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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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口を開けたエレベーターの中には数人の社員が乗っていて、入口のところに立っているアンを見て全員が一様にぎょっとした。
しかしアンはそれにはお構いなしで、幾多もの視線に気づくこともなくエレベーターに乗り込んでいく。
そして次の瞬間には、カエルよろしくべたっと壁に張り付いた。
そこはガラス張りで、外の景色が薄い青に色付いてよく見えるのである。


(すごっ!すごぉっ!!外が見える!!)


エレベーターという箱の中から見る景色の目新しさに感動していたアンだったが、背後で扉が遠慮がちな音を立てて閉じたことにより我に返り、慌てて4階のボタンを押した。
エレベーターが上昇していく間外の景色に目を奪われ続けていたことは言うまでもない。

















ふわっと滑らかな動きでエレベーターが停止した。
そしてまた滑らかに、目の前の扉が開く。
アンが一歩踏み出したそこは、喧騒に揉まれていた。


(…すっごい、人)


編集者と言うのはこうもせわしいものなのかとサッチを見て常々思っていたアンだったが、実際に働く人々を見て成程と確信した。
とにかくみんなどこかしら動いているのである。
アンが務める会社のように、のんびりとお茶が出るのを待つおっさんなど一人もいない。
皆が皆、慌ただしそうに仕事をしていた。



(…えぇと、まず、そう、つきあたりを右!)



人の動きに目を奪われていたアンだったが案内を思い出してよいせとリュックを背負いなおした。
突き当りと言っても目の前は吹き抜けの『穴』である。
だからつまり突き当りってことはこの穴の向こう側ってことか、とアンはひとり頷いて歩き出した。






















…お?
…うぁ?
…階段、ない…



アンは4階の印刷室の前で一人立ち往生していた。
案内をしてくれた綺麗なお姉さんの鈴のような声を思い出しながら、どうにか印刷室の前までは来れた。
自分の記憶力を始めてほめたいと思った瞬間だ。
だが、案内された通りの階段が見当たらないのである。



しばらくきょろりきょろりとあたりをうろついて階段を探してみたり、ほかに印刷室があるんじゃないかと探してみたりしたものの、やはり部屋の入口上部に『印刷室』とプレートが刺さっているのはこの部屋だけで。
行き詰ってしまった。



(…どうしよ…受付戻ろうかな…)



少し離れたところの、また別の編集部に人はいる。
だがアンはまだしっかりとマルコの言いつけを覚えていた。
なんであんなに顔に影を作ってまで言い聞かせてきたのかはわからないが、それだけ必死なのだろうということはよく伝わった手前、破ることはできない。
ゆえに誰に尋ねることもできず、やはりアンには受付に戻るしか手段がなかった。

しかし、だ。



(…さっきどっちから来たっけ…)



来た道を戻るということは、行きに右に曲がったのなら左に、左に曲がったのなら右に曲がるということである。
だがもう既に、アンは自分が消化してきた道筋を思い出すことができない。
そして右に曲がったら戻るときは左に、などという考えも皆目思いつかなかった。




(…どどどどどうしよう…)


不安と焦りで胸のあたりがずくずくして、ぎゅうっとリュックの肩ひもを握りしめる。
あたしが迷ったせいでマルコの締め切りが遅れたらどうしよう、もしかしたらサッチも待っているかもしれないのに、とあの二人の顔を思い出したら少し泣きたくなった。
だが泣いていたって仕方がないことくらいわかるので、涙はぐっとこらえる。


…やっぱり誰かに尋ねようか、と来た道を振り返った。
すると、さっと大きな影が壁の向こうに身を隠した気配がした。



「…?」


誰かいたような気がする、と首をかしげたがそこには誰もいない。
遠くの部署で数人の人がせわしく働いているだけである。

気のせいか、と再び前を見据えてこれからを考え直すアンだったが、再び背後から視線を感じてさっと振り返った。
するとまた、大きな影がさっと壁の向こうに消える気配。



「…??」


わけがわからないが、そんなことより今は自分の迷子が先決である。
迷子と言う言葉を自分で考えて少し気が沈んだ。













「ん、こりゃあ珍しいもん見っけた」


唐突に聞こえた低い声にアンが俯いていた顔をぱっとあげると、印刷室の隣の鉄の扉の向こう側から現れたらしい男が、アンを見つめて目を細めていた。


「え、あ、」

「お嬢はこんなとこで何してんだい」


ガチャンと重たい金属音と共に扉が閉まると、それと共に男の長髪がさらりと揺れた。
腰あたりまである漆黒の髪色はアンと同じ。ちなみに真っ黒の瞳も。
長い脚は黒の緩いスラックスをはきこなしていて、胸元の空いたシャツの袖を捲ってその手には数冊の雑誌を抱えていて。




モデル、みたいだ。




ぽかんと口を開けたまま男を見つめていたアンの顔を覗き込み、男はんっ?と口角を上げた。
そしてちらりとアンの背後へ視線を送る。
壁の向こうの空気が少しざわりと揺れて、その原因に見当がついたのか男は再び小さく笑った。


アンは男が笑ったことによりはっと我に返ったものの、相変わらずつかめない現状への不安やらで胸は苛まれ、眉はへにゃりと下がったままだ。



「…あ、の…サッチ、サッチのとこに…よ、よんかい…」

「サッチ?ああ、アイツに御用かい」


こくこくと必死に頷けば男は柔らかに口角を上げ、今さっきその男自身が現れた鉄の扉を引き開けた。



「もうすぐそこだ。お連れしやんせ」

「…あ、階段…」



男が開けた扉の向こうはまさにアンが探していた階段で、その階下からは小さくざわめきが漏れていた。
アンが顔を上げて男を見やると、男は扉を引いたまま視線でアンに進むよう促す。

「あ、ありがと!…ございます、」

安堵と喜びがプラスされにっこりと男を見上げたまま笑いかけると一瞬男はきょとりと目を丸めたが、すぐに同じようにして顔を綻ばせた。



マルコの言いつけはすっかり忘れてアンが促されるまま扉の向こうへと消える背後では、その男──イゾウが壁の向こう側に身をひそめる大きな影、ラクヨウ率いる十数人の編集者たちに向かって口だけを動かしていた。



(はやく仕事戻れ阿呆)



















「サッチ!!サッチサッチサッチィィィ!!」


見慣れた後姿を見つけ、大きく手を振りながら叫べばどれだけ騒がしい編集部でも視線は自然とアンに集まる。
その中でアンに背を向けていたサッチの髪はリーゼントがところどころほどけ幾筋もの髪が垂れさがっていて、数個のピンが髪に刺さっていたがあまり用はなしていないようだ。
サッチは虚ろな目のままアンを振り返り、そして頼りなく笑った。



(…一日でやつれてる…)


昨日うちにおすそ分け持ってきてくれた時はこんな顔じゃなかったと、サッチの忙しさが半端ないことをさすがのアンも汲み取った。
サッチは近くにいた若い男に何やら話しかけてそれと同時に書類も渡し、アンのほうへとデスクを掻きわけやってくる。
そしてアンの後ろでひらりと手を振る男の姿を見て、あからさまにゲッと顔をしかめた。



「んだよ、つれねぇな」

「イゾウ…お前なんでアンちゃんと一緒にいんだよ…」

「このおにーさんが、ここまで連れてきてくれた!」


えへへ迷っちゃったよあたし、と悪びれることなく笑うアンを前にして、サッチはがっくしと肩を落とした。
面倒なことになるからイゾウだけはアンに近づかせるなと、奴からお達しがあったというのに。
いや実際はマルコから口でそう言われたわけではない。
ただ数十分前にかかってきたマルコのあらゆるセリフに、その意図が多分に含まれていた。




「お嬢、名前は」

「あ、アン!ポートガス・D・アン!おにーさんは、イゾウ?」

「ああ、ところでなんでサッチの奴に用事?」

「あ!そう、サッチ、これ!」



リュックの片腕を外し、ごそごそとその中を探ったアンは目的のメモリを取り出した。


「おお、サンキュ」

「ん、アンは新人ライターか」

「や、ちがうちがう!これはマルコの、」

「マルコ?」

「アンっちゃんっ!!おれ今から休憩取るからさ、ほら、あそこのソファで待っててくんね?お菓子とジュース持ってすぐ行くから!」



唐突に会話を断ち切ってサッチがそう言えばアンはぱあっと頬を染めて大きく頷き、てけてけとリュックを背負いソファへと向かっていった。






その後ろ姿を二人の男がともに見送り、片方が大仰にため息をつく。
もう片方はアンがソファに腰掛けるところまで見送ると、くくっと喉を揺らした。


「噂は本当だったってか、」

「…イゾウ…怒られんのおれなんだからな…この確信犯め…」

「…使いてぇな、あのお嬢」

「おまっ…!その捕食獣の顔ヤメロ!!」




そんな会話がなされる向こう側で、アンは呑気に「おつかい成功」とマルコにメールを打っていた。



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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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