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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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この乾いた地に咲く強い草木のように、二本の足はしっかりと地面を踏みしめている。
にも関わらず、軽く土を蹴るだけでその体はふわりと浮かんだ。
自由の翼を持つあなたをとどめるすべは無いけれど、どうか。
もうこの手を離したりしないで。














そうしていつか 空に還ってしまう日が来るのでしょうか














昼間は強い日差しが照りつけ、夜は肌を刺す寒風が吹きすさぶ。
ビビはバルコニーの椅子に腰掛け、静まり返ったアラバスタの地を見つめた。
一陣の風が吹くと、砂が巻き上げられ壁に音を立ててぶつかった。

民は争いを終え武器を捨て、刀を交えた兵と市民が共に国の復旧に励んでいる。
彼らは額に汗しながらも輝かしいばかりの笑顔で溢れていた。
それなのに、こんなにも心ががらんどうになってしまったような気持ちがする。
うらさみしい路地を一人で歩くときのような心許なさ。
この国にはまだ、決定的に欠けているものがある。

大きな砂色の翼、十字を組む黒の羽模様。誰よりもこの国と平和を愛し、自らの命を賭した隼。
ビビの目の前で数百万の命をその身に背負って消えてしまった。
彼の突然の行動は、ビビの涙をも奪ってしまった。泣く暇も無かった。
国が落ち着いた数日後、チャカと二人で彼の墓標を立てた。
骸も何もない、小さな十字。
チャカは彼が愛していた酒を、ビビはアラバスタの花を、その標に掲げた。
下唇を噛みしめたビビに、チャカは諭すように言った。

「ペルが民の命を背負ったことは、我ら隊員の夢そのもの」








「ペル……」


声に出した途端、それは形となり「彼」そのものの姿を纏い、ビビの脳裏に現れる。
いつも優しく細い目が、薄く弧を描く唇が、こんなにも遠いものになるなんて。


空はしばらく降り続いた恵みの雨の跡形もなく、今は月を覗かせている。
真っ白な月が明るすぎて、今宵は星がよく見えない。
ビビは彼がよくしたように、目を細めて空を見上げた。
月は人を誘う。
ペルのもとへ行けたらと。


ざわつく心をぎゅっと奥に押し固めて、椅子から腰をあげた。
まだ眠気はないけれど、ベッドに入れば眠くもなるだろう。
そう思い自室とバルコニーを繋ぐ大きな窓に手をかけた。

そのとき、目の端に移る放射状に光を放つ月の中心を真っ直ぐの黒の線が一本通った気がした。
思わず振り返ったが、それはもうただの月だ。



鳥だろう。でもこの国で群れを作らない鳥なんて珍しい。
そんなことを考えながら一歩部屋へと踏み入れた。
だがそこからもう一歩脚が踏み出さない。
からだの神経すべてが、血液すべてが、一点に集まってくる。
耳が熱く、足は動いてくれない。
風を切る、大きな羽音。旋回に伴って巻き起こる空気の流れ。幼い頃から幾度も傍で聞いた、すべてが肌になじんだ音だった。
その音を発する巨大な物体はぐるりと大きく旋回すると、城の中央玄関のほうへと降り立った。
ビビの目はそれを横目で捉えた。


まさか。
いやきっと。



ビビは重い窓を力いっぱい押し広げ、それこそ風のように自室を通り過ぎ、城の幅広い廊下へと出た。
はだける薄いカーディガンが床に落ちるのも構わず、ビビはどこまでも続くような長く赤い廊下を駆けてゆく。
各部屋の前にいる門番は血相を変えて走り抜ける王女に目を剥き、慌てて声をかけるが、ビビは構わず走る去る。
永遠に続くように思えた、長い廊下。
幼い頃、彼の人と追いかけっこをしては勝手にかくれんぼに変えてしまって、慌てて自分を探す彼をイガラムとこっそり笑ったりした、長い廊下。



目前のひときわ大きな会議室から、チャカとイガラムが飛び出してきた。
チャカはきっと、鼻が利く。
頭の片隅でそう思ったが、そんな事はどうでもいい。ビビは飛び出してきた二人の前をも一目散に駆け抜けた。
後ろからはビビを追う二つの足音が聞こえた。



目の前に、大広間の開いた扉が見えてきた。
もう少しと思うたびに何度ももつれて転びそうになる足を叱咤しては立ちなおした。

そして城の中央玄関へと繋がる大広間に飛び込んだ。
ほぼ同時といっていいくらいに後ろからも荒い息を切らして、誰かが立ち止まっている。
ちょうど玄関から広間への入り口、月明かりだけが差し込むそこには、白いひとつの人影。
月の光を背にして顔は何一つ見えない。だが口は、自然と何度も思い慕った名を呼んだ。



「・・・ペル・・・」


荒れた息と共に吐き出したそれが、その人影に届いたのかはわからない。
だがビビの口がその名を滑らせた瞬間、その人影を包む空気が解けるように揺れて笑った。
それは昔のように。


「ただいま戻りました。ビビ王女」


柔らかな声音が耳を打った瞬間、つま先からてっぺんまで、閃光がビビのからだを貫いた。
がくりと崩れ落ちた王女を、慌ててチャカが支えようと手を伸ばす。


すっとひとつ息を吸ったかと思うと、ビビはアラバスタ中の民が目覚めてしまうかと思うほどの大声で、慟哭した。
床にへばりつき頭を抱え、美しい色合いのじゅうたんを染めるように、王女の涙は流れ続ける。
民を救うために命を張った気丈な王女はどこにもいない。
いつまでも焦がれた存在を、心から喜び涙する少女が一人、そこにいた。
どれくらいの間そうしていたのか、そのあいだチャカたちや後々追いついてきた父であり国王はただただ立ち尽くしていた。


ビビが泣き叫びつかれ、声もかすれてきた頃、ふわりと肩に薄いカーディガンが乗せられた。
その包むような温かさにふとビビが顔をあげると、目の前にはペルが膝をつき、いつもの困ったような顔で笑っている。


「…ビビ様、いつからそんなに泣き虫になられたのです」


たまらなくて、すべてを受け止めてくれる強いぬくもりが欲しくて、ビビは本能のままに腕を伸ばし目の前の男の胸に飛び込んだ。
案の定、力強く受け止めてもらえた。
叫び続けてもう何も出ない喉元から、それでも何かを伝えようと熱いものがせり出すように伝ってくる。
どうしようもなくて、ビビはペルの腕に力いっぱいしがみついた。



生きていた。
ただその事実だけがひどく心強い。
白の包帯で巻きつくされた熱い胸板の奥深くから聞こえる鼓動。
共に打つ両側の心臓の音が、いつまでも続くことだけを願った。



ペルは静かに、目の前のしなやかな体に腕をまわした。
その細さに思わず目を見張り、その柔らかさに安堵を覚える。
ビビの体を強く抱くと、つややかに長い髪がペルの指に絡みついた。
その髪に少し顔をうずめたまま、呟いた。


「国王。どうかこの罰則は、のちほど……」


王ははっと顔をあげ、静かに笑みを浮かべて顔をそむけた。
広間を去る王にチャカが続き、そして名残惜しげにイガラムも後に続く。


きんと冷えた広間でぬくもりを分け合った。


「…ペル」


消え入りそうで心もとない声が響く。

蒼瞳が揺れて涙の膜を貼り、ペルを見上げた。
包帯に埋め尽くされた大きな掌がその顔を包む。


「無礼を、お許しください」
「…ばか」


降り続いた雨よりも暖かな水滴が頬を伝う。
豊かな味がした。





そうね
たとえあなたが空に還ってしまっても
私は花を抱えて待っているから








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2014.9.7 修正
(久しぶりに読み返しました。なにこれ恥ずかしい。
でもちょちょっと手直しだけして、そのままにします。
いましめに。
今でもペルビビだいすきです。
読んでいただいて、ありがとうございました!
こまつな)

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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