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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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終始どうでもいいかんじです。


実家にしばいぬがいるんですけどね。
私が2歳の時から犬のいる生活が普通で
、一人暮らしした時期もありつつまた一緒に暮らしたりして、今は私が実家出てるので帰ってきたときに会う程度。

しかしどうやら私犬アレルギーかもしれない。
というのも、近頃帰省するたびに顔が猛烈に痒いのだ。
あごのラインが痒くなり、むしゃむしゃかいてるうちに赤くなって、次第にまぶたも腫れてきて二重の目はボーーンと一重になる。普通のすっとした一重じゃなくて、キレのない一重に。
そんで痒い。
アーーーーーー明日免許の更新なのでこの先三年免許証一重になるーーー


少しTwitter離れることにしようと思って、すごい久しぶりにブログなんて書きぬる。
書きたい話や妄想は山ほどあってウンウン悶えるのだけど、それよりやらなあかんことがあるでしょうと自分のケツを叩かないといけなくて。
誰も叩いてくれないし…みんな優しいから…
そんな状態でTwitter開くと、わんわん素敵な二次の産物がとめどなく流れてきて、なんかすーーごい羨ましくて心が塞いだ。
なんで、なんで拝見するたびに幸せな気持ちになれたものたちだったのに、私がやらないでおこうと決めただけで途端に手のひら返して見えるんだろう。
え、私、もしかして自分が書いてるのを見て見てって自己顕示欲満たしてからじゃないと人のもの楽しめないやつだったんだ、さいあくだ、さいていだ。
私が最低なことはまあいいとして、普通に今までみたいに気軽な気持ちでつぶやきたいこと日常のことつぶやけばいいじゃんって思ったけどでてくることでてくること、結果「つらい」とか「しんどい」とか要するに疲れたみたいなため息ばっかりで、ンなもん寒いし夜が長いこの時期みんなつらいししんどいわーーー!!!
構って欲しい気持ちがありながら私のこと考えてもらうの申し訳ないみたいな意味不な謝罪が頭をよぎり、構ってもらえたらもらえたでそれに反応返すの億劫だ、みたいなこれまたさいていな思いもよぎり、結局黙ってて何も見ないのが一番私にとって平和であるのだなーと思った。
あこれ現実の人間関係だったら精神状態まずいやつだなってなんとなくわかるけどSNS上の話なんだよな、なにを真面目に悩んでるんだろう。
いつからこんな体に染み込んじゃったのかなーとそら恐ろしい気持ちになる。

でも、息がつまらない程度に書いたりもしたいな。
来年の8月9月くらいに本が出せたらなあ。
特に出したいのが【午後のプリマたち】ってサンナミゾロビンペルビビウソカヤの女の子たちが……ってこの記事はまた別にしよう。
こそこそブログ更新だけしてこうかなーと思うのでよかったらこんな暗い内容に懲りずに遊びにきてください。
おはなしもあげたい。

ジャンプは衝撃のあのシーンまで見てたけどそれから見てない。
衝撃のシーン多すぎてどのシーンか特定つかないやつ。
どうなってるのかなあと思いつつ、やっぱりワンピはコミック派がいいかなー。
お友達に会ったりしてお話しするならジャンプ読んでおきたいんだけどなっ。
毎週ジャンプ買えるセレブリティになりたい。






拍手[7回]

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ランプが大きく揺れていた。船乗りでも酔ってしまいそうな夜だった。
空っぽの酒瓶が床の上をごろごろ音を立てて転がった。
サンジ君がそれをつま先で止めて、器用に足でまっすぐ立たせた。

「ナミさん湯冷めしちまうよ」
「うん」
「髪もちゃんと乾かさねェと」
「喉乾いた」
「ハイハイ」

サンジ君は肩をすくめて、カウンターの内側へと戻って行く。
キッチン台の上のランプだけが部屋の中を淡い色に照らしだして、その輪の外は沈み込むみたいに暗い。
床の上にひとり立たされた緑色の酒瓶と私は、睨み合うように向かい合う。
キッチンの扉に背中を付けて目を閉じると、船の揺れに合わせて体がぐらぐらと傾いた。

「昼間出したドリンクのシロップが残ってんだけど」
「それでいい」

カラカラとステアの音が彼の手元からこぼれて聞こえた。
できたよ、とサンジ君が背中を向けたまま私を呼ぶ。
今まさに再び倒れようとしている酒瓶を掴んで、通り過ぎざまに部屋の隅の空瓶入れに放り込む。
カウンターには細長いグラスに注いだシャンパン色のドリンクが置いてあって、そこだけ地上にいるみたいに不思議と揺れずに静かだった。
私が椅子を引いてスツールに腰かけると、サンジ君は大きなアルミ鍋にぱらぱらと何かを振り入れて、大きくかき混ぜた。
その腕が動くのに合わせて、エプロンの紐が腰の辺りで跳ねている。

不意に、耳元の髪から雫が落ちて肩にぶつかった。ひやりと寒気が走って鳥肌が立つ。
キャミソールの生地に水分が吸い込まれていった。

「さむ……」
「ほら、ちゃんと髪乾かさねェから」
「サンジ君が乾かして」

鍋をかき混ぜる手が、しばらく惰性で弧を描いて、そして止まった。

「サンジ君が乾かして」
「無理だよ」
「なんで、無理じゃない」
「おれ意外と完璧主義なんだよ」

どういうこと、と目を細くする。サンジ君は振り向かないまま言葉をつなぐ。

「髪乾かしたら梳いでやりたくなるし、それが終わったらベッドまで運んでやりたくなる。眠るまでそこに居てやりたくなるし、なんなら手も繋いでやりたい」
「それだけ?」
「それ以上はとても」

おどけるように肩をすくめて、「な」とサンジ君は肩越しに笑った。

「ここじゃどれもしてやれねェから、下手に手ェだせねーよ」
「ふーん」

意味もなくマドラーをからからと回す。
サンジ君はまた鍋に向き直って、くるりと一つかき混ぜるとお玉を持ち上げてカンと鍋の縁にぶつけた。

「冷めきっちまう前に早く布団入ったほうがいいぜ」
「あんたは」
「おれももう寝る。今日は店じまいだ」

空になったグラスを持って、私も席を立った。
カウンターを回ってキッチンの内側に入り、彼の背後に忍び立つ。
振り返ったサンジ君が穏やかに笑って私に手を差し出すので、その手にグラスを握らせた。

「ごちそうさま」
「お粗末さん」

おやすみ、と言いながら彼の口元に手を伸ばす。
火のついた煙草をつまみとると、サンジ君はそれを待っていたみたいに「おやすみ」と口にした。
唇が重なり、少し舌に触れた。
煙草と、その向こう側で深いソースの味がする。

お玉とグラスで手の塞がった彼に代わって、また煙草を口に戻してあげた。
「ごちそうさま」と彼が言う。

「──完璧にはほど遠いんじゃない?」
「そうかも。ナミさんのせいだ」

少し笑って後ずさると、彼も笑って後ろ手にエプロンの紐をほどいた。
待ってる、と聞こえない声で囁くと、すぐに行く、と彼の口が動く。
ランプと足元がゆらゆらと揺れて、冷めた身体が茹だるようだった。


拍手[20回]

*Twitterで、#この絵にお話を付けてくださいというタグのお遊びで、
栗様のサンナミイラストにお話をつけさせていただきました!
イラストはお手数ですがタグを遡っていただければ……
Twitter利用されてない方はズビバゼン














みつけちゃった、と彼女は呟いた。

「ん、え、なに?」
「みつけちゃったの」

少し目を伏せてナミさんは言う。
不意に近づいて来たなめらかな頬とつややかな唇に目を奪われて、聞き返したのに頭に入ってこない。
ちかいちかいちかい、とそんなことばかり考えてしまう。

「ナミさ」
「ね、内緒にしてあげるから」

神妙な顔で、ナミさんはますます顔を近づけてくる。
襟ぐりの広いTシャツのよれた襟元が目に入る。そこから覗く鎖骨。白く、おれと彼女で影を落としている。
掴んで噛みつきたくなる。

「な、内緒……?」
「うん、だから」

いつのまにか腰元に彼女の手が回っている。
お尻を撫でるように触られて、首の後ろあたりから頭頂部に向かってカッと熱くなる。
応えるように彼女の腰に恐る恐る手を回すと、初めて彼女は微笑んだ。
ふっと気が遠くなりかけて、気を持ち直したところでさっと背後で彼女の手が動いた。

「こっちはもらうわね」

するっとケツのポケットから何かが出ていく。
スコスコと軽くなり、あれっと思ったときには目の前に財布があった。
おれのだ。

「冷蔵庫の野菜室の蓋の裏、封筒でへそくり、貼ってあるのは私たちだけの秘密にしてあげる」
「あ」
「代わりに、ね」

ナミさんはおれの目の前で財布の口を開け、中を確かめ「わあ」と目を輝かせた。
嬉しそうにんふふ、と笑うのでおれまでんふふと笑いそうになる。
が、ごそっと彼女の指先につままれた数枚の紙幣を確かめて、ひやりと冷静になった。

「んナミさん、それは」
「なによ、冷蔵庫の中のもらってもいいの?」

う、と言葉をつまらせた隙に、ずいぶん薄くなった財布が無造作にケツのポケットに戻された。
ポケットに突っ込まれた指先がケツを離れていく感触が名残惜しく、その手首を思わず掴んだ。
ぎょ、と目を丸めた彼女がなによと口先を尖らせる。

「返さないわよ」

いーよ、と答えて目の前の唇に唇を寄せた。
ひ、とでも言うように一緒引かれたけれど間髪入れずに押し付ける。

唇が離れた隙にずいぶん高くついたものね、と聴こえたが聴こえないふりをした。

拍手[29回]

カリカチュアの朝1/2/昼1//夕暮れ(R-18)



とんでもなく暗い穴の底にいて、地面はしんしんと冷たく、触れるとざらりとしている。
黒いワンピースの裾は暗闇に同化して地面と布の境目がわからなくなっていて、身体も一緒に闇に溶けていくみたいに感じられた。
ひどく静かで、そのくせ羽虫が飛び回るような細かい雑音が頭の奥でずっと鳴り響いている。
耳を塞ごうと手を上げたら、上げた手の甲がなにかにぶつかり、ハッと目が覚めた。

んが、と大きく鼻を鳴らす音がすぐそばで聞こえた。
両手を広げて大の字に寝転がるゾロの右わきに収まるように、いつのまにか寝入っていたらしい。
どんな夢だかもう思い出せもしないけれど、寝ながら動かした手がゾロの脇腹に当たったのだ。それでもゾロが目を覚ます気配はない。
身体を起こす。
二人を横切るようにシーツの上掛けがしわくちゃになったまま身体にかかっていた。
ふるりと肩が震えて、効きすぎた冷房が部屋をキンキンに冷やしているのに気付く。手を咲かして冷房を止め、ベッドの上から窓の外に目を遣ると外はまだ薄明るかった。

「ゾロ」

起きないで、と思いながら名前を呼んでみる。案の定彼は目を覚まさない。
そっと身体を折りたたむようにして彼の胸に頭を置いた。
深く大きい呼吸で胸がゆっくりと上下し、片耳を胸につけて心音を聴きながら目を閉じるとまるで船の上にいるようだった。

ふと頭に重みがかかり、彼の胸が大きく震えて同時に低い唸り声が下から響いた。
私の頭を掠め、髪を梳きながら離れていった手はそのまま彼の頭上に伸びていって、ゾロは今度は「ぐおお」と言いながら伸びをする。

「今何時だ」
「さあ」
「ここぁどこだった」
「さあ、どこかの宿場ね」
「んだ、なんにもわかんねぇじゃねぇか」

そうなの、とつい笑いがこぼれる。何笑ってやがる、とどやされるが笑いは止まらない。
ゾロがむくりと身体を起こすと、私の身体も一緒に持ち上がった。

「寒ィな」
「今空調を止めたわ」
「服、どこだった」
「まだ乾いてないんじゃないかしら」

ふーん、と興味がないように頭を掻いて、くわぁとあくびをひとつする。そして急に私の上体を引き寄せて、ゾロはまたベッドに倒れ込んだ。
どん、と彼の上に乗り上げるように寝転がってしまう。

「んじゃ乾くまで寝てるか」
「だめよ、帰らなきゃ」
「着るもんがねェ」
「買ってくるわ」
「何着て買いに行くんだよ」

少し考え、それもそうねと私も諦める。だろ、とゾロも頷く。
真新しいとは言いにくいけれど、少なくとも清潔ではあるだろうベッドの上で、私たちは目を合わせ、口づけた。
ゾロは唇を合わせる少し前に、真一文に引き結んだ口を少し開く。
私の両唇を挟むみたいに、閉じ込めるみたいに口づける。
どういう意味があるの、と聞きたくて、私はずっと聞けないでいる。
私たちの口づけには一体どういう意味があるの。

ぐるるる、と深いところから忍び寄ってくるみたいな音で、ゾロのお腹が低く鳴った。
決まり悪そうにゾロが一言「腹減った」と呟く。
でこぼこに割れた彼の腹筋に手を添えて、「私も」と言った。

「なおさら帰らなきゃね」
「あーめんどくせぇ」

子どものようにごねて眉間にしわを寄せる彼を眺めていたら、このままどれだけでも時間をつぶせてしまう。
名残惜しい気持ちを振り払って身体を起こし、彼の身体からシーツをはがして自分の身体に巻きつけた。
風呂場へ向かうと、干した服や下着がまだ水を滴らせている。
「困ったわね」とひとりつぶやき、また部屋へ戻る。
ゾロはベッドの上から手を伸ばしてカーテンを少しずらし、窓の外を見下ろしていた。

「おい、あれ」

彼が指さす窓の下を私も近寄って見下ろす。通りの端で、派手なミニドレスの女と恰幅の良い男が、互いにしなだれかかるみたいにして腕を組んでいた。
買い物帰りだろうか、男は腕にいくつもの紙袋を提げていて、まだ日も明るいのに酔った足取りで宿を物色して歩いていた。
ゾロが彼らを指差した真意に思い当り「悪い人ね」と呟くが、私も既にそれしか方法はないと思っている。
「もらっちまうか、あれ」とゾロが言い、「やってみるわ」と私が答える。
千鳥足の女の足元に手を生やし、彼女の足首をそっと掴んだ。
驚いた女がつまずき、転びかけたところを男が咄嗟に手を伸ばして支える。しかし男の方も酔っているようであり反射神経もよさそうには見えない。女は掴まれた腕だけ残してずるりと膝をつき、男も引っ張られるように身体を傾けた。そして音はここまで届かないが、おそらくガサガサと紙袋が鳴って、男は二つ三つ、袋を地面に落とした。
なにか言葉を交わす男女の背中側で、私の手は紙袋を二つ持ち上げて、彼らの死角となる路地裏までそっと運んでいく。
男が減った紙袋の数に気付かずそのまま持ち上げてまた歩いていくまで、息を詰めて見守った。

「やるじゃねぇか」

ゾロはベッドから腰を上げると、風呂場の棚に畳んでおいてあったローブを羽織った。
「取って来る」と言い、部屋を出ていく。
窓の外を見ていると、しばらくしてゾロが出て来て、通りにぽつんと残された袋を手に取った。
そしてこちらの部屋の方を見上げ、どういう意味か「よう」とでもいうように手を上げてみせる。
私もカーテンの隙間から彼を見下ろし、少し手を振った。
そのあまりの平和さに、涙が出そうだった。

カップルから拝借した紙袋の中身は全て女物だったが、幸いなことに紙袋のひとつは下着で、私の上下が一式揃った。腰の部分とスカートの裾にフリルのついた水色のワンピースはあまりに滑稽な気がしたが、文句は言えない。
サイズが合わずに胸元がいっぱいいっぱいなのを、ワンピースと一緒に入っていた白のジャケットを羽織ることで隠した。

「適当に買ってすぐに戻るわ」
「おう、わりーな」
「あなたがこれを着て買いに行くわけにはいかないもの」
「脚は。いいのか」

忘れていた、と自分の足首を見下ろす。
水に濡れても剥がれてこないテーピングはしっかりと巻き付いたままで、私の足首も痛みを忘れて平気な顔をしている。

「平気。だいぶ楽になったみたいだし、そんなに遠くへは行かないから」

それに彼が買いに行ってまたここに帰ってこられるとは考えにくかった。
でも皆まで言わず、ベッドにぽつねんと座る彼を残して部屋を出る。
この服の元々の持ち主に見つかるわけにはいかないので、宿の建物を出るときには慎重に辺りを見渡した。
日はすでに傾き遠くの建物の裏側へ落ちて行こうとしていて、あたりは薄暗い。
歓楽街で一人は目立つ。半ば小走りで走り抜け、あかりの灯ったネオンのアーチをくぐって服屋のありそうな通りの方へと急いだ。


細い路地を1つ2つ曲がったところで、ハッと足が止まる。
メインストリートはまだ先だが、その通りと平行に走るここも、昼間と景色が一変していた。
店先や家々の玄関口に飾られていたオレンジ色の花が明るく光っている。
昼間に吸い込んだ白い光を放出しているみたいに、惜しげなく花が光っているのだ。
それらがランタンのように通りを照らし、祭りの衣装を着た島民たちが踊るように手を繋いで通りを歩いている。
マンドリンの震えるような低い弦の響きは昼間の軽快さとは打って変わって、酔っ払いの歌声に負けない強さでジャカジャカとかき鳴らされる。
無秩序なようでいて確かに音楽となったその音が、人々の話し声や笑い声とからまりあいながら、島中に満ちていた。

思わず立ち尽くし、上を見上げ、紺色と鈍い青色が混じる夜の入り口みたいな空を確かめる。
塩気の強い食べ物の香りがあちこちから漂い、乾杯のグラスがぶつかる音もまたあちこちから聞こえた。
目移りするように左右を見渡して、通りを過ぎる人の波にもぐりこむ。
客引きさえも酔っ払ったような赤い顔で、一人歩きの私を呼び込もうとする。それらをかわして道の両端をかわるがわる見ながら歩いていたら、ショーウィンドウ越しにマネキンの姿が見えて、その店に人波を横切って飛び込むように入った。

「いらっしゃい」

店の奥から声がして、目を凝らすとカウンターの内側に店主らしい小さな男が座っていた。
後ろを振り返って、私が立っていた場所にあっという間に人が次から次へと流れてくるのを確かめて言う。

「すごい人ね、なんのお祭り?」
「旅の人か」
「えぇ、昨日ついたの」
「ログは2日で貯まる」

知ってるわ、と答えて店の中を見渡す。
主人は私の質問に答える気は無いらしい。
どうもカジュアルな男性用の洋服が中心に扱われているらしく、ちょうど良かったと私はまずゾロの服を調達する。
Tシャツにズボン、それにつばの部分がデザインで擦り切れたキャップを1つ。

「サングラスとかはないかしら」
「ない」

肩をすくめて、今度は私の服を探す。
男性用とはいえ私の身長からサイズ感は問題ないだろうし、変装するにはそのほうが適している。
黒いTシャツと、細身のパンツ、ベルトを選んで店主の元へと持って行った。
無言で服の値札を確かめる男を前に、そうだと思いつく。

「下着はない?男性用の」

無言で壁の方を指差される。
目を向けると、ワゴンにうざむざと積まれた布切れがある。
選り分けて見てみると男性用の靴下や下着などが一緒くたになっていて、その中から一着黒い下着を選んで「これも」と差し出した。
店主は私の意向を推し量るようにしたからちらりと目を上げて、しかし何も言わずに道具を弾いて「14000ベリー」と告げた。
ゾロの分だけ袋に入れてもらい、私は試着用らしい簡易カーテンで仕切られたスペースで今買った服に着替える。
だぶついたTシャツの裾を追ってパンツに差し込み、店を出ると外の熱気はいや増しているようだった。
急いで宿に帰らないと、と来た道を辿る。

私は浮き足立っていた。
祭りの夜、鮮やかな空、子鹿みたいに飛び跳ねる軽やかな音楽。
ひととき肌を重ねたこと、ゾロの服を選んだこと、今この時もゾロが私を待っているということ。
スキップこそしなかったけれど、歩くたびに片手に下げた袋ががさがさとリズミカルに音を立てるだけで胸が弾んだ。

しあわせですこと、と口に出してみる。
ひとごとみたいに言ってみれば客観視できるんじゃないかと思った。
しあわせという語感がそれだけで私を幸福な気持ちにして、客観視だとかもはやどうでもいい。
安っぽく光るネオンのアーチを一人でくぐるおかしな女に向けられる目も気にならなかった。

だけど、宿に戻って何か言いたげな主人のいる窓口を通り過ぎて部屋へ上がったら中はもぬけの殻で、

「ゾロ?」

とただ名前を呼んだだけの私の声がいやにまぬけに響いた。

風呂場に干していた私の服も、彼の服も、買い物袋も何もかもがなくなっていて、狭い室内は暗闇に沈んで口を開けているみたいに私を待ち受けた。
一瞬、部屋を間違えたのかと思う。
けれどベッドの足元には男女から拝借した洋服の紙袋が横倒しに転がっていて、ゴミ箱には私が捨てた包帯の残骸が残っていた。
風呂場はまだ湿り気が淀んでいて、ベッドはしわくちゃのシーツが丸まっていた。

その部屋で私は二度もゾロの名前を呼んだりはしなかった。
ただ冷静に部屋の中を検分し、残した私物がないかを確認して、また部屋を出た。
一階に戻ると、小窓から投げつけるように「会計は終わってるよ」と告げられる。
返事もせずに宿を出た。

とっぷりと暮れた歓楽街は、祭りの通りとは少し毛色の違う賑やかさで明るく足元が照らされていて、行き過ぎる人はどれも火照った顔をてからせて笑っていた。
「おねーさんおねーさんひとり? うちね、あのね男の人にお酒作る女の人探してて」と執拗に後をつけてくるスーツの男を三本の手で捻り上げて、歓楽街を抜ける。

がらんどうの部屋を見た時、私が一番に思ったのは、やっぱりね、だった。

やっぱりね、うそだった。
朝頬張ったクロワッサンも、足元にまとわりついた猫も、おぶわれたときに触れた冷たいピアスの感触も、二本も空けたワインの瓶も。
一瞬繋いだ手の温度も、足の痛みも、倒れ込んだ生ゴミの悪臭さえ、やっぱりなにひとつ私のものではなかった。
どこか上空で誰かが私を笑って見ていて、いつでも簡単に捕まえてしまえるんだぞと私の人生そのものを掌の上に乗せている。
後ろの襟首から冷たい手を差し込まれて背中を撫でられる、走って逃げる私の後ろ髪を掴もうと手が掠める。
私の後ろ暗さを物語る妄想が次々と思いつき、自分でも笑ってしまう。

本当はわかっている。
このまままっすぐいけば大通りに出て、西に向かえば入り江の影にサニー号が停泊している。
船には何人かの仲間がいて、戻った私に笑って「おかえり」と声をかけてくれる。
ごはんはたべたか、買い物はできたか、街はどうだったか、矢継ぎ早に質問されて、私は席につきながら笑ってひとつ1つの質問に答えるのだ。
でもゾロは、けして私に話しかけたりはしない。
そこにいてもいなくても、私の方を見もせずに、黙って酒瓶を傾ける。
ただ転がり落ちるみたいにまっさかさまだった私の恋というやつだけが、静かに、彼に向けて熱を発し続けている。

どん、と肩に人がぶつかった。
夜目でもはっきり赤とわかる鮮やかなドレスを着た女性が、明るい声で「ごめんなさい!」と笑いかけ、くるりと回ってまた踊るように音楽と人の波に乗って消えていく。
彼女を黙って見送って、私はまた船に向かって歩き出す。
明るい光を放つオレンジ色の花は小さな花びらを人いきれに震わせて、そのたびに町全体の灯りが幻想的に揺らめいた。

また、どんと肩に人がぶつかる。
ごめんなさい、というあの明るい声が耳によみがえるよりも早く、手首を掴まれた。

「おい、テメェどこ行きやがる」

ゾロは息を切らしていた。
右手には半透明のビニール袋を提げていて、中にいろんな布切れが押し込まれている。私の服だった。
左手には大きな紙袋があり、少し覗き込めばクリーニングに出した衣類とカーテンだとわかる。
それらをひとつひとつ確かめてから、顔を上げて彼の顔を見た。

「ゾ」
「ひとりでふらふらすんな、探しきれねーだろうが」
「だってあなた」
「お前が出てってすぐ、通りを海軍が走ってった。お前を付けてくのかと思って」
「それで宿を出たの?」

いや、と彼は短く答える。
今度は彼の背後を通った人がその背にぶつかり、ゾロの身体が少しだけこちらに傾く。
人の流れの多いこの場所でたたずむ私たちは明らかに邪魔だった。
けれどそのまま根が生えたように私たちは立ち止まり、動こうとしない。

「んなことで心配がいるほどのタマじゃねぇだろ」
「じゃあなぜ」
「脚、怪我してたろうが」

私と彼の視線が同時に足元に向く。
もはや痛みも熱さも感じないそこを見下ろして、また顔を上げると彼と目があった。

「だから」
「だから?」

口を開いた彼が何かを言い澱み、また閉じて、目をそらす。
たまらずその首に腕を伸ばして抱き着いた。
うお、と小さな声をあげたものの彼はよろめきをせず私を抱きとめる。
代わりにクリーニングの紙袋が地面に落ちた。

ゾロの服は濡れていた。
濡れていたのに、そのまま着たのだ。
そして慌てて部屋を飛び出し、私の後を追った。
私の服をそのままにせず、きちんと持って出て。
だけれど自力で私を見つけ出せるはずもなく、代わりにクリーニング屋だけは見つけて、律儀に荷物を回収し、また私を探して祭りに浮き立つ夜道をひとりで歩く。

やっぱり、本当だった、なにもかも。
誰も私のことを笑ったりはしない。
だってこんなにも好きなんだもの。
必死で生きてる恋なんだもの。
抱きしめたら抱きしめた分だけ、強い力が返ってくるんだもの。

「ゾロ、私今日とても楽しくて」
「ん、あぁ」

要領の得ない声でゾロが相槌を打つ。
「あなたもそうだったらいいのだけど」と彼の肩に顔を押し付けくぐもった声で言う。
ゾロはぽんとひとつ私の背を叩き、

「そりゃよかったな」

とちいさく答えた。

拍手[26回]

書きかけの手帳から顔を上げる。通りに面したガラス張りの窓の外側で、サンジ君がガラスをコツコツ叩いて私に手を上げてみせる。
乾いた冷たい風のせいで、鼻の頭が少し赤い。
子どもみたいなその様子に少し笑って、「すぐ出るわ」と口を動かした。
カフェを出ると、出入口すぐのところで彼が即座に手を合わせた。

「ごめん、ほんとごめんな」
「30分も待ったんですけど」

ごめんごめんと繰り返し、サンジ君は大げさに手を合わせて拝んで見せる。
コートの内側から覗くシャツの襟はよれていて、この寒いのにボタンもふたつ空いている。
急いだのだろう、と思ったが許さないでおく。
彼が来た今もはやどうでもよかったのだけど、なんとなく怒ったふりをして「早く行きましょ」と彼より先に歩き出した。

今日は仲間内での飲み会で、ウソップが指定した会場は駅のすぐそこだ。
サンジ君以外は皆大学を卒業したばかりで、あたふたと新生活を送っていたところ季節が巡り寒くなってきた今、ようやく生活も落ち着いてきた。ならば久しぶりに会うかといって、サンジ君がディナーのない月曜日に予定を合わせたのだ。
サンジ君はついさっき仕事を切り上げてきたところで、疲れているはずなのにそんなそぶりは一切見せず、るんるんと跳ねるように私の隣を歩いた。
飲み会の前に、彼の買い物に付き合うことになっていた。

「んナーミさーん。怒ってる?」
「うん」
「えぇー。じゃあはいこれ」

突然手を突き出され、思わずこちらも受け取るように手を出した。
紺色の手袋をはめた手の上に、コロンとピンク色のセロハンで包まれたキャンディーが転がされる。

「なにこれ。飴?」
「ううん。ラムネ」
「こんなので機嫌とろうっての」
「あ、やっぱだめだった?」

全然ダメ、と吐き捨てて、ラムネはコートのポケットにしまった。ころんと音もなく転がる。
サンジ君は少し肩をすくめて、でもたいして気に留めたふうもなくまたるんるんとした足取りで隣を歩く。

「店出てすぐのところで配ってた。なんかのキャンペーンだって」
「ふうん」
「ラムネ嫌い?」
「ううん」
「そっかよかった」

サンジ君は声を出さずにひひ、と笑って、「買い物つきあわせてごめんなー」と今度は別の理由で謝った。

「ううん。ごはんおごってくれるって言うし。買い物くらいいいわよ」
「おごるおごる。何がいい? 寿司? イタリアン? 中華?」
「えっ今日の飲み会おごってくれるんじゃないの」
「それでもいいけど……うんやっぱ別の機会におごるからさ。そしたらデートできるだろ」
「はあ」

彼のあくなき執念に呆れつつ、「じゃあ高いの考えとく」と呟く。サンジ君は「わーい」と無邪気を装って声をあげた。
通り沿いに植えられた木々からからからと色づいた葉が落ちて、足元に引っ掛かりながら風で流れていく。
それらを目で追っていたら、「おなかすいたなぁ」と無意識に口からこぼれた。

「えっまじ? なんか食う?」
「いや今から飲み会なんだからいいわよ。もうあと1時間くらいだし」
「え、でも腹減ってんだよな」
「うんでもいいってば」

過剰に反応するサンジ君に少し戸惑い、こちらも声が高くなる。
サンジ君は考えるように視線を横に滑らせると、「じゃあさ」と言った。

「おれも小腹すいたからさ、コンビニでなんか買おうぜ。肉まんとか」
「あ、肉まんいいかも」
「あんまんでもいいけど」
「あんまんはどうかな」
「ピザまんは?」
「アリだわ」
「おれピザまんあんま好きじゃねーんだよ」

そうなの、と答えると彼は神妙な顔つきでうんと言う。

「ケチャップの酸味とあの小麦の生地がミスマッチな気がするんだよなー。具もすくねぇし。チーズの主張が強すぎるし」
「肉まんの方が具は少ないじゃない」
「肉まんはもうそういうもんだろ。でもピザってさ、いろいろ乗ってる方がたのしーじゃん」

なにそれ、と吹き出す。子供みたいな言い分につい笑ってしまった。

「どのコンビニにする? このへん多いよな」

サンジ君はうきうきと辺りを見渡す。確かにこの通り沿いは、あっちにもこっちにもと言う具合でいくつかのコンビニが乱立している。
あそこのは前食ったら微妙だった、とサンジ君がそのうち一つを指差した。

「ふうん。ていうかあんた肉まんとか食べるんだ」
「食べるよそりゃあ」
「毎日フレンチやってるのに?」
「毎日作ってるけど毎日食ってるわけじゃねぇもん。そりゃ味見はするけど」
「こう、舌が鈍ったりしないの? ジャンクなもの食べると」
「さあー。あんま考えてねぇけど。肉まん旨いじゃん」

そうね、と答えて結局私たちは一番近くのコンビニに入った。レジに直行し、3段の保温機の中を覗き込む。
肉まんはあと一つ。中華まんというのがあった。
二人で腰を曲げて中を覗き、「どうする」「どうする」と言い合った末、肉まんと中華まんをひとつずつ買う。サンジ君が買ってくれた。
外に出ると、思いの外もう空は暗い。
そんなに長く中にいたわけではないのでたいして変わっていないはずなのに、コンビニの光に照らされると夜はずっと深くなる。
時間はまだ18時過ぎで、でももう真っ暗だ。

店を出てすぐのところでサンジ君は袋から中を取り出し、一つ私に手渡した。

「それどっち?」
「えーと、中華まん」
「半分こしようか」

うん、と言って中華まんを二つに割ろうとするのだけど、あまりの熱さにすぐ指を離してしまった。
「熱い!」と叫ぶと彼が笑いながら「貸して」と手を差し出してくる。
手渡すと、サンジ君はなんでもないように中華まんを上手に二つに割った。

「はい」
「ありがと。熱くないの?」
「慣れてる慣れてる」

ふーんと言って、かぶりついた。
しゃきしゃきと野菜が口の中で音を立てる。

「あ、おいしい」
「なんか八宝菜の具材を刻んで入れたみたいな感じだな」

温かい温度がすとんすとんと体の中に落ちていく。じわっと温まる。
わけっこした半分はあっという間になくなって、サンジ君は袋に入ったもう一つをとりだして、また上手に半分に割った。

「あーやっぱこっちの方がうめぇ」
「うん、私もこっちの方が好き」
「なー」

白い湯気が私たちをへだてるようにもうもうと立ちのぼり、すぐ目の前にいる彼の顔が白く煙って見えなくなった。
このまま霞んで消えてしまいそう。

「あんたここ、ちゃんと閉めないと」

ずっと思っていた。今日彼が来たときから。冷たい風が私たちの間を通り過ぎるたびに、襟元が寒そうだと。
上からふたつ開いたボタンに手を伸ばし、閉めてあげるつもりもなかったのに開いた襟に触れた。
つるりと磨かれた陶器みたいに彼の鎖骨はなめらかで、その上を指がすべった。
サンジ君がわずかに身を引いて、空いている方の手で私の手首を掴む。
掴まれて、おっと、と思う。
なんてところに触れてしまったんだろう。

「──ナミさん」

引こうとした手を強く引きもどされる。硬い鎖骨の感触がまだ指に残っている。
それぞれ半分に割った肉まんを片手に、私たちは宙で手を引きあって見つめ合う。
離して、という言葉がどうしても出てこない。








「送るよ」と言ったらナミさんは「別にいい」と用意していたみたいに即座に言った。

「ま、って言われても付いてくんだけどねー」
「じゃあなんで訊いたの」
「社交辞令」

意味もなくふわふわと笑い声が飛び出す。たいして面白くもなくても、なんとかしてナミさんを笑わせたいという思いが先走ってそれがたとえ空回りしていたとしても自分だけで笑ってしまう。
アルコールに侵された脳がせめてもの抵抗とばかりにテンションを無駄にぶち上げてくる。
さ、こっちですよ、と彼女の家路を示すように頭を下げて行先を指し示したが、酔わない彼女は覚めた顔で「なんでもいいけど」と歩き出した。
背中側で、「気ィつけてなー」「またなー!」と仲間たちが手を振って声をかけてくる。
うるせぇせっかくの彼女との時間を邪魔すんな、と悪態づきながら酔った口では舌が回らず背中越しに手を上げて答えるにとどめた。
ナミさんは鞄を持った手を行きより大きく振って、ヒールの高さをものともせず大きな歩幅でどんどん歩いて行った。
酔ってるんだろうかとその顔を覗き込むが顔色一つ変わらないままで、よくわからない。
「サンジ君、顔赤い」と逆に言われてしまった。

「飲みすぎなんじゃない?」
「そでもねーよ。すぐ赤くなんだよなー」
「仕事終わりで疲れてんじゃない」

そうかな、と言って疲れ具合を確かめるみたいに肩を上下に揺らしてみる。ぽきぽきと音は鳴ったがナミさんが隣を歩いているだけで疲労の感度などもはやメーターが振り切れたみたいに機能しないのでよくわからない。
ナミさんはおれをちらりと見上げ、「明日は?」と控えめな声で尋ねた。

「明日はディナーから。いつも通りさ」
「じゃあちょっとはゆっくり寝られるのね」
「まあね。昼過ぎにゃ出勤だけど」
「服なんて買ったって、着てる暇ないじゃない」

ナミさんはおれが片手に提げた紙袋に目を落とす。薄茶色に緑のロゴが入ったアパレルの紙袋には、真新しいシャツとカーディガンが入っていた。
飲み会前に寄った店で買ったものだ。

「ん、だからおれ全然服とか買ってなくて。久しぶりに買いもんした」
「ふうん、お金溜まりそう」

何気ない彼女の呟きに妙に力がこもっている。笑ってごまかして、「ナミさんとのデートのときに着ようと思って」と言ってみたが我ながら軽く聞こえてしまったと思った。
実際彼女は真に受けた様子もなく「ふうん」と聞き流している。

「で、デート、いつにする?」
「え、いつ? なにそれ」
「だってメシ、おごるっつったじゃん」
「あそうだった。お刺身食べたいな。高いやつ。うにとかそういうの」
「おーいいねいいね。どこでもいっちゃう」
「本当に奢ってくれるの? そんなお金」
「や、大丈夫大丈夫。ナミさんとのデートぐらいしか使い道ねェもん」

うそばっかり、と彼女がくすくす笑うので「本当だって」とかっこ悪く言葉を重ねた。
ナミさんはなぜかおれが遊んでばかりのろくでもない男だという設定を勝手に掲げていて、おれはいつも「ちがうってちがうって」とその設定からうまく抜け出せないまま足掻いている。

「本当。上手い寿司屋知ってんだ。今度一緒に行こう、な、来週の月曜の夜は?」
「空いてるけど、たぶん」
「んじゃその日な。予約しとく」

ナミさんは少し考えるみたいに口を閉ざして、諦めるみたいに「わかった」と小さく答えた。
もっと嬉しそうにしてくれよ、とおれは焦って言葉を繋ぐ。

「仕事忙しい? ごめんな月曜で、ナミさんは一週間始まったばっかりなのに」
「ん、別に」
「寿司ってそういやおれも久しぶりだわ。光りもんくいてー。おれ昔から安いもんばっか好きで」

ナミさんはおれの話を聞いてやしないのか、前を向いているのにどこかおれの知らない場所を見ているようで怖かった。
街灯の光が彼女の目に照らし出されて頬を白く光らせている。
あと街灯を5つ6つ過ごしたら彼女の家だ。

「ナミさんさぁ」
「んー?」
「おれのこと好き?」

わかりやすく呆れた顔を作って、ナミさんは首をひねりおれを見上げた。
ばかじゃないの、とその目が言っている。
や、ちがくて、と何がちがうのかおれはしどろもどろに言葉を繋げた。

「その、そうだったらいいなって」
「図々しい」

ずばりと切り捨てられて、がくんと肩が落ちた。

「その前に言うことあるんじゃないの」

おれから目を逸らしたナミさんが、どこか暗闇に向かってぽんと言葉を放つ。
一瞬間をおいて、「あ、うん」と答えたもののいや待てよそんなことおれはずっとずっと前から言い続けている、と気付いて「好きだ」と言った。
案の定、彼女は即座に「知ってる」と切り返す。

「うん……だよな」
「うん」
「でも好きなんだ」
「そ」

もう彼女のアパートの玄関口が見えている。
あと数分でこの地から足の浮いた時間が消えて遠くに流れていき、みっともなく酔っ払った一人の男が残される。
みじめだとは思わなかったが、なんとなくつまらない気持ちになった。

「挨拶で言ってるわけじゃねーんだよ」
「──挨拶だなんて思ってないけど」
「じゃあ返事をくれよ」

ナミさんが足を止める。おれも慌てて立ちどまる。
空っ風が通り過ぎ、前髪が目にかかってぎゅっと強く瞑った。

「肉まん、美味しかった」

ナミさんがぽつりと呟く。
聞き逃したわけでもないのにおれは「えっ」と声をあげた。

「来週、連絡してよね」

ナミさんがくるりと方向転換し、さっと彼女のアパートのエントランスの光に溶けていくみたいに消えてしまった。
「うん」とかろうじて返事をしたものの、彼女に聞こえていたはずはない。
尖ったヒールがかんかんと階段を登る音が遠くから聞こえていた。
やがてそれが止むと人通りのない通りにおれはひとりでたたずんで、黄色い街灯に群がる羽虫がじじっじじっと立てる音だけがやけに大きく響く。
そのままじっとそこに立っていた。

数分も立たないうちに、上方でがらっと窓のあく音がする。

「ばか、いつまで立ってんのよ」

ナミさんがベランダから身を乗り出して、こちらを覗き込む。
逆光でよく見えないまま彼女がいる方を見上げた。

「おやすみって、言い忘れたなって」

ナミさんが少し笑ったのがわかった。

「じゃあね、おやすみ」
「──おやすみナミさん」

気を付けて帰ってね、と空から降ってくる声におれはどこまでも行ける気がした。







======================
にっきさんお誕生日おめでとうございました!
「現パロ」で「幸せなサンナミ」で「両片思い」な感じのやつ、というご要望にお応えできたかなぁ。 

実は「午後のプリマたち」シリーズ【夜中の虎のフルコース】【愛って痛いの】に至る前のサンナミのつもりで書いたのでした。

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