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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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ブログ更新ごぶさたであるー。

本題から。

2016.9.4(土)、東京ビッグサイトにてGLC7(GLAND LINE CLUES 7)、
konohaさんとの合同サークル【FORESTARIN.inc】としてイベント参加します。

サークルカットはもちろんkonohaさんが素敵絵を描いてくださった!



たのしみだなぁ~。
初めてのイベント参加、イベントに行くこと自体人生で3回目?です。
こんなド素人が参加することになったのもひとえにkonohaさんが誘ってくれたからで
感謝しかないし人生何があるか分かんないわー。


少し前に新刊通頒をはじめましたが、それのあまってるぶんと
その前の既刊「おやすみザッハトルテ」を少し、
あと9・4に向けて新刊だします。たぶん。

新刊のネタをなににしよう~ってずっと考えていて、書きたい話をひとつ見つけたのだけど海賊設定で、また海賊かあ現パロも作ってみたいな~と悶々していました。
で、結局サンナミ現パロで、サイトに置いている【一緒に暮らすサンナミシリーズ】、あの設定の本を出します。
朝ごはんとか掃除とか洗濯とかチャンネル争いとか、細かいネタを乱発して好きに貪るためだけに置いてた話なので、本も一応全部繋がりはあるけども、私が考える一緒に暮らすサンナミのシーンを切り取ってべたべた貼り付けて繋げたみたいになりそう。

7月最終週までは私事で原稿まったく勧められないので、その最後の週の平日どれだけ進むかと、あと8月第一週は日本を離れるので帰ってきてから締め切りまでの追い込みが勝負だなー。
今度は表紙何にしようとか考えるのも楽しいけど、あまり時間が掛けられないからさくさくと進行しなければならない。

そういえば前回のアルペジオの表紙は、イギリスのウェストミンスターの地面の写真だったかな? とか言ったけども、ちがう、あれはバッキンガム宮殿の柵の前の石畳だったと不意に思い出した。
可愛い色の石畳が並んでいて、お気に入りのサンダルを履いてたから自分の足と一緒に撮ったんだった。
帰ってからなんでこんな写真・・・と思ったけど、こんなところで活きてくる。
いつか本で使いたい写真がいくつかあって、そのなかでもこれはすごくいい!きれい!いい!と思う一枚があるのだけどザッハトルテと色合いが被るし夜っぽいあんな感じの雰囲気になってしまうので、またああいうしっとりした話が書きたくなったら使おうと大事に引き出しにしまってある。

出したい本、って考え出すともう止まらないなあ。考えるのは時間もお金もあんまりかからないから。
本当は麦わらの一味のCPなし本とかも一度作ってみたい。
きっとサンナミのような需要は皆無なのでそれなら無料配布・・・?いやそれこそサンナミにすべきだろう、とかいろいろ考えながら、少し前からぽつぽつ書いている。
一味の一人ずつに一話の持ち分を与えて、すきにやってほしい。
かわいいなああいつらなんであんなにかわいいんだろう。
でもやっぱりサンジナミロビンウソップときどきゾロ、くらいの割合で動かしやすいのでなかなかむずかしい。

そういえばずーーーーーっと前、それこそサイト初めて1,2年くらいのときはマルコの話を書いてみたいってずっと思ってたなあ。
100年後のマルコ。
書きかけで、悩んで何度も書き直して人称代名詞を何度か直したり戻したり繰り返してあんまり進んでいないまま放置してある。
発酵してそう。
旨みが増すかな?おっさんの話だし。
いつかできたら、だれか読んでくれるかな・・・
自分だけで満足して終わりそう。それはそれでいいかな。

ふっと夜眠る前とかに、あ、マルアン、って書きたい気持ちがむくむくなるときがある。
マルアンも十分好き勝手やったから、気持ちが落ち着いちゃったなあと思ってたけどときどきこうやって萌えがやってくるのだよなあー。
あ、ちょっと小腹すいたな、そう言えばあの味懐かしい食べたい、みたいな。
でも最近は何でもかんでも注意書きが必要みたいな風潮があるから、軽々しく女体化とか置いたらまずいのかね。サイトならおっけーかな。
書きたくなったら書くけどなあ。
あと自分はいつになったらRが書けるようになるのかなあ。
平気で書けるようになったら、ぐーーんと世界が広がるような気がするんだけど。
えろは読むのも書くのも苦手なんだよなあ。好きな人の話は好きだし平気で読む(そして萌える)のだけどなあ。


流れるように告知から雑記に入ってしまった。
早く7月終わってほしい。
そして締め切りはなるべく遅く来てほしい。
でもイベントは早くやって来てほしい。
その辺をなんか上手いことやってくれませんかね、偉い人。

拍手[6回]

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一世一代の大決心だ。
心臓は喉の辺りまでせり上がり、瞳孔は開き切って夏の光がまぶしかった。

──ペル、ペル、聞いて。
──なんですか。
──あのね……もう、もう少ししゃがんで! 意地悪しないで!
──はいはいなんでしょう。

すっとしゃがみ込んだペルからふわりとサンダルウッドの香りがした。
ペルの部屋にいつも焚いてあるこれは深くて甘い。

──あのね、ペル、わたし──

言ってすぐ俯いて、しまったと思ったけど顔を上げられなかった。
だけどしまったと思ったのは俯いてしまったことだけで、一体どんな顔をして、どれだけ驚き、なんと言ってくれるのだろうと楽しみで仕方がなかった。
どきどきと胸は高鳴り心臓は飛び出しそうなのに、それはどこか緊張とはかけ離れていて、不思議な昂揚感だけが胸中をひたしていた。

──ありがとうございます。

顔を上げるとペルの顔がすぐ近くで、高い鼻が私のそれにくっついてしまうかと思ったほどだ。
ペルは切れ長の目をゆっくりと細くして、大きな口もいっぱいに広げて笑っていた。

──ビビ様、私もあなたが大好きですよ。

えっ、と思わず声に出す。
ペルは足を伸ばして立ち上がり、「そろそろ家庭教師の時間では? 先生が来てしまいますよ」と言ってさあさあと私を追いたてた。
その服の裾に追いすがりたくて手を伸ばすも、掴み損ねて中途半端に手が止まる。

──ペル、あの、
──ほら、ビビ様。イガラム様が呼んでいらっしゃる。

ポーチを抜けた玄関口で、イガラムが手を振って私を呼んでいた。
振り返ってペルを見上げてもにこりと笑うだけで、もう何も聞けなかった。
ちがうの、そうじゃなくて、と言いたかったけれど、なにが違うのか、そうじゃなければなんなのか、私にもわからなくてついに言えないままその場を立ち去った。
ぼんやりと授業を受け、お小言を聞き流し、呆れた顔で教師が帰った部屋でカルーと遊んでいたらぼろぼろと涙が止まらなくなって、その日は夕食の前まで泣いた。
その夜、腫れた目のまま浴室へ向かうところでペルとすれ違ったけれど、ペルはいつものように「ごゆっくりと」と笑って頭を下げただけだった。
そのとき、この恋はおわるのだと思った。
いつから始まったのかわからないように、いつのまにかきっと静かにおわるはずだ。
まっすぐで長い廊下をゆったりと遠ざかって行く背中を一度だけ見て、振り切るように風呂場へ駆けこんだ。

いつかおわるならそのときまで大事にしたい。
泣いてまで、惜しいと思った恋なのだから。






ひろい、でかい、信じられない、とひとしきりナミさんはひとりで騒いでいた。
ばっと手を広げて叫ぶ彼女は子どもみたいだ。

「あんたの部屋、うちのマンションワンフロアぶんくらいの広さよ!」
「郊外だから……」
「そういう問題じゃ、ない!」

いいなぁいいなぁとしきりにナミさんが言うから、気恥ずかしくて落ち着かない。
ナミさんと一緒にやってきたカヤさんとロビンさんも、物珍しげに家の中を眺めていた。
控えめにノックが響き、家のことを手伝ってもらっている女性が私の友だちのためにお茶とお菓子を持ってきたのには、彼女たちだけでなく私もすこし驚いた。
だってさっき夕食を食べ、今風呂から上がったばかりなのだ。

「お茶はともかく、こんな時間にケーキなんて」
「でも旦那様が」
「えーっうれしい、ありがとうございますいただきまーす!」

ナミさんが歯切れよく礼を言って、気をよくした彼女が部屋を出て行くとナミさんはにっこり笑顔を張り付けたまま私を振り返り、「どうなってんだか」と呟いた。
「想像以上のお嬢様ね」とロビンさんまで追い打ちをかける。
否定するほどのことでもなく我が家が仰々しいのは事実なので、諦めてケーキとお茶の乗ったワゴンをがらがらと部屋の中に引き入れた。

「そういううちが見たいってあなたたちが言ったんじゃないの」
「そうよ、そうだけど、予想以上」

ホットパンツの裾がくるりとめくれているのを指先で直しながら、ナミさんが「楽しい夜ねー」と素直な声で言う。
パジャマパーティーがしたい、とカヤさんが神妙な声で言いださなければ実現しなかった夜の集まりだ。
それならビビの家に行きたいと言い出したのは言わずもがなのナミさんで、みんな自分の寝巻を持ってうちに集まった。
友達を呼ぶわ、と言ったら張り切ったのはイガラムとうちのコックで、それなら夕食もうちで食べろ大浴場も使えと世話を焼くこと仕方なかった。
さっきまで仕事で父もペルもチャカも家を空けていたはずだけど、23時近くなって帰ってきたようだ。

「コーヒーと紅茶があるけどどっちにする?」
「わざわざふたつ淹れてくれたのかしら。お店みたいね」

私コーヒー、じゃあ私は紅茶を、と口々に言ってから、みんな自分の分は自分でカップに注いだ。
ケーキは銀のプレートに小さく切り分けて乗せられていたので、ソファで囲んだローテーブルに置いて取り皿だけ配る。

「夜更けのケーキ、最高ね」

たまらない様子でナミさんが呟くのに対し、カヤさんは背徳感で若干青ざめている。

「ビビさんの家はパティシエまでいるの?」
「まさか。父がお土産に買ってきたんじゃないかしら。あぁそういえば」
「これ」

かぶり気味に呟いたナミさんは、ケーキに落としていた視線を私に向けたかと思えばすぐに決まり悪そうに目を反らした。
あまりに可愛らしいので、つい吹き出してしまう。

「父に言ってあったの。おいしいレストランが、夜遅くまでパティスリーもやってるわって」
「……あそう」
「ここはベイクドチーズが定番人気だって言ってたわね」

ロビンさんがフォークを伸ばし、小さく切り分けた薄茶色のケーキを小皿に乗せた。

「ロビンさん食べたことあるの?」
「前にナミが買ってきてくれてそのときに」
「あら」

あらあらあらとカヤさんとふたりニヤつけば、「うるっさいなぁ」とナミさんはカップで隠すようにコーヒーを飲んだ。

「お酒じゃなくて、こういうのもいいわね」

ロビンさんが一口サイズのチーズケーキでコーヒー一杯をつなぎながら言う。
部屋は甘いにおいで満ちていて、話すみんなの口調もどこかしっとりと甘い。

「そろそろお酒も欲しくなってきた? 買ってあるわよ」

ナミさんが足元のビニール袋をがさりと持ち上げる。

「スーパーで買ってきたのと、あとノジコがなんかいいブランデーうちに置いてったから持って来ちゃった」
「ブランデーなら甘いのにも合うかも」
「ビビ、グラスある?」
「あるある」

酒好きふたりがお酒の気配を前に目に見えてそわそわし始める。
小ぶりのグラスを一応四つ手に取った。

「カヤさんも飲む?」
「あ、私きついのは」
「ビビは?」
「うーんどうしようかなー。私もお酒強くないし」
「紅茶に少し落としてもおいしいわよ」

あ、じゃあ、と言うとすかさず金色の液体がたぷんとほんの数滴私のカップに落とされた。




中庭に続く扉をバーンと開け放ち、夜風に身体を放りだすみたいな気持ちで中庭にまろびでた。
バルコニーを支える白い柱に身体を寄せるとひんやりと熱を奪われる。
真上にある部屋から、途切れ途切れにナミさんとロビンさんの声が聞こえた。
ブランデーのボトルはすっかり空になりかけているのに、彼女たちは顔色一つ変わらない。
カヤさんは日付が変わって1時間経ったところでソファのクッションに埋まって眠ってしまった。

雲が多くて蒸し暑い。
庭の植木からうぃんうぃんと得体のしれない虫が鳴いていた。
それなのにお酒の力か楽しい時間の余韻のせいか、浮足立つような気持ちがおさまらない。

「酔っちゃった……」
「随分と楽しそうで」

家の中から聞こえた声に重たい頭を動かす。
一瞬誰の姿も見えなかったけれど、暗がりの中目を凝らすと黒いスーツ姿のままペルが立っていた。

「まだ休んでなかったの?」
「なにかとすることがありまして」
「お父様に言っておくわ、ペルが過労で死んじゃう」
「ご進言ありがたいですが、それよりあなたこそこんな時間まで」

ペルが一歩進みでる。
暗がりには変わりなかったが、中庭の警備灯に照らされてその姿がよく見えるようになった。

「うるさかった?」
「いえ、気になりませんが……ケーキを食べていたのでは?」
「そうよ。あとブランデー」

ペルは一瞬目を丸めてからくしゃくしゃと笑った。

「随分大人な楽しみ方をするようになりましたね」

それには答えず、背を向けて庭先のベンチに腰かけた。
ぬるい夜風がふわふわと頼りなく髪先を揺らす。

「座る? もう行っちゃう?」
「──では、失礼します」

よいしょと跨いでペルが隣に腰かけた。
なんでこんなところにベンチがあるんだろうと、昔からあるそれをちっとも不思議に思っていなかったのに、不意にそんなことが気になった。

「疲れてる?」
「いいえ」
「嘘、こんな時間までお風呂にも入れないのに」
「入ろうと思えば入れましたが、少しダラダラしてしまって」
「ダラダラしてるペルなんて見たことない」

はて、とペルは首をかしげるそぶりをした。

「そうでもありませんよ」
「そうかしら」

ビビ様はご存じでないかもしれませんが、と妙に含みを持たせてペルは言う。

「私はだらけることもありますし」
「へぇ」
「面倒くさがり屋ですし」
「ふぅん」
「そしていくじなしです」

意外にも、とペルはみずから付け足した。

「……根に持ってる?」
「ちっとも」
「うそばっかり」

はははとペルが笑うとサンダルウッドの香りがした。
一日仕事で疲れたその身体から立ちのぼるように、彼の香りは今でも深くて甘い。
こみ上げる何かに耐え切れず、俯いた。

「──こんなの不毛だわ」

おわらせることなんでできなかった。
おわりを大人しく待っていることもできなくて、どうにかしてやりたいのにそう思うことしかできない。
いくじがないのは私だ。

「そうでしょうか」
「ペルが一番わかってるでしょう……!」
「私から身動き取れるはずがないということをあなたもわかっている」

ビビ様、と一言呼んでペルは立ち上がった。

「あまりお友達を放っておいてはいけません。それに夜更かししすぎると疲れますよ」

顔を上げた。
こちらが座っていると、立ち上がったペルの顔はあまりに遠いように思えた。
そうね、と放心して答える。
ためらいなく差し出された手を取って腰を上げたら、不意に強く引かれて足を一歩踏み出した。
ふっと濃くなる香りに脳髄が揺さぶられる。
額の辺りに囁かれた声が頭の奥に染みていく。

「なにを命じるか決めましたか?」
「──まだ」
「そうですか」

唐突にペルが離れた。ふわりとベンチを跨ぎ越し、バルコニーの下の影へさっと入り込む。

「ゆっくりでいいですよ。私はずっとお側にいますから」

おやすみなさいという言葉と一緒にペルの姿が消えると、引き潮みたいに香りも掻き消えた。
こんなことで喜ぶなと自分に言い聞かせながら、パントリーを漁ってとびきり良さそうなお酒を一本部屋に持ち帰った。
ナミさんたちは夜中の3時とは思えない歓声を上げた。
きっと彼にも聞こえたことだろう。

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これのつづきです







ソースで汚れたプラスチックのパックが机の上にふたつ転がって、どこかの国の地図が描いてあるセピア色の灰皿にはどっさりと短い煙草が山盛りで、縁には灰がこびりついていた。
淀んだ空気をかき混ぜるように窓辺まで歩み寄り、窓を開けると冷えた夜気がするんと入り込んでくる。
すーずしーい、と背中側でサンジ君が頼りない声を出した。

「あんた酔い過ぎ。缶ビールでそんなに酔えちゃっていいわね」
「ん、おれぁどうせ安上がりな男さ……」
「なに言ってんの」

窓辺に置いてある背の高い本棚に背中を預け、汗をかいた首筋を外気で冷やした。
サンジ君はいわゆる体育座りで膝を抱えていた。長い足を窮屈そうに縮こめて座っているのも酔っ払いさながらで、ほの赤い頬がちらりと見える。
「たばこ」と言って彼はテーブルに置いてある空き箱に手を伸ばしたけど、触れた途端ぐしゃりと潰れた。

「ない」
「吸い過ぎ」
「ああー……今買い置きも切れてんだわ」
「ちょうどいいじゃない、禁煙しなさい」
「えー、じゃあ代わりにキスしてよ」
「しない」

サンジ君はわずかに頭を持ち上げて私を見た。

「口さびしい」
「勝手に寂しがってれば」

うう、と呻いてサンジ君は俯いた。
ふぁあ、とあくびがこぼれ出る。

「今何時なの?」
「ん、わかんね。2時くらい?」
「そりゃ眠くもなるわね。帰ろっかな」
「こんな時間に? 遅いよ、危ないよ、泊まって行きなよ」

じろりとサンジ君を睨む。
かたくなに顔を上げなかった彼が、やがて観念したようにこちらを見た。

「泊まって行きなよ」
「そっちのが危ない」
「こんな時間までおれんちにいて、今更なに言っちゃってんの」

それもそうだ。
足元に転がっていた携帯電話で時間を確かめた。夜中の2時16分。

「明日仕事休みだと思うと嬉しくなって夜更かししちゃっただけ。あんた昼から仕事なんでしょ」
「そだけど、今からナミさんと一緒に寝るから平気」
「寝ないし。帰るし。送って」
「いやだっつったら?」
「もうここには来ない」
「それはいやだー……」

ごねるように首を振って、サンジ君は煙草の箱を握りしめたままだった手を缶ビールに伸ばした。
もう軽いはずのそれを呷る彼の喉が、黄色い電光でやけに目立つ。
私もテーブルに置きっぱなしのロング缶を取り上げ、ごくごくと飲み干した。
ぬるい酒がよたよたと喉を通り抜けていく。
夜中らしくてなんとなく心地が良かった。

机の角をへだてたサンジ君の隣に座り、二人で飲み干していったいくつかの空き缶をビニール袋に放り込む。
ふと持ち上げた缶が予想外に重く、勢いよく振り上げたせいで中身が手の甲に飛び散った。

「わっ、なによこれ、あんた全然飲んでないの残ってんじゃない!」
「んおー、ミスった」
「もう! ティッシュちょうだい」

座ったままサンジ君が右に手を伸ばしてティッシュの箱を掴む。
クレーンゲームのように私の元までそれが運ばれてきた。

「ナミさぁん」
「なによ」
「おれと付き合って」
「やだって」
「なんでなんでさー」
「あんた私だけじゃないでしょ、だらしないからいや」
「んなことねェって、どっからンな勘違いしてんのナミさん」

勘違いじゃないんだもの、と手の甲を拭きながら彼を睨む。
サンジ君も睨み返すように私を見てくる。
酒のせいで熱のこもった目がいたたまれずにすぐに逸らした。

「んじゃなんでこんな時間までおれと遊んでくれんの」
「誘われたから。便利だから。ごはんおいしいし」
「今日はスーパーの焼きそばだったけど」
「気分よ」
「手ェ出しちゃうよ」
「ぶっとばす」

ドンと重たい音がして視界が翳った。
頭の中身が揺さぶられて咄嗟に目を閉じた。
次に目を開けたら逆光に翳るサンジ君の目がとても近くに見えた。
押し付けられた手首がラグマットの毛足に触れてざらりと擦れる。

「ぶっとばされる?」

垂れた前髪が頬をかすめた。

「場合によっては」
「んじゃ、これはセーフなんだ」

アウトだバカ。
唇の動きだけでそう言うと彼がふっと笑った。
ふに、と頬に口づけられる。
音も立てず離れた。

「キスしていい?」
「今したわよね」
「次、ちゃんとしたやつ」
「嘘ね」

うそ? とサンジ君は子どものように首をかしげた。
覆い被さる彼のせいで部屋の明かりが遮られ、視界はどんより薄暗い。
一緒に飲んだお酒のにおいがふたりの間を漂って、上の方を開けっ放しの窓から風が流れ込む。

「できないくせに」
「できるよ」
「嘘」
「まじまじ。キスしちゃうよ。なんならもっといろいろしちゃうよ」
「いろいろ?」

うん、と馬鹿正直に彼は頷く。

「引き裂くみたいに脱がせるよ。ナミさん泣いちゃうよ」
「あっそう」
「やってみる?」
「泣いちゃうけどいい?」

途端、サンジ君はふにゃりと眉を下げて「よくない」と言った。
あまりに情けないその顔に思わず噴き出す。

「ぶ、ばかじゃないの、あんた」
「よくねぇよー、ナミさん泣いたらやだよー」
「わかったから、どいて、背中痛い」

ぐずぐずとサンジ君は半ば本気でべそをかきながら身体を起こした。
私も彼を押しのけて身体を起こす。
しかしサンジ君は床に押し付けていた私の手首を離さなかったので、子どもの遊びみたいに私たちは両手を繋いで床に座り込んでいた。

「ナミさんおれと付き合って」
「うーん、やだ」
「なんでなんでさー」
「あんた私だけじゃないしそんな贅沢なことさせたくない」
「んなことねェよー、ナミさん勘違いしてんだって」

なんだか覚えのあるやり取りだなと思った。
勘違いじゃないし、と呟く。

「今日の私の友だちが今度あんたの店に行ったらあんた絶対連絡先訊くでしょ」
「えー、まあそりゃ礼儀みてェなもんで」
「そんで連絡するでしょ」
「それもマナーじゃん」
「こやって家に連れ込むんでしょ」

いやいや、と彼はだらだら首を振る。壊れた人形みたいに関節が不安定に揺れる。

「連れ込まねって。つかナミさんの友だち美人ばっかだったじゃん。連れ込ませてくれねぇよ」
「連れ込まれてる私はなんなのよ」
「そりゃーナミさんはおれとどうにかなっちゃっていいって思ってるからじゃないの?」

じっと彼を睨んだ。
酔っ払いの青い目は焦点が合っていなくて、どこか中間点を見ているようで、でも実のところ私を見ていた。

そうよ。
どうにかなっちゃったらいいと思うから、こんな時間まで、汚いあんたの部屋で、だらだらと美味しくもないスーパーの惣菜を食べて、ぬるくてまずいお酒を呑んで、それでも帰らずにここにいるのよ。
本当にこの男、ばかなんじゃないだろうか。

「帰る」

携帯を掴んで立ち上がる。
するりと彼の手が離れた。
汗で湿ったところが途端に冷えていく。

「送るよ」
「うん」

背後で彼が立ち上がり、伸びをする気配がした。

「なんつって」

背後から腰に回った手が圧倒的な力で身体を引き寄せた。
身体がぶつかるとすぐそこのベッドに一緒になって倒れ込み、なにを言う間もなく深く唇が重なった。
薄いシーツにぎゅと押さえつけられた手が熱く、足の間に割り込んだ膝がぎっとベッドを軋ませた。
じわじわと身体の奥からせり上がる興奮が眠気をどこかに押し込めていく。ぎゅっと手のひらを握り込んだ。
少し唇が離れたとき、咄嗟に口を開いた。

「手、離して。痛い」
「──いやだ。ナミさんが逃げる」
「いいから。離して。痛いって言ってんでしょ」

私の手をシーツに縫い付ける力がほんの少し緩んだ隙にさっと腕を引いて彼の手から抜け出す。
一瞬で哀しそうな顔をした彼の顔をぐいと両手で掴んで薄い唇に噛みついた。
本当に、前歯でぎりぎりと噛みついた。

「いてっ、でっ、いたたっだだだナミざんいだい」

痛い痛いとサンジ君は笑いながら、ぎゅうぎゅうときつく私を抱きしめて、ベッドの上をごろごろ転がった。




拍手[35回]


胸が潰れてしまう。
咄嗟によぎった考えで、はっと胸を押さえた。
ひゅっと軌道が狭くなり、覚えのある息苦しさが喉の奥からせり上がってくる。
いけない、と思う間もなく盛大に咳き込んだ。

人の行き交う駅の改札口、緑色の掲示板にたくさん貼られた色とりどりのポスターを背に、壁際に設置されたベンチにずるずると座り込む。
一度咳がせり上がると、調子づいたようにいつまでも息苦しさがやってきて、吐き出すばかりで空気を吸い込むことさえ難しい。
目の端に涙が滲んで、こんなところで、もう大人なのに、と哀しくなりそのことが余計涙を呼んだ。
震える手で鞄からミニタオルを取り出し、口元に当てた。
タオル越しに吸い込む空気は、外でも家でも同じ気がして慣れた洗濯物のにおいに少しだけ心が落ち着く。

止まらない咳をやり過ごすのにどれくらい時間が経ったかわからず、ベンチに片手をついてずっと自分のつま先を見ていた。
咳き込みすぎて頭の芯がぶるぶると痺れて痛く、咳き込む声もかすれているのにまだ止まらない。
そのときふと視界に、自分以外のつま先が現れてぎょっとした。
薄汚れたスニーカー、つまさきだけで自分の足全部と同じくらいのサイズだ。

「おいお前大丈夫か」

顔を上げかけるも、途切れ目なくやってくる発作に視界がぶれて、ただ男の人だと思い緊張が走った。

「なんか飲みモン……おい、これ飲め」

目の前にずいと差し出されたペットボトルが滲んだ視界の中ぼやけて浮かんだ。
飲めと言われても、そんな、と戸惑っていたら男性はきゅるきゅるとキャップを開け、飲み口を私の唇にぐいとぶつけた。
驚いて顔を上げた瞬間、ぬるくて甘い液体が口の中に入り込む。
咄嗟に飲みこみ、収まりきらなかった分が口の端からこぼれた。
恥ずかしさに一瞬で顔が熱くなる。
それでも飲み物が通ったことで手のひらを返したように気道が広がって発作がするすると奥へ引っ込んでいくのがわかった。
少しむせ、反動で新鮮な空気を目いっぱい吸い込む。
すぐにタオルで口元を押さえ、こぼれ出た言葉は「ごめんなさい」だった。

 「苦しいか。救急車呼ぶか」

私の顔を覗き込む男性の言葉に、慌ててぶんぶん首を振る。
救急車のいたたまれなさを私は知っている。あれだけはいやだと思った。
「大丈夫です、もう放っておいて」という意味のことを言いたかったけれど、伝えるためにどういう言葉にすればいいのか咄嗟に出てこない。

「こんなところじゃなくてどっかで休んだ方がいい。誰か知り合いと待ち合わせたりしてねぇのか」

待ち合わせじゃないです、とかすれる声で言う。
男性は少し間をおいて、深めの息を吐いた。
そのことにわけもなくまた涙が出そうになる。
迷惑をかけてしまった、とまた頭の中に酸素が回らなくなる。

「おれの知り合いの家が近ェから、そこで休め。連れてくぞ」
「え」

ぐいと腕を引かれ、身体の前面が固い身体にごつんとぶつかって咄嗟に目を瞑った。
ぐわっと重力が全身にふりかかり、気付いたら広い背中に背負われていた。
ああ、ともきゃあ、ともつかない悲鳴がひくついた喉からこぼれ出た。

「安心しろ、おれんちじゃねェ。お前このままここに放っといたら死んじまいそうだ」

言うが早いか、男性はずんずんと進み始めた。
知らない人にあられもなく公衆の面前で背負われているということに頭が真っ白になり、ぱくぱく口を動かすも言葉が出てこない。
怖くはなかった。
ただ申し訳なくて、恥ずかしくて、男性が握りしめる白いポシェットバッグの革紐がぶらぶら揺れるのを知らないもののように感じた。

「あ、あああああの」
「あ?」
「だい、だいじょうぶです。私あの」
「お前ここで降ろしたら歩いて家まで帰れんのか」
「そ、」

ほんのりと痙攣し続ける脚が、むりだーと如実に言っていた。

「ちょっと待てよ」

男性は歩き出して5分もせず、ひとつのマンションの前で立ち止まった。
掴んでいた私のバッグの紐を首にかけ、その手でポケットから携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。

「おい、今家にいるか。開けてくれ」

もう着いてしまった、と安堵のような絶望のようなどっちつかずの気持ちでマンションを見上げる。
ずらりと並んだベランダのうち3階の一つの部屋から、不意に人が現れてこちらを見下ろした。
その見覚えのある顔にあまりに驚いて、咄嗟にまた発作がぶり返しそうになった。





すっきりと綺麗なシーツが敷かれたベッドに寝かされて、人の家にもかかわらずついうとうとした。
ぼんやりとした頭の向こう側で誰かが一人で喋っている。
電話をしているようだ、と思いながらその声を耳慣れた心地で聞いていた。

──お前知り合いか。家にいる。あぁ? おれんちじゃねェ。
──いいからそんなら迎えに来い。住所? 住所……だからおれんちじゃねェんだって。
──お、ちょっと待てよ、住所は……
──おう、早く来い。あぁ? あほか手ェだすかおれんちじゃねェつってんだろ!

それきり声は聞こえなくなった。同時に誰が誰と話しているのか思い当り、勢いよく身を起こした。

「ウ、ウウウウソップさん……!」
「お、目ェ覚めたか」

掬い上げるような三白眼の目がこちらを向いた。
つくつくと上に立った短い、薄緑色の髪。
いつか見たことがある人だ、と思ったけどいつのことだったかぼやけた頭では思い出すことができなかった。

「あいつなら買い物行ってんぞ。おれが行くっつったのにおれじゃ帰ってこれねぇとか言いやがった」
「は、あの、今、電話」
「あぁ、あんたの携帯鳴ってたから勝手に出た。知り合いなら迎えに来るかと思って。迎えに来るっつってたぞ。電車乗ってるつってたしすぐ着くんじゃねェか。駅近いしな」

男性は一気にそう言って、テーブルに置いてあるペットボトルの水を手元に寄せてゴッと勢いよく飲んだ。

「ウ、ウソップさんでしたか」
「あ、わりぃ名前聞いてねェわ。男だったけど。急におれが出たからびびらせたみてぇでめちゃくちゃどもってた」

ウソップさんだ。
男性はペットボトルのキャップも閉めずにテーブルに置き、濃い茶色のテーブルの前、足の長い綺麗な椅子に深く腰掛けてぼんやりペットボトルのラベルを見ていた。
息がつまるように感じているのはどうやら私だけのようで、そのことに少し安心した。

「あの、あり、ありがとうございました」
「ん、おう気にすんな。よくあんのか」
「え、いえ、最近はあんまり」
「そうか」

ぶーーんと網戸の向こうをカナブンのような虫が音を立てて飛んで行った。
3階という高さは自宅の部屋と同じ高さなのに、見える景色は全然違う。
こっちの方がずっとおもしろいのに、と羨ましくなって窓の外を見ていた。
その間、男性もずっと何も言わなかったけれど、気づまりには思わなくなっていた。

やがてぴんぽんと明るい電子音が鳴り響き、「お、来たんじゃねェか」と男性が腰を上げて壁に取り付けられたインターホンまで歩み寄ったが、しばらくいろんなボタンを押した挙句私を振り返って「どうやって開けんだ、これ」と不機嫌そうに呟いた。
慌ててベッドから降り、受話器を上げて「もしもし」と答える。

「お、おお!? カヤか!? おっめーびっくりさせんなよ!」
「ごめんなさい、あの、今鍵を」

解錠のボタンを押すと、ぴっぴっぴと言いながらエントランスの扉が開く音がした。
受話器を置いて玄関まで行こうとしたが、男性が「3階だぞ。まだかかるだろ」と静かに言ったのでそれもそうだと引き返す。
所在なくて、なんとなく男性の向かいの席に腰を下ろした。

「よかったな」

男性がぼそりと呟くので、「はい」と神妙に頷いた。
やがて玄関がチャイムもなく開き、「カ、カヤー?」と怯えたようなウソップさんの声が聞こえて慌てて席を立った。




タクシーを呼びなさいという家主の言葉を丁寧に辞して、代わりに持って帰りなさいと買いだしてきてくれた飲み物や食べ物を紙袋ごとごっそりと渡される。
それらを全部ウソップさんが両手にぶら下げて運んでくれた。
駅までの短い道のりとはいえ、1リットルのスポーツドリンクが2本入った紙袋を抱えてウソップさんは汗をかいていた。

「私持つわ」
「ん? おお、いいよ気にすんな。それよりおめーなんでまた発作なんて」

最近全然なかったろ、とウソップさんは私の背中に声をかける。
私は両手の塞がった彼の代わりに切符を買いながら、「そうね、久しぶりで私も驚いた」と言った。

「そうねっておめー、ちゃんと診てもらえよ」
「うん」

改札をくぐり、ホームに上がるとすぐに電車が来た。
開いている二人分の座席にすとんとはまり込むように座る。

「あいついーやつだったな! 最初おめーの携帯に出たときはおっそろしー声だわ見た目もおっそろしーわで参ったけど」

はっは、とウソップさんは明るく笑って、紙袋の中を覗き込んだ。

「こりゃ熱出たときのラインナップな気もするが、ありがたくもらっとけよー。おめーどうせすぐ熱出すから」
「最近あんまりないわ」
「そうかぁ? 今日のことがあっとあんまり信用ならねェけどな」
「──ごめんなさい、迎えに来てもらって」
「はー? なに謝ってんだ。気にすんなよ、それにいつものことだしな。ま、今回は久々っつったら久々……」
「もう迎えに来てくれなくてもいいわ」

は? とウソップさんは丸い目をもっと丸くして、なんで? と尋ねた。

「迷惑だし……」
「はー? 何言ってんだ今更。おれが迎えに来なきゃだれが迎えにくんだ。おめーんちみんないそがしいだろ」
「タクシーで帰れるわ」
「お前一人でタクシーなんて乗ったことあんのか? 金の払い方わかるか?」
「わからないけど! ウソップさんはいっつも何かあればすぐに来てくれるから」
「それがなんかわりーのか?」

咄嗟に隣の彼を見上げると、彼は心底わからないと言う顔で私を見下ろしていた。

「急にわかんねぇこと言うなよー。いいっつってんだからいいじゃん。おめーになんかあったときはおれに任せろ」
「なんで……」
「は? なんでもなにも」

がたん、と電車が大きく揺れた。
肩がぶつかり、彼の抱えた紙袋ががさりと音を立てる。
向かいの網棚に乗っていた皮のカバンがごとんと横倒しになって、中からクリアファイルが少しはみ出していた。

「──明日から実習だから、今日ついでに借りてた本返すわね」
「ん、おお、読んだかあれ。めちゃくちゃ面白れぇだろ。職場で流行っててよー、原作が今度映画に」

止まらない彼の話を聞くともなしに聞きながら、網棚のカバンからファイルが少しずつ大きくはみ出ていくのを眺めていた。

──胸が潰れてしまう。
今日彼が来てから何度感じたかわからないこの感触が、もう発作を呼ぶことはなかった。
ただ常習化したみたいに、ほのかな痛みだけがあった。


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これのつづきです










昼寝のときに見る短い夢みたいなものだ。
無意味で支離滅裂で前後関係もぐちゃぐちゃで、目が覚めたときわけもなく何かを失ったみたいな気分になる。
断続的に私の元に訪れた誰かとの関係はそんなふうにだらだらと、しかし意外にも手放しがたい心地よさを伴って常に足元にまとわりついていた。

「おい携帯。ロビン」

フィルターの中でふっくらと丸く盛り上がったコーヒーの粉を見つめて慎重にお湯を注いでいた私は、ゾロの声でやっと机の上で鳴りつづける携帯の電子音に気付いた。
「あら」と言いながらもお湯を注ぐ手を止めない。
ゾロは私と携帯を見比べて、痺れを切らしたように「鳴ってんぞ」と明白なことを言った。

「えぇ、いいのよ」
「よかねェだろ。うるせぇ」
「ごめんなさい、そのうち切れるわ」

だって今手が離せないんだもの、と言いながらポットを振り上げたところで電子音は止んだ。

「ほらね」
「根性のねェやつだ。たった10コールで切れやがった」

ゾロはベッドに浅く腰掛けて、どうでもいいように背中側の窓を振り返って外の景色を眺めていた。
淡く暖色に色づいた夕方の空とゾロとコーヒーと言う組み合わせがどうにも合わなくて笑いが込み上げそうになる。

「はい」

コーヒーカップを手渡すと、「おうサンキュ」と受け取るや否や熱々のそれをごくりと一口飲み、ゾロはごとんとテーブルにカップを置いた。
私も立ったままカップに口を付けるが、熱さに怯んで飲むことなくまた口を離した。

「もう18時ね。お腹すいた?」
「いや……あぁ、言われてみれば。それよりおい、ちょっとそれここに置け」

それ、と私が手に持つカップを指差し、そのままゾロのカップの隣に目線を下げる。
どうして、と言うつもりで黙ったままコーヒーを小さく飲み下すと、ゾロは苛立ったように「早く」とせかした。

「なぁに」

笑いながら言われた通りカップを置くと、途端に腕を引かれてゾロと一緒にベッドに倒れ込んだ。
驚いて思わず目を見開くと、のしのしと私の上に乗りかかったゾロが不機嫌そうに「携帯」と呟いた。

「壊されたくなかったら知らねェやつからの電話は鳴らんようにしとけ」

すぐさま噛みつくようにキスをされて、咄嗟に手を伸ばしゾロの髪に触れた。
短く尖った毛先が指を刺し、冷たい三連ピアスが手首に触れた。キスは淹れたばかりのコーヒーの味がした。
青色が濃くなっていく空をレースカーテン越しに見ながら、着たばかりの服をまた脱いだ。

ぬるくて抜け出すことのできなかった誰でもない誰かとの関係をあっという間に蹴散らして、ゾロは私の目を見て「アホか」と叱ってくれる。
きつく首筋を吸われる痛みを気持ちいいとちゃんと言葉にすることを教えてくれたのも彼だ。
思えば私は大人みたいな顔をして知らないことばかりだった。
10年も私より短い時間を生きている彼の方が随分と物知りのように思える。
冷めたコーヒーを美味いとも不味いとも言わずに一気に飲み干して、大きくあくびをして、未だベッドに伏せたままの私を見下ろし、少し考えてからまた隣に戻ってきてくれる。
「嬉しいわ、ゾロ」と素直に言うと、ゾロは「こんなことで喜ぶなんざ安い」と鼻で笑った。




狭い1DKの一室はひとりで過ごすには手にあまり、ゾロがいると手狭に感じる。
でも女友達を呼ぶにはちょうどいいのだと今日初めて知った。

ナミは部屋の中をぐるりと見渡して、「いいなー、壁に穴開けてもいいんだ」と私が思ってもみないことを呟いた。
どうやら私が人にもらった絵画を額に入れて壁に飾っているのを見てそう言っているらしい。

「うち、画鋲刺しちゃだめなの。敷金返ってこなくなっちゃう」
「あら、じゃあうちもそうかしら」
「知らないの?」

肩をすくめると、ナミは「ま、ロビンがいいならいいけど」と言いながら白くて小さな箱を差し出した。

「おみやげ。ナマモノだから食べましょ」
「あらありがと。わざわざ買ってきてくれたの?」
「ん、ていうかもらいものみたいな」

もらいものなの? と言いながら受け取ったその箱を開けると、たっぷりとフルーツやナッツの乗ったケーキが4つ、ちょうどいいサイズで収まっていた。

「こんなにたくさん。食べきれるかしら」
「ひとり二つでしょ。楽勝よ」

早くお皿にあけて、と前のめり気味に言うナミの溌剌な表情に、私はくらくらしてしまう。
はいはい、と彼女をいなしながら二人しかいないのに小皿を4つ棚から取って、ひとつずつケーキを乗せた。

「はいどうぞ」
「おみやげだからロビンから選んで」

和栗とミックスナッツのタルト、マスカットのケーキ、ブルーベリーの乗ったレアチーズケーキに抹茶の緑が綺麗なガトーショコラ。

「悩むわ」

つい真顔でナミの顔を見つめ返すと、彼女も真剣な表情で「時間は限られているのよ」と答えた。
「じゃあこれ」とまずガトーショコラを選んだ。
よしよし、とでもいうようにナミが二度深く頷く。

「それはロビンにと思って選んだの。次は私が取ってもいい?」

えぇどうぞと答えると、ナミはすぐにレアチーズを取った。
「ブルーベリーは期間限定なんだって。この店の定番はベイクドチーズだから」
言い訳のように口にする彼女が愛らしくて思わず微笑む。

「さ、もうひとつ」
「食べてから考えない? 一度冷蔵庫に入れて」

ありね、とナミが真面目に頷いたので、二つのケーキはふんわりラップをかけて冷蔵庫にしまった。
丁度湧いたばかりのお湯で一番摘みのダージリンを淹れる。
乾いた室内の空気にゆったりと立ちのぼる糸みたいな湯気が目立った。

「ん、おいし」

私より早く感想を口にして、ナミはブルーベリーのジャムをケーキの表面に塗るようにフォークを動かした。
自宅でお茶を淹れて持参のケーキをたしなむなんてなんと健全なんだろうとため息が出てしまう。
ナミは大きな一切れを口に含んで、咀嚼しながら尋ねた。

「今日は休みなの? 授業」
「えぇ、今試験期間なの。ちょうど休みたかったところだし講義も入れたくなくて休みにしちゃった」
「先生様は自由がきくのね」
「ナミは忙しいでしょう」
「まぁぼちぼち。暇ができる仕事じゃないし」

ナミは机の板を左手の指でなぞり、「いいテーブルね」と呟いた。

「人にもらったの。手作りなんですって」
「手作り? 高そう」
「どうかしら」

濃い茶色の板は木目がよく見えて、食べ物をこぼすとすぐにしみになった。
ぬるま湯に付けた布巾でとんとんと丁寧にこすらないとしみは取れない。

「ここで一緒にごはん食べたりするの?」
「一緒に?」
「一緒に」

熱い紅茶をすすって、ナミは安らかにも見える顔で微笑んだ。

「いいなあ」

買ったばかりの青々とした豆苗が、ナミの肩越しに見えた。
伸びかけの短くて細い茎がひょろりとしなっている。

「でも私、あんまり料理は得意じゃないのよね」
「そうなの?」
「実は」
「ま、意外でもないけど」

失礼ねと笑うと、ナミは「今自分で言ったじゃない」とからりと笑ってさくさくチーズケーキを切り取った。

「何作るの?」
「最近は──そう、煮るわね」
「ニル?」
「煮る。野菜とか、肉とか」
「煮物ってこと?」
「あぁそう、煮物。筑前煮?」
「筑前煮。へえ」
「ゾロが好きだから。あと角煮とか、煮物じゃないけど焼き魚とか」
「ふーん」

ゾロって言うんだ。
なんでもないことのようにナミが言うので、そうよと私もなんでもないことのように答えた。
ゾロ以外の誰かにゾロと名前を口にしたのは初めてだった。

「あっちこっちふらふらしてたロビンが嘘みたい。煮物なんて作っちゃって」
「ふらふらしてた?」
「自覚ない?」
「わりとあるわ」

ぶはっとナミは吹き出して、「ね、そうでしょ」と言った。
無意味な前戯。支離滅裂な愛のことば。前後関係のないセックス。
ぬるくて足元だけをあたためて、手の指はずっと冷えたままの誰かとの関係。
そういうものを全部蹴散らしてひとつひとつに意味を与えてくれる。
彼だけだ。私には、彼だけが現実だ。

「さて」

ナミはペロリと食べきった綺麗な皿を見下ろして、「次に行くわよ。どっちにするか決めた?」と言う。
何の話だったかしらと首をかしげる私に、ナミは急かすように「ケーキ」と綺麗に整えた爪でとんとんと机を叩いた。

「栗とナッツのタルトかマスカットだっけ? 男だったらこの選択肢をどう処理するかで今後の私との関係が変わってくるところだけど」
「それは緊張するわね」
「ロビンは大丈夫。心配しないで好きなものを選んで」
「選ばせる前に言うべき言葉じゃないわ」

ナミはふふんと含み笑いを返して、そりかえるように天井を見上げて「あーたのしい」と子供のように呟いた。

「洗濯物、取り込まないとなぁ」

誰にともなくナミは呟く。
私の家の窓を見て、自分の家の窓からの景色を思い出したのかもしれない。
ほどよく温まった風で今日もよく洗濯物は乾いたことだろう。

「うん、やっぱりケーキは残しとくわ」

「え?」と聞き返すと、ナミはにんまりと口角を上げて「ふたりで食べて」と大人びた表情を浮かべた。




その日の夜やってきたゾロに、夕食後「ケーキがあるんだけど」と至極単刀直入に切り出した。

「ケーキ? 珍しいな。食いたかったのか」
「友達がおみやげでくれたの。昼間来ていて」
「ここに?」
「えぇ」

冷蔵庫からラップをかけた二つの小皿を取り出す。

「んな小奇麗なもん久しぶりに食う」
「好きな方を選んで」
「先選べ。おれぁどっちでもいい」
「いいの、ゾロから選んで」

睨むように目線を上げたゾロは、「好きな方とれっつってんだろ」と不思議そうに口にした。
構わず私は一方を指差して「これは」と言う。

「和栗とミックスナッツのタルト。こっちがマスカットのケーキ。コンポートが間に挟まってるみたいね」
「コンポートってなんだ」

なにかしら。考えて黙り込むと、ゾロがボソッと「選んでいいのか」と尋ねた。

「えぇ。好きな方を」

腕を組んでふたつのケーキを睨み下ろしたゾロの額を見ていたら、むくむくと悪戯心が湧いた。

「ちなみに、この選択肢をどう処理するかで今後の私とあなたの関係が変わってくるそうよ」

ゾロは顔を上げて私を見つめ、初め意味が分からないと言うように眉間に皺を寄せていたが、またケーキに視線を戻してから「ほう」と呟いた。

「んじゃ変えてみせてくれよ」

タルトの皿に手を伸ばしたゾロは「手で食っていいのか」とそのまま鷲掴みそうな勢いだったので、私は慌ててフォークを取りに腰を上げた。



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