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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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私には護衛がいる。
街に蔓延る悪党に私が不当な仕打ちを受けないように、常に光る目がある。
女の子はみなそうして守られるものだという可愛らしくも浅はかな勘違いに気付いたのは、十を過ぎて少しした頃だった。
少しお姉さんになったのにいつまでもついてくる護衛にうんざりし始めたのも、この頃だった。

「あれ、今日はひとり?」

文庫本から目を上げると、少し息を切らしたナミさんが立っていた。
シトラスの品のいい香りが彼女から流れてくる。

「えぇ、おつかれさま。走って来たの?」
「ううん、暑かったから早く店に入りたくて早足になっちゃった。他のふたりは?」
「まだ。ロビンさんからは少し遅れるって連絡が、あ」

私の視線の先を追ってナミさんが振り向く。
丁度店の扉をカヤさんがくぐったところで、私たちを探して不安そうにきょろきょろと辺りを見渡していた。
大きく手を振ってやると、目を留めた彼女が小走りで近づいてきた。

「ご、ごめんなさい遅くなって」
「遅くなんかないわよー。そもそもまだ約束の時間にもなってないし」
「よかった、少し電車が遅れていたから」

金色の細い髪を耳にかけながらカヤさんが羽根のような軽い仕草でナミさんの隣に座る。
そしてすぐ、少し遠慮がちに辺りを見渡して言った。

「今日、あの方は? ビビさんの」
「ペル? 今日は置いてきちゃった」
「黙って出てきたの?」
「んー、黙ってって言うか、言ってないって言うか」
「それを黙って出てきたっていうのよ」

ナミさんがからからと笑いながら店員を呼ぶ。
彼女が迷わずオレンジスカッシュを注文し、慌ててカヤさんがメニューに目を走らせてアイスコーヒーを注文した。
私の手元には既にアイスレモンティーが届いている。

「今頃お屋敷で慌てて探してんじゃないのー、あんたのこと」
「そんな大ごとじゃないわよ。黙って出かけることくらいよくあるし、ナミさんたちと会うわって確かテラコッタさん辺りに話したし」

そう言いながら、探してるんだろうなぁと思ってちくりと棘が胸を刺した。
ペルはいつも私の数歩後ろを歩いて付いてくる。
誰かと待ち合わせたときは、相手がやってきてしばらくするとそっといなくなる。
そして帰るころになるとどこからともなく現れて、「さ、帰りましょう」と私を促しやっぱり数歩後ろをついてきた。
隣を歩けばいいのに、と言ったことがある。
ペルはにっこり笑って「ありがとうございます」と言ったけど、隣には来なかった。
もちろんいつでも後ろにいるわけじゃなく、並んで話をすることもある。
でもいつそうするかは、彼が選んでいた。
わきまえている、と言ってもいい。

「すごいわね、とても大事にされてる」

カヤさんが白いハンカチでそっと汗を押さえながら言った。

「子供扱いされてるのよ。もしかしたら今更引けに引けなくなってるだけかも」
「ずっとペルさんなの? ビビ担当は」
「えー……別にペルが私担当ってわけじゃないのよ。ペルも父の仕事で忙しいし」

あ、でも。話しながら昔のことを思い出した。

「なんかね、小さいころまだ若かったペルとチャカ……もう一人の役員がね、私のお守をするように言いつけられたそうなんだけど。チャカは顔が怖くて、私が懐かなかったんだって。その点ペルは温和な顔をしてるから、どうしても私がペルにべったりだったみたい」
「やだーなにそれ可愛い」
「そんな小さな頃から一緒の方なのねぇ」
「強いし賢いし仕事もできて子供の頃から知ってるなんて、好きになっちゃいそう」
「好きよ、勿論」
「あんたのいうそれは家族の好きでしょ、そうじゃなくて」
「ううん、好きよ。ペルのこと。本人に言ったこともあるもの」

正反対のタイプのように見えるふたりがそろって目を丸める。
ときどきこうして誰かを驚かすのは面白い。
丁度そのタイミングで二人の飲み物が届いて、会話が途切れた。
ナミさんは店員から受け取ったスカッシュをゴッと一気に半分くらい飲んで、「え!」と大声を上げた。

「好きなの? 男として好きなの? そんで告白したの!?」
「えぇ、10歳の時に」
「なんだ」

がくっと頭を垂れたナミさんは、しかしすぐに頭をあげて楽しそうに「でもでも」と言葉を繋げた。

「今はどうなの、あんた彼氏ずっといないでしょ」
「えー……なんかもう今更そういうふうに見るのもなぁって。結局ずっと一緒にいるし」
「そ、その10歳のとき、ペルさんはなんて答えたの?」

遠慮がちに口を挟んだカヤさんは、なぜか胸を押さえている。
なんて言ったっけ、と私は目線を上げて記憶を引っ張りだした。

「普通に、『ありがとうございます私もビビ様が好きですよ』とか言われた気がする」
「えーがっかり、ってまぁそりゃそう言うしかないか」
「がっかり、した?」カヤさんはあくまでおそるおそる尋ねる。
「ううん、大喜び」

ばかよね、と笑うとナミさんもカヤさんも「かわいい」と言って笑ってくれた。

うそだ。
私はひとり部屋に帰って、大声を上げて泣いた。
たまたま私の部屋の前を通りかかったメイドにその声を聞かれてしまい、なにがあっただれがどうしたと夕食前の一騒ぎにさえ発展した。
「なんでもない」を突き通す私に、家の全員が困惑していた。
ペルだけがその理由を知っていて、でも誰にも何も言わなかった。
あのときペルはどんな顔をしていたのかよく覚えていない。
次の日にはただいつも通り私を起こしに来て、よく笑い、図書室に連れて行き勉強を教えた。
うやむやにされたわけではないのだ。
ただ私が彼のことを好きだと言い、彼も私のことが好きだと言い、あまりにもかけ離れたその意味に私が勝手に傷ついた。

「じゃあ今はもうそういう気持ちはないんだ」
「うーん、まぁねぇ」
「あ、なんか意味深」
「忘れちゃった」

グラスを手に取ると、カランと氷が音を立てた。
彼女たちには今の一言できっとわかってしまった。
いつまでも彼が私のそばを離れないように、私の気持ちも彼から離れないでいることを。
離れないっていうか、もうそういうものなのだ。

「ロビンさん遅いね」

店の外に目を遣って、背の高い彼女を探してみる。
釣られるようにナミさんも外を見たけど、カヤさんだけはテーブルを眺めていた。
 ふとカヤさんが耳に手を遣る。
 彼女の手で揺らされた小さなパールが金色の髪に溶け込むように光っていた。

「あ、かわいい」
「なに?」
「カヤさんの。ピアス? 綺麗ね」
「あ、ほんとだー。珍しいわね、アクセサリー付けてるの」
「あ、これ、うん。ちょっと、たまには」

急にもどもどと口ごもり始めた彼女は次第に耳から赤く染まっていった。
思わずナミさんと目を合わせ、あまりのわかりやすさにすぐに笑ってしまう。

「でもさー、ビビもカヤさんもいいとこのお嬢さんだからやっぱり厳しかったりするの? どこぞの馬の骨なんぞ許さーん! みたいな」
「そんなこと言われたことないわよ」
「私も」
「えーでも結婚は決まった相手と、とか」
「さあどうかしら」

肩をすくめながら、ちらりとカヤさんを盗み見る。
彼女は目を伏せて、冷たいはずのコーヒーを拭いて冷ますような仕草で飲んでいた。
恋愛、結婚、それらのことに私の家やカヤさんの家がどんな方針で臨んでいるのかはわからないけれど、あきらかに普通ではない自分の家の門構えを見ると自然と自由にいてはいけないのだと思わされる。
父が私になにかを押し付けるとは思えない。
思えないけど、私が自発的にそう考えられる人間になるよう育てられてはきた。

カヤさんと親しくなってすぐ、お互いの家のことが何となくわかってきて、少し親近感を覚えたことがある。
二人きりの時にそう思ったことを口にしたら、彼女は滅相もないと言った。
「私は食いつぶしてるだけだもの」と。

私の家は新しい何かを造り、守り、いずれそれを私が引き継いでいく。
しかしカヤさんはなくなる見込みもない程途方もない財産を、ひとり一生懸命小さな身体で削り取っている。
どちらの方が幸せで、どちらの方がそうではないのか私にはわからなかった。

「──でも、ペルさんもチャカさんも結婚してないのね」
「してないわねぇ」
「お忙しいんじゃないの」
「それはあるかも」
「実は相手がいたり」
「それはない」
「なんで?」
「始終うちにいるんだもの。会ってる時間なんてないわ」

じゃあやっぱり忙しいせいじゃない、と3人で笑った。
父に言ったら、二人まとめてバカンスでも取らせてくれるかしらと考えた。
そのときは私もふたりと一緒にどこかに行きたい。

「あ」

ぶぶっと鈍い音を立ててナミさんの携帯が震える。
「ロビンもうすぐ着くって」とナミさんが携帯の画面を見せてくれた。
店の中は次第と混んできて、テーブルとテーブルの距離が近いこのカフェではあんまり落ち着いて話ができない。
ナミさんも同じように考えたらしく、「じゃあちょうどいいし場所移動しない?」と言った。

店を出て、ロビンさんを迎えに駅への道を並んで歩く。
コンクリートがじりじりと熱を放っていた。
日は傾きかけてはいるけどまだまだ高い。
白い光の向こう、遠くの方に背の高い影が見えた。

「あ、ロビンだ」

おーいとナミさんが臆面もなく手を振る。
気付いたロビンさんも長い手を優雅に振って私たちに合図した。
彼女の隣を歩く、さらに背の高い影がある。

「わ、噂をすればだ」

ナミさんがにやりと笑って私を見た。
反射的にぎゅっと顔をしかめると、にゅっと手が伸びてきて私の頬をつねった。

「嬉しいくせに」
「……ひょんなことないひ」
「はいはい、あんたはもう帰ったら?」
「へっ」

ぱっと手が離れ、ナミさんは少し意地悪な顔で笑う。

「帰りたくなったくせに」

ロビンさんは私たちの目の前までくると、「遅くなってしまって」とあまり恐縮したふうもなく言った。
「お久しぶりですね」とペルがナミさんとカヤさんに言う。

「あんまりお久しぶりでもないけど」
「どうしてロビンさんと?」
「駅でばったり会って」
「駅? ペル、電車に乗ったの?」

いつもは車で私の送り迎えをしている。電車に乗る姿など見たことがない。

「いいえ、家から近いですし歩いて。駅の前を通りかかったときに偶然お会いしたのです」

ペルは浅く一礼して、では、と立ち去ろうとした。
また私を見送って(見送ったふりをして遠くから見守ってから)どこかに消え、帰り際にふっと現れるつもりらしい。

「待って」

ペルが足を止め、切れ長の目を少し見張って振り返る。

「ロビンさん来たばかりでごめんなさい、私帰らないと」
「えぇ、じゃあまた」

ロビンさんはあっさりとそう言って、ますます目を瞠るペルと手を振る私に薄く微笑んだ。
むふふ、と怪しく笑ったナミさんも、律儀に「気を付けて」と言ったカヤさんもどこか嬉しそうにしていた。
形のいい3人の影を見送って、「さ、帰りましょ」と今日は私から言ってみる。

「いいのですか? まだ帰るおつもりじゃなかったのでしょう」
「ううん、帰るつもりだったからいいの。ちょうどペルも来てくれたし」
「そうですか」

家の方向へ足を向けると、ペルも歩き始めた。
同じように歩いているように見せかけて、やっぱり少し後ろにいる。

「ペル」
「なんでしょう」
「横に来て」
「はい」
「そのまま歩いて」
「はい」
「言われたことならなんでもするの?」
「なんでもではありません」
「嘘。なんでもするじゃない」
「ビビ様の無茶に付き合ってばかりはいられませんよ」
「ふうん」

沈黙が落ちる。
砂の粒をひとつずつつまみ上げるみたいな慎重さで、私は息をした。

「今日は何故また黙ってお出かけになったのです」
「言い忘れただけよ」
「心配しました」
「ごめんなさい」
「もう、護衛は必要ないとお父上に進言されたらいかがです」

ぱっと顔を上げると、ペルはまっすぐ前を見ていた。

「煩わしいとお思いでしょう、ずっと」
「そういうわけじゃ」

煩わしく思ったことは何度もある。
でも、一度もいらないとは言わなかった。
ペルが私のそばにいる理由を一つたりとも減らしたくなかった。

「──煩わしくなんかないわ」
「そうですか」
「ペルはどうなの」
「私ですか」
「ずっと私のお守役でしょ。とっくにいやになってきてるんじゃないの」
「──大変な仕事ではあります」

ペルが少し目線を下げて、私を見た。
彫の深い目元が笑い皺を作る。

「ビビ様のお転婆はいつまでたっても治りそうにありませんし」
「そっ……んなことないでしょ!」
「いいえ、今日だって私がどれだけ捜し歩いたか」
「家のすぐ近くじゃない……」
「行先くらいおっしゃっていただかないと」
「ごめんってば」
「でも、誰にも譲れません」

息を呑んで顔を上げると、いつのまにかペルはもう前を向いていた。

「誰にも譲れない私の仕事です」

そう、と呟いた。
自宅が近くなると人通りが少なくなり、道幅も少し狭くなる。
歩道がなくなり、車も通らない一本道の真ん中を二人で歩いた。

「ペル」
「はい」
「好きよ」
「光栄です」
「大好きよ」
「私もです」
「昔もそうやって言ったの覚えてる?」
「覚えています」
「そのあと私が泣いたことも覚えてる?」
「覚えています」

おぼえています。
ペルの口調をまねて、同じように呟いた。

そんなこと覚えていなくていいのに。
忘れてしまって、もう一度まっさらなまま私の気持ちを聞いてくれたらいいのに。
積み重なりすぎた思い出が、いつまでも私たちをへだてている。

私がいつか他の誰かと結婚し、子を産んだら、ペルは泣きながらその子を抱くだろう。
私にそうしたようにおしめを替え、私にそうしたように食事を与え、私にそうしたように本を読み聞かせる。
私にそうしたように、その子の後を数歩下がって歩くのだろう。

「ビビ様」

唐突にペルが言った。

「また泣きますか」
「は?」
「あのときみたいに、家に帰ったらまた一人で泣かれるのですか」
「──泣かないわ」
「ならいいです」

困りましたから、とペルは言う。

「あのときはとても困りました」
「ざまあみろだわ」
「はしたないことをおっしゃらないでください」
「ペルを困らせるのが私の仕事だもの」
「とんでもない人だ」

「──先程」とペルは言う。

「なんでもではありませんと言いましたが」
「何が?」
「あなたの言うことを私がなんでも聞くのかという話です」
「あぁ、えぇ」
「確かになんでもではありませんが、ほとんど聞きます」

もう一度顔を上げ、ペルを見上げる。
横に並んだ顔には後ろから光がさし、影になって表情は見えない。でも確かに私を見ていた。

「あなたの言うことであれば、ほとんど聞いて差し上げます。だから」

もう家が近い。巨大な門扉がすぐそこに見えている。

「何を命ずるのかはあなたが選び、決めるのです」

私たちの姿に気付いた門番が、ゴォッと壮大な音を立てて門扉を開け始める。
聞きなれたその騒音をぼんやりと聞きながら、「いくじなし」と呟いた。

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理由はわからないけど、気付いたら私はぐずぐずと泣いていた。
涙で荒れた目の下の皮膚をこすりながら、どこかでこれは夢だと分かっていた。
泣いている自分を俯瞰しているような、それでいて泣いているのは私だという実感があり、悲しい気持ちに胸を塞がれながらも頭のどこかでこれは夢だからいつか覚めると冷静に考えていた。
逆上がりに失敗したとき、足を地面から離した瞬間「あ、回れない」とわかる感覚によく似ている。

と、次の瞬間にはもう目が覚めていた。
手足の感覚が戻り、頭を乗せていた腕にじわじわと痺れが広がっていく。
頬を指で触っても、そこはかさりと乾いていた。
ほのかに青い野菜の香りがしている。

「起きた?」

肩越しに振り返るサンジくんの姿に焦点が合い、ようやくここがダイニングテーブルであると思い出す。
腕の右側には蓋が開いたままのインク壺と乾いたペンが転がっていた。

「……紙……」
「皺になりそうだったから避けといた」

彼が指差す方に首を振ると、腕の左側に描きかけの海図がきちんと置いてあった。
二日前に立ち寄った、小さな春島とその周辺を記したものだ。
どこか遠くの方で頭が痛む。
う、と小さく呻いた背中を伸ばした。

「私どれくらい寝てた?」
「20分くらいかねえ。微動だにしなかったけどよく寝られた?」
「わかんない、なんか夢も見た気がするし」

サンジくんはタバコのフィルターを柔らかく嚙み潰し、笑った。
彼がつけた薄黄色のエプロンの真ん中に、水が跳ねたような丸い跡があった。


「野郎どもも昼寝してっから、静かだもんな」
「あそっか、まだ昼なんだ。なんか時間の感覚おかしくなっちゃった」

キッチンの掛け時計は午後4時を示している。
丸い窓から切り取られた空はまだ明るい。
ぼんやりと座ったままの私に背を向けて、サンジくんは何かをさくさくと小気味よく切り続ける。
コンロに掛けられた鍋から、きめの粗い湯気が換気扇に向かってゆっくりと立ち上っている。
部屋の中は青臭いような土の匂いが充満していた。

「なに作ってんの?」
「スープさ」
「野菜の?」

んー、と肯定のようなそうでもないような返事が返ってくる。

「見る?」
「んー、いい」

立ち上がるのが億劫だった。

「残念」

そう言ってサンジくんは乾燥棚から小さなカップを手に取った。
とぷ、と重い液体がカップの底を打つ音が私の耳にも届いた。
サンジくんはさも当たり前のようにカウンターを回って、私にカップを差し出した。

「熱いから気をつけて」

受け取ったそれは、薄黄緑色の中に小さな緑の粒が浮いたクリームポタージュだった。

「もっかい裏ごしするつもりだから未完成でわりぃけど」
「これなに?」

くんと鼻を近づけてみると、意外にも青臭さは微塵もない。
もったりとしたミルクの甘い香りに、新鮮で透き通った野菜の香りがする。

「ソラマメのポタージュ」
「ソラマメ?」

珍しい、とカップに口をつけた。
熱いとろみが唇に触れて、一瞬ひるむがそのまま口に含む。
まろやかな甘みと塩気が広がって、つぶつぶとした食感が面白い。
裏ごしいらないのにな、と思いながらおいしーと呟いた。

「旬のもんはうまいからな、よかった」

サンジくんは咥えていたタバコに火をつけて、カウンターの内側へと戻っていく。
腐ったキャラメルみたいな甘い匂いが、そんなにすぐに香るはずないのに、確かに私は感じる。
かき消すようにまたスープを啜った。

「なんか春ねえ」
「春だなあ」
「次の島は冬島なのよねえ」
「そらまた逆戻りって感じだな」
「やだなー」

カップを温めるように両手で包んだ。
少しだけ船が傾いて、壁にかかったフライパンがかつんとぶつかり合う。
サンジくんはおもむろに鶏肉をまな板の上にどかんと置いて、びーっと皮を剥いた。

「ナミさんそんな冬嫌いだったっけ」
「ううん、むしろ好きだけど。雪とか、食べ物もおいしいし」
「おれもわりと冬島好きだなあ」
「冬が嫌なんじゃなくて、春が名残惜しくて」
「あーそりゃわかるかもしんねえ」

薄手のコートが腰のあたりでぴらぴらと揺れる。
どんよりとした曇り空は霞かかって、生暖かいのに時折肌寒い風が髪に絡まる。
ぼんやりとした淡い空気の色に、いつのまにか頭のネジを抜き取られて狂いそうになる季節。

「なんか一線超えそうな気にならねえ? 春って」

不意にサンジくんがそんなことを言うのでどきりとした。
なにそれと言うと、いやあと彼もよくわからないと言いたげだ。

「なんか知らねぇうちにやばいことしちまいそう」
「……それって季節関係ある?」
「あるある、薄気味わりーような、でもちょっと気持ちいいみたいな暖かさなんだよな」

わかる。
そう言う代わりに残りのスープを飲み干した。
底には緑色の澱のようなものが溜まっていた。
それを見つめて、私は想像する。
サンジくんの筋張った手が鍋にどぷりと浸かる。
薄緑色の膜が張り付いたその手でポタージュをぐるぐるとかき混ぜて、引き上げた指先からそれがぼたぼたと滴るところを。

「一線って、なんの?」
「え?」

サンジくんは緩く笑った口元のまま振り返った。

「なんの一線を越えるの?」
「知りたい?」

サンジくんの手は薄緑色には染まっておらず、代わりに生肉の脂でてらてらと光っていた。
「知りたい?」と彼は微笑んだままもう一度訊く。
私はわずかに首を動かしたけど、頷いたのか首を振ったのか自分でもわからなかった。

「あとでね」

サンジくんは大きな音を立てて水を流し、手を洗った。
夕飯であのポタージュをみんなが飲むのだと思うと、このやりとりまで他の誰かの喉を通るように思われて落ち着かない気になった。
あとでっていつだろう。
執拗なほど長く手を洗う彼の背中をじりじりと見つめながら、ずっとそんなことを考えていた。

拍手[27回]


引っ越してから家のネット環境を整えてなくて、色々オタ活するのにきゅうきゅうしてるんですが、
実際ここんとこしばらくスンと萌え欲落ち着いててツイやら支部やらも見ずに粛々と生きてました。

サンジ誕の話支部に上げな…とか思いつつ、でもパソコン使えないしスマホでちまちますんのもなーと思って手をつけていない。
この記事はスマホでちまちま書いてるんですが。

でも3月前半引っ越しすんだらストンと私生活落ち着いてて仕事も年度末の割に落ち着いてて2月死にそう(当社比)だったのなんだったの…と思いつつのんびりやってます。





ところでどっこい教科書に載ってる小説ってすごいすきで、小中高の頃読んだ話を今になって探して全部読んだりするのがすごいたのしいと思うの。
江國香織さんの草之氶の話とか、
重松清さんの逆上がりの神様とかおそらく中学の時試験や模試で出会ってたったの数ページで恋に落ちた。
大学生の時くらいにやっと全部読めたんだったかなあ。
あと高校か中学の模試で出会った風立ちぬ、主人公たちが病室で話してるシーンが問題になっててあれもすきだった。

そういうことで、教科書に載せたいサンナミ小説。

意味がなくて、なんとなく文学的な匂いがするようなキナ臭いようなふわふわした話がいいと思う。


茫洋とした水平線を眺めていたら、どこかから、あの水っぽい梨の香りがした。
船の上では珍しい新鮮な香りで、気のせいかしらと思いつつ何気なしにナミは振り返った。
ちょうど山盛りの梨の籠を抱えたサンジが、キッチンから出てきたところだった。図らずも視線がかちあう。
「ナミさん」
条件反射みたいに微笑んだ男に、かすかに眉を動かして答える。
「梨? 珍しいわね」
「昨日の寄港で仕入れといた。さっき味見したけどうめーよ」
サンジが一歩ずつ近づくたびに、梨の青い香りが濃くなる。
後ずさりたい気持ちをこらえて、「いいわね」と気のない返事をした。
「食わね? ナミさん」
奴らにゃ内緒、と言ったサンジはナミの返事も聞かずに籠から1つを手に取る。
サンジの手にはずいぶん余る小ささだと思った。
サンジは重たそうな籠を側の小さな白の丸テーブルに置くと、籠からフルーツナイフを取り出してさくさくと皮を剥き始めた。
あっという間だった。鼻唄をうたう暇もない早さで、梨はつるんと丸裸になっていた。
「はい」
サンジが差し出した丸ごとの梨は、薄黄色くつやつやと光っていた。
それを持つサンジの指を、甘い汁が一筋流れていた。



問1. 「茫洋」の読みを答えよ。
問2.下線部について、なぜナミは後ずさりたい気持ちだったのか、考えて答えよ。(文字数無制限)



良かったら答えてください。
そんで教えて欲しい。


あーたのしい!


調子に乗りまして。
次は教科書に載せたいゾロビン小説short ver.


彼と話していると、透明の玉を磨いているような気分になる。
完璧な丸を描いたその表面を、乾いた布でなめらかに磨き続けるみたいに、私たちの会話は進む。
透明なのに向こう側は見通せない、完璧な球体。
きっとそれは、触るとひんやりと冷たいのだ。
「なに笑ってんだ」
怪訝そうな顔は、見慣れてなければ不機嫌に見える。
「べつに」と答えながら思わず笑ってしまったら、今度ははっきりと不機嫌な顔になった。
彼は自分にわからない方法で何かを伝えられるのを嫌がる。
わからないからはっきり言えとすぐに求める。
私と話をしていると始終そんなことばかりだろうに、彼はそれでも私のそばにいた。




問1. 下線部「透明の玉」とは何を表しているか。考えて答えよ。(文字数無制限)



良かったら答えてください。


これらもし答えてくれる人が数名いたら解答集とか作ると面白そう。


ちなみに文章は思いつきの即興なのでほんっっとに意味はないです。
答えとか私も知らない。





ところでどっこいどっこい、
オフ本の本文脱稿しまして、あと表紙と本文の形式微調整だけなんだけどそこはさすがにネットないと厳しくて立ち往生してます。
表紙できたら目次とサンプルと一緒にあげられたらなーと思います。
ネット開通は4月の予定。

タイトル(仮):歩幅の ちいさな アルペジオ

全270ページの文庫本です。
どうぞよろしくおねがいしまーーす。
情報は追ってまた。


拍手[6回]

朝起きるともう、彼女はいなかった。
スプリングの効いたソファからもそりと身を起こし、遮光カーテンの隙間から漏れる朝日の筋をぼんやりと眺める。
それだけで彼女が出て行ったのだとわかった。

狭いスペースに体を無理に収めていたせいで、腰と肩がギシギシと軋む。
腰に手を当ててひねると嫌な音が鳴った。
スリッパに足を突っ込むと、冷たさに体が震える。
三月の朝はほのかに温かく、しかし部屋に残った冷気は容赦がない。
長方形の小さなガラステーブルに昨夜のマグカップが残っている。
片手の指に引っ掛けるように掬い上げ、キッチンへ向かった。





「あんまり遅いから心配したよ」

ラスターをこなして帰ってきたおれよりもさらに遅く帰ってきた彼女の背中に、つい非難がましい声をかけた。
編み上げブーツの紐を解いていた彼女は、しこたま飲んだのだろうにけろっとした顔で、「あれ、メールしなかったっけー?」と顔も上げず言った。

「届いてねェぜ」
「あーごめん、じゃあ忘れてたわ」

よいしょ、と可愛らしい掛け声で立ち上がった彼女は慰めるようにおれの肩をぽんとひとつ叩いて、横を通り過ぎた。
そのまま一直線にキッチンへ向かい、水色のアラベスク模様が綺麗なお気に入りのマグカップに水を汲んで、コートも脱がずにがぶりと飲み干していた。
彼女が放り出したカバンがソファを陣取っていたのでそれを脇にどけて座る。
飲みかけのワインに栓をしようと手を伸ばすと、目を留めた彼女が「私も飲むー」と言って寄ってきた。

「ナミさんはもう相当飲んだろ。おれももう飲まねェから栓するよ」
「やだ、のむ」

そう言って彼女はずいとマグカップを差し出した。
水を飲んでいたのと同じものだ。

「酔ってんの?」
「はぁ? 酔ってないわよ。いいじゃない、毒を持って毒を制すのよ」
「はあ」

けらけらと笑う彼女はやはり少し酔っている。
楽しい飲み会だったようでなによりだが、どこか蚊帳の外にされたようなつまらない気分が胸に広がる。
彼女はおれからボトルを奪うと、自分でマグカップに注いでしまった。

「あーあー、せめてワイングラス出そうぜ」
「いいのよ家なんだから。グラスでもマグカップでも変わんないわ」
「確かに安いやつだけどさ」

グラスはワインを美味しくするし、香りも変える。
ただし今そんなつまらないことを言ったところで彼女は聞きやしないだろう。
マグカップに半分くらい注いだワインを、ナミさんは呷るように喉を鳴らして飲んだ。

「誰かに送ってもらったのかい」
「んー? 終電間に合ったから駅から歩いて帰ってきたわよ」
「え、まさか一人?」
「んもうサンジくんうるさい」
「ダメじゃねぇか、連絡してくれたら迎えに行ったのに」
「だってサンジくんも仕事終わったばっかじゃない。それにたかだか10分くらいへーきよ」
「危ねぇから連絡してくれって前も言ったろ、頼むから」
「んもうサンジくんうるさい」

二度目のうるさいをいただいて、カチンときた。
それ以上に彼女が帰ってくるまでの心労と呆れが濃いため息になって零れた。

「──心配してんだろ」

乱暴にソファにもたれかかってそう言うと、彼女は目のふちを赤くしたまま仁王立ちでおれを睨み、見下ろした。

「なによ、ちょっと遅くなっただけでしょ」
「それはいいんだって、ただ連絡」
「だからもう謝ったじゃない。いつまでもしつこいわね」

言葉を失って黙り込む。失意のせいではないことを、彼女はおれの顔を見てきちんと読み取った。
眉を吊り上げて彼女は続ける。

「別にいつも迎えに来てもらってるわけじゃないし。一人で帰るときもあるもん」
「その度におれは連絡してくれって再三言ってるけどな」
「たかが10分程度の夜道でしかも住宅街! なにが起こるってのよ」
「さあ」

たった一杯飲んだだけのワインが今更回ってきた。
彼女との応酬が若干ものくさくなってきて、投げやりな言葉を返す。
さあってなによ! と彼女は激昂する。
ああ怒ってる、怒らせた──と思いつつ、いつものように丁寧に彼女の心を掬って持ち上げてあげることができない。
優しくなれない自分に信じられないような思いを抱く反面、まあいいやと顔を背ける心がある。
面倒くさそうに口を閉ざしたおれに、ついには彼女も黙り込んだ。
深夜を刻む針の音が響く。アパートの外を通り過ぎるバイクの音が夜を引き裂く。
バイクが行き過ぎると、観葉植物の呼吸まで聞こえそうなほど静かになった。

彼女はきびすを返し、浴室へひたひたと歩いて行った。
そのままリビングには戻らず、しばらくすると寝室の扉が閉まる音がした。
胸にくすぶったものとかすかな頭痛をそのままに、ソファに背中から沈む。
目を閉じると彼女の怒った顔と笑った顔が交互に思い出された。





ワインの染みが赤黒く残ったマグカップを丁寧に洗う。
冷たい水ですぐに手の感覚がなくなった。
無心で手を動かしているうちに、身体はいつものルートを辿る。
気付いたらコーヒー豆をごりごりと挽いていた。
淹れるまえの豆の、新鮮で青臭い香りがかすかに広がる。
休日の朝はよくこうしてゆっくりコーヒーを淹れていた。
忙しい朝はもちろんインスタントだ。彼女がそれでいいと言った。
豆を挽くのはおれの役目だ。
豆の引っ掛かりを取りながら上手く回すのは少しコツがいる。
がるがるがるとリズムよく手を回していると、がるがるがりっと手が止まる。
おれは少し手の力を緩め、ミルを支える反対の手を撫でさするように少し動かしてからまたハンドルを回す。
すると簡単にまた、がるがるがるとハンドルが小気味よく回り始めるのだ。
彼女が豆を挽くと、引っ掛かったとき力任せにハンドルを引っ張ったり、ミルを机の角にぶつけてみたりと試行錯誤する姿が可愛くて、いつも笑ってしまう。

引いた粉をフィルターに落とし、水を入れてスイッチを入れた。
オレンジ色の灯りがともり、しばらくするとフスフスと音をたてはじめた。

朝めし、と思いながらキッチンカウンターを見渡した。
馬鹿でかいビニール袋の中に、食パンが2枚、しなっと力なく倒れている。
袋が馬鹿でかいのは、食パンを二斤まるごと買ったからだ。
二斤と言うと、あの、スーパーとかで売っているサイズがふたつ横にくっついた長さだ。
食パンの美味いブーランジェリーがあると彼女がどこかから聞いてきて、しかしそこは朝一で並ばないと途端に売り切れるとの情報で、ならば休みの日にと二人で朝の6時半から買いに行った。
自転車で、彼女を後ろに乗せて。
二月の冷たい朝の空気をぶった切るように、通勤中のサラリーマンを追い越して、家の前を掃くばーさんのスカートを巻き上げて、坂道を下った。
スピードを上げれば上げるほど彼女は嬉しそうに声をあげた。
調子に乗りすぎると、後頭部を殴られた。

目当てのパンを無事に買い、帰りはパンを抱きしめる彼女を乗せて坂道を上る。
必死の形相でペダルをこぐおれを、彼女は口をあけて笑った。
ほらー、がんばれー、と口先だけの応援をして、自分は腕に抱えた温かな食パンの焼きたての香りを吸い込み、しあわせそうな息をついていた。

パンは思わず取り落としそうになるほど美味かった。
トーストにして、シンプルに何もつけず食べたのだが、驚くほどきめが細かく焼いた表面は香ばしく、練り込んである生クリームの味がしつこくなくて美味かった。
「ウマッ」と「おいっし!」というふたりの声が重なる。
丸くした目を合わせると、ふたりとも次の瞬間には黙ってばくばくと食べ始めた。
おれが二枚目をトースターに乗せていると、彼女は「私もー」と言って、おれのパンの横にねじ込むように自分のそれを並べたのだった。

いつのまにか最後の2枚となっている。
普通の一枚と、片面が耳になっている一枚。耳になっている方をトーストした。
淹れたコーヒーをカップに移し、軽く焼き色を付けたトーストを皿に乗せる。
ダイニングテーブルに置きっぱなしの食卓塩をぼんやりと眺めながら、トーストをかじった。

え? と思い、一口かじったトーストを思わずまじまじと眺めた。
もう一口、大きめにかじってみる。
美味くない。
むしろ不味い。
こんな味だったっけ、と思いながら口の中のものを咀嚼してコーヒーで流し込んだ。

焼いた表面は口に刺さって痛いし、きめ細かいパン生地はもっちりとしたかみごたえがない。
二斤を食べきる前に湿気でやられたのだろうかと思いながら食べ続けていたが、向かい合ったイスの背を見ながら口を動かしているうちに、次第と腹が立ってきて、ついには食いかけのトーストを皿の上に放り出した。

なんだこれは。
なんだおれは。

淹れたてのコーヒーの、黒い水面に窓が写る。
白い光がダイニングを照らす。
こまごまと物の多いキッチンカウンターで小さな葉をたくさんつけたシュガーパインが、風もないのにほのかに長い茎を揺らしている。


コーヒーは苦く、トーストは不味く、彼女は出ていった。
おれたちの家を出ていった。


「ナミさん」

声はどこでもない場所に瞬く間に収納される。一瞬で吸い込まれていった。
身体のど真ん中にあるなにかおれを支える大事な部分が、すこんと抜き取られるのを感じた。

ナミさん。


乱暴に椅子を引き、食いかけのトーストが乗った皿をシンクまで連行する。
「クソが」と悪態をつきながら三角コーナーに向かって腕を突き出した。
しかし直前で手が止まり、結局は皿が割れる勢いでカウンターにトーストを放り投げた。
安物のプラスチックの皿からトーストは呆気なく浮かび上がり、カランと軽い音が響く。

彼女のいないこの部屋に、美味いものなどなにひとつない。
なにひとつ。

もう一言クソと吐き出して、弾かれたように踵を返した。
アパートの鍵をひっつかみ、玄関へ続く扉を叩き割る勢いで開け、部屋を飛び出した。

胸の真ん中に、何かがぶちあたった。

「キャア、いったぁ!」

やわらかく跳ね返ったそれは、鼻の頭を押さえておれを睨みあげた。

「ちょっと! 危ないでしょ、そんな走り出してきたら! 朝っぱらからなに慌ててんのよ!」
「な、ナミさ」
「……どこいくの?」

彼女は不審そうにおれを下から上まで眺め回した。
昨日の夜着替えた洗いざらしの部屋着。重力を無視した寝癖に、裸足の足は スリッパを履いている。
どこいくのよあんた、と彼女はもう一度聞いた。

「や……あれ? ナミさ……え?」
「寝ぼけてんの?」
「ちが……あれ、」

え、そうなの。おれは寝ぼけてたの。
そう聞き返したら、知らないわよ、と彼女は吹き出して、おれを押しのけて部屋に入っていった。
勢いを失ったおれは、すごすごと彼女の後に続く。

「あー寒かった。3月なのにこんなに寒いなんて。しかも遠い」
「ナミさんどこ行ってたの」
「これ」

マフラーを振り払うように解いた彼女は、長い髪を後ろに払いながら右手に提げたエコバッグをおれに差し出した。
思わず受け取るとずしりと重い。
底を支えるように手のひらで持ち上げると、生き物のように温かった。

「……パンだ。あそこの」
「そう。もうなくなりそうだったでしょ」
「一人で買いに行ってたのかい、あそこまで」
「そうよ、あんたの自転車漕いでね。あー寒かった」

言いながらナミさんはくるりと背を向けたが、すぐに、思い切ったようにまたこちらに顔を向けた。

「昨日はごめんなさい。心配させたのに、連絡もしないで」
「や……そりゃ昨日聞いたし、おれが」
「でもサンジくん怒ってた」

うつむいた彼女の声がほんの少し揺れる。

「怒ってたから」

ぎょっとして距離を詰めると、彼女の方からぶつかってきた。
怒ってなんかねぇさとすぐさま抱きしめると、彼女の髪からはまだ冬の朝の匂いがした。
鼻が鳴るのは寒さのせいだと言わんばかりに彼女は盛大に鼻をすすりあげ、おれの胸に頬をつけたまま、買ってきたのを食べると言う。

「一斤丸ごと、フレンチトーストにして。残りのもう一斤は、今晩食べるの」
「丸ごと!? そんで今日で食い切っちまう気!?」
「うん」

彼女はたまにわからないことを言う。
おれがわからないと言うとすごく怒る。

「──んじゃ、卵が4つはいるな。あとはちみつもあるだけぶち込んで甘くしよう」
「アイスも乗せたい」
「粉砂糖も散らすか」
「ベランダからミント取ってこなきゃ」
「豪勢だね」
「誕生日だから」

彼女が顔を上げる。

「誕生日だから」

形のいい唇を引き締めてわざとまじめくさった顔をしていたのが、次第にニヤニヤとした笑みが小さな顔いっぱいに広がった。

「誕生日だから、トーストはフレンチだし、アイスも乗るし、ミントも飾るのよ」
「──おれの誕生日だから」
「そう」
「君のために」
「私のために」

最高だ、と強く引き寄せる。
痛い痛いと嬉しそうな声が上がる。
おめでとう、と背中を叩かれて、ありがとう、と強く目を瞑った。

卵を割っていたら、彼女がなにこの食べかけ、とキッチンに放り出された食いかけのトーストを指差した。
笑ってごまかし、寂しく横たわったそれを口に詰め込んだ。



意味がなくても、理由がなくても、料理はできる。
人は食べる。おれは作る。
美味いかどうかは、彼女次第だ。



【Sanji Happy Birthday‼︎ 2016.3.2】



拍手[46回]

GLC5@東京ビッグサイト、いってまいりましたー。
人生二度目の同人誌即売会。
わかりやすくオフ沼に落ちハマり味を締めたタイプです。

今回サンナミスペはふたつだけども、なんだかたくさんミストの方々が来られる模様だったのですごーーく楽しみにしてた。

ところがどっこい前日の土曜は職場の女性陣と海女小屋に海鮮食べに行ったり温泉入ったりする予定で、迷った挙句海女小屋等々から直行で土曜の夜に東京へ向かうことに。
そらもう海辺って寒くて寒くて、石神さんっていう女性の願いが叶う神社があるんですがそこで焚かれてた焚き火に当たり続けたら猛烈にコートが煙臭くなってあひゃー隣の先の人ごめんちん、と思いながら新幹線に乗りました。

夜は相方んちに連絡もせず「とーめーてー」と突撃した。
ドアを開けてくれたのに、私の姿を認めた瞬間あいつドアを閉めよった。
面白くないから!そういうの面白くないから!

(この辺の話をイベントで話したら、網子さんがゾロペロぽい! と喜んでくださってなら書いてえええと何度もお願いしました)



当日。
呑気にも、虹色ジーンに出てた近所のパン屋に相方とパン買いに行っておうちで食べて、家を出たのが10:30。
到着11:40。
中に入れたのが12時過ぎ。
もうめーーーーっちゃ歩かされて、東の会場は初めてだからこんなに遠いのかと思ってたら、そうではなくなんかはやりの松関係かなにかでえらいこっちゃやったらしい。
わからん、終わった今でもなんであんな遠回りさせられたのかわからん。
しかし1人やったので黙々と歩き続けた。


会場はごちゃごちゃの様相を呈していて、はあはあこれこれ、すげー!と思いながらサンナミスペを探す。
ぐるっと回ったものの見つけられず、あれ? ときょろきょろした。
たくさんローやらドフィやらコラさんやら(コラさん3人ぐらいいて超弩級にかっこいい直視できない)のレイヤーさんがいて、目を奪われていたせいかもしれない。

やっとこさサンナミスペに到着して、こんにちはとお久しぶりですとおつかれさまですを言おうとした矢先、わあーーっとみなさんかおかしや差し入れをくださって、いやいや私が差し入れるほうだろ! と思いながらありがたく浚う様にいただいてしまった。
一般参加で来られてるのに同じく一般参加の私宛にお手紙いただいたりもしてすごい嬉しかったです。

サンナミスペでご挨拶が済んだら、今度はハイキューオンリーのRTS(何の略だろう)にスペを構えてる網子さんとさちさんの元へ。
そっからは、サンナミとハイキューを行ったり来たりして遊んでました。
お手伝いするぞー!と意気込んで行ったのに特にすることもなく始終ニヤニヤしてた。
荷物やコートをあっちこっちに置かせていただいてこの役立たず申し訳なさすぎる。
サンナミスペにやってきた方を捕まえて「サンナミすき!?サンナミすきですか!?」と訊く簡単なお仕事だった。

サンナミスペにはたっっくさんミストさんやってきて、以前のイベントや数年前のオフ会でお会いした人にも会えてサンナミ大盛況でした。
サンナミ好きな人こんなにいるんだね…とツイッターでわかってた以上のものをリアルに感じられてなんか感動するような。


なんかもうイベント自体はあっちゅーーーまに終わってしまってびっくりした。
気付いたら撤収作業が始まってて、なんか、なんかお手伝い………(終了)


この後はみなさんでぞろぞろアフターの予定で、しかしながら遠方の萌さんは当日の飛行機で帰られるとのことだったので、さちさんと羽田までお見送りに行った。
羽田初めてー! てか東京の空港初めてー! さらに国内線のりばって15年ぶりくらいかもー! と至極個人的な興奮を抱えて、にこにこお二人に着いて行った。
空港では時間待ちしながら、サンナミの尊さについて語る。

テーマ: ずっと元気に刺激ある毎日を送るために私たちには萌がいかに重要であるか


その後お別れが想像以上に寂しくて打ちひしがれる。
この、日常生活を維持しながらイベントに日帰り飛行機で参戦するパワーにほんっっと感服します。


さちさんとふたりで電車に乗って、アフター会場まで行きましたとさ。

アフターでのテーマは主に本誌のサンジについて。
妥当である。

私はめっきりコミック派むしろアニメ派なので、本誌のストーリーはまったく追ってなかったんだけどもプロのサンナミストたちは本誌の切り抜き冊子を用意してらして、イベント中スペースの後ろで予習させてもらった。



はああああああああああああ本誌やりおった



主に本誌の内容からだったんだけど、そこから今後の展開を推測したり過去の出来事を思い出しつつこれまた推測したり、びゃんびゃん意見が飛び交う非常に熱いアフターとなりました。
なんかもうそれ聞いてるだけで胸いっぱいになって、「ワンピース尊い……」とずっと思ってた。

その後誕生日特典でお店の人に写真撮っていただき(誕生日は1月生まれのサクミさんと私)、なんかきづいたらもらった写真に寄せ書きが始まってて「はい、こまつなちゃん!」みたいに渡されてはわわはわわ。
ありがとうございました、みなさんめちゃくちゃいい笑顔だ………


夜相方の家に帰り、本日のお宝を披露した。
特に見たくなさそうだったけど見せた。

(これ新刊、こっち再録!)
(再録ってなに?)
(再録は〜)
(なるほどわからん)
(見て!かわいい!スーパーかわいい!しぬ!)
(よかったね)
(見て!これエロいやつなん!見る!?見る!?)
(よかったね)
(見て!こっちもエロい小説!すき!めっちゃすき!読む!?読む!?)
(よかったね)



次の日の朝、普通に出勤する相方と一緒に家を出て、我が家まで帰りましたとさ。
その日のうちに所用で血圧測ったら、いつも上が100切るのにこの日は110とかで笑った。
リアルに身体へ影響が出ている。


そんなこんなでGLC5楽しく終わりました。
遊んでくださった方ありがとうございましたー!
次は9月にー! ってなんとなく話がまとまっていたので、自分が行けるかどうかはさておきすごく楽しみ。

拍手[8回]

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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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