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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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背丈より少し低い姿見は、船の揺れをものともせずに静かに部屋の隅にいて、せわしなく部屋を行き交う私をじっと眺めていた。
化粧箱の中で一番鮮やかな口紅をそっと唇に乗せるとき、曇りひとつない綺麗なガラスに気恥ずかしさすら感じて目を逸らす。
それからゆっくりと色を引いた。
──少し赤すぎた気がする。
慌てて手元のティッシュを引き抜き唇を押さえるも、やっぱりと思ってまた同じ色を引いた。
扉の外から「おい、まだか」と不機嫌一歩手前の低い声が聞こえてくる。

「今行くわ」
「あいつら先行っちまったぞ」
「そう」

目を閉じる。ずるをして申し訳なく思う気持ちが胸の片隅にありながら、たいして躊躇せずに扉の外側に目を咲かせた。
ゾロは落ち着かない手つきで刀の鞘を何度も撫でるように触って、腰への据わりを確かめていた。
紺と白のストライプシャツに、薄いベージュのハーフパンツ。
胸元はいつものようにはだけていて、痛々しい縫い痕がよく見える。

今行くわ。
口の中で反芻して、なんだかとても素敵な響きだった、と心躍る気持ちで口紅をポーチへ滑り落とした。




港町はとてもにぎやかで、陽気なマンドリンの音色が至る所からぽろんぽろんと聞こえてきた。ヒールの靴音がとても軽やかに石畳を叩き、大きく手を振って歩いてみたい気持ちになる。
ゾロは変わらず私の隣を少し開けて、どっしどっしと力強く地面を踏みしめて歩いた。
行き交う人たちは華やかな装束で、道沿いに軒を並べた店はどこも入口にオレンジ色の可愛い花々を飾っていた。

「素敵。お祭りなのかしら」
「そういやナミがんなこと言ってたな」
「なんのお祭り?」
「そこまで聞いてねェ」

街は緩やかな坂道が続き、その道が街の目抜き通りになっているようだった。
一歩横道にそれると洗濯物のはためく住宅街が広がり、裏口と思われる小さな扉の前で子供が猫と遊んでいたりした。
日陰では深く帽子をかぶった男が石の塀にもたれてやっぱりマンドリンを抱いていて、ぽろぽろと音を奏でては思い出したように異国の歌を歌っている。
私はパンツのポケットから小さな紙きれを取り出して、そこに書いてある用件をひとつずつ復習した。
パン屋で夕飯のバゲットを6本。昨日出したクリーニングを回収。ゾロの武器屋に付き合ってから、少し自分の消耗品を買い足して完了。
船のために必要な要件は先の二つだから、ああでも荷物が増えると鬱陶しい。パン屋は先に寄って焼き上がりの時間を確認してから考えよう。クリーニングはかさばるから最後に。

「まずは武器屋ね。刀を預けるの?」
「いや、自分で磨くからその道具を買う」

ふとゾロが足を止めた。

「クリーニングこっちじゃなかったか」

どう見ても家と家の間で人の住まいしか見当たらないような横道を親指で差し示し、ゾロは私の返事も聞かずに既にそっちへ歩きはじめている。
ちがうわ、そっちじゃない。それにクリーニングはいちばん最後に寄りましょう。
そう言うつもりが、気付けば私は黙って彼の背中を追っている。
ゾロはまるで慣れた自分の街のように大きな歩幅で狭い小路をずんずん先へ行く。
家と家の間に張られたロープに白いタオルとTシャツが干してあって、日陰にもかかわらずさっぱりと乾いた様子でひらひらと揺れていた。
ゾロはさっと腰をかがめてそれを避けると、少し迷ったように脚を止めて、しかしすぐにまた歩き出す。
どうみても旅の装いの二人組がずんずんと歩いてくるのを、扉の前で立ち話をしていた住人の女性たちが少し驚いた表情で見てから端に寄って道を開けてくれた。
少し幅の広くなった小路と小路が交差するところに差し掛かり、ゾロはようやく脚を止めた。
「こっちだったか」と眉をすがめて左を見遣る。
「そうだったかしら」とわくわくしながら私は答える。
すると、ゾロが怪訝な顔で振り向いた。

「テメェ何考えてやがる」
「え」
「いつもあっちだこっちだと引っ張りまわしやがってうるせぇのに、今日はやけに大人しい」

人に馴れない野生の獣みたいな疑り深い目で、ゾロはじっと私を見てくる。
ついふっと吹き出して笑ってしまった。

「いつもうるさかったの。ごめんなさい」

くしゃあと鼻の頭に皺を寄せて嫌そうな顔をして、ゾロは苛ついた口調で「そんで、クリーニング屋はどっちだ」と言った。

「わからないわ。こんなとこまで入り込んでしまって」
「はぁ?」
「さっきの道をまっすぐ行ったら着いたでしょうけど、あなたこんな曲がりくねった細い道に入って行くんだもの。もうどっちを向いてるのかわからないわ」
「んじゃあもっと早く言えよ!」

ごめんなさい、と断ると、ゾロはクソ、と小さく呟いてから「まぁいい」と口にした。

「適当に行きゃあ着くだろ。ナミもそんな広い街だとは言ってなかったしな」
「そうね」
「こっちでいいか」
「いいわ」

ゾロが最初に指差した左の小路を、私たちはまた歩き出した。
今度は少しスピードを落として、二人並んで歩いていく。
坂道がゆるやかに登っていて、もしかすると方向はあっているのかもしれないと思う。

黙って歩いていると、両わきの家から人の声が届いてきた。
子どもたちが喧嘩をする金切声だとか、母親が子どもを呼びつける鋭い一言だとか、電伝虫の鳴き声だとか、そういう類のとても身近なものだ。
目抜き通りの陽気な音楽も遠くの方から聞こえてきて、それらが混然一体とまじりあっては頭の上にぱらぱらと降ってくるようだった。

「あ」

不意にゾロが脚を止めたので、私もそれにならって前を見る。
小さな噴水を囲んでぐるりと小さな広場があって、その向こう側にこれまた小さなパン屋があった。
パン屋と言ってもきちんとした建物の店構えではなく、移動式のグルメカートだ。
あら、と私も答える。

「用があったんじゃなかったか」
「そうね、バゲットを六本」

ちょうど店のカウンターに大きなカゴにバゲットが六本ほど、刺さっていた。
噴水越しに店を見つめる私たちに気付いて、店番をしていた少年がにっこりと頬を丸くして笑いかける。
カートに近付くと「いらっしゃい」と明るく声を掛けられた。

「クロワッサンが焼き立てだよ」
「このバゲットは?」
「今朝焼いたものだけど、今日はこれだけしか焼かないんだ」
「じゃあこれを六本」
「クロワッサンは?」

ちらりとゾロを見遣る。
腕を組んで睨むように店の奥を見つめていた彼は、「食う」と短く言った。
私は笑いそうになるのを堪えながら「じゃあクロワッサンも、二つ」と少年に言う。
お金を払い、バゲット六本の大きな袋とクロワッサンの入った小さな袋を彼が受け取る。

「毎度! クロワッサン、美味しかったら明日も来てね」
「えぇ、ありがとう」

船は明日の朝には出航する予定だけど、そんなことはおくびにも出さず私も笑い返す。
少年は爽やかに私たちに手を振って、そのあとやってきた初老の女性客にすぐ笑顔を向けた。

「すぐ食べる?」
「おう」

ゾロはバゲットを抱えたまま器用に小さな紙袋を開けた。

「あ」
「え?」

ゾロはまず一つ取り出し、私に持たせる。ぱらりと生地の表面が散る。
そしてもう一つ取り出して自分で持つと、空になったはずの紙袋を私に差し出して見せた。
中を覗き込むと、クロワッサンがもう一つ入っている。
後ろを振り返ると、少年は女性客にお釣りを手渡しながらもこちらにひとつウインクしてみせた。

「あらあら」

ふふっと笑みこぼしたとき、隣からざくっと歯切れのいい音が聞こえて視線を戻す。
ゾロは一口で大きめのクロワッサンの半分ほどを口に含んで、唇にバターの香るパンのかけらを付けたまま難しい顔で咀嚼していた。

「おいしい?」
「ん」

私も立ったまま齧り付く。
彼のようないい音は出なかったけど、それでもさくさくと落ち葉を踏みしめるみたいな軽い音がこぼれる。
クロワッサンは暖かく、噛みしめるほど生地の甘さが広がった。
さりげなく彼を誘導するように先に立って、祭りの音楽が聞こえる方へと足を進める。
幸い彼も何を言うでもなく付いてきた。

「美味しいわね」
「あぁ」
「バゲットも期待できそう」
「パンはどこも一緒だろ」
「そうかしら」

たしかにサンジのごはんは美味しいので、どうしても店で買ったパンは添え物となってしまう。
残りの一口を放り込んで、バターの塩気が残る指先を舐めた。
服にかけらが落ちていないか確かめてからふと彼の方を見ると、彼ももちろん食べ終わっていて、サービスの三つ目を袋に入れたまま手に持っている。

「あら、それ食べていいのよ」

街でばったりクルーに会ったら、しかもそれがルフィだったりチョッパーだったりしたら、お前らだけずるいと非難されるに決まっている。
そう言うと、彼は「それもそうだな」と袋から中身を取り出した。同じように口に放り込むのかと思えば、ゾロは突然クロワッサンを二つにちぎった。
そう、まさにちぎるとしか言いようのない乱雑な手つきで、表面のおいしい皮がぱらぱらと地面にこぼれる。
不恰好に潰れた半分のクロワッサンを、ゾロは無言で私に差し出した。
ついに私はこらえきれず、声を出して笑ってしまう。

「あなたが食べてよかったのに」
「お前が美味いっつったんだろ。何笑ってんだ」

ふっふと笑いの止まらない私を怪訝そうに見て、ゾロは残りの片方を口の中に押し込むようにして食べてしまった。
私も目の端に滲んだ涙を拭ってから潰れたクロワッサンを受け取って、ゾロのように一口で食べてみる。
口の中がいっぱいになり、頬がはちきれそうになった。
やっとのことで飲みこんで、口元を拭い、拭った手に真っ赤な口紅がついていて、少しだけあーあとでもいうような気持ちになる。
それでも満ち満ちた多幸感は微塵も欠けることなく、空は突き抜けて白く光っていた。


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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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