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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
「あなたといてもどこにもいけない」

白い紙に黒い字で、それぞれがそういう形の虫みたいに文字が並んでいる。
その羅列の中でこの一文がすっと目に飛び込んできた。

「何読んでんの?」

肩の上からひょこりと顔を出し、少し動けば頬が触れ合ってしまいそうな距離でサンジくんが私の手元を覗き込んだ。

「なんでもない。適当な小説」

言いながら本を閉じると、彼はふーんと鼻を鳴らして「買わないの?」と言った。
町の本屋はここしかないみたいで、町の人や私たちみたいな旅の人が陳列棚の間をたくさん行き来して店内は混み合っている。
手に取った本を棚に戻して、「買わない」と呟く。

「あんたの目当てのはあったの」
「ああ、あったあった。この島の郷土料理のレシピ集と、メモ書き用のノートと」

会計も済ましたぜ、とサンジくんは茶色い再生紙の袋を掲げてみせた。
そ、と答えて店を出る。
サンジくんは私の肩に軽くぶつかった男にメンチを切りつつ後についてきた。
店を出た瞬間、さっと手を握られる。

「ちょっと」
「ん?」
「何勝手に手ェ握ってくれてんのよ」
「デートだからじゃね」
「はぁ名目はどうでもいいんだけど」
「つれないナミさんもすきだあ」

いつもの台詞を聞き流して、振りほどこうともがくほどに深く絡め取られる指先にも気を止めず、頭を離れなくなったさっきの一文を繰り返し頭の中で読み上げる。

あなたといてもどこにもいけない。

いったいどんな登場人物たちがどんな遍歴を経て、どういう恋愛の末(あれは恋愛ストーリーだったんだろうか)ああ言ったのかなにもわからないけど、なんだかすごく腹の立つ台詞だった、と歩きながら考える。
いったい相手がどこに連れて行ってくれるつもりだったと言うのか。

「──ミさん、ナミさん。聞いてる?」
「あごめん、聞いてない」
「だからさ、ちょっと休憩してかね? 喉乾いたし、船までまだ歩かねーとだし」
「んーそうねー、今何時?」
「三時半」

な、とサンジくんは期待に目を輝かせて、犬みたいに私を見てくる。
確かに急いですぐに夕飯の仕度を始めないといけない時間でもないし、まだ戻らないクルーもいるだろう。

「いいわよ、じゃそこにしましょ」

適当に目に付いたカフェレストランにさっさと足を向ける。
ヤッターと飛び跳ねながら彼も付いてきた。
サンジくんは回り込むようにテラス席の椅子を引き、私を座らせる。
私が店では奥に入らないことをよく知っている。
私はジンライムを、彼はアイスコーヒーを頼んだ。

「ふー今日は暑いね」

サンジくんが荷物をテーブルに置き、ネクタイの襟元を引っ張りながら言う。

「しばらくは暑い日が続きそうだわ」
「夏バテに効くモンにしようかね今夜は」
「ここを抜けると一気に冬島の気候海域だから、油断してると風邪ひいちゃう」

おおまじか、とサンジくんは大げさに目を丸めてタバコに火をつける。
かしゅっと乾いた音で火花が散るのを眺めていたら、またさっきの小説が頭の中を横切った。

「いったいどこに行きたいんだか」
「ん?」

なに? とサンジくんが左耳をこちに向けて身を乗り出す。
声に出しちゃった、と内心慌てながら「なんでも」と付け加える。
しかし彼は「どこに行きたいって?」と食い下がってきた。

「なんでもないんだって」
「どっか行きたいって言わなかった?」
「そうじゃなくて……あんたどっか行きたい?」

ごまかす代わりに尋ねてみると、意外にもサンジくんは身を引いて腕を組み、「うーん」と真剣な顔で考え始めた。

「行きてェ場所か……あ、靴屋。新調したかったのに今日休みだったんだよ」

がくっと肘をつきそうになる。
あ、そ、と小さく答えたとき注文の品が届いた。
マドラーをカラカラ鳴らしてジンライムをすする。

「あとそうだな、船をつけたそこはずっと先まで茶色い大地が広がって地平線まで見えるんだ。なだらかな丘がずっと向こうまで続いてて人はいない。不毛地帯のそこをゆっくり登っていくと、向こう側の海にちょうどオレンジ色の夕日が沈んでて、岸壁にぶつかる波の音が足元から聞こえてくる。そういう景色を君と手を繋いで眺めていたいな」
「……何言ってんの?」

行きたい場所さ、とサンジくんはにっこり笑って、アイスコーヒーのストローを加えた。

「そんなところに私行きたくないんだけど」
「そう言わずにさ。辺り誰もいねーんだぜ。なにもないね、そうだね、僕たち二人だけだねって微笑みあって暮らすんだ」
「ちょっと待って、ほかのやつらは?」
「知らね、どっかにいるんじゃね」
「なにそれ」

どこかにはいるのね、とそんなところに笑えてしまう。

「微笑みあって暮らしてそんでどうすんの」
「どうしたいわけじゃねーんだ。てか別に不毛地帯じゃなくたって、ナミさんとならどこにでもいけるよ」

はっと顔を上げると、サンジくんは私の反応に何かを期待して目を輝かせた。
そしてもう一度、グラスを持つ私の手に手を添えてもう一度、「君とならどこにでもいけるよ」と言い直す。
やたらきらきら光る彼の片目を見つめ返して、私の頭にはやっぱりあの「あなたといてもどこにもいけない」の言葉が流れていた。

どこにもいけないわ、というのが悲観的にも楽観的にも聞こえるように、彼が言ったどこにでもいけるよ、という言葉もとても悲観的に、そして楽観的にかつ陳腐に響いたのだ。
それなのにあの腹立たしさは微塵もなく、なんだか、「そうね」と言って添えられた彼の手にそっと手を重ねたい気さえした。
どこにでもというのなら、早くどこかに連れて行って見せてよと思う挑戦的な気持ちと、いったいそれはどこなんだろうと心踊る気持ちが入り混じって
は目の前で弾けて消えていく。
ちょうどジンライムの炭酸が氷の間を滑り上がっては弾けるのと同じように。

サンジくんは私の手に手を添えたまま、突然くっと眉間にしわを寄せた。
くそ、と小さく悪態付いてから「ナミさん」と顔を近づける。

「おれの後ろ、男がいる。新聞か雑誌か何かで隠してなんか見てねぇか」

突然の真剣な声に意表を突かれたものの、言われた通りゆっくりドリンクをすすってから目を移す。
確かに紺のジャケットに黒いパンツを履いた体つきのいい男が、新聞を机の上に立てるように置いて、その内側で何かぺらんとした紙を見ていた。

「ほんと、見てる。なに?」
「ありゃおれたちの手配書だな。海軍だ」
「うそ」
「なーんか途中からやな感じがしてたんだ。おれらもすっかりツラ割れちまってるからな」

残念だが長居できなさそうだ、とサンジくんは背を丸めてコーヒーをすすり、灰皿に置いていたタバコを口に咥えた。
私は彼の手が重なっていた手を机から下ろしてスカートの下のふとももを撫でる。クリマタクトはきちんとそこにある。

「普通に出ちゃおうか。案外こっそりつけてくるだけで、後から巻けるかも」
「いや、店の外に6…7人。張ってやがる」
「うっそぉ、なんで私たちだけ」
「ナミさんが美人だから目立つのさ」

サンジくんは飲み物代を律儀にテーブルへ置くと、「さて」とでも言うように腰を上げた。
彼と私も飲みかけなのに、さも随分ゆっくりしたかのように立ち上がるので私も真似て立ち上がる。
と、サンジくんは突然私の腰を引き寄せた。
ちょ、と声が漏れて拳を振り上げかけたところで彼が「このままで」と囁く。

「こんな民間人入り乱れるところで急に撃っちゃこねぇさ。このまま民間人のふりして逃げ切れるところまで逃げよう。広いところで適当にのして、船まで一直線」
「わ、かった」

私たちは店内の喧騒を背中に聞きながら、優雅に歩いて外に出た。
わざと人の多い場所を移り歩いて、確実に後をつけてくる者たちの視界をくらませる。

「走って」

急にサンジくんが私の手首を掴んだ。
ぐいと強く引かれてつんのめるも、駆け出した足は力強く地面を掴んでぐんぐんスピードを上げていく。
サンジくんは魔法みたいにするする人波をすり抜けて、私をどこか遠くの見知らぬ場所へ連れていくようだった。

あなたといてもどこにもいけない。
どこかに連れていってほしくて、この窮地から救い出してほしくて叫んでいたのにという失望なのか、だからここから飛び出そうという希望なのか、前後の文脈のないその一文からはなにもわからない。

走りながら、結局どこにもいけなかったね、といつかサンジくんがあの優しい目で悲しく笑う気がして、不意に胸を打たれた。
今こんなにも力強く私の手を掴んで引いていくのに、どこにもいけないわけないじゃないと頬を張ってやりたい気さえした。
早く、立ち上がって、私の手を取って、走り出して。そしたら今度は私が引っ張ってどこにでも連れていってあげるから。

息を切らして走りながら、目の前を行く背中が立ち止まらないことをずっと祈っていた。
さっきの店に彼が買った本を置き忘れてきた、と不意に思い出した。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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