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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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         7.5(サナゾ注意)



8

ナミさんてなんの仕事してんの。
彼女が伸びをしたすきに尋ねた。大方書き物をしているだろうことは見当がついていたので、彼女の気を引くためだけに尋ねたようなものだ。
うーん? と語尾の上がった、応える気のない返事だけが帰ってきて空白が落ちる。集中してるときに話しかけちまったかな、と若干の申し訳なさとともに顔を覗き込むと視線がかち合った。

「翻訳。と、ちょっとした記事を書いたり」

へえ、と素直な声が出た。

「すげえな、英語?」
「ううん、ノルウェー語」

ノルウェー? と素っ頓狂な声を上げるとナミさんはほんの少し口角を上げた。リビングにはおれとナミさんしかいない。ルフィは最近帰ってこなくなった。ふらりとどこかに旅立って、長いとふた月以上帰ってこないこともあるらしい。その間の家賃はもちろん支払われないので、帰ってきたルフィは身ぐるみ剥がされる勢いで手持ちの現金をナミさんに徴収されることになるだろう。
今日は仕事が休みのおれは、日がなナミさんのそばにいる。
あいかわらずこのアパートの中でちょこちょこと雑務をこなしつつパソコンの前で仕事に没頭するナミさんを、飽きずに構っては若干うっとうしがられる気配を感じながら、でも結局呆れ混じりにナミさんがおれを見るまで根気よくそばにいる。

「ふるーい書物とか、研究書とか、翻訳された時期が古いと解釈も若干違ったりして。そういうのを今風にわかりやすく修正して、記事を書くときは考察を入れたりして、そうやって書いたものを売ってる」
「すげ、そんなのどこで勉強したの? 大学?」

ナミさんは顔を上げ、おれを見つめてにっこり笑った。

「サンジくんお腹すいた」
「はいただいま」

すくっと立ち上がってから、流された、と感じるがなにも言えない。ナミさんもぱたんとパソコンを閉じた。

「ロビンいるかしら。なにかお酒飲みたい」
「付き合うよ」
「休みの日くらい飲みたくないでしょ。いいわよ無理して付き合わなくて」

軽い足取りでパントリーに向かうナミさんに、おれは黙って苦笑するしかない。
毎晩酒臭さにげんなりして帰ってくるおれを見慣れている彼女には返す言葉がない。換気扇を回し、タバコに火をつけた。

「ロビンがいるならボトル開けるんだけどなー。いっか、ビールで」
「いねぇの?」
「たぶんね。午前中留守みたいだったし、帰ってきた気配もないから」

ぷしゅっと景気のいい音でナミさんが冷えていないビールを開ける。冷やしたやつを開ければいいのに、ナミさんはあんまり頓着しない。

「なに食いたい? 肉? 魚? 米?」
「なんでもいー。おいしいの」
「そういうのが一番得意なんだよなあ」

ナミさんが笑う声に気分を良くし、タバコを咥えたままフライパンやら片手鍋やらを取り出す。壁にぶら下がっているにんにくを取り出し、なにを作るとも決めないまま習い性で刻みだす。

「サンジくんて恋人いないの?」

背中から聞こえた声に、ぎくりと振り向いた。どうしてぎくりとしたのか自分でもわからないまま、ぎこちない口元で「なに?」と問い返す。
ナミさんはパントリーに背中を預けておいしそうにビールを傾けてから、「休みの日、いっつも家にいるから」と笑った。
口元からのぼる煙に視界を遮られ、それを振り払うようにまな板に向き直る。

「見ての通り。レディとは毎日のように話すんだけどなあ」
「みんなサンジくんに会いに来るのにね」
「なあ」
「そういやゾロ、あいつちゃんとやれてんの」

冷蔵庫のチルド室を覗く。切り身のサワラを発見する。取り出し、骨を抜く。

「やー以外にも。黒服の仕事はなかなか覚えねぇとかって店のやつがぼやいてたけど。客には妙に人気あるんだよな」
「ゾロってそういうとこあるわよね」

親しげに笑う声には返事ができなかった。愛想笑いすらできない顔を隠すように、うつむいてフライパンを火にかける。

「そのうちホストになっちゃうかな」
「さー、なれなれってカルネは、あー、店長は、言ってっけど」
「そしたらサンジくん辞めたら」

にんにくの香りが立つ。いいにおーいとナミさんが華やいだ声を上げる。おれは半分だけ振り向いて、彼女を見た。

「──なんで?」
「だって好きじゃないんでしょ。向いてないって言ってたじゃない」
「まあでも、辞めたら食ってけねぇからなぁ」
「何か他にしたいことないの?」

ぱちん、とにんにくが跳ねる。飛び出たそれをつまみ、口に運ぶ。

「ナミさんのところに永久就職しようかな」
「募集してません」

笑いながらナミさんが缶を置いた。かつんと高い音が小さく鳴った。

「ところでなに作ってるの?」
「あー、なんだろ。アクアパッツア? それかパスタにする?」
「決まってないの?」

じゃあアクアパッツァ、といいながらナミさんが白ワインを取り出した。おれは砂抜きして冷凍したアサリを凍ったままフライパンに放り込む。
なれた手付きでコルクを抜いたワインをどんとキッチンカウンターに置いたナミさんは、ふと思いついたみたいな口調で「でも、いいかもね」と言った。彼女が開けたワインをフライパンに注ぎながら「なにが?」と尋ねる。

「永久就職」
「え、まじで?」
「うん、ここでずっとこうやってごはん作るのは?」
「ナミさん雇ってくれんの?」
「あそっか、お給料払わないといけないんだった。じゃあなし」

からからと笑ってナミさんは背を向けた。グラスグラス、とつぶやきながら戸棚を漁っている。
なにを本気にしかけてるんだおれは。自分の心をなだめてフライパンに蓋をする。
確かに、こうやってめしばっか作っていられたらたしかにどんなにいいか。
ただそれが金銭の発生する労働となればまた話は別なのだろう。趣味を仕事にしたことはないので、漠然としたなんだかよさそうな気配があるだけで想像がつかない。
趣味を仕事にしているルフィに深いことを聞いたところでまともな返事は帰ってこないだろうが、一度尋ねていみたい気になった。
またひとつぱちんとフライパンの中が弾け、我に返る。
冷蔵庫の中、自分のスペースにしなびたプチトマトが転がっていたので、半分に切ったそれらを放り込む。魚も並べて、ナミさんが開けた白ワインを注いで蓋をした。

「結局ボトル開けちゃった」

2つのグラスを、頬を挟むように掲げてナミさんは笑っている。どうやら今日はご機嫌だ。

「少しは飲む? 無理しなくてもいいけど」
「のむのむ。ナミさん、パンかなにかあるとうめーんだけど」
「パンかあ。朝食用の食パンなら」

レンジ台の上のかごをのぞきこみ、ナミさんは「あ」と落胆の声を漏らす。

「しまった切れてる。いつもウソップが補充してくれるから任せてたんだけど、あいつ最近忙しそうなのよね。朝も早いし帰りも遅くて」
「んまー、じゃあシメはパスタか、米を入れてリゾットかな」
「それもおいしそうなんだけど……パン、つけて食べたいなあ」

ナミさんがちらりと時計を見上げる。18時を少し回ったところで、一番帰ってきそうなのはウソップだが、ナミさんいわく期待はできない。
意地悪をしたいわけでも困らせたいわけでもなかった。言うならば好奇心だ。彼女がどんな顔をして、おれになんと答えるのか知りたかっただけだ。

「んじゃナミさん、おれもう一品作るから買ってきてくれねぇかな」

フライパンを見下ろす。蓋の窓から中身が見える。クツクツと自ら出した水分で野菜と魚が煮込まれている。
いや、とおれは考える。もしかするとおれは、彼女を困らせてみたいのかもしれない。訊かれたくないことをあえて訊いて、口ごもる顔や逸らした視線の先を見たいのかも知れなかった。
ナミさんは、手に持ったグラスのふちをつーと細い指でなでた。

「それならいい、いらない」
「すぐそこのコンビニでいいんだけど」
「めんどくさい。いらない」

ナミさんはおれを捉え、「先に飲んでていい?」と微笑んだ。もちろん、とおれは応える。

フライパンごとテーブルにどんと置くと、ナミさんはおれのグラスに上手にワインを注いでくれた。跳ねた最後の一滴がまたグラスに落ちるところまで見て、グラスを持ち上げる。

「乾杯」
「いただきまーす、おいしそ」

もう一ヶ月以上、このテーブルが埋まる人数で食事をしていない。このアパートに越してくるまで、狭い自室の一人用のテーブルで食事することも、何ならキッチンで立ったまま食べることだってあったのに、ほのかに感じるこの物足らなさはなんと贅沢なことだろう。しかし目の前ではふはふと熱い白身を頬張るナミさんがおれをまっすぐに見て「おいしい」と笑うとその物足らなさも吹き飛んだ。つま先からしびれるような充足感に満たされる。

「よかった。いいワインだから魚もうまくなる」
「ネットで買ったやつよ。そんなに高くなかったし、飲みにくくてもサンジくんが料理に使うかなーと思って」
「十分うまいよ。ナミさん、酒選ぶの上手いよな」
「そう? ねぇサンジくん、さっき私にパン買ってきてって言ったのはわざと?」

ナミさんはフライパンからプチトマトをすくい、あぶなっかしい手付きで自分の皿まで運んだ。その動きを目で追って、おれはつい口ごもる。
くっきりとした目でおれの顔を見上げた彼女は、大人びた表情で笑った。

「怒ってないわよ、大丈夫」
「──ごめん」
「ううん、ずっと家にいるんだもん、気になるわよね」
「そういうわけじゃ」

ないんだけど、というおれの声は説得力なくテーブルに落ちた。ナミさんが小さく笑ったその息で吹き飛んでしまう。

「ロビンか誰かになにか聞いた?」
「いや」
「別になんでもなにも、理由なんてないんだけどさあ」

外は嫌い。
ナミさんはぽつりと、それでも断固たる、という感じでつぶやいた。

「ほんと便利な時代よね。パソコンがあればなんだって手に入る」
「そうだな」塩気の強いスープを口に含み、やっぱりパンがあればと諦め悪く考える。
「ロビンが意外とコンピューター関係詳しいのよ。インターネットの接続だとか、全部してくれたの。反対にウソップは全然だめ。役所ってそういうの疎いもんね」

サンジくんは? ナミさんはアサリの殻をフォークの先でカラカラと揺らしながら尋ねた。

「一通り自分でできるつもりだけど、詳しくはねぇかな。パソコン使って仕事したことねぇし」
「あそっか、サンジくんってずっとホストしてるの?」

おれは、と口を開いたところで玄関扉がぎいと大きな音を立て、おれとナミさんは同時に顔を向けた。廊下からひょこりと顔を出したのはウソップで、おれたちを目に止めて「おお」と意味のない声を上げた。随分疲れた顔をしている。

「おかえり。早いじゃない」
「おう、やっと一息ついたぜー。なにサンジ、お前休みなの」

おうと応えると、振り払うようにリュックやら帽子やらを身体から取り去ったウソップはそのままソファに脱力して倒れ込んだ。

「だああ疲れたああサンジめしいいい」
「おう作ってやるからよ、朝食用のパン買ってきてくれね?」
「いや鬼か!」

叫ぶウソップに、ナミさんが声を上げて笑った。
ごろんと寝返りを打って仰向けになったウソップは、瀕死の体で床に打ち捨てたリュックサックを指差した。

「買ってある。あん中、入ってる」
「え、まじで。お前やるな」
「すごいウソップよくやったわ」
「軽ぅ……」

そのままウソップはがくりと首を垂れ、目を閉じた。リュックをあさると5枚切りの食パンが一本、駅前のパン屋のロゴの袋のものが入っていた。
さすが、仕事のできるやつはちがう、見直したわ、お前もてるだろ、などなどナミさんと交互に囃し立てながらウソップが買ってきたパンをトーストし、おれはフライパンの中にウソップのぶんの具材を足して再び火にかけた。
いいにおーいと、ナミさんと全く同じセリフなのに震えるような死にかけの声がソファの方から聞こえた。

「おらできたぞ、食え食え」

よろよろと立ち上がり席についたウソップは、「あったかいめしだ……!」と涙ぐむようにして魚とパンを頬張った。

「なんでおまえそんな忙しいんだよ。公立図書館だろ、本のバーコードぴっぴってするだけじゃねぇの」
「ばっかお前、おれぁ司書じゃねぇんだよ。本の整理だけじゃなくてその管理も会計関係も人事も、役所のほか部署と連携取りながらいろいろやんなきゃなんねーの! 特にこの時期一斉の整理期間で……まあいいや終わったから。つーか図書館司書だってバーコードぴっぴが仕事じゃねぇからな」

トーストをスープに浸す。強い塩味とにんにくの香りで激しく美味いと感じる。顔を上げると、同時にトーストを口に含んだナミさんと目があった。通じ合ったような微笑みを交わし、しっとりと嬉しくなる。

「サンジのめしはほんとうめぇなあ、お前料理人になればいいのに」
「趣味だよ、プロに通用する味かねぇ」
「またまた謙遜しちゃって」

ナミさんまで囃し立てるように言うので、また本気にしそうになる。浮ついた心をなだめて、「なんにせよ食ってけねぇさ」とわざとそっけなく答えた。

「じゃあこのアパートで食堂のおばちゃんしてくれよ。金払うからさ」
「私とおんなじこと言ってる。どう、サンジくん」
「そりゃ平和そうだなあ」

笑って流したが、ウソップは「いい案だと思うんだけどなあ」と半ば本気のような口調でなおも言い募っていた。
ふとウソップは知っているのだろうかと気になる。
ナミさんが外に出ないことをどのように思っているのか二人のときに訊いてみたい気がしたが、いざ二人になったときにその場にいないナミさんのことを訊くのはどうも陰湿なように思えて、きっと話題にはできないだろうとわかっていた。

「あーごっそさん、うまかった」

にんにくの香りがいまだ強く残るダイニングで、三人共が満足げな息をつく。

「……寝よ」

すでに半目になっているウソップは立ち上がり、「めしさんきゅーな」と言い残してふらふらとリビングをあとにした。
ワインの最後の一杯を自分のグラスに注いだナミさんは、ウソップが階段を上る足音を聞きながら「こういうことなのよねぇ」と急につぶやく。

「どういうこと?」
「ほしいなあと思うと、私が外に出なくても向こうからやってくる」

立ち上がって、ナミさんはおれのぶんの皿とグラスも手にとった。

「作ってくれたお礼に片付けは私がやるわ。戻ってくれていいわよ」
「──もう少し二人でいてぇな」
「私まだ仕事があるの」

きっぱりとそう告げて、ナミさんは皿をシンクへと運んで洗い始めた。
どうしたもんかね、と一人になったテーブルで空いたボトルを眺める。洗い物を終えたナミさんは、おれの前を素通りしてソファのいつものスペースに収まるとメガネを掛け、パソコンを開いた。
どうしたいのか自分でもわからなかった。諦め悪くしばらくそこに居座り続け、煙草を二本灰にした。

「サンジくんの煙草の匂い、結構好きよ」

唐突にナミさんが言った。21時をまわり、パソコンを睨んだナミさんが一ミリもこちらを気にかけないのでそろそろ部屋に引き上げようかと思ったときだった。

「懐かしくて、ちょっと安心する」

疲れたのか少し目をしばたたかせてこちらを見た。なんと言っていいかわからず、真正面から彼女を見つめ返す。ナミさんは少し恥じらうように目を逸らし、またキーボードを叩き始めた。
灰皿を汚した吸い殻を、惜しい気持ちで捨てたのは初めてだった。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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