ乗ってるしタルト生地はアーモンドのかおりもいいし最高。あー来てよかった」
「カヤさんのは? シンプルないちごショートなんて、いつからってくらい私食べてないわ」
ビビさんが私のショートケーキに視線を向ける。
台形になったケーキの上にはバランスよくイチゴが乗っていた。
赤と白のコントラスト。ノートに引いた赤線の様に私らしい。
「私、ケーキと言えばこれなの。生クリームがすきで」
「ここの生クリームくどくなくておいしいのよねー。こないだ会社の人が買ってきてくれたケーキがさ、すんごく甘ったるくて油っこくてびっくりしたんだけど」
ナミさんがフォークの先を舐めながら離し始めた矢先、私のカバンからごく控えめな音楽が響いた。
特に気に留める程の音量ではなかったのに、向かいのロビンさんがいち早く気付いて「出たら?」と言ってくれた。
「あ、でも」
「なに電話? 気にせず出て」
「じゃ、じゃあごめんなさい」
鞄をつまむように持って、ナミさんの後ろを通って移動した。
肩をすぼめて店員に会釈をし、店の軒先に出てからやっと携帯を取り出す。
着信はまだ続いていた。
私に電話をかけてくるのは、家の者か彼くらいだ。
「もしもし」
「よぉー、今大丈夫だったか?」
「えぇ、外ではあるんだけど」
「かけ直すか?」
「大丈夫。なにか?」
「そうそうおめーが見たいっつってた美術館の特別展、チケット取れそうだから買おうかと思ったんだけどよ、日にち指定だからいつがいいか訊こうと思って」
「本当!? すごい、前売りはすぐに売り切れるって聞いてたのに」
「おれ様の人脈を使えばこんなもんよ。で、いつがいい?」
「えっと、特別展は来月いっぱいまでよね。明後日の月曜から来月の中ごろまで実習だから、それが終わってからならいつでも」
「おし、んじゃー22日の土曜でもいいか?」
「えぇ、ありがとう」
「おうおう、んじゃーな!」
歯切れよくあっさりと切れた携帯電話をカバンに滑り落とし、席へ向かった。
むずむずと胸が痒くなる。
「おかえりー」
ナミさんが少し椅子を引いて私を通らせてくれた。
椅子に座って一息つき、ふと顔を上げるとなぜか3人の視線が私に向いている。思わずびくっと頭が揺れた。
「な……なにかしら」
「んーん、今の電話、ウソップからでしょ」
「えっすごい、どうしてわかるの」
何故か三人が一様ににこにこしているのが気になった。
「わかるわよー。嬉しそうな顔しちゃって」
「あ、それはね、ずっと行きたかった美術展のチケットをウソップさんが取ってくれるっていう連絡があったから嬉しくて」
「へぇー、デートのお誘いだったわけ」
「デート? やだ、違うわよ」
思わず笑ってしまう。デートなんて響きが小恥ずかしくてくすくす笑い続けると、3人は一様にきょとんとしてみせた。
「ちがうの?」
「ちがうわよ、ただ美術展に行くだけだもの」
「えーっと」
ビビさんが顔に笑いを残したまま、少し困ったようにナミさんを見た。
「カヤさんとウソップさんは……付き合ってるのよね?」
尋ねられたナミさんがいとも簡単に「そうよ」と答え、当事者の私は驚いてごくんと喉を鳴らしてしまった。
一拍遅れて、慌てて「ちがうわよ!」と大きな声を出す。
「えっ」
「ちがうわよ、もうびっくりした。ウソップさんは友達よ」
「うそぉ。あんたたち付き合ってるんじゃなかったの」
「つ、付き合ってないわ。幼馴染だけどそんな関係じゃ」
ロビンさんがコーヒーカップに口を付けながら目元だけでくすりと笑った。
「ナミの早とちりだったわけね」
「うっそだぁ、絶対付き合ってるもん。めちゃくちゃ仲いいじゃないの」
「だってそれは……幼馴染だし……友達だし……家も近いし」
「じゃあそういうふうに見たことはないの?」
「ないない! だからそういうのじゃないんですって」
ぶ、と唐突にナミさんが吹き出す。
「まぁねー、たしかにウソップってそういうタイプじゃないのよねー。いいやつだし面白くてすきだけど、友達って感じすぎて」
「ナミは彼と大学が一緒だったのよね確か」
「そうそう、そもそもカヤさんより先にウソップと出会ってて、ウソップ通じてカヤさんと話すようになった感じ。ね」
大きな丸い瞳に見つめられて、どきどきしながら何度もうなずく。
うなずきながらも、出会いに関しては少しちがう、と思った。
ナミさんに初めて出会ったのは、蜃気楼が立ち上るような真夏の炎天下だった。
外に出るときは必ず帽子をかぶるように家の者からきつくきつく言い渡されていたにもかかわらず、私はうっかりと何も被らず真夏の日の下に出てしまい、あっというまに肌は真っ赤に焼けて打ち上げられた小エビの様になった。
その日は確かウソップさんと本屋で待ち合わせをしていて、家からたった1キロほどの道のりにもかかわらずその道中で小エビになってしまった私はふらふらと電柱の陰に隠れて立ち往生していた。
家に電話をして迎えに来てもらおうと思ったが、帽子を持って出なかったことはもちろんのこと、誰か家の者を付けなかったことや徒歩で行こうとしたことなどあれこれ叱られるのが目に見えていて、子どものようだけれどそれが嫌でためらった。
ウソップさんに迎えに来てもらおうと思ったが、きっと迎えに来てくれたその足で家に連れ戻される。それも嫌だった。
細長い日陰でうじうじと悩んでいた私の顔を、唐突に覗き込んだのがナミさんだった。
「あんた大丈夫? 気分悪いの?」
「あ……え、と」
「汗かいてないし、熱中症なりかけてんじゃない。どこかで休んだ方がいいわよ」
つばの大きな帽子をかぶったナミさんは、真面目な顔で私にそう言った。
「あ、はい……あの、でも」
「ひとり? 送ろうか?」
「や、すみません。あの、大丈夫です。ありがとうございます」
彼女にひとつ頭を下げたのがいけなかった。
ふっと目の前が一瞬緑色のようになり、視界がぶれる。
倒れかけた私をナミさんは慌てて受け止めて、「ちょっとぉ!」と驚いたような大声を上げた。
意識を失ったわけではなかったので焦って身体を持ち上げようとするのだけど力が入らず、すみませんとごめんなさいを繰り返して彼女の腕の中でもがいていた。
そしてそのまま、気付いた時には家のベッドに逆戻りしていた。
時刻は夕方で、様子を見に来たメリーに散々お小言を言われて、その最後にここまで送ってくれたのがウソップさんであると聞いた。
たしかに、ぼんやりと起きていた頭で彼の背中に揺られた記憶がある。
到着の遅い私を心配して迎えに来てくれたのだ。
メリーが私の部屋を出ていくと、見計らったように部屋の窓から飄々とウソップさんが顔を出した。
「よっす」
いつもと変わらない彼に安心して、今日のお礼を言って謝った。
いーってことよ、無理すんなと彼は優しい。
きっとメリーに嫌味の一つや二つ言われたはずなのに。
「私道で知らない女の子に声を掛けられて」
「あー、ナミな。おめーとナミが道でこんがらがってるところを見つけたときゃびっくりしたぜ」
「ナミ? 知ってるの?」
「おー、大学いっしょだ。たしかいくつか授業かぶってんだよな」
彼女はウソップさんに私を預けてそのまま立ち去ったという。
ヒーローのように突然現れて、凛々しい目で私を覗き込んだ気の強そうな女の子。
なんてかっこよかったのかしらと胸が熱くなった。
「またお礼が言いたい。会えるかしら」
「んじゃ今度ナミに会ったら言っとくわ。ひーなんかあれこれ訊かれそう」
ウソップさんが顔をしかめていった「あれこれ」を私は具体的に思いつけなかったけれど、数日後ウソップさんに呼び出されて出かけた喫茶店で、ナミさんは待っていた。
「えらい、ちゃんと今度は帽子かぶってるわね」と強気な顔で笑っていた。
彼女との出会いを思い出すと、眩しくもあり、果てしなく私とは違うと感じる。
フルーツタルトの最後のひと切れを惜しげもなく飲み込んで、ナミさんは含み笑いをした。
「でもさ、アイツがカヤさんのことどう思ってるかはわかんないわよね」
「あらナミ、聞いてないの?」
「聞いてない聞いてない! そもそもアイツとそんな話しないし、てっきり二人は付き合ってるもんだと思ってたから。最近カヤさんとどーお? って聞いても普通に元気だぜーとかどこどこに行ったとか返してくるし」
「それって、ウソップさんは付き合ってるつもりなんじゃないかしら」
神妙な顔で呟いたビビさんを、私含め他の3人はつと見つめてしまった。
「だって」と彼女は続ける。
「ふたりで出かけるんでしょ。彼から誘うんでしょ。しかもナミさんにそうやって訊かれて否定しないのもおかしいし」
「あ、ありえる」
目を丸くしてそう言ったナミさんの言葉をかき消すように、私はまたもや「ないない!」と声をあげた。
「そんな、だって、一度も、なにも、私」
「いやなの?」
突然手を伸ばされて頬をつねられたような程よい鋭さで、ロビンさんが尋ねた。
「ウソップとそんなふうになるのはいやなの?」
「い……」
いやだとかそんなこと、考えたことなかった。
「だって、お付き合いとかそんな……私まだ結婚のことなんて考えられないし……」
すっと息を呑むような音が聞こえて顔を上げたら、ナミさんとビビさんは同じタイミングで目をまたたかせていた。
え、と戸惑って思わずロビンさんを見る。
形の良い目がにっこりと笑う。
「あなたのそういうところを彼は大事にしたいのね」
そういうところ、と復唱してしまう。
隣ではナミさんとビビさんが顔を寄せ合って、眩しそうに目を細めていた。
「やだ、私もう浄化されて消えそう」
「まだ世界にはこんな綺麗な人がいたのね」
なんだか自分が中心の話になっていると落ち着かない。
俯いて話が反れるのを待ったのに、その甲斐なく彼女たちはどんどん切り込んできた。
「じゃあさ、ウソップに改めて付き合ってって言われたらどうする?」
「えっ考えられな」
「だめ、今考えるの」
厳しい言葉とは裏腹にナミさんは心底楽しそうだ。
今!? と卒倒しそうになりながら私は考える。
ウソップさんのことは間違いなく好きだし、でもそれが世にいう男女のお付き合いとなるとどうだろう、そもそもお付き合いしたら何をするんだろう。何をするのって今訊いてもいいのだろうか。ああでもそんなことを聞いたら本当の世間知らずのようで恥ずかしい。
「……ナミ、あんまり困らせちゃだめよ」
ぐるぐると考え続ける私にロビンさんが助け船を出してくれた。そのことにほっとするも束の間、今度はその彼女から切り込まれる。
「むしろ他の人でいいなって思ったりしないのかしら。ウソップじゃなくて」
「それも……あんまり考えたことがなくて」
「カヤさん高嶺の花すぎて他の男もなかなか手が出せないところもあるものね」
「ふふっでもさー、ウソップとキスしたりなんだりって考えるとさ」
「あ、鼻が」
3人口を揃えて「鼻が」と言った次の瞬間には、私以外の全員が臆面もなく吹き出していた。
「ね! 絶対顔にぶつかるわよねー!」
「やだ、具体的に想像したくないのに」
「笑ったら悪いとは思うのだけど」
ひーひーと笑い転げる3人を前に、私はカップを握る指先まで赤くなる。
けして気づまりではないけど、ただただどこか恥ずかしい。
「ご、ごめんねカヤさん」
目の端に滲んだらしい涙まで拭って、ビビさんが柔らかく笑う。
「ウソップさんのこと、ちょっと見方変えてみたらどう転んでも楽しいかもしれないわ」
「ん、そうね、ビビいいこと言うわ。楽しいのよきっと」
「えぇ私もそう思うわ。もちろん先のことを考えるのは大事だけど、今どうしたいんだろうって考えてみたら?」
「今……」
考え込んだ拍子に目線を下げたら、食べかけのショートケーキが目に飛び込んできた。
台形の大きさはほとんど変わっていない。食べるのが遅いのだ。
今どうしたいとか、具体的な望みなんてなにもないとわかっている。
ただずっとこうやっていられたらいいのにと漠然と思うだけで、いっぱいいっぱいだ。
「ま、ゆっくりね」
ロビンさんがそう言って肩をすくめたのを見ると、どこか気持ちが弛緩した。
私は何に付けても遅く、弱いから、ゆっくりねと言ってもらえると安心する。
「あ、やば。もうこんな時間」
腕時計をさっと見下ろしたナミさんは慌てて鞄を手元に寄せた。
「ごめん、私今から一個アポあって。もう休みなのに本当にやだ」
「あ、じゃあそろそろ出ましょうか」
「んーん、まだゆっくりしてていいから。ごめん先行くね」
自分の分の代金ぴったりをテーブルに置いて、ナミさんは高いヒールをカツンと鳴らしてぶれもしない足取りであっという間に去って行った。
リズミカルに揺れるウェーブしたオレンジ色の髪を見送って、どこまでもいいなぁと思う。
*
「これ」
美術館に入る手前で突然差し出された小さな紙袋を咄嗟に受け取った。
受け取ってから、彼を見上げて「これは」と尋ねる。
「んあー、こないだこういうの造ってる事務所と一緒に仕事して、いいのがあったから」
こういうの? と聞きながら紙袋をそっと傾ける。
ころんと白い球体がふたつ転がってきて、目を丸めた。
「おめーピアスは開けてねェだろ。アクセサリーもつける趣味じゃねェかもだけど、一応、一個くらいあったっていいかと思って」
「イ、イヤリング?」
「ん。あ、付け方わかるか?」
「た、たぶん」
一つをつまみ上げて耳元に持っていく。
小さな金具を指先でいじって耳たぶを挟もうとするのだが、やっぱり鏡を見ないと難しい。
苦戦する私に「なんかめんどくさそーだなー」と顔をしかめた彼が、「ほれ貸してみろ。おれ様のが器用だからな」と手を差し出した。
耳と頬に触れた感触を確かなものにする間もなく、彼はあっというまに両耳にイヤリングを付けてくれた。
「お、いーじゃん」
ひゅぅ、と口笛を吹く真似をして、ウソップさんは「んじゃいこーぜ」とさっさと歩き出した。
慌ててそのあとを追いながら、耳たぶにじわじわと感じる圧力が気になってなんども指先で耳に触れた。
私が思い描いていた大きなパールより二回り以上小さなそれは、確かに私の耳元で揺れていた。
宝石箱を買わなくちゃ、と思った。
家に帰ったら、これはそっとはずして宝石箱にしまっておこう。
スカスカの宝石箱はいつしかアクセサリーで一杯になる。
高いヒールの靴だっていつか履いて、ぶれることなくまっすぐに歩く。
それも全部、私の宝石箱に入れるのだ。
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