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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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これのつづきです










昼寝のときに見る短い夢みたいなものだ。
無意味で支離滅裂で前後関係もぐちゃぐちゃで、目が覚めたときわけもなく何かを失ったみたいな気分になる。
断続的に私の元に訪れた誰かとの関係はそんなふうにだらだらと、しかし意外にも手放しがたい心地よさを伴って常に足元にまとわりついていた。

「おい携帯。ロビン」

フィルターの中でふっくらと丸く盛り上がったコーヒーの粉を見つめて慎重にお湯を注いでいた私は、ゾロの声でやっと机の上で鳴りつづける携帯の電子音に気付いた。
「あら」と言いながらもお湯を注ぐ手を止めない。
ゾロは私と携帯を見比べて、痺れを切らしたように「鳴ってんぞ」と明白なことを言った。

「えぇ、いいのよ」
「よかねェだろ。うるせぇ」
「ごめんなさい、そのうち切れるわ」

だって今手が離せないんだもの、と言いながらポットを振り上げたところで電子音は止んだ。

「ほらね」
「根性のねェやつだ。たった10コールで切れやがった」

ゾロはベッドに浅く腰掛けて、どうでもいいように背中側の窓を振り返って外の景色を眺めていた。
淡く暖色に色づいた夕方の空とゾロとコーヒーと言う組み合わせがどうにも合わなくて笑いが込み上げそうになる。

「はい」

コーヒーカップを手渡すと、「おうサンキュ」と受け取るや否や熱々のそれをごくりと一口飲み、ゾロはごとんとテーブルにカップを置いた。
私も立ったままカップに口を付けるが、熱さに怯んで飲むことなくまた口を離した。

「もう18時ね。お腹すいた?」
「いや……あぁ、言われてみれば。それよりおい、ちょっとそれここに置け」

それ、と私が手に持つカップを指差し、そのままゾロのカップの隣に目線を下げる。
どうして、と言うつもりで黙ったままコーヒーを小さく飲み下すと、ゾロは苛立ったように「早く」とせかした。

「なぁに」

笑いながら言われた通りカップを置くと、途端に腕を引かれてゾロと一緒にベッドに倒れ込んだ。
驚いて思わず目を見開くと、のしのしと私の上に乗りかかったゾロが不機嫌そうに「携帯」と呟いた。

「壊されたくなかったら知らねェやつからの電話は鳴らんようにしとけ」

すぐさま噛みつくようにキスをされて、咄嗟に手を伸ばしゾロの髪に触れた。
短く尖った毛先が指を刺し、冷たい三連ピアスが手首に触れた。キスは淹れたばかりのコーヒーの味がした。
青色が濃くなっていく空をレースカーテン越しに見ながら、着たばかりの服をまた脱いだ。

ぬるくて抜け出すことのできなかった誰でもない誰かとの関係をあっという間に蹴散らして、ゾロは私の目を見て「アホか」と叱ってくれる。
きつく首筋を吸われる痛みを気持ちいいとちゃんと言葉にすることを教えてくれたのも彼だ。
思えば私は大人みたいな顔をして知らないことばかりだった。
10年も私より短い時間を生きている彼の方が随分と物知りのように思える。
冷めたコーヒーを美味いとも不味いとも言わずに一気に飲み干して、大きくあくびをして、未だベッドに伏せたままの私を見下ろし、少し考えてからまた隣に戻ってきてくれる。
「嬉しいわ、ゾロ」と素直に言うと、ゾロは「こんなことで喜ぶなんざ安い」と鼻で笑った。




狭い1DKの一室はひとりで過ごすには手にあまり、ゾロがいると手狭に感じる。
でも女友達を呼ぶにはちょうどいいのだと今日初めて知った。

ナミは部屋の中をぐるりと見渡して、「いいなー、壁に穴開けてもいいんだ」と私が思ってもみないことを呟いた。
どうやら私が人にもらった絵画を額に入れて壁に飾っているのを見てそう言っているらしい。

「うち、画鋲刺しちゃだめなの。敷金返ってこなくなっちゃう」
「あら、じゃあうちもそうかしら」
「知らないの?」

肩をすくめると、ナミは「ま、ロビンがいいならいいけど」と言いながら白くて小さな箱を差し出した。

「おみやげ。ナマモノだから食べましょ」
「あらありがと。わざわざ買ってきてくれたの?」
「ん、ていうかもらいものみたいな」

もらいものなの? と言いながら受け取ったその箱を開けると、たっぷりとフルーツやナッツの乗ったケーキが4つ、ちょうどいいサイズで収まっていた。

「こんなにたくさん。食べきれるかしら」
「ひとり二つでしょ。楽勝よ」

早くお皿にあけて、と前のめり気味に言うナミの溌剌な表情に、私はくらくらしてしまう。
はいはい、と彼女をいなしながら二人しかいないのに小皿を4つ棚から取って、ひとつずつケーキを乗せた。

「はいどうぞ」
「おみやげだからロビンから選んで」

和栗とミックスナッツのタルト、マスカットのケーキ、ブルーベリーの乗ったレアチーズケーキに抹茶の緑が綺麗なガトーショコラ。

「悩むわ」

つい真顔でナミの顔を見つめ返すと、彼女も真剣な表情で「時間は限られているのよ」と答えた。
「じゃあこれ」とまずガトーショコラを選んだ。
よしよし、とでもいうようにナミが二度深く頷く。

「それはロビンにと思って選んだの。次は私が取ってもいい?」

えぇどうぞと答えると、ナミはすぐにレアチーズを取った。
「ブルーベリーは期間限定なんだって。この店の定番はベイクドチーズだから」
言い訳のように口にする彼女が愛らしくて思わず微笑む。

「さ、もうひとつ」
「食べてから考えない? 一度冷蔵庫に入れて」

ありね、とナミが真面目に頷いたので、二つのケーキはふんわりラップをかけて冷蔵庫にしまった。
丁度湧いたばかりのお湯で一番摘みのダージリンを淹れる。
乾いた室内の空気にゆったりと立ちのぼる糸みたいな湯気が目立った。

「ん、おいし」

私より早く感想を口にして、ナミはブルーベリーのジャムをケーキの表面に塗るようにフォークを動かした。
自宅でお茶を淹れて持参のケーキをたしなむなんてなんと健全なんだろうとため息が出てしまう。
ナミは大きな一切れを口に含んで、咀嚼しながら尋ねた。

「今日は休みなの? 授業」
「えぇ、今試験期間なの。ちょうど休みたかったところだし講義も入れたくなくて休みにしちゃった」
「先生様は自由がきくのね」
「ナミは忙しいでしょう」
「まぁぼちぼち。暇ができる仕事じゃないし」

ナミは机の板を左手の指でなぞり、「いいテーブルね」と呟いた。

「人にもらったの。手作りなんですって」
「手作り? 高そう」
「どうかしら」

濃い茶色の板は木目がよく見えて、食べ物をこぼすとすぐにしみになった。
ぬるま湯に付けた布巾でとんとんと丁寧にこすらないとしみは取れない。

「ここで一緒にごはん食べたりするの?」
「一緒に?」
「一緒に」

熱い紅茶をすすって、ナミは安らかにも見える顔で微笑んだ。

「いいなあ」

買ったばかりの青々とした豆苗が、ナミの肩越しに見えた。
伸びかけの短くて細い茎がひょろりとしなっている。

「でも私、あんまり料理は得意じゃないのよね」
「そうなの?」
「実は」
「ま、意外でもないけど」

失礼ねと笑うと、ナミは「今自分で言ったじゃない」とからりと笑ってさくさくチーズケーキを切り取った。

「何作るの?」
「最近は──そう、煮るわね」
「ニル?」
「煮る。野菜とか、肉とか」
「煮物ってこと?」
「あぁそう、煮物。筑前煮?」
「筑前煮。へえ」
「ゾロが好きだから。あと角煮とか、煮物じゃないけど焼き魚とか」
「ふーん」

ゾロって言うんだ。
なんでもないことのようにナミが言うので、そうよと私もなんでもないことのように答えた。
ゾロ以外の誰かにゾロと名前を口にしたのは初めてだった。

「あっちこっちふらふらしてたロビンが嘘みたい。煮物なんて作っちゃって」
「ふらふらしてた?」
「自覚ない?」
「わりとあるわ」

ぶはっとナミは吹き出して、「ね、そうでしょ」と言った。
無意味な前戯。支離滅裂な愛のことば。前後関係のないセックス。
ぬるくて足元だけをあたためて、手の指はずっと冷えたままの誰かとの関係。
そういうものを全部蹴散らしてひとつひとつに意味を与えてくれる。
彼だけだ。私には、彼だけが現実だ。

「さて」

ナミはペロリと食べきった綺麗な皿を見下ろして、「次に行くわよ。どっちにするか決めた?」と言う。
何の話だったかしらと首をかしげる私に、ナミは急かすように「ケーキ」と綺麗に整えた爪でとんとんと机を叩いた。

「栗とナッツのタルトかマスカットだっけ? 男だったらこの選択肢をどう処理するかで今後の私との関係が変わってくるところだけど」
「それは緊張するわね」
「ロビンは大丈夫。心配しないで好きなものを選んで」
「選ばせる前に言うべき言葉じゃないわ」

ナミはふふんと含み笑いを返して、そりかえるように天井を見上げて「あーたのしい」と子供のように呟いた。

「洗濯物、取り込まないとなぁ」

誰にともなくナミは呟く。
私の家の窓を見て、自分の家の窓からの景色を思い出したのかもしれない。
ほどよく温まった風で今日もよく洗濯物は乾いたことだろう。

「うん、やっぱりケーキは残しとくわ」

「え?」と聞き返すと、ナミはにんまりと口角を上げて「ふたりで食べて」と大人びた表情を浮かべた。




その日の夜やってきたゾロに、夕食後「ケーキがあるんだけど」と至極単刀直入に切り出した。

「ケーキ? 珍しいな。食いたかったのか」
「友達がおみやげでくれたの。昼間来ていて」
「ここに?」
「えぇ」

冷蔵庫からラップをかけた二つの小皿を取り出す。

「んな小奇麗なもん久しぶりに食う」
「好きな方を選んで」
「先選べ。おれぁどっちでもいい」
「いいの、ゾロから選んで」

睨むように目線を上げたゾロは、「好きな方とれっつってんだろ」と不思議そうに口にした。
構わず私は一方を指差して「これは」と言う。

「和栗とミックスナッツのタルト。こっちがマスカットのケーキ。コンポートが間に挟まってるみたいね」
「コンポートってなんだ」

なにかしら。考えて黙り込むと、ゾロがボソッと「選んでいいのか」と尋ねた。

「えぇ。好きな方を」

腕を組んでふたつのケーキを睨み下ろしたゾロの額を見ていたら、むくむくと悪戯心が湧いた。

「ちなみに、この選択肢をどう処理するかで今後の私とあなたの関係が変わってくるそうよ」

ゾロは顔を上げて私を見つめ、初め意味が分からないと言うように眉間に皺を寄せていたが、またケーキに視線を戻してから「ほう」と呟いた。

「んじゃ変えてみせてくれよ」

タルトの皿に手を伸ばしたゾロは「手で食っていいのか」とそのまま鷲掴みそうな勢いだったので、私は慌ててフォークを取りに腰を上げた。



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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



我が家は同人サイト様かつ検索避け済みサイト様のみリンクフリーとなっております。
一声いただければ喜んで遊びに行きます。

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