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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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         7.5(サナゾ注意) 




なあお前どうしちゃったの、とカルネに声をかけられたのは平日の閉店間際、最後の客が店を出た直後だった。人の気配と薄く効いた冷房で霞んだようなフロアは、赤っぽいライトに照らされて突然安っぽいセットのようになる。遠くの席でがちゃんと大きくグラスが鳴った。かがみこむゾロのでかい背中が見えた。大方また、無理やり積み重ねたグラスを倒したのだろう。

「なにが」

煙草に火をつけ、わざとカルネの顔を見上げて煙を吐き出す。心底嫌そうに顔を背けて、「やる気あんのかてめぇ」と久しぶりにドスの効いた声でおれをねめつけた。

「──あるからこうして毎日来てやってんだろうが」
「だったらもっと飲んで飲ませろよ。最近同伴だって全然してねぇだろ。ちゃんと営業してんのか」

カルネが不機嫌なのは何もおれのせいだけではない。閉店より前に店がカラになるのは今日だけじゃない。昨日も、先日の日曜もだった。
目減りする売上にぴりついているのは知っていたが、カルネの言い分があてつけじゃないこともまた、おれが一番良くわかっている。
かつて一日中ひっきりなしだった営業のメールは朝に挨拶程度送るだけになっていたし、初見の客に熱心に売り込むこともしなくなった。
別に理由なんてない。なんとなく気が乗らないだけだ。たとえそのせいで給料が減ろうと、まあいいかと思えた。仕事中に早く帰りてぇなと思うことも増えたし、あー酔った、と思えばそれ以上は飲まなかった。
以前のようにどろどろに酔って帰ってしがみつくようにリビングのドアを開け、誰のかわからないコップで浴びるように水を飲んでシンクに手を付きはぁはぁ言うおれを、ぽちりとひとつだけつけたソファのライトのそばでナミさんがじっと見ている。
情けねぇとか、かっこわりィとか思わないわけではないが、別にその姿を見られたくないから歯止めをかけているわけではない。と思う。
別に理由なんてないのだ。

「へーへー努力しますよって」

立ち上がりながらカルネの肩を叩く。噛み付いてこないおれに拍子抜けしたのか、ぽかんとした顔でおれを見上げた。

「明日おれ同伴だからさ。22時入りな」
「ああ、おう」
「おれ今日は先帰っから。あのマリモに言っとけよ」

同じアパートなことは店も知っている。面倒だからとまとめて送られることが多いが、黒服のゾロのほうが後片付けや閉店作業で遅くなる。ただ、閉店後のソファでしばらく死んでいるおれが目を覚めるころ、ちょうどゾロの仕事が終わるのだ。またグラスが雪崩を起こす音が響いた。盛大な舌打ちが聞こえる。雪崩の元凶の本人だ。

「おつかれさん」

送迎の車を待たず、店を出た。しばらく歩き、大通りでタクシーに乗った。家の近くの路肩で金を払うとき、やっぱ車を待てばよかったとちらりと後悔した。
リビングは真っ暗だった。近頃こんな日が多い。ナミさんは自室で仕事をしているのか、それとも深夜の作業をやめてただ規則正しく眠っているのか。煙草臭いシャツを洗濯機に放り込むとき、向かいにあるナミさんの部屋からことりと物を動かす音がした。引き寄せられるように扉に近づく。小窓もない扉は、その向こうに明かりがついているのかさえわからない。

「──ナミさん?」

驚くほど心細そうな声が出た。何呼びかけてんだ。寝ていて、起こしたらどうする。
3つある洗濯機はどれも稼働していない。夜の22時以降は使用禁止だ。明日の朝いちで回す気だった。ランドリールームに戻り、使用中の札をシャツを放り込んだそれに貼る。洗濯機のひとつには、洗いっぱなしの濡れた洗濯物がしわくちゃの団子になって入っていた。大方ウソップかルフィが入れたまま忘れて寝たのだろう。よくあることなのでそのままにして、シャワーを浴びた。
いくぶんさっぱりした体で自室へ戻るとき、諦め悪くナミさんの部屋の前でもう一度立ち止まりかけたが、脚に力を込めて通り過ぎる。

「おやすみなさい」

はっとして振り返ったが、扉は開いたりしなかった。聞きたくて聞きたくて、ついに幻聴を聞いたのかもしれなかったし、たしかに扉を隔てた向こうからおれに向かって呼びかけられたような気もした。
すぐそこの薄い扉を今すぐ蹴り破って、中にいる彼女の顔を見たいと思った。いっそ扉越しでもいいから彼女と手のひらを合わせるだけでもいいとすら思った。

「おやすみ、ナミさん」

当然返事はなかった。濡れたタオルを首にぶら下げて、音を立てないように階段を登った。




今日の同伴客はおれと同じ歳ほどの若いレディだ。比較的年上の客がつくことが多いおれには珍しいタイプの固定客だ。太客というほどではないが、でも月に2回ほどはやってきておれを指名し、ボトルも毎回入れてくれる。まるで友人のように「そろそろ飯行かねぇ?」と誘えば同伴してくれるし、誕生日や入店記念日のようなイベントには欠かさずプレゼントを持ってやってきた。
彼女がいわゆる普通の恋をしていることはわかっていた。おれに同じものを求めていることも。
同伴先で飯を食ってから店に着き、ソファに腰を下ろした彼女の指先をギュッと握って視線を合わせる。

「待ってて、すぐに着替えてくる」

ほどけた顔でうなずいた彼女を黒服とサポートのスタッフに託し、裏に引っ込む。言葉通り急いで着替え、急いでいるくせに裏口を出て一本煙草を吸う。そこへ唐突に、ゴミ袋を両手に4つずつ鷲掴んだゾロが現れた。

「おう」
「おう」

短くうなずいたゾロがおれにケツを向けてゴミ箱にゴミを放り捨てる。その足元、スーツの裾が濡れて光っていることに気づいた。

「お前足元」
「あ? あー、さっき酒こぼした」
「着替えろよ。身だしなみ第一」

こんくらい、と面倒そうに顔をしかめたゾロを睨むと、珍しくそれ以上言わなかった。まだ長い煙草をもみ消し、裏口の扉に手をかける。

「お前のあの客」

不意にゾロが思い出したように言った。

「若ぇな。学生か」
「あ? いや、働いてる、さすがに」
「ふーん。お前のいつもの、いかにも金持ってる年上の女とはちげぇのな」

何が言いたいのか、ゾロにしては妙に饒舌な様子を怪訝に思い振り返る。濡れた足元を確かめるように覗き込みながら、ゾロはなんでもないことのように言う。

「必死こいて金ためて、ここに来てんだろ」
「……そうなんじゃね」

話を遮るように重たい鉄の扉を引き開けた。従順な飼い犬のようにつつましくおれを待つ彼女は、ごめん遅くなった、と腰をかがめて歩み寄るおれを見上げてほっとしたように笑った。その顔を見て、ぎっと腹の奥のほうがきしむ。同時にゾロの言葉が蘇る。
必死こいて金ためて、おれに会いにきてんだな。
言われなくとも、ずっとわかっていた。一軒目に行ったエスニックレストランも、2軒目でコーヒーを飲んだ洒落たカフェも、支払いは当然彼女がした。今も彼女は当然のように黒服から手渡されたワインリストを眺めている。
いつまで経ってもそのたびにぎしぎしと体のどこかをきしませるおれは、絶対にこの仕事が向いていない。
それをゾロに遠回しに、しかしある意味まっすぐと指摘されたような気がして気が重くなった。

「どれにしよう」

どれを飲みたいか迷っているのではない。どれくらいの価格のボトルを入れたらおれが喜ぶのか、自分の懐具合と相談しながらおれの顔色をうかがっているのだ。
美味いとか美味くないとか、つまみに合うとか合わないとか、ここではそんなことは一つも関係がない。
おれが顔を寄せて一緒にリストを覗くのをそっと待っている。痛ましくさえあるそのいじらしさに、「もういいよ」と言いたくなった。
おれも好きな人がいるんだ。何もかも放り出して、必死こいて働いてああ会いたいと思うこと、一つの心のように彼女の気持ちがわかる。
だからおれは1ミリも好きではない彼女の目を覗き込んで、あたかも好きだというかのように微笑むことができる。おずおずと上から3番目のワインを指差す彼女に指を絡めて、幸せな時間を共有しているかのように話ができるのだ。
おれの好意をそのままの好意として受け取って嬉しそうにする彼女を見て、ああ好きなんだなあと何度も思う。
おれも好きだ。
おれもナミさんが好きだ。
彼女の笑顔を見るたびに、ずっとそればかり考えていた。その日の売上は一位だった。

アパートに帰るとリビングも廊下も明かりがついていた。今日はゾロも一緒だ。まるで「やればできるじゃねぇか」と言いたげな顔で近寄ってきたカルネに「んでも別に飛び抜けてお前がよく売れたわけじゃねぇからな。今日もあいにく低空飛行だったんだからよ、もっと気合い入れてやってくれ、な」とケツを叩かれているうちにゾロと帰りの時間が重なった。

「明るいな。誰かいんのか」

ゾロも驚いたらしく、眠たげなあくびをさらしながらまっすぐ階段へと向かう。風呂も入らず寝る気らしい。2階の明かりは消えていた。
ゾロと別れてリビングの扉を開ける。

「あ、おかえりぃ」

ソファに半分寝そべったような形のナミさんが鷹揚に手を挙げる。隣に腰掛けたロビンちゃんがふわりと笑い、「お疲れ様」と言った。ふたりともワイングラスを手にしている。

「こりゃまた随分遅くまで」
「ねー、もうこんな時間か、びっくりしちゃう」

酔っているのか、ナミさんがけらけらと笑う。四肢を投げ出してソファに身を預けている。

「何かあった?」
「んーん、なんにも。久しぶりにロビンと夕食重なったから、それからずっと飲んでるの」
「サンジも飲む? まだあるのよ」

一体何本開けたのだろう。キッチンにおびただしい数の空きボトルが並んでいるのを想像し、苦笑する。

「もらおうかな」

美女が揃う空間にまじりたくて、いそいそと自分の分のグラスを取りに行く。一人がけのローソファに腰掛け、ロビンちゃんにワインを注いでもらうおれを、ナミさんがじっと見ている。

「今日は泥酔してないのね」
「なんとか」

ワインはキンと冷えていた。頭が冴える。しかし同時にぐっと喉のあたりに胃から酒臭い息がこみ上げるのをなんとか飲み下す。

「サンジくんって仕事中どんな感じなの」

興味があるのかないのか、おれの方を見もせずグラスの中身をしげしげと確かめながらナミさんが尋ねた。

「さあ、変わんねぇと思うけどなぁ。紳士で通ってるよ」

「でしょうね」と言うナミさんとロビンちゃんの声が重なった。二人は姉妹のように顔を見合わせ、くすくすと笑う。

「やさしー顔で笑って、甘い声で嬉しいこと言ったりしてるんでしょ」
「それよりサンジはきっと聞き上手だから、根気よく話を聞いてくれそう」

はは、と明らかな愛想笑いのおれを意にも介さず、二人は好きなことを言い合う。
ホストクラブってどんなのかなぁ、ロビン言ったことある? ないわ、前住んでて街にはたくさんあったけど。 私もない、高いんでしょ。 普通のお店でお酒を飲むのとはわけが違うでしょうね。 ふーん、どんないいことしてくれるんだろ。 男の人がみんな、自分のことが好きなような気になるんじゃないかしら。 それって楽しいの?

あははと声を上げて二人は笑った。明るくてまじりっ気のない彼女たちの声を聞きながら、おれはまぶたが重くなる。

あ、サンジくん寝てる。おーい。 やめなさい、疲れてるのよ。 飲むって言ったのに全然飲んでないわね。 仕事で飲んで帰ってきたんだもの。

そっとグラスが取り上げられたとき、顔を上げたがナミさんもロビンちゃんもおれを見てはいなかった。気のせいか、と思いグラスを持っていた手もだらりと下がる。

いっつもサンジくんすごいテイで帰ってくるのよ。でろでろに酔って、死にそうな感じであそこで水飲んでる。 まぁ。 なんかちょっとかわいいなーって思うのよね。 かわいいの?死にそうなんでしょ? うん、死にそう。でもなんか必死に帰ってきた感じが。 それ、サンジに言ったの? え、ううん、別に言ってないけど。

船を漕いでいた頭を自分の手で支える。まどろむというより、もう体のほとんどが眠気に浸っていて身動きが取れない。だからなんとか口と、舌だけを動かした。

「必死で帰ってきてんだよ」

二人の会話が止まった。笑いを噛み殺すような、こちらを伺う気配を感じる。

「なあに、サンジくん」

いつもより甘やかな声でナミさんが尋ねた。

「──会いたくて、ナミさん、寝る前に」
「うん」
「だから、帰ってきてんの」

ろれつが回っているのか、果たして言いたいことを言えているのかすらわからなかった。猛烈な眠気に思考を引きずり込まれながら、なんとか言う。

「おれを待って、起きて、たらいいのに」

そこでぷつりと途切れた。
気づいたら朝で、ぎしぎしとこわばった体を無理矢理に起こす。体には薄い毛布がかけられていた。キッチンはきれいに片付き、3つのグラスが洗ってすっきり乾いていた。しかしやっぱりゴミ箱付近の床には10本近いワインの空瓶が並んでいて、夢じゃなかったかと思った。

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