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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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丸く輪になって座る芸術家たちは、私を含め、真ん中に置いたイベント会場のフロアマップを覗き込んだ。ロビンが下から支えるようにコーヒーカップを持ちながら言葉を添える。


「開場は11時。搬入も含めて8時には集まったほうがいいわね。配置はこの間相談した通りで問題はない?」


皆の首が縦に動く。それを確認して、またロビンが話を続けた。
このイベントの話し合いは私が加わる前から何度か話し合いの場が持たれていたようだ。
私にはわからない専門用語が飛び出すこともあったが、不安な気持ちにはならなかった。
一番初めに私のする仕事を、ロビンの口から聞いていたからかもしれない。


「ナミには作品の搬入と配置、開場後の受付をお願いするわ」


力仕事は男性陣に任せていいからとにっこり微笑みかけられると、ときめくような胸の高鳴りと安心感が同時に押し寄せて不思議な感覚がした。
「ナミはふだん家の仕事してっから、力仕事も平気だぜ」とウソップが余計なことを言う。
心強いわね、と微笑むロビンから、私ははにかみながら視線を外した。






サンジ君から電話があったのは、イベントを三日後に控えた夜だった。
ノジコが受話器を取り、「ナミ、サンジくん」と慣れた調子で私を呼ぶ。
ウソップに手渡されたイベント会場の地図を眺めて、当日の予習をしていた私はその声に手を滑らせ、いらぬところに蛍光マーカーを引いてしまう。
それでも、なんでもないふりを装って、ノジコから受話器を受け取った。
ノジコはさっさと立ち去ればいいのに、顔いっぱいにニヤニヤ笑いを張り付けて私の隣に立っている。
受話器に手のひらで蓋をして、何よと剣呑な視線を彼女に走らせるが、ノジコは意にも介さない。
仕方がなくノジコから背を向けて受話器を耳に当てた。


「もしもし」
「ナミさん久しぶり。今時間いい?」


もちろんと首を勢いよく振ったが、口では小さく「うん」と言う。
彼の声を聞くのは10日ぶりだ。


「前に言ってたバーのこと、覚えてる?」
「うん」
「今度の日曜の夜、そこ行かねェ?」


今日は木曜日だから、日曜は三日後。
ウソップたちのイベントがある日だ。
壁の方を向いて、苦みを堪えるような表情になった。


「ごめん、その日はちょっと」
「あ、まずかった?」


ウソップにイベントの手伝いを頼まれてて、と説明するとサンジ君は「ああ、あれか。そういやそんな時期だな」と知ったふうに笑った。
彼のようにこのあたりで絵心のある人なら知っているようなイベントらしいと、思い当たる。


「じゃあその日は打ち上げとか、あるかもなんだ」
「わかんないけど……イベントが18時までだから、それから片付けってなると」
「なるほど」


どうしよっかなー、と誰にともなく呟く声を聞きながら、私は彼を逃すまいとするかのように受話器を強く握りしめていた。
せっかく誘ってくれたのに、と暗い気持ちが胸の中を淀みのように広がる。


「じゃあさ、会場までおれ迎えに行くわ」
「え?」
「おれもバイトやらでさ、その日しかなかなか時間が取れねェんだ。だからナミさんの用事が──打ち上げのあとでもいい、終わったら迎えに行くよ」
「そ、れは」


だめ? おれと二軒目ってのはやっぱりキツイか、と苦笑が落ちる。
どうしようどうしようと、私はしがみつくみたいに目の前の壁に手をついた。
日曜しかないという彼の誘いを逃したら、次に会えるのはいつだろう。
来週、再来週──リビングの壁にぶら下がるカレンダーに視線を走らせて、私は数を数えた。
今週がいい、今週じゃなきゃ。

でも、迎えに来られたら困る。


「ううん、じゃあ待ち合わせしましょ」
「待ち合わせ?」
「打ち上げがあるかどうかや、それが何時に終わるか、当日電話する。いつものバス停まで行くから、そこで待ち合わせするの」
「え、おれ会場も知ってるし迎えに行くよ?」
「いい、いいの」


見えないと知りながら首を振り、食い気味に彼を遮る。
少しの驚きとともに言葉を呑んだ彼は、少し間を開けて「分かった」と言った。
いつの間にか壁に爪を立てていて、壁紙のかけらがポロリと爪の先から剥がれ落ちる。


「もし20時になってもナミさんから連絡来なけりゃ、おれからウソップに連絡してもいい?」
「うん、おねがい」


彼がいつもの笑顔でにっこり笑うのが、電話越しに伝わった。


「よかった、じゃあまた日曜に」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」


受話器を置くと、肺の奥に溜まっていた空気が逃げるように口から漏れた。
洩れたことで、自分が息を詰めていたのだと思い知る。
ほんの少し削ってしまった白い壁紙は、削っても白だったのでたいして目立たずほっとした。
思い出して後ろを振り返るが、いつの間にかノジコはリビングのソファに座って足の爪をいじっていた。
そこまで趣味の悪い姉ではないのだ。
ただ、すぐに「デートォ?」と私を見ることなくノジコが放った声に、私は眉根を寄せる。


「飲みに行くだけよ」
「へえ、あんたが夜に出かけるなんて珍しい」


私が答えずにいると、ノジコはちらりとキッチンに視線を走らせる素振りをして、言った。


「泊まりになるなら私に連絡しな」


一瞬目を丸める私に、ノジコがすかさず言う。


「私が黙って外泊したとき、ベルメールさんめちゃくちゃ怒ったでしょ」
「でも」
「ウソはつかないよ。上手いこと言っておいてあげる」


彼女特有の半分かすれたようなハスキーボイスは、冗談交じりの口調でそう言った。
私が返事をしないでいると、キッチンから「どっちか、さっさとお風呂入っちゃってー!」というベルメールさんの声が、上機嫌な猫が駆けてくるみたいに飛んできた。





イベント当日の日曜は、あいにくの雨だった。
梅雨らしく、ぐずぐずと細かい粒が朝から止まずに振り続けている。
ベルメールさんがみかん畑に出かけるより少し早く家を出た。
ノジコのお下がりの腕時計を確かめると、時刻は朝7時少し前。
高校生だった頃から使っている古い──よく言えばお気に入りの傘をさして、ぬかるみを避けながら慎重に丘を下った。
丘のふもとのバス停から、イベント会場である文化会館までバスで一本で行ける。
天候を考慮して早く家を出たこともあり、予定より一本早いバスに乗ることができた。
バスの中は眠たげな顔で朝練に向かうらしい中高生がちらほらと、おばあさんがひとりひっそりと目を閉じて椅子に座っている。
私は右奥の席に腰かけ、到着までの25分ほど、ずっと窓の外を見ていた。


会場の関係者入口前に8時集合の予定が、私は20分も早く着いた。
にもかかわらず私より早く到着する人影があることに気付いて、一瞬だけど足が止まった。
身体の線が細くしなるように動くのはロビンだ。
そしてもうひとり、ロビンの隣にいるととても背が小さく見えてしまう人がいる。
打ち合わせの時もよく目立っていた、ピンク色の髪をしたとんでもなくガーリーな女の子だ。
ロビンと彼女は特に話をしているわけでもなく、入り口前に佇んでいた。
私に気付いたピンク髪の彼女が顔を上げると、ロビンも気付いてやわらかく微笑んだ。


「おはよう、早いわね」
「雨だったから」


思い出したように「おはようございます」と付け加える。
ピンク髪の彼女が「よう」と思いがけず男らしい挨拶をしてくれたので、私は目を丸めてしまう。
次第にぽつぽつとイベント参加者たちが集まり始め、8時ぎりぎりにウソップがやってきて全員がそろった。
それぞれが控室に荷物を預け、輪になる。
ロビンは始終嬉しそうにしながら、彼らを見渡した。


「それじゃあ打ち合わせ通り。作品は資料室に保管してあるから、割り振り通りよろしくね」


がんばりましょ、という彼女の声で、参加者たちはわらわらと会場に散って行った。
去り際にウソップがぽんと私の肩を叩く。
よぉ、だとか、がんばろうぜ、だとか、そんな意味だと思う。
さて私も、と聞いていた通り動こうとしたところで、ロビンが「ナミ」と呼んだ。


「搬出の手伝いが終わったら、またここに戻ってきてくれる? 受付のやり方を説明するわ」
「あ、はい」


頷いてから踵を返した彼女の背中を見送っていると、「ナミぃー!」と苦しげなウソップの声が資料室の方から聞こえてきた。
両手に大きな額縁を抱えたウソップが肩でドアを押さえながら「ヘルプヘルプ」と呻いているので、私は慌てて駆け寄った。


十数人の作品をすべて所定の位置に納め、配置に間違いがないかを確認したり「順路」の矢印を記した看板を設置したりしていたら、ゆうに1時間は過ぎた。
こういうのって前日やもっと前から設置しておくものなのかと思ったが、それをウソップに言ったら、有名な展覧会やらはもちろんそうするが、こういった小さなイベントでは一日しか会場を借りることができないので当日準備するしかないのだとわざとらしい苦い顔で答えられた。
それにしてはウソップも他の参加者も、イキイキと動いて見える。

作業がひと段落ついたときにちらりと時計に目を走らせて、終わりまでの時間を逆算した。
夜の予定を、サンジ君を思い出して胸の中がふわっと浮かぶ感覚は悪くなかった。
ロビンのところに行ってくる、と周りの仲間に言い置いてその場を抜け出し、入り口のあたりに向かった。
長身をゆったりと壁に預けるようにして、ロビンは手元の資料を読んでいた。
私が声をかけるとぱっと顔を上げ、「おつかれさま」と屈託なく笑う。


「まずは受付の机を運ぶの、手伝ってくれる?」


そういうロビンのあとについて、会場の倉庫から長机を一つ、ふたりで両端を持って運んだ。
段差に気を付けて、とロビンの気遣いは余すことなく発揮される。
それからパイプ椅子を二つ運び出し、簡易受付を設置した。
空き箱を机の上に置いて、これが入場券入れ、これがパンフレット、と丁寧に説明してくれる。
招待状を出したお客さんには御礼を、参加者の誰かに言伝があれば名前を聞いておいて、などの言葉にうなずきながら説明を頭に叩き込む。
ロビンはカーディガンの袖をちらりとめくって、腕時計を確認した。


「もうすぐね。それじゃあナミ、よろしく」
「はい」


私は受付の椅子に腰を下ろす。
ロビンはそのまま奥へ引っ込むのかと思いきや、じっと私の顔を見つめていた。
ぱちぱちと目をしばたかせて彼女を見つめ返す私に、ロビンは少し考えて口を開いた。


「ずっと考えていたのだけど、どこかで会ったことあるのかしら」
「え?」


どんっと不可解にも心臓が跳ねた。
ロビンは私の目の奥の方を覗き込むみたいにして、首をかしげる。


「打ち合わせのときもそうだけど──あなたがまるで私のことを見たことあるみたいな顔をしていたから。でも、ごめんなさい、私の方は覚えがなくて……」


申し訳なさそうに照れ笑いをするロビンは、10代の少女のようだ。
彼女に見られると、自分がどんどん透明になってあけすけにされてしまうような気がした。
そんなふうにして、きっと私がロビンを見てサンジ君の絵を思い出して戸惑ってしまったことに気付いたのだろう。
アーモンドのように形のいい目が、「どう?」というように柔らかく弧を描いた。
やっとのことで、私は首を振る。


「ううん、初めましてなの。ごめんなさい、馴れ馴れしかったかも」


ロビンは慌てて首を振った。


「あら、そんな意味じゃないの。なら私の勘違いね、こっちこそごめんなさい」


じゃあよろしくね、と言い置いてロビンは私を残して控室の方へと歩いて行った。
するどい、と思ったが、すぐに違うなと感じた。
するどいんじゃなくて、まるでなんでもわかってるのよ、というみたいな目で彼女は私を見るのだ。
きっと私だけじゃなく、サンジ君のことも。
彼がロビンを描いたとき、サンジ君はモデルの彼女を見つめていたはずだ。
そのときロビンも、彼を見つめ返したりしたのだろうか。
そんなことを考えていたら開場の時間がやってきて、自動ドアが開くと共にチケットを持った入場者がぽつぽつと現れ始めた。

始めは手間取っていた受付作業も、一時間もすればスムーズに行えるようになった。
作品を展示している参加者たちは、シフト制で会場をうろついて解説にまわっている。
受付担当なのは私だけで、ずっとひとり椅子に座って閑散とした文化会館の廊下を眺めているのは思いのほかつらかった。
いつも畑でうろうろと仕事をしているぶん、じっとしているのが慣れないのだ。
入場者のほとんどが参加者の知り合いで、お愛想というか義理というか、そういうもので仕方なく見に来たのだという雰囲気をぷんぷん出している人もいれば、誰々の展示はどの辺にあるのかと尋ねてくるような人もいた。
12時を過ぎた頃、会館の廊下をぶらつく人影が目につき、思わず目を丸くした。
その男は受付という文字と私を見つけると、「なんだ」という顔をしてずいずいとこちらへ寄って来た。
彼とはルフィが引っ越してから、荷物を渡しに行ったときなど、あれから何度も顔を合わせている。


「ゾロ、あんたなんでこんなところに」
「これ見に来たに決まってんだろ」


そういって「ん」と彼の手には余るチケットを私の目の前に突き出した。
握りしめて皺のついた紙切れを受け取ると、確かにそれはこのイベントのチケットだ。
愛想のない顔を見上げて、私はあっけにとられて言う。


「ひとりで、わざわざ? あんたこういうのに興味あったの?」
「興味はねェ」


ずっこけそうなほどはっきりした物言いに、ため息もでない。
ゾロはきょろきょろと辺りに視線を走らせた。


「なに、誰か探してるの? そういえばあんたこのチケット誰にもらったの」
「るせェ、入るぜ」


ゾロは私の言葉を一蹴して、図々しく肩をそびやかして会場に入っていった。
なんなのよ、とゾロの背中を見送って、中で迷ってしまえと声に出さずに悪態をついた。

13時ごろ、参加者の一人が受付の交代を申し出てくれたので、ありがたく代わってもらった。
1時間の休憩をもらい、近くのコンビニに昼食を買いに行く。
外はまだ雨雲が垂れこめていたが、束の間の小康状態を保っているように雨は降っていなかった。
会場は夏を先取りしたように薄らと冷房が効いていて、足が少し冷えていたので温かいスープとおにぎり、それに紅茶のペットボトルを買って控室に戻った。
長机が二つ置いてあるだけの小さな会議室の中には所狭しと十数人の荷物が床に放置されているので、足の踏み場がない程だ。
控室には2人の参加者が昼休憩を取っていて、私に「お疲れさま」と声をかけてくれる。
いくつなの、仕事は、と彼らから飛んでくる質問に答えながら、私はコンビニで温めてきたスープのふたを開ける。
平凡なコンソメスープに何種類かの野菜が細かく浮かんでいて、私はちまちまとそれらをすくっては口に運んだ。


「そういえば、ナミちゃんも来る?」


不意にかけられた声に首をかしげると、もうひとりが「今日の打ち上げ」と言葉を添える。


「やっぱりあるんだ」
「うん、毎回駅前のどこかの店で適当にやってるな。二次会もあるんだけどそれはまぁ自由参加というか、行きたいやつは勝手に行けって感じなんだけど」


一次会だけでもおいでよ、と彼らは快く誘ってくれた。


「今日って、片づけまで全部終わるのは何時ごろになるの」
「20時までにきれいさっぱり片付いたら上出来ってとこかな」
「今日はナミちゃんもいるし、もっと早く終わるかも」


プレッシャーを与えるようなこと言わないで、と笑いながらおにぎりをほおばった。


14時少し前にトイレで軽くお化粧を直して、受付に戻る途中でばったりウソップに出くわした。
よう、と変わらず陽気に彼は片手をあげる。


「受付嬢、調子はどうよ」
「へーき。お客さん少ないもん」
「っが、はっきり言うなよー!」


おおげさに傷ついた顔をして、ウソップは身をよじる。


「ウソップは今日の打ち上げ、行くんでしょ?」
「もちろん、おれが幹事だもんよ。てかお前も数に入ってるぜ」


えっと声をあげると、ウソップは丸い目をぱちくりとまたたいた。


「あれ、だめだった? おれぁてっきり行くもんだと」
「ううん、行く」


ほっと息をついたのを隠すように、ウソップは声を張り上げて「っだよなー!」とからから笑った。


「そうだ、ちょっと携帯貸してくれない?」
「おう、いいぜ。家?」
「ううん、ちょっと」


ポケットからあっさり取り出した携帯を、私の手にぽんと置く。
ありがと、と拝む素振りをして少し彼から離れた。
すっかり覚えてしまった番号をプッシュして、電話を耳に押し当てる。
4コール目で呼び出し音が途切れて、「んだよ」と私が知るより低い声が聞こえた。


「もしもし、私、ナミ」
「ぅえっ? あれ? ナミさん?」
「ごめん、ウソップに携帯借りたの」
「あ、そうなんだ」


苦笑を噛み潰すみたいに小さく笑う、サンジ君の声に私はまた視界が狭まるのを感じる。


「今日、打ち上げあるみたい。早くて片付けが20時までに終わって、それから飲みに行ったら22時前になりそう」
「ああ、オッケーオッケー。ナミさんが遅くて構わないなら、22時に迎えに行くよ。駅前でいい?」


やっぱり彼は、イベントに出たこともあるのだろう。
うん、と私は頷く。


「少し早目に抜けるわ」
「嬉しいけど、おれのことは気にしなくていいぜ。楽しんで」


ありがとう、と言う私に、それじゃあと彼は電話を切った。
廊下の壁にもたれて髪の毛を触っているウソップに、お礼と共に電話を返す。
ハイハイと鼻唄交じりに電話を受け取って、そのままウソップはもとあったポケットに携帯を仕舞い込んだ。
それからすぐにじゃあなとウソップとは別れ、私はまた受付へと戻った。
暇そうにパイプ椅子に腰かけた参加者に礼を告げ、受付を交代する。
のんびりとしたお昼過ぎの空気は梅雨のせいですこし湿り気をおびて、ゆっくりと重たく流れているように感じた。
私がお昼休憩の間に帰ってしまったのだろう、ゾロが出てくるのを見ることはなかった。

17時頃までそのまま座りっぱなしだったが、参加者の一人が控室に差し入れがあるから少し休憩してきて、と受付を代わってくれたのでありがたく席を立った。
控室の扉を開けると、相変わらず荷物で埋まったそこに誰もおらず、机の上にお菓子の箱が3箱、開いた状態で置いてある。
それとこんぶ、うめ、おかか、とシールが貼られたおにぎりがころころとそのまま机の上にいくつか転がっていた。
お菓子の箱の上にメモ書きが置いてあり、『おかしは早い者勝ち、おにぎりは一人2つまで』と記してあった。
お腹は空いていなかったので、箱からマドレーヌをひとつつまみあげる。
お昼に買った紅茶と共に食べていたら、控室の扉が開いた。
ひょこっとウソップが顔だけ出して、私に目を留めるとまるでバツが悪いみたいな顔をしてそそくさと中に入って来た。
おつかれ、と声をかけても「あぁ」とか「まぁ」とか、様子がおかしい。


「どうしたの」
「や、おれも、休憩」
「あ、そう」


ウソップは机の上にさっと目を走らせて、ひょいひょいとおにぎりを二つ手に取って私の隣に腰を下ろした。
しかしすぐにおにぎりの包装を開けたりせず、手の中のそれらにじっと視線を落としている。
昼過ぎに話したときとは打って変わったウソップの様子に、私は気味悪さすら感じて「どうしたのよ」とマドレーヌのかけらを飲み込みながら言った。
ウソップはおにぎりの包装をぺりっとはがし、言う。


「わざとじゃねェんだけど、たまたま見ちまって」
「なにを?」


ウソップは私を見たが、視線が合うとすぐにそらし、それからたっぷり間をとって、決意したように一息で言った。


「さっき電話したの、サンジにだったんだな」


お前が打ち込んだ番号、おれの携帯に登録してあるから、と早口で言う。
ああそっか、そういうこともわかるんだよねと納得する一方で、ウソップがわざわざ私にそれを告げた意味や、言いにくそうにする彼の表情にわけもわからず不安な気持ちになる。


「今日、約束してんの?」
「うん。打ち上げのあと、迎えに来てくれる」
「そうか」


ウソップは落ち着きなく手元のおにぎりや目の前の壁に視線を行ったり来たりさせていたかと思えば、考え込むようにぴたりと視線を落として動かなくなった。
私は甘い紅茶で口を湿らしたが、甘さだけが舌に残ってちっとも味がしなかった。


「ナミ」


ゆっくりはっきり発音して、私を繋ぎとめようとするみたいにウソップは名前を呼んだ。


「サンジと、付き合ってたり、そういう感じの、アレにはなってんの?」
「別に……そういうわけじゃないけど」


妙に遠まわしのウソップの言葉は、不穏な空気を隠しもしない。
自然と私の声も低く重くなる。


「じゃあ、その、サンジのこと、好きだとかそういうのは」


答えないでいると肯定と受け取られる気がして、少しの間のあと口を開きかけたが、肯定してなにが間違ってるんだろうと気付くと言葉が出なくなった。
いつのまにかウソップは、まっすぐ私を見ていた。
その目がまるで突き放された犬みたいに哀しげでどきりとする。


「ナミ──サンジはやめとけ」


耳をふさぎたくても、顔を背けたくても、そうすればウソップを完全に突き放してしまうみたいな気がして──私が突き放される気がして、動けなかった。


「お前ほんとはわかってんだろ。サンジが、その……他にも、遊んだりしてること」


言葉を選びながら、慎重に慎重に私を掬い取ろうとするウソップの気持ちは胸にずどんとまっすぐ伝わった。
それでもその手に素直にすがることができず、私は黙りこくる。


「余計なお世話かもしんねェけどさ、おれはお前のこともサンジのことも、その、よく知ってっから」


ようやく私は「うん」と頷くことができた。
ウソップの肩がほんの少し緩むように下がった。
ウソップの言うことは、わかりたくないけどおのずと肌で感じるみたいに理解していた。言ってくれたのがウソップでなければ、私は「うるさい」「放っておいて」と即座に背を向けただろうことも容易く想像がついた。
それくらい後戻りができないところに来ていた。
戻りたくないとも思った。
だって、どうしてあんなふうに穏やかに笑うサンジ君のことを忘れることができるだろう。
私に笑いかけるその向こうに何人もの女の子がいたとしても、その時間だけは私だけのものになる。
私の目を見て、きちんと相槌を打って、面白い話も面白くない話も全部全部まるで夢みたいに彼の声で変わるのだ。
こんなふうに感じるのが私だけじゃないということが、棘のように足元に散らばってときおりつま先を傷つけるが、それがなんだというのだろう。


「無理やりとか、いますぐとか言うんじゃなくてさ。やっぱりおまえには、ちゃんとした人と上手くいってほしいっつーか」


もじゃもじゃの髪の中に手を突っ込んでもごもご喋るウソップに、私は「ありがとう」とだけ言った。
あからさまにほっとした顔でウソップは「おう」と照れたように笑った。
受付に戻り、閉場までの小一時間、私は開いたり閉じたりする自動ドアをぼんやり眺めて過ごした。


18時が過ぎ受付を閉じると、自然と参加者の口からわぁっと歓声が上がり、皆が伸びをするように両手を突き上げた。
おつかれさま、とロビンが皆をねぎらいながら寄り添うみたいに微笑む。


「それじゃあ切ないようだけど、さっさと片付けてしまいましょう。目標は19時半」


彼女の声でネジを巻き直されたみたいに、みんながてきぱきと動き始める。
私は彼らの指示を拾い集めながら、片づけに奔走した。

そうして会場の鍵を文化会館の管理人室に返しに行くことができたのは、19時半を少し過ぎた頃だった。
上出来ね、と満足そうにロビンが笑う。
「んじゃ」とウソップがハリのある声で耳目を集めた。


「打ち上げだー!!」
「それなんだけど」


おぉ、と盛り上がりかけたところに、ロビンの声が重なった。
綺麗な柳眉を下げて、ロビンが言う。


「とても申し訳ないのだけど、私今日はどうしても打ち上げに参加できなくて」


途端に「えぇー!!」と非難の声が上がる。
覚悟していたみたいにぐっとそれに耐え、ロビンはもう一度「ごめんなさい」としっかり頭を下げた。


「だからみんなで楽しんできて頂戴」
「それじゃ意味ねェって!」
「ロビンさんがいねェんじゃ」


口々に不平不満の声が上がり、ロビンは困ったように頬に手を当てる。
ざわめきが膨らみ始めた頃、それに針で穴をあけるみたいにパンと高らかに手が打ち鳴らされた。
ウソップだ。


「んじゃあ今日はこれで解散! ロビンが参加できる日に改めて打ち上げはしようぜ!」
「でも」
「みんながロビンがいねェとって言ってんだから、こうすんのが一番だ」


次第に場の空気が抜けるように落ち着きを取り戻し、そうだなと皆が口々に言い合う。


「はい、じゃあロビン締めのことばだけここでどうぞっ」
「えっ、じゃあ、みんな今日はおつかれさま。とても楽しかったわ。次も楽しみにしています」
「ハイかいさーん!!」


ロビンが締めたのかウソップが締めたのかわからないものの、その場は小気味よくみんなの「おつかれーっす」の声が重なってうまくひらけた。
わらわらと散っていく人々の中、ロビンが長身を縮めるようにしてウソップに手を合わせる。


「ありがとうウソップ。助かったわ」
「いいってことよ、その代わり次の幹事はロビンだぜ」


まかせて、というようにロビンが頷く。それからロビンはウソップの後ろにいた私に視線を滑らせて「ナミ、ありがとう」と言った。


「私は何も」
「あなたがいなかったら、こんなにスムーズに運営も片付けもできなかったから。当日券も全部捌いてくれたんでしょう?」
「家が商売やってっから、金の扱いは上手いんだ」


ウソップが余計な口をはさみ、ロビンが肩を揺らしてささめくように笑った。


ロビンが文化会館の管理人に礼を言ってくると管理人室に戻っていき、私は公衆電話を探して辺りを見渡した。
会館の外に街灯が小さく光っており、その下に緑色の箱が見える。
私がそこへ歩いて行こうとすると、「ナミ」と声がかかった。


「携帯使えよ」


真顔のようでいて、すねた子供のようにも見えるウソップは私に携帯を投げてよこした。
彼の顔をまっすぐ見ると、下方に視線を逸らされる。
それで、あぁ私はウソップの厚意を踏みつけて行こうとしていると実感する。


「──ありがと」
「家はいいのかよ」
「ノジコに言ってある」


駅まで送る、と言ってウソップは私に背を向けた。
携帯はサンジ君の番号を既に表示していて、ボタン一つで彼につながった。
早いね、と嬉しそうに聞こえる声で彼は笑う。
15分くらいで駅に着くと伝えると、南口の明るいところで待っててと言って電話は切れた。



拍手[12回]

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「あっ、待ってずるい!」
「……」
「ぎゃー!!ぶつかった!!」
「……」
「おっ、ほっ、くっ」


手汗で滑るコントローラーを必死で掴み、大画面を走るカートがコーナーを曲がるとアンの身体も傾いた。
青色のカートが悠然とゴールテープを切り、紙吹雪が舞い華々しいファンファーレが鳴り響いた。
テレビゲームの話である。
ふかふかのカーペットに胡坐をかいて座り込み、マルコの隣でアンはがっくりと首を垂れた。


「あぁ敗けた……」
「想像以上に下手くそだったよい」
「マルコやったことないってウソだ!」


涼しい顔でコントローラーを置いたマルコは「お前さんが下手くそすぎんだよい」と声を出さずに笑った。
くそう、と悔しさを隠しもせずに顔を歪ませ、アンはコントローラーを握り直す。


「もう一回! リベンジ!」
「まだやんのかよい……もう18時か」


マルコの視線を追いかけて、アンも柱時計を見遣る。
針は18時を少し回っていた。


「もうそんな時間……」
「腹減らねェかい」


厚手のカーテンの隙間から、もう光は届いてこない。
マルコがゲーム機本体のスイッチを切ると、薄型テレビの大画面はぷつんと一面黒くなった。
静かになった広い部屋に、暖炉で薪の爆ぜる音が少しずつ存在感を増してくる。
言われてみればおなかも空いていた。
「へった」と答えると、「何か用意するかよい」とマルコが立ち上がった。


「作る?」
「簡単にできるもんがあるだろい」


冷蔵庫へと歩くマルコの後に続く。マルコは冷凍室の扉を開けて中を覗いた。
冷蔵室と同じように、ここも食品でいっぱいだ。
レトルトのピザ、ピラフ、カレーのような手軽な冷凍の惣菜が多種多様に詰まっている。


「うわあ、すごいいっぱい」
「こんなもんでよけりゃ、あっためるかよい」


こんなもん、と言ってのけるマルコは冷凍ピザをつまみ出して裏面の注意書きを読み始めた。
開けっ放しの冷凍室から冷気が帯になって流れ出す。


「あたし作ろうか」
「あ?」
「冷凍じゃなくても、冷蔵庫にもいっぱい野菜や肉入れてもらってるよ」


ほら、と上の扉を開けると、マルコは中のものを一通り見てから難しい顔をした。


「あー、だが時間も手間もかかるだろい。ここまでしてお前に料理させんのも」
「あたしはいいよ、こんなに食材があるなら作り甲斐もあるし」


マルコが良ければ、と付け足すと「おれぁもちろん構わねェが」と渋みを残したような顔でマルコが答える。


「でもそのピザも食べたい。解凍しようよ」


ん、と浅く頷いて、マルコはおもむろにピザの包装を破り、中身を取り出した。
チーズとトマトだけのシンプルなやつだ。


「電子レンジかよい」
「あ、うん」


マルコは周りを見渡すと、キッチンの隅に備え付けられた電子レンジに向かって素直にピザを運んで行った。
レトルト食品、電子レンジ、夜ご飯の準備とマルコ。
似合わない組み合わせのオンパレードに、アンは浮かんできたにやけを笑いかみ殺す。


「何つくろっかな……」


笑いをごまかすようにつぶやきながら、とりあえずサラダかとレタスとトマト、キュウリを取り出す。
チーズも2,3種類あるのでサラダに使おう。


「マルコチーズ大丈夫だっけ」
「あぁ」


電子レンジのスイッチを入れたマルコは、ぶーんと動き出した機械の前で律儀に待つつもりのようだ。腕を組んで、オレンジの光に照らされて回るピザを睨んでいる。
マルコに食事を作ったことは、それこそ数えきれないくらいあるはずだ。
それでもあたしはこの人がチーズを好きか嫌いかどうかすら知らないんだなあと、なぜかそんなことが頭をよぎった。


「シチューが食いてェ」


ぽんと放り投げられるみたいにしてかけられた言葉は、聞き間違えかと思って、もう一度という意味でマルコを振り返った。
キッチンの作業台に背中をもたれかけさせて、相変わらず電子レンジから目を離さないままマルコはもう一度「シチューが食いてェ」と言った。


「……あの白いやつ?」
「他に何があるんだよい」
「や……ビーフシチューとか」


そんなことが言いたかったわけではないのに、口をついたのはホワイトかビーフかというどうでもいいことで、マルコは少し考えるように首をひねると「じゃあそっち」と答えた。

さいわいビーフシチューの具材になりそうな牛肉にニンジン玉ねぎじゃがいもも、調味料となるソースやブイヨンまでそろっていた。
それじゃいっちょ作るか、サラダは煮込んでいる間に作ればいいやとアンはパーカーの腕をまくった。
コテージのキッチンはアンの店と同じくらいのスペースにもかかわらず、なぜかとても動きやすい。
作業台が広く、冷蔵庫とコンロへの移動がしやすいのだ。
冷蔵庫にはステーキ用の大きな牛ヒレ肉が入っていたので、取り出してサイコロ状にカットして下味をつけた。
真っ白なまな板の上で野菜をひたすら切り刻み、いつもはサラダ油を使うところ、バターがあったのでバターを敷いた厚手の鍋で炒める。
肉も放り込み、香りが立ってくると電子レンジが完了を告げる音を立て、マルコがピザを取り出す。
湯気と共にほんわりチーズの香りが漂い、急激にお腹が空いてきた。
平たい皿にピザを載せると、マルコはおもむろにピザを引きちぎった。
そして四角とも三角とも言えない形のそれを、アンに差し出す。


「食うかよい」


切らないの、と尋ねる前に口が動いた。
目の前に垂れ下がったピザにためらいなく食いつく。


「あづっ」
「気を付けろい」


とろけたチーズが上唇に引っ付いて火傷しそうになりながらも、なんとかマルコの指からピザを口で受け取る。
唇についたチーズを拭ってから、マルコの指は遠ざかっていった。
そしてまたピザを引きちぎり、今度は自分の口に運ぶ。


「……行儀悪いな」
「たまにゃいいだろい」


くすりとも笑わずそう言って、マルコはまた冷凍庫へ向かい中を漁り始めた。
くちの中に残ったトマトの皮を飲み込んで、結構おいしいもんだなと思った。


野菜と肉を炒めた鍋に、水と固形ブイヨン、少しだけ赤ワインを入れる。
ワインはエントランスホールのカウンターに並んでいたものを拝借した。
アンがそれを取って来ると、マルコがほんの少し目を丸くして「飲むのかよい」というので笑った。


「違うよ、料理用」


少しがっかりしたように見えるのは気のせいか。

鍋を煮込んでいる間、空いているコンロでフライパンを火にかけ、バターで小麦粉を炒める。
ケチャップを使おうとしたら、常温の保存棚にトマト缶があったので、トマト缶をフライパンに流し入れる。
ソースと赤ワイン、ブイヨンのかけらを加えて木べらでぐるぐるしていると、とろみがついてきた。
同時にまったりとしたビーフシチュー独特の香りが、バターの甘い香りと絡まるようにして立ちのぼる。
煮込んだ鍋の方を覗くと肉と野菜にまだ少し火が通っていなかったので、サラダを作ることにした。

ふとおもいだして電子レンジの方をみやると、またマルコが何かを取り出している。
冷凍庫に入っている冷凍食品をあらいざらい解凍してしまうつもりらしい。
ピザの隣には、フライドポテトとピラフがほかほかと湯気を立てて並んでおり、あらたにマルコがチキンナゲットをラインナップに加えた。
次の獲物を探すためまた冷凍庫へと赴くマルコを見て、ついにアンが吹き出すとマルコは至極不可解と言いたげな顔で「なんだよい」と眉根をよせた。





ダイニングの長いテーブルに、鍋ごと置いたビーフシチュー、大皿のサラダ、そして中途半端に引きちぎられたピザに始まり、マルコが次々と解凍していった冷凍食品たちが大皿で並んだ。
ダイニングには籠に入ったパンが用意されており、バゲットを適当に切り分け並べる。
マルコがテーブルの長辺の角に座ったので、アンは短辺の角に座る。
こんなにも広いテーブルで向き合うのは物寂しいと思ってしまったのだ。
巨大な食器棚から手ごろな皿を取り出し、軽く洗ってからシチューをよそった。
中途半端なピザに刺激され、空腹は限界まで来ている。
いただきます! と元気にスプーンを手に取った。


「あーっ美味しい! 上出来!」


時短で作ったわりには美味しくできているシチューを口いっぱいに頬張って、アンは自分にグッジョブと親指を立てる。
マルコも大きな肉の塊を口に入れ、飲みこみながら「美味いよい」とほんの少し頬を緩めた。
コクだとか野菜のうまみだとか、言い出せばきりがないしもっとおいしく作ることのできる料理なのかもしれない。それでもこうして自分もマルコもおいしいと思えるものを作れたことが、じわじわと嬉しくなって温かい水のようにゆっくりと胸に広がった。

サラダのために適当に作ったドレッシングもわりとおいしくできた。
マルコが温めまくった冷凍食品たちも、種類豊富なだけあって飽きない。
ジャンクなそれらをアンはあれもこれもと食べ過ぎるほど食べた。
食べている間はどうしてもマルコの顔より料理の方を見てしまって、あれがおいしいこれもいける、と食べるものの感想ばかりを口にしていて会話らしい会話などなかった。
それでも綺麗に空になったいくつもの皿を前にして、なんて楽しい食事だったんだろうと満たされた気持ちになる。
マルコも最後にまたひとこと「美味かったよい」と静かに笑った。


あれだけ食べたにもかかわらず、アンが「さっぱりするものが食べたい」と呟くと、マルコが「フルーツあったろい」と冷蔵庫を顎で指し示す。
そうだった! と喜んで立ちあがったものの、急に不安になってそっとマルコを振り返る。


「今更……だけど、こんな食い荒らして本当にいいのかな……」
「いいもなにも」


マルコはアンが料理に使った赤ワインを手に取り、ボトルの口に鼻を近づけて言う。


「手つかずにしてみろ、お前今度はベイに南の島にでも連れてかれるぞい」


マルコは椅子を引くと、そのまま食器棚に手を伸ばして適当なグラスを取り出した。
ワイングラスもそろっているのにこだわりがないのか、取り出したそれに埃がないか確かめるとトクトクと注ぎだす。
つまりは、遠慮なくもらっちゃったほうがベイも喜ぶってことだよな。
マルコの言葉をそう解釈し、アンは冷蔵庫の中からきんと冷えたブドウを取り出した。
軽く洗って皿に盛る。
勝手にワインを楽しみ始めたマルコは、ぼんやりとボトルに張り付いたラベルを眺めていた。
急に静かになった。
そう思った途端、バタバタッと大きな物音がして肩が跳ねた。


「なっなに!?」
「雪だろい。屋根かベランダから落ちたんじゃねェかい」
「あ、雪……びっくりした」


急に何かが壁を叩いたように聞こえた。
突然の音に驚いたのも本当だけど、それよりもこの家に二人以外の誰かが来てしまったのかと思って、それをまるで反射のように「いやだ」と感じたのだ。

アンは席について、ブドウを口に運ぶ。
皮ごと食べられるやつだ、と少し渋みのある皮を噛んだ。
ぷちんと弾けた実は甘い。


「──映画でも見るかよい」


いつのまに、と思う程残り少なくなったワインボトルから最後の一杯をグラスに注ぎ、マルコがおもむろにそう言って立ち上がった。


「映画?」
「いっこずつ全部、じゃねェのかい」


テレビボードの前にしゃがみ込むと、マルコはごっそりと棚の中からDVDのケースを取り出した。
物色するように、一枚一枚を手に取ってタイトルを確かめている。


「好きなの選べよい」
「あ、あたし映画とかあんまりわかんない」
「じゃあどういうのがいい」
「ど、どういうのがあるの」


返事が返ってこないかと思えば、マルコは手に抱えたDVDを一枚ずつ床に置いて分類し始めた。


「……アクション、コメディ、ヒューマンドラマ、アニメ、ラブストーリー」
「マ、マルコのおすすめで」


するとマルコがげんなりした顔を上げた。


「選べよい。おれはなんでもいい」
「ずる……」


渋々立ち上がってマルコの隣にしゃがみ込み、分類されたDVDを一枚ずつ見ていく。
一枚、ジャケットで気になったのがあったのでそれを手に取る。


「ん」


貸せとマルコが手を出したので渡すと、テレビボードの中の機械にマルコはDVDを入れ、いくつかボタンをいじった。
シュンシュンと音を立てて四角い機械は起動し始める。
しゃがみこんだままそれを見つめていた。


「──あたし、家で映画見るの初めて」
「映画館には行くのかよい」
「ちっちゃいころね、マキノが連れてってくれた」


たしかあれは当時朝に連載していた戦隊アニメの映画だったと思う。
ルフィが見たい見たいとあんまり騒ぐので、サボがマキノに頼んだのだ。
内容は忘れた。
少しずつ暗くなっていく照明にわくわくしていたら、急に大きな音とともに目の前のスクリーンで映像が映り出したものだからとても驚いたのは覚えている。
ルフィがじっとしていなくて時折声をあげたり歓声を送ったりしていたが、確か小さな映画館で客がほとんどおらず、マキノは好きにさせてくれていた。


「なにが観たいとかじゃなくてさ」


マルコは画面を見上げ、三角形のついたボタンを押した。


「あの雰囲気っていうか、映画館のにおいとか、そんなに知らないはずなのに懐かしい気がするの」


マルコはアンにソファへ行くよう指で示し、自分はダイニングへと戻って行った。
アンは言われたとおりテレビ正面のソファへ座りダイニングのほうを振り仰ぐ。
マルコはスナックの袋のようなものを逆さに開けて、ざらざらと皿へ移していた。
それを手に戻ってくると、アンの膝の上にぽんとふちの丸い皿を置く。
なんの変哲もないポテトチップス。


「カウチポテト」
「カウチ?」
「厳密にゃ違うが」


テレビ画面では青色の雲に会社のロゴが映し出され、オープニングらしい音楽が流れていた。


「映画もいいんじゃねェかい」
「なにが?」
「街にも映画館はあるだろい」
「あるけど」


マルコの言わんとしていることをはかりかねて首をかしげると、「今度」と前を向いたままマルコが言った。


「行くかよい」
「……映画?」
「なにが観たいか選んどけ」


洞窟の奥みたいな狭苦しい所を、彫の深い顔の俳優が神妙な表情で進んでいく。
ほのかなライトに照らされてぼやっと映るその映像を流し見ながら、アンは小さな声で「うん」と言った。


「で、なんでこの映画選んだんだよい」
「ケースに載ってた俳優がサッチに似てた。あ、この人」


マルコは返事をせずに煙草に火を点け、机の上の灰皿を引き寄せた。
マルコが少し腰を浮かして、また座るたびにソファが浮き沈みする。
靴を脱いで両足をソファに乗せ、膝を立てているアンはそのたびに少しずつ、二人の間にできた隙間の方へ尻がすべっていく。


「……食べる?」


スナックの皿を差し出すと、マルコは口の端で煙草を噛んだまま首を振った。
煙草があるんだからそりゃそうか、とアンは無言の空間を埋めるように音を立ててスナックを口に運ぶ。
映画は、登場人物が地面をこするように歩く足音だけを響かせていた。





映画の内容に引き込まれるわけでもなく、かといって飽きることもなくそのまま1時間ほど画面を眺めていた。
主演の男(サッチに似ている彼だ)は探偵もしくはそれに似た捜査官で、昔悔恨を残した敵の悪党を追ってふたたび抗争が始まる、そんな内容だった。
奪い合う宝と人質になる女、突然起こる爆発と逃げ惑う人々。
ときどき夜にテレビで放送する映画と要素は一緒だな、とアンは指についた塩気を舐めとる。
ふぁあ、とあくびが漏れた。
ちらりと横に視線を滑らせると、マルコはソファのアームレストに肘をついて、退屈そうに目を細めていた。
一応テレビを見ているものの、何か考え事をしているのかもしれない。


「……マルコ?」
「飽きたかよい」


訊こうかと思っていたことを先に返されて、言葉が詰まる。
マルコは? と聞き返す。


「別に。しいていえばお前がサッチに似てるとか言いだすからそうにしか見えなくて落ち着かねェくらいだよい」


サッチ似の彼は、羽目を外して無茶をしたがる厄介な性格のせいで警察をやめた過去があり、ときどきおどけてみせる顔はますますサッチに似ていた。


「この映画有名? サッチ知ってるかな」
「さあ。随分古いだろい、これは」


言葉を落とすように、突然マルコが立ち上がった。
そのまま廊下の奥へと消えて行ったので、トイレかな、とアンは画面に視線を戻した。
シーンはサッチ(に似た主役)とヒロインのロマンティックなキスシーンで、マルコと見るのは若干気まずい気がするのでいいときに席を立ってくれたと内心胸をなでおろす。
そういえば、夕食が終わって流れ込むようにリビングに落ち着いてしまったので、片づけを何もしていなかった。
ちらりとキッチンを見遣ると、シンクに洗い物が溜まっている。
映画が終わってからにしようか、それとももうやっちゃおうか。
画面ではねっとりとした夜のキスシーンが終わり、アンが悩んでいるとマルコが戻ってきた。


「なにそわそわしてんだよい」
「や……そういや片付け忘れてたなって」
「あぁ、んなモン食洗機にぶちこんどきゃいいだろい」


マルコがキッチンへ歩いていくので慌ててあとを追う。
シンクの正面に大きな機械が据えられているのは気付いていたけどこれが食洗機。


「店で使ってるのとずいぶん違う」
「お前さんとこのは業務用だろい」


マルコがひょいひょいと汚れた食器を乱雑に放り込み始めたので、その手を止めるよう「待って待ってあたしするから」と慌ててマルコの手から皿を奪った。
大人しく皿を奪われて、マルコは黙って手を洗う。


「マルコ家で洗い物とかする? 食洗機?」
「しねェな。家でほとんどもの食わねェからなあ……」
「……マルコ普段なに食べてんの?」
「ちゃんと人間の食いモン食ってるよい」


横に置いてあった洗剤をそれらしき箇所に入れ、「入」と「スタート」のボタンを押す。
映画よりも大きな音で食洗機が動き始めた。
ヨシ、とアンも手を洗う。


「あたし鍋とフライパン洗うから、マルコ座ってていいよ」
「あぁ」


リビングに戻りかけて、マルコが足を止めた。


「お前それ終わったら風呂入れよい。今湯張ってきたからよい」
「露天風呂! ……あるんだっけ」


マルコがほんのりと笑ったので、自分の顔が思わず輝いたのだとわかって恥ずかしくなる。
若干小さな声で「マルコ先に入っていいよ」とつけたした。


「いや、ちょっとやることがあってよい」
「仕事?」
「まぁ」


そういえばマルコが二日も連続で仕事を休むなんて、とんでもなく珍しいのではないだろうか。
休めたとしても、マルコ自身こうして仕事のことを気にしながらの休日なのかもしれない。
なんとなく申し訳ないような、決まりの悪い気分になる。
マルコは「2階にいる」と行って、そのまま階段の方へと消えて行った。
時刻は22時を少し過ぎたところだった。
洗い物を終えると、言われた通り風呂に入ろうとアンは寝間着を借りに二階へ上がった。
そういえばと思い立ち、「マ、マルコー?」と誰もいない廊下に呼びかけた。
しばらく間をおいて、クローゼット部屋の隣の部屋からマルコが顔を出した。
メガネをかけている。


「リビングの暖房と暖炉、消した方がいい?」
「あぁ、おれがあとでやっておくから気にすんな。お前も風呂あがったらそのまま二階上がってこいよい」
「わ、かった」


アンが頷くと、マルコはそのまま顔を引っ込めて扉を閉めた。
忙しそうだな、とアンは隣の部屋を開けて、ベイが書き残してくれた通り寝間着代わりの服を借りて部屋を出た。






テーマパークみたいな風呂で、アンはひとりはしゃぎまわった。
内風呂は床がやわらかく、家のそれのようにキンと目が覚めるほど冷えていない。
シャワーのそばにはシャンプーに始まりなにからなにまで、アンには過ぎる程の品々が揃えられていて、一つ一つ手に取りそれが何か確かめなければ気が済まないほどだ。
少し手狭な銭湯ほど大きな浴槽は薄いピンクの大理石で、お湯はさらりときもちよくアンの肌を撫でた。
ただ、外気が冷たすぎるせいでぴりぴりと痺れが走り、おもわず「うぅ」と声が漏れる。

サボとルフィもまた連れてきてやりたいな。
熱い湯につかって一番に思ったのは、そんな事だった。
自分だけがいい思いをするたびにあのふたりを思い出す。
アンのいない家で今、なにしてるんだろうと考える。
自分がいないふたりより、ふたりがいる空間に自分がいないということに隙間風のような寂しさがあった。
こんなのじゃいけない、いつかきっと離れることになるんだからと自分を奮い立たせるたびにむなしくなる。
黒ひげの一件以来、自分たち3人だけの生活が少しだけ周りと違う時間の進み方をしていて、それが世間の常識からすると奇妙だということが、少しずつ色が増えていくみたいに明らかになっていった。

口元のあたりまで湯につかって、目を閉じる。
冷えた鼻先に温かい湯が触れると気持ちよかった。

帰ったら、これからの話を改めてしなきゃいけない。
店のこと、サボの将来、ルフィの将来。
丘の上に残した父と母の家。
全部考えなければならないのに後回しにしてきたことばかりだ。
それからあたしは──

ふっと目がくらみ、危ないと慌てて浴槽の縁に腰かけた。
考え込んでいるとのぼせてしまう。
露天風呂にだけさっと浸かってさっさとでよう、マルコが待っている。

辺りを見渡すと、壁にふたつの小さな扉がついているのを見つけた。
ひとつがサウナで、もう一つが露天風呂へ続いている。
露天風呂のドアを開けると、急に冷気が裸のアンを取り囲んだ。


「うわ……」


真っ黒な視界の中に、白い絵の具を刷毛で塗ったようにむらのない白が伸びている。
ときおり雪が風で舞い上がり、風が白く染まっていた。
形の違う石がはめ込まれた浴槽からは絶え間なく濃い湯気があがって、アンの視界を塞ぐ。
氷の上に立っているみたいに、足には痛いほどの冷気が刺さる。
それでもアンはしばらく、ぼうっと景色を眺めていた。
風が吹き、ざわめくみたいに木々が音を立て、雪が舞い上がる。
アンは忍び足をするように、そっと湯に足を付けてゆっくりと身体を沈めていった。

顔が冷たく、頬がぴんと張る。
口をあけると、知らずと白い呼気がもやのように流れ出た。

なにこれ、すっごい気持ちいい。
心臓の音が頭の中で聞こえるくらい、血が巡っているのがわかる。
冷凍庫の中に頭を突っ込んだみたいに、耳がキンキンに冷えている。
ぼうっと湯につかっていると、意識だけがどこかに持って行かれそうだ。
のぼせるような気持ちの悪さがなくて、ただ眠気に似た心地よさが身体を包む。

──ハッとして頭を上げると、景色は何一つ変わっていなかった。
ただ降っていなかった雪が降り始めていて、自分が寝ていたのだと分かる。
口元に指をやるとよだれが垂れていて、やっぱりと恥ずかしくなってアンは慌ただしく湯から上がった。





温蔵庫からでたばかりの肉まんみたいに、身体から湯気が止まらない。
アンはふかふかのセーターのような寝間着を着て、風呂場を後にする。
出たところにスリッパが一足揃えて置いてあり、元から置いてあったのかマルコが用意してくれたのかわからないが、それを借りて二階に上がった。
風呂に入る前、マルコが顔を出した部屋の戸をノックする。
「入れよい」と中から声がした。
黒に近い茶色の扉を押し開けると、中は思いのほか広かった。


「ここ……図書室?」
「あぁ、っつーより書斎か」


リビングの半分ほどの広さのその部屋は、壁一面が書棚になっていて天井の方までうず高く本が並べられていた。
入ってすぐフローリングの床にはふかふかのカーペットが敷かれており、マルコはそこで靴を脱ぎ、部屋の真ん中の小さなテーブルにパソコンを置いていた。


「……入っていい?」
「当たり前だろい」


アンを見もせずマルコがそう言うので、アンはスリッパを脱いでそっとやわらかな毛足のそれに足を踏み入れた。
部屋の隅には巨大な座椅子のようなソファが置いてある。
空調が効いていて温かかった。
湯から上がったばかりのアンは自分の頬が上気しているのがわかる。
手の甲でそれを押さえながら、ぐるりと辺りを見渡した。


「これ全部……ベイの?」
「まさか。あいつの親族のにゃあ違いねェだろうが、ほとんど埃かぶってる代物ばっかだよい」


マルコはおもむろに立ち上がり、軽く伸びをして「んじゃ」と言った。


「おれも風呂入るかよい」
「あ、お風呂ありがと。すごかった、あの、露天風呂」
「あぁ……随分楽しんだみてェだねい」


すっとマルコの手が伸びてきたので、思わず大仰に身を引いた。
かまわずマルコの伸びた指がアンの頬をかすめる。


「熱い」


マルコの指は冷えていた。


「なんか飲むなら台所にあるが、ここが一番温けェだろうからここにいたらいいよい」


アンがひとつ頷くと、マルコはさっさとアンの隣を横切って部屋を出て行った。

マルコ、風呂上りどんな格好で出てくるのかな。
ふいによぎった考えに、どきりとする。
その動悸にまたびっくりして、誰もいない部屋をアンはきょときょとと見渡した。
さっきまで浸かっていた湯にマルコも入るんだ、などと余計なことを考えてはますます正気でいられない。
思えばさっきまでふたり以外誰もいない空間でご飯を食べたり、横に並んで映画を見たり、お風呂上りを家族以外に見られるのも初めてだ。
マルコはずっとずっと、この家に来てからどんな気持ちでいるんだろう。
思えば、いつも自分のことばかりでマルコがどう思っているのかには意識が薄かった。
ときおり足元に絡まるみたいにマルコの気持ちに触れることはあったが、マルコ自身がするりと誤魔化すみたいに、アンが気付く前にそれを取り去ってしまう。

ツンと胸が痛む。
不安のようないやな気持ちではなく、きっとこれは緊張だ。
とりあえずマルコが戻ってきたらどんな顔をしたらいいんだろう、どこを見て、どんなふうに話す?
カーペットの上をうろうろと落ち着きなく歩き回って、意味もなく並んだ本の背表紙を撫でてみたりしながらずっとそんなことを考えていた。





階段の軋む音が聞こえたとき、アンは読んでいた本からパッと顔を上げた。
読むというより、挿絵を眺めていたに近い。
マルコだ、と思ったときには扉が開いた。
襟ぐりの広い長そでのTシャツに、温かそうな生地のゆるいパンツ。
なんだ、とアンは若干力の入っていた肩を落とした。
たいしてサボと変わらない。

カーペットにぺたんと座り、両手をついて本を読んでいたアンを見下ろして、マルコはたいして意味もなさ気に「よぉ」と言った。


「なんか飲むかい」
「ん……マルコは?」
「──たしかブランデーがあったねい」


まるで、おいでと言われたような気がした。
踵を返して階下に下りていく背中にアンはついていった。
まだぬくもりがほのかに残るダイニングで、マルコはグラスを二つ取り出した。


「で、お前さんは何飲むよい」
「どうしよっかなー……」


グラスにブランデーがぶつかる音を聞きながら、保存棚を軽く漁るとわりとすぐに目当てのものが見つかった。


「これにする!」


アンが片手で突き出したココアパウダーの缶を見て、マルコはただ「あぁ」と言う。
アンが牛乳を温めて、少しの牛乳と粉を練って、それからゆっくり温かい牛乳をカップに注いでいく間、マルコはブランデーを少しずつ飲みながら待っていた。

両手でカップを抱えて階段をのぼるとき、マルコが「気を付けろよい」と言う。
ルフィに対して自分がそういうのと、なんにも変わらない。
照れくさいようなもの哀しいような、どっちつかずの気分で階段を上った。


マルコが仕事をしていたテーブルにカップを置くと、「なに読んでたんだよい」とマルコが尋ねた。


「わかんない。なんだろ」


マルコが呆れたように口をつぐんだので、アンは慌てて重たい本の表紙をひっくり返す。


「しんわ……神話だって!」
「だって、ってお前読んでたんじゃねェのかよい」
「よ、読み始めたばっかだったもん」


あぁそうかい、とでも言わんばかりの表情をされたので、アンは一話目の文章を急いで目で追った。
なんだか急に話が始まるなあと思ったら、どうやらアンが手にした本は数巻あるうちの一冊で、第一巻ではないようである。
床に這いつくばるような格好で本を見下ろすアンを真似するように、マルコも向かいから本を覗き込んできた。


「──有名な話だねい」
「そうなの?」
「たぶんな」


マルコの影がそっと離れ、「ソファに座れよい」と促される。
アンが素直に従うと、マルコはアンのカップと自分のグラスを手に、アンの隣に腰かけた。


──ある国の王女は、母親の失言のせいで神の怒りを買い、化け物の生贄に捧げられてしまう。
要するにそういう話なのだが、登場人物の名前は難しいし神様もたくさん出てくるし、と概略を掴むまでの文章も長く、時間がかかった。
大きな挿絵には、荒波のぶつかる大岩に裸の女性がくくりつけられている様子が描かれていた。
髪が乱れ顔を覆い隠し、表情は見えないが痛々しい絵だとアンは思う。


「──でもこの人自身は悪くないよなあ」
「まぁな、そんなもんだよい」


音を立ててマルコがブランデーを飲み下す。
アンはページをめくった。


──そこに別の怪物を倒した勇者が通りかかり、彼女を可哀そうに思った勇者は倒した怪物の首が持つ力で、海の化け物を退治して王女を救いだした。


「なんだ、ハッピーエンドじゃん」


ものものしい挿絵に脅されて、てっきり悲しい結末でも待っているのかと思いきや、ありきたりなヒーロー映画のような筋書きだったことに思いのほかがっかりする。

話はそこで途切れ、勇者が別の怪物を倒した話に時間が遡っていった。
生贄になった王女の名前はアンドロメダ。勇者の名はペルセウス。


「有名? この話」
「たぶん、つったろい」
「このあとどうなるの?」
「さあ」


読めば書いてあんじゃねェのかい、とマルコは興味の色も見せない。
ふーん、とページを数枚捲ってはまた挿絵のページに戻る。
よく見ると、挿絵の王女は髪の下で口を強く引き結んでいるように見えた。


「──お前は囮にさせられちまったが、生贄なんかじゃねェよい」


マルコは中身が半分になったグラスを、直接床に置いた。
その顔を振り仰ぐと、視線がかち合う。しかしマルコがすぐに逸らした。


「生贄なんかじゃねェ。そんなものにするつもりは一切なかった。オヤジも、おれも」


アンが本から手を離すと、ぱらぱらとページが勝手に進んでいった。
沈黙をごまかすみたいに、エアコンが思い出したように低い音を立てて温風を吹き出し始める。
暖かい風がつまさきをかすめた。
ココアの湯気が風にさらわれて消え去る。
そんなふうに思ってないよと言っても、マルコはきっとずっと思い続けるんだろう。
アンの肩の傷は一生消えない。


「それは、マルコが警察のひとだから、そういうふうに思うの? じいちゃんや白ひげのオヤジに一番近い偉いひとだから、あたしが巻き込まれたのを責めてるの?」


マルコはカーペットに視線を落としたまましばらくじっといていたが、やがてふっと笑って「ずいぶんまっすぐ訊くねい」と言った。
それから「それもある」と。


「オヤジはおれが悔やむのを見越して、おれには一切ばらさなかった。ただおれは何度もお前に、エースに会っていたのに、気付かなかった」


気付かれてたら困る、とアンが笑うとマルコも珍しくつられて笑った。


「他にやり方があったんじゃねェかとか、もっとああしていればとか、そんなもんは考え出したらキリがねェんだよい。ましてやこの仕事にそういう後悔は付き物だ。いつまでもかかずらっちゃいられねェ」


……んだがな、とマルコは歯切れ悪く言う。


「まだ思い出す。あんときほど心底驚いたのは初めてだったよい。手錠をかけた相手が男だと思ってたら女で、しかも惚れた女だったなんざ」


目を白黒させて、アンは思わず「ほ」と声を洩らす。
マルコは喉から絞り出すみたいに、くくっと笑った。
そしてまるで、この話は終わりだとでも言うみたいに腰を上げた。
ちょうどそのとき、階下で柱時計がぽーんと鳴り、24時を告げた。
手にしていた本を棚に戻し、マルコは言う。


「2階の突き当たりと、その手前左右の部屋が寝室だよい。おれぁ突き当たりで寝る」


飲みかけのブランデーをテーブルに置いたまま、マルコはアンに背を向けて部屋を出て行こうとする。
言葉を紡げずにアンがただマルコの背中を見送っていると、おもむろにマルコが踵を返した。
アンが座るソファの背に手をかけ、そこにかかっていた毛布でふわりとアンをくるむ。
されるがまま、茫然とマルコの顔を見上げた。


「おやすみ」


ほのかに甘い酒の香りに絡まりながら、低い声が落ちてくる。
おやすみ、と返したつもりが喉に引っ掛かって言葉は上手く出なかった。
そのままマルコは部屋を出て行った。
かすかな足音が遠ざかっていき、やがて扉の音ともに聞こえなくなった。

そのままぼんやりと扉を見つめていた。
首が痛くなったので天井を見上げると、扉の形が焼き付いて長方形の影が白い天井にぼやっと浮かんだ。
膝の上に置いた本がずしりと重い。
片付けようと手をかけたが、思い立ってページを捲った。
生贄の王女アンドロメダの行く末は結局どうなったんだろう。
読んだページを何枚か捲り、それらしき箇所を探した。
『アンドロメダを』という語句を見つけて手が止まる。


──アンドロメダを助けたペルセウスは、彼女を妻とする。アンドロメダには婚約者がいたが、生贄となっていた彼女を助けたペルセウスに当然軍配が上がった。二人はペルセウスの故郷へと旅立ち、しあわせに暮らした。


拍子抜けするくらい、ありきたりな結末だ。
そう思ったとき、本の隅にかかれた注意書きに目が止まった。
──このように、英雄が女性を怪物から助け出し結ばれるといったかたちの話を、アンドロメダ型またはペルセウス型という。

なんだ、じゃあこの話がありきたりなんじゃなくて、オリジナルがここなんだ。
ハッピーエンドは世の中に溢れている。
生贄は助けられるし助けられれば恋に落ちる。結婚したらそれはしあわせで。

アンは重たいそれをもとあった場所へと収めようと立ち上がった。
その拍子に肩から毛布が滑り落ちる。
その途端、今まで感じていなかった寒気がそっと忍び寄るように感じてアンは小さく身震いした。
飲み干したココアのカップをマルコのグラスの横に置く。
マルコが飲みかけのまま残した金色の液体は部屋の明かりの色を吸い、オレンジ色に近かった。
アンはそれをそっと口に運ぶ。
舌がピリッと痺れ、喉に触れるとそこがカッと熱くなった。

毛布を肩にかけ直すと、アンは部屋を後にした。
部屋の暖房を切るのを忘れなかった。





扉のノブは金属製で冷たかった。
それを温めるように手のひら全体でぎゅっと握る。
途端にどっと心臓が全速力で逃げ出すみたいに動き始めた。
この部屋の向こうにマルコがいる。
もう寝ているかもしれないけど、寝てないかもしれないし。
でもずっと運転してきてたぶん疲れてる。さっさと寝てしまったかもしれない。
ああでもずっとこんなところにいたら、それこそあたしが風邪をひいてしまう。
っていうかもしかして、ここにくるまでの足音にマルコが気付いていたりして──

ぐるぐる目がまわして思い悩んでいるうちに、手に力が入った。


「あ」


まぬけな声と共に扉が開いた。
真っ暗かと思いきや、奥の方で小さな明かりがついている。
部屋は思いのほか広かった。
大きなベッドがひとつ、いやふたつ。
明かりがついている方に、マルコが座っていた。
枕側の壁に背を預け、手には本を持っている。
まだ眼鏡をかけたままだ。
あ、とアンはまた意味のない声をあげた。
マルコがぱたんと本を閉じた。


「寝るかい」


う、うん、と頷くとマルコは眼鏡を外し、ランプの隣のサイドテーブルに置いた。
アンはささっと部屋に入り、後ろ手で扉を閉める。
ぎゅっと視界が狭くなり、暗さが増した。
ベッドの上でマルコがごそごそと動き、横にスペースをあけてくれる。


「ん」


掛布団の端をめくり、マルコがアンを見る。
アンがうつむきがちに近寄ると、マルコは灯りを消した。




ベッドは広く、二人が仰向けで横に並んでも肩が触れ合う心配をしないで済むほどだ。
アンはベッドまで近づくと、暗闇で見えないのに任せてえいとシーツの中にすべりこんだ。
ギッときしむベッドの音がやけに大きい。
マルコが腕を伸ばし、アンの上に掛布団をかけてくれた。
それからしばらくゴソゴソ音がしていたかと思うと、それもやがて止んだ。
アンはベッドに滑り込んだ時の体制のまま固まってしまって、マルコの方を向いたまま動くに動けなくなっていた。
好きに動けばいいんだけど、と思いながらも身体が動かない。
動いたら、何か大事な均衡を失ってしまいそうな気がした。
しばらくそのままじっとしていたが、唐突にマルコが鼻で笑って吹き出した。


「お前、そんなナリで寝られんのかよい」
「……寝られない」


ひときわ大きくベッドが軋んだかと思ったら、次第に慣れてきた視界の中、マルコの顔が見えた。


「来い」


腕を伸ばされ、頬から顎にかけて顔の下に手が差し込まれる。
アンが動いたのかマルコが動いたのかわからないまま、いつのまにか引き寄せられてぎゅっとマルコが近くなった。
首の下にマルコの腕があって、目の前に多分顎があって、脇腹の辺りにはマルコの反対の腕が乗っかっている。
おぉ、と声が漏れた。


「寝苦しいかよい」
「や、そんなこと、ない」


本当は両手をどうしていいかわからず、胸の前に引き寄せるように縮こめていたので寝苦しかった。
それでもしばらくすると、マルコの身体が触れている部分がじんわりと暖かくなってくる。

息をひそめていると、本当に静かだ。
アナログ時計がないのか、時計の針の音もしない。
外の風の音も、雪が落ちる音も、なにもない。
だから、静かだなと耳を澄ましていたときに急に呼びかけられて、大げさに驚いてしまった。


「なにっ」
「寝らんねェなら、無理してここにいることねェよい。そっちのベッドいっても、部屋移ったって」
「や、いい」


考える前に口をついていた。
寝苦しいし、落ち着かないし、何より寝苦しいし。
こんな状態で寝られるわけがないのに、ここから離れようという気にはならなかった。


「もう温かくなってるし……ふとんが」
「あぁそうかい」


くっくと笑いながら、おもむろにマルコがアンの手首を取った。
ぎょっとしていたら、その手をポンとマルコの身体に投げるようにまわされる。


「そんな縮こめてたら苦しいに決まってんだろい。乗せとけ」


腰の上あたりに腕が乗って、急に胸が楽になった。
お、重くない? と思ってもないことを訊く。
重かねェよいとマルコが律儀に答える。


「あ、あのさ」
「あぁ」
「この腕、痛くない?」


アンの首の下に入った腕を示すつもりでちらっと見る。
痛かったら抜く、とあっさりマルコが答えるので、「そう」とアンも引き下がるしかない。


「あ、あのさ」
「あぁ」
「こんなふうに誰かと近くで寝るの、久しぶりだから」
「あぁ」
「寝相悪くて蹴っ飛ばしたらごめん……!」


ぶあ、と聞いたことのない声をあげてマルコが吹き出した。
その声にぎょっとして身を引くと、そのあともマルコはいつものように押し殺したような声でくつくつと笑い続けた。
マルコが笑うとアンの身体も揺れる。


「な、なんなのさあ……」
「ああ、腹いてェ。んじゃお前さんが動かねェように固めとくよい」


そう言ったかと思うと、マルコはぎゅっと自分に引き寄せるようにアンをきつく腕の中に締め上げた。
顎がマルコの胸の上あたりにぶつかり、ぐぇっと声が漏れる。


「うぐ、く、くるしい……!」


唯一自由なマルコの背中に回した腕で、脇腹のあたりをバシバシ叩く。
と、すぐにアンを閉じ込める力は抜けるように緩くなった。
はあ、と息をついて視線を上げると、マルコが近い。

あ、と思ったら唇が触れた。
本当に軽く、撫でるみたいに表面をさらって、鼻の頭にふれ、髪が掻き上げられたと思ったら眉間にも。
他にもくるか、と待ち構えていたがもうどこにも唇は降ってこず、後頭部の髪を絡める指の動きだけが伝わった。
しばらくそのまま、目を閉じていた。


「──マルコ?」
「ん」
「マルコは寝られそう?」
「さあな」


余計なことは気にするなと言わんばかりに、後頭部をコツコツと指で叩かれる。
次第に瞼が重くなり、くらんとどこかに落ちるような感覚がアンを襲う。
それが何度か繰り返され、本格的にうつうつと夢を見始めたとき、不意にマルコが「アン」と呼んだ。
条件反射で「なにぃ」と答える。


「──家、出る気はあるかよい」
「いえ……あたしの……?」
「あいつらのことが気がかりだろうからよい、今すぐとは言わねェが」


一緒に暮らさねェかい、と言われたときにまたあの落ちる感覚に襲われて、そのまま上がってくることができなかった。
返事のないアンにマルコが小さく息をついたのも、唇にもう一度柔らかな感触があったのもぼんやり分かったが、どうすることもできなかった。
お前おれの酒飲んだだろ、とマルコが言うのも聞こえていた。


明日目を覚まして、起き抜けの顔でおはようと言って、パンでも焼くのかな。
そういう毎日が続くとしたら、考えたこともない未来とはいえ、それはそれですごくいいんじゃないかと思うのだ。

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今日は雑記というか、日記です。
東京にいってきました。
もとは、東京に住む中高時代の友人のところへ、同じく京都在住の友人と遊びに行く予定でした。
そのことをTwitterで呟いたところ、お友達のさちさんが東京来るなら遊びましょうと。他のサンナミストの方もお誘いするよと。

((´∀`*))

ただ、友人と一緒のためさちさんに会いに私だけ抜けることができるかなーと不安に思ってました。
そもそも予定がいまいち決まらず、わりとグダグダしがちな仲のため(全員腰が重い)、なかなかはっきりしたお返事ができないまま年が明けました。

が、ある日突然この友人との約束が頓挫、なくなってしまいました。

\(^o^)/

サンナミ会のためだけに東京へ行こう\(^o^)/


ちょうどその日、京都に住まう相方が北関東の実家へ法事で帰省するとのこと。
行きは一緒でないものの、東京から帰りの新幹線は一緒に帰ってこれるらしい。
上京なんぞ人生で数える程しかない私はぜひ水先案内人がほしかったので、ナイスタイミングとばかりに新幹線と行きのバスチケットをぽちりました。

さちさんにご予定を伺ったところ、多忙(しかも土曜日)にもかかわらず都合をつけてくださり!
しかも何人かのサンナミストのお友達にお声をかけてくださった模様。
土曜日ということもありみなさんお忙しい中、そのうち数名の方とお会いできることに。
さちさんの交友関係はんぱねえ。
わたしのほうがオタ歴ミスト歴ながいのに交友関係の、差!!!
他にもお知り合いのミストさんは東京近辺にいらっしゃったのですが、さちさんがいろいろ考えて数名にお声掛けしてくださったよう。至れり尽くせりである。


予定が決まり、前日の深夜、お土産を買ってバスに乗り込みました。
(バスがまさかのSN号
夜行バスって3年ぶりくらいで、そのときはわりと行きに寝られた記憶があったのですが、甘かった。

全然寝られない。
斜め後ろのにーちゃんが怖い。
一度休憩挟んだあと消灯しても、喋ってる男連中がいる。(誰かが「おいうっせぇわ」と怒ったら黙った)
結局4〜5,5〜6時のぶつ切り2時間くらいうとうとしてたら着きました。

東京駅でトイレの行列に並び、無駄な抵抗とばかりに化粧をほどこし、お腹が空いていたので目についたスタバに飛び込んでチャイラテとラップサラダで朝ごはん。


9時半過ぎに、お友達のサクミさんが東京駅まで迎えに来てくれました。
サクミさんのエスコートで、渋谷の麦ストへ~

渋谷って、去年の5月にも所用でいきましたが、そのときも初めて行った小学生のときと感想が変わりませんでした。
(地蔵盆みたい)

田舎者(実家は猪・鹿・猿・狸に狐などなど野生動物が奔放に歩き回る山)の私は相変わらずその人の多さに翻弄されながら、サクミさんのおかげで麦ストに到着しました。
初め午前中はひとりの予定だったので、ひとりだったらどうなることかとゾッとする。


麦ストの階まで上がるエレベーターはいちばん右。さちさんの入れ知恵でした。




わーい到着ヽ(^^)ノ
端から順番に見ていくことに。
時間がどれだけあっても足りない!
サンナミ並びがあったらすかさず記録。



いろいろあるなか、グッズにはそう興味のない私もネットで見てかわいー♡と思っていたこれ、買いました。



白ひげ海賊団の樽コレ!
どれがあたるかわからない中、もちろん私の一番の押しキャラはオヤジで。
でもエースもかわいいし、イゾウも捨てがたい。
サクミさん「マルコあかちゃんみたいw」

白ひげの樽コレに加え、フーシャ村のもひとつ購入。
結果、白ひげはオヤジ(!!)が、フーシャ村ではサボがあたりました\(^o^)/
やたー!!

麦ストを出て、さちさんとわかばさんとの待ち合わせ場所である東京テレポートへ連れて行ってもらう。
休憩してからフジテレビ内ぶらぶらして、バラティエへ向かいました。
フジテレビの外からもバラティエが見えて感動。
サクミさん「すごいよね、ここにサンジの職場が……」

さちさんとさちさんの息子くん、そしてわかばさんと合流、バラティエに入店\(^o^)/



ふ、副料理長ーーー!!!

この時期のコンセプトはロングリングロングランドとエニエスロビー編。
なんしかおいしいの食べました。

トークは当然っちゃ当然なんですが、ほとんどワンピのこととサンナミのことでした。
このあとどうなるのか……ルフィが海賊王になった後……
いちばんすきなのは……サンナミシーンと言えば……
青年実業家サンジ……

あと肩にハットリを乗せた陽気なお兄さんが、ぎゃいぎゃいワンピ話に花を咲かせる私たちを何度か構ってくれました。
次のバラティエメニューとかドリンクとか考えてめちゃくちゃ楽しかったです。


食事のあとドリンクを頼んだら、背中側から急に
「おたんじょうびおめでとうございまーす^^」との声が。



わーお。

ドリンクかと思ったら丸皿だったので一瞬!?ってなりましたが、誕生日が自分のことだと気付いてうおー!!とテンションあがりました。
偶然、この当日が私の誕生日で、さちさんが準備してくれていました!!さちしゃん;;♡

これに、わかばさんがスマホについていたサンナミを取り外してくださり。
さちさん「皿に寄りかからせたい……いいやくっつけちゃえ」

なにこれこんなしあわせでいいの;;とケーキをむさぼりました。


その後、相方が18時過ぎに東京駅に着くとのことで、私たちは17時にお店をあとにしました。
なにからなにまで私の都合に合わせてもらってほんとうに申し訳ない……

駅で別れるまで、夕焼けの空を見てはサンナミカラーだなんだとそんな話ばっかりしてました。
わかばさん「あの観覧車にサンナミが乗ってさ、てっぺんに来たところでキスしたりするんだよ。だからサンジは横に座りたがるんだよ。魂胆見え見え」


サクミさん、わかばさんとお別れし、帰りはさちさんと息子くんが東京駅まで送ってくれました。
改札のとこまで喪服スーツの相方が迎えに来てくれてたので、合流してさちさんとむすこくんとさよならしました。


夢のような時間でした……

駅弁を買って新幹線の中で食べてましたが、ずっと今日一日のあれこれを喋っていて
ああもうしあわせ、とか、はあ~(意味ありげなため息を笑顔で)とか言い続けていたら
いつのまにか相方は菩薩のような穏やかな笑みをたたえたまま縦線引き攣り笑いで話してくれなくなりました。
ので私もそのまま寝ました。口開けて豊橋あたりまで。



ツイッターではたくさんの方がお誕生日を祝ってくださり、
なんとだいすきな絵描き手さんのNICOLEさん(@NICOLE7310)が誕生日プレゼントに、とサンナミ絵を送ってくださいました!!!!

えっ

えっ

と二度見してからビャーーーって叫んだ。





サンジ――!!サンジめっちゃかっこいい!!なんかお洒落な椅子に座ってるし!!
こっち見てナミさんの髪撫でて、なんだ自慢してんのかオイィ!
サンジの足にそっと触れてるナミさんエロかわいい!スリットの入ったスカートエロかわいい!
口元隠しちゃってどんな顔してんのー♡ キャー♡
とひとしきり盛り上がりました。

ニコルさんのイラストはナミさんやチョッパーがほんわか可愛らしく、男性陣もお洒落でかっこいいのにどこか優しい雰囲気があって、柔らかいタッチに大胆な色使いが本当に素敵!素敵なんです!!
だいすきでだいすきな描き手さんだったので本当に嬉しくて嬉しくて興奮していたら、なんとニコルさんと誕生日が一日ちがいで、翌日がお誕生日とのこと!!
御礼もかねてお祝いをしなければ!と一瞬手足を無駄にばたつかせたものの、私にできるのは駄文を書くことくらいなので、恥ずかしながら頂いた絵に140字をつけて送らせていただきました。


 耳を澄ますと、しゅわっと気泡の弾ける音が耳に届く。酔ったのかと尋ねても、彼女は黙って首を振り、けだるげにおれの膝に頬を乗せた。彼女の髪に似せた蜂蜜色のカクテルから甘い香りが立ち上る。髪を撫でると熱い手が足に触れる。キスをするから顔を上げてと言ったら、カクテルがとぷんと揺れた。


送ってから気付きましたが、ナミさんが持っているグラス空ですよね。
空のグラスにナミさんの髪が映ってるんですよね。
パソコンで拡大して見てから気付きました。失態──!!


ともあれニコルさん本当にありがとうございました!




帰ってからは、ひたすら段ボールに物を詰めています。
今週土曜に引っ越します。
さよならKYOTO!

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【Reverse, rebirth】完結後の設定です。












氷のつぶてみたいな大きなピアスがよく似合っていた。それを揺らして、ベイはアンの顔のすぐそばでキスの音を立てる。
そしてぎゅっと腕を回して抱きしめられた。


「あぁよかった、本ッ当によかった!ごめんなアン、怖い思いさせちまったね」


こンの馬鹿どものせいで、とアンに腕を回したままベイは悪態づく。
氷漬けにしてしまいそうなほど冷たく薄い水色の目は、アンの背後にいるマルコとサッチを親の仇でも見るかのように睨んでいるのだろう。
後ろの気配が無言でたじろぐのを、アンはうなじのあたりに感じた。


「だ、だいじょうぶ。こっちこそ、ごめん」


おずおずとアンがベイの腕に触れる。
コーデュロイのジャケットが心地よく指先に馴染んだ。
ベイはアンからぱっと離れると、けがの調子はどうだい? 家は落ち着いた? 一度あんたの店に行きたいねえと矢継ぎ早に話し出す。
どれから答えたものかとアンがおろおろしながら言葉を探していると、助け舟のようにマルコが声をかけた。


「とりあえず座れよい、落ち着かねェ」
「はんっ、役立たずの男連中は黙ってな!」


触れたものにはひっかき噛みつかずにはいられない凶暴な猫のように、ベイは鼻の頭に皺を寄せてマルコの言葉を一蹴した。
あーあ嫌われた、とサッチが笑い声を立てると、それにすらベイはうるさいと牙を剥くのだった。


ベイが会いたがっているとアンに連絡が来たのは3日前、サボが車いすから松葉杖へと無事アイテムを変更した日のことだった。
アンが拘置所から逃げたその日、その場にいたはずのベイはもしかしたら黒ひげの手にかかっていたかもしれない。
十分その可能性があったからこそ、怖くて聞けなかった。アンの手を強く握って「あんたには強い力がある」とまっすぐな目で言ってくれた人が、もしかしたら自分のせいで被害に遭っているかもしれない。会いたいと口にすることすらできないまま、ときどき感じる重たい胸のしこりとなってずっとアンの胸に残っていた。そしてマルコやサッチを目にするたび、ほのかに痛む。

「お前を取調べした女のことを覚えてるかよい」店のカウンターに腰かけて、マルコは一番にそう口にした。なにか苦い記憶でもあるのか、若干眉根に皺を寄せて。
覚えてる、私も会いたい。すぐさま言ったアンのために、警察庁の来賓室がととのえられ、アンはマルコの車に乗ってそこへ招かれることとなった。
警察庁へ着いたら玄関口にサッチが立っており、車のドアを開けてくれる。
アンが助手席から、マルコが運転席から降りると、身体の大きな男が代わりに運転席へと乗り込み、マルコの車をどこかへ持って行ってしまった。
マルコはそれには目もくれず、行くよいとアンを促す。
巨大な建造物がぱっくりと口をあけて飲みこまれるみたいだ。そんなことを思いながら、空調のきいた建物の中へと足を踏み入れた。
案内された来賓室は12階で、入ってすぐの受付が並ぶ役所のような雰囲気とは打って変わって静かだった。
他の階のようにコンクリートタイルの床と違ってエレベーターから降りた瞬間紺色の絨毯が敷いてある。
突き当りの大きな茶色の扉をサッチがノックもせずに開けた。
その瞬間、ぱっと視界に飛び込んできたのがベイだった。
言葉通り、アンの方へと飛びついてきたのである。


ひとしきり再会の喜びを表して落ち着くと、ベイはマルコに言われたことなど忘れてしまったかのように「ささ、立ってんのもなんだし座ろうよ」とアンの手を引いてソファまで連れて行った。
ベージュのソファはふかふかで、立派な家具屋さんにおいてあるみたいなやつだとアンの尻は落ち着かない。
ベイはアンの横にぴったりと寄り添うように腰を下ろした。
マルコとサッチは居心地悪そうにして向かいへ腰かけた。


「そのうちなんか飲みモン持ってこさせるからさ、まぁゆっくりしてきなよ」
「お前んちかよ」


サッチがすかさず口を挟むが、ベイはもう耳を貸さないことにしたらしい。アンから視線を外さないので意味もなくそわそわした。


「それで、家は落ち着いたの?」
「うん、この間病院に行ったときにサボが松葉杖に変わって、なんとか自力で歩けるように……あ、サボってあたしの兄弟で。下の弟のルフィがもうすぐ卒業式だから授業もなくて、家にいるからうるさいんだけど」


自分でもたどたどしいとわかる言葉たちを、ベイはゆっくり頷きながら聞いてくれた。


「店はデリだけやり始めて、朝から昼までは働いてるんだけどルフィがそれなりに手伝ってくれるからなんとかなってて」
「そうかい」
「えと、それで昨日は3人で海に行ってて」


楽しかった? とベイが尋ねる。
下着まで海水で濡らしてしまって濡れ鼠のような格好で帰宅したことを思い出すと、口元がムズムズして笑ってしまった。
うん、と頷く。
するとベイがニヤッと笑ったまま顔を上げ、向かいに座る2人の男を流し見た。


「あんたらの話はちっとも出てこないねぇ」
「だっ、んなことねェよ! な! アンちゃんおれ週4で通ってるもんな!」
「あ、うん、サッチもよく来てくれるし、マルコも来てくれるし」


フーンとベイはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
この3人はいったい仲がいいのか悪いのかさっぱりわからない。
ずっと黙ったままのマルコはそっぽを向いて、我関せずとばかりに煙草をふかしていた。
ところでさ、とベイが浅く座り直し、アンに向き直った。


「うちの課は毎年この時期に旅行をしててね」


唐突な話題に、アンはぱっちりベイと視線を交える。
はぁ、と気の抜けた声が漏れた。

「旅行って言っても大したもんじゃなくて、適当にぶらついてうちのコテージに泊まりに行くだけの慰安旅行なんだけど」


こてーじ? と首をかしげるアンに、ベイはほんのり笑いながら続けた。


「寒いときに寒い所はいやだって、課の連中が言いやがってさ。もういい歳のおっさんばっかりだから。ただ使わないまま荒れ放題になっちまっても困るから、毎年一回は行っておきたいんだ。それでね、アン、あんた行かない?」


あたし? と目を丸くするアンに、ベイは容易く頷いた。


「こっから車で3時間半の足も、食料なりなんなり必要なものはこっちで用意させておくからさ。ただあんたは行って、好きに使ってくれりゃあいいだけ。ガス電気水道が生きてるかだけ、確認しといてくれる?」


日程はいつでもいいから、好きな日を言ってよ、とベイはあくまでにこにこしている。
意味もなく向かいのサッチに視線を走らせると、先に話を聞いていたのかアンと目を合わせていつものように口端を上げた。


「やっと落ち着いてきたっつっても見舞いやらアンちゃん自身のけがの手当てやら、ばたばたしっぱなしだっただろ? いい息抜きになんじゃねェの」


そう言うサッチの隣に視線を滑らせようとした矢先、ベイが「ちなみに」と声をあげた。


「誰と行ってもらってもかまわないんだ。もともとうちの課の、さらに私が所属する部の7,8人が泊まってんだから、それくらいの人数は行けるんだけど」


弟たちと行くかい? そう言ってベイはおもむろにジャケットのポケットに手を突っ込んだ。そして引き抜く。指先に古びた鍵がぶら下がっていた。

サボやルフィと旅行か。3人で出かけたのは一番遠くて昨日の海岸だ。泊まりがけで行くことはほとんどない。小さなときにマキノやじいちゃんに連れて行ってもらったことはあるけど、3人だけで出かけたことはなかったはずだ。
相手の厚意を確認することがいつのまにか癖になっている。アンは差し出された手におそるおそる触れるように訊く。


「行ってもいいの?」
「もち……」


にっこり笑うベイの声が途切れたのは、向かいで大きくソファが軋んだ音に邪魔をされたからだ。
おもむろに立ち上がったマルコは一歩でベイの前まで迫り寄ると、ひょいと鍵をつまみ上げた。


「車はおれが出すよい」


鳥が巣を作りそうなほどぽかんと口をあけて、マルコを見上げる。
いきなりベイが、あぁ! と苛立った声を上げた。


「オヤジさんがやけにニヤニヤニヤニヤ嬉しそうにしてると思ったら! 本当だったって言うのかい!!」
「な、なにが」
「このマルコがあんたに入れ込んでるって」
「アン」


今日一番強い声で、名前を呼ばれて背筋が伸びる。
マルコを見上げると、その身体はもう出口の方へ向かっていた。


「送るよい」
「え、あ、うん」


慌てて腰を上げようとしたが、ソファに思いのほか深く腰が沈んでいてもがくように立ち上がる。
ただすぐに思い直して、もう一度すとんと座ってベイと視線を合わせた。
言うべきことがすぐに出てこなくて、しばらく黙ったまま見つめ合う。


「う、うちの店、日曜以外は毎日やってるから!」


ベイが似合わないきょとん顔をしたかと思えば、吹き出して大きく頷いた。


「わかった、また邪魔するね」


垂れた目じりが綺麗な弧を描く。ベイの笑顔に見送られて、マルコの後を追った。
背後ではベイのわざとらしい「あーあクソッタレマルコ」という笑いを含んだ声と、サッチの朗らかな笑い声が聞こえていた。





マルコの背中を追いかけて、いやに怖い顔をした男の待つエレベーターにアンもいそいそと乗り込む。
扉が閉まると、マルコが壁に軽く背中を預けて大仰にため息をついた。


「あの」


なんとなく口にしにくい雰囲気なのは気のせいか。


「マルコが車を出してくれるって言うのは、その」
「おれとじゃ不満かよい」
「不満じゃなくて……っていうかマルコの方が不満げだけど」


思ったことをそのまま指摘すると、しかめ面はますますひどくなった。


「あの、つまり、ベイが言ってたそのコテージに、あたしとマルコが行くの? その、一緒に」


無言でマルコはちらとアンを見下ろした。
そんな圧迫的な目で見ないでよ、と思った瞬間エレベーターがチンと軽い音を立てた。
目線で促されて箱から降りると、あとから降りたマルコはさっさと玄関ホールに歩いていく。
後をついて建物を出ると、目の前にはマルコの車が停めてあった。
いったいどういう仕組みになってんだと思いながら、来たときのように助手席に乗り込んだ。
車はスムーズに広いロータリーから公道へと滑り出る。


「日曜は休みなんだろい」
「うん」
「来週は」
「日曜? 休みだけど」
「じゃあ前日の土曜の昼に迎えに来るよい」
「えっ」


思わず声をあげたアンを、眠たげな目がちらりと流し見る。


「なんか問題あるかよい」
「問題っていうか……」


サボとルフィはきっと行ってこいというだろう。
ふたりのごはんは作り置きをしておけばいいし、なんなら土曜もデリを早く切り上げて──
そんなことを考えている自分が既に、すっかり行く気になっているのだと気付きハッとした。
ちがう、サボとルフィのことを盾にして悩んでいるだけで、本当はもっと違うことを考えている。
思えばマルコとこんなふうにふたりきりで話すことすらすごく久しぶりだ。
いつも店のカウンターで、お客さんがひっきりなしに入ってくるときにマルコは静かに座ってコーヒーを飲んでいる。
テイクアウトだけとはいえ、惣菜を詰めて計ってお金のやり取りをするのが3時間も4時間も続けばそれなりに疲れてくる。
やっと一息ついたころ、ルフィを交えて話をしたり、サッチがやってきたり。
ゆっくりふたりで話をしたのは、数か月ぶりかもしれなかった。
それなのに、突然ふたりで出かけることになるなんて。
急にどんな顔をしていいのかわからなくなり、あぁ、うん、別に問題はないけど、と誤魔化すようなことを口にした。
そうしているうちに車はいつもの家の前に横付けされる。
寄ってくかと尋ねると今日はこれから仕事があるからとあっさり断られた。
それじゃ、とそそくさと車のドアに手をかけると、おもむろに「アン」と呼び止められた。


「え?」


手を止めて振り返る。
運転席からマルコの腕が伸びていた。
頭の後ろを包むように支えられ、そのまま引き寄せられる。
身体はドアのそばにあって、首が伸びた不恰好な格好のまま唇が触れた。
目を見開いたままだったから、すごく近くにぼやっとマルコの眉間が見える。

音も立てずに離れた唇は感触だけを残して、じゃあなと動いた。
あ、うん、とまぬけな言葉を発してアンは車を降りる。
扉を閉めるとマルコはもう前だけを向いていて、さっさと車を発進させた。
もぬけの殻になったスペースを見つめていると、急激に足の裏からむず痒いような恥ずかしさがこみあげてきて、あぁ! と叫びたくなった。






いいなあー、いいなあー、とまとわりつくルフィを払いのけながら荷物を詰めるのはそこそこ手間がかかった。
こてーじってなんだ? 雪山にいくのか? 遭難するのか? うめぇもんが用意されてんだろ?
どこから得てきたのかわからない無茶苦茶な知識を口にして、サボにうるさいと背中を蹴られるまでルフィはアンの周りをうろちょろとしていた。


「寒い所なんだろ? 荷物少なくないか」


小ぶりなボストンバッグに収まってしまったアンの荷物を見て、サボが歯を磨きながら言う。


「うん、でも着替えはそんなにいらないって。そもそも一泊だし」
「アン! 歯磨きセット持ってけよ! あとシャンプーと、タオルと、石鹸と」


羨ましさの果てに世話を焼きたがるルフィがあれよこれよと洗面道具を持ってきたので「そういうのもいらないの!」と押し返す。
さっさと荷物を詰め込んで「風呂入る!」と叫びながら、アンは逃げるようにそれらを抱えて部屋を出た。
ただのお出かけを見送るみたいにふたりは平気で声をかけてくるけど、なんだかこっちはまっすぐふたりの顔を見られない。
ときおり胸にせり上がるいたたまれなさは恥ずかしさに似ていた。
そしてそれらはお風呂で頭を洗っているときだとか、鍋を煮込んでいるときだとか、チラシをひもで縛っているときだとか、アンが無防備な時に急襲を仕掛けるのだった。





マルコはきっかり11時に店の前に車を付けた。
あっおっさん来たぞ! と誰よりもうれしそうにルフィが声をあげたが、思ったより早くマルコが来たことにアンは慌てて顔を上げた。
今日は店を11時に閉めることにしていたから、作っておいた惣菜をいつもより少なめにしておいた。そのせいで早く売り切れてしまって、10時半には店を閉めることになってしまったのでお客さんはもういない。
ただまだ洗い物が溜まっているし、サボとルフィのご飯も2日分に分けていない。
慌てるアンを余所にルフィはマルコを招き入れ、早くしろよーとアンを急かす。


「ごめんマルコ、もうちょっと待って──」
「いいよアン、あとやっとくから」


ルフィの声で階段を降りてきたサボが、ゆっくりと杖を突きながら歩み寄ってくる。


「洗いモンだけだろ? 売り上げもおれがまとめとく」
「でもふたりのごはんの準備、やりかけで」


ほかほかと湯気を立てるおかずはまだフライパンの中だ。
あぁわけとくよ、とサボは簡単に頷いた。


「エプロンのまま行くなよ」
「……わかってるし」


なんとなく決まらないまま後ろ手でエプロンを外す。
階段のところに置いておいた荷物を手にとると、マルコが踵を返して車へと歩いて行った。


「……行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい。気を付けてな」
「土産! 忘れんなよアン!」


あのむずがゆさが足元から登ってくる前に、アンは二人に背を向けてマルコの車へと早足で急いだ。

助手席へ乗り込むアンを、マルコはハンドルに手をかけたままじっと見つめてきた。
ボストンバックを胸に押し付けるように抱えて、マルコを見やる。


「な、なに」
「お前コートは」
「あ」


エプロンを外してそのままの格好で飛び出してきてしまった。
身体は温まっているし車内は空調が効いているので必要ないが、外に出たらコートなしでは辛い。
二階に上がったすぐそこにいつも来ているものが掛けてある。


「ごめ、ちょっと取って来……」
「あぁ、いい。行くよい」
「ちょっ」


バチンという重たい音ともにドアロックがかかる。
マルコはアンの手元からバッグを取ると、ぽんと後部座席へ放り投げた。


「シートベルト」


なにがいいんだかと思いながらも言われるがままベルトを引っ張り、金具を留める。
マルコはそれを確認し、ようやく車が動き始めた。






車はするすると北へと昇り、警察庁の前で右に折れた。
そこをずっとまっすぐ行ったところ、つまりは街の北東の角に橋が架かっている。
そこを越えればもうこの街の外だ。
そしてマルコの車はあっさりとそこを越えてしまった。
車内はほんのりと暖かく、そしてシートに染みついた煙草の香りがどことなく漂っている。
そういった香りをかき消すための芳香剤をなにひとつおいてないのが、マルコらしいと思った。
車が街を出て喧騒から離れると、微かに流れるラジオの音が耳に届く。


「腹、減っただろい」


唐突にマルコが言う。


「そういえば、うん」


朝慌ただしく食べてからずっと働きづめで、そういえばお腹が空いていた。
意識した途端、べこっと胃がへこんだような感覚がして腹が音を立てる。


「その辺で食うかよい」


マルコはそう言ったが、ほとんど街の外に出たことのないアンにとって「その辺」は未知の世界過ぎた。
ときおり見慣れない色の電車が走る線路があったり、同じ色の家が続く道沿いを走ったり。
窓の外を眺めているだけで自分がどんどん非日常へと運ばれているような気がした。
突然マルコがウインカーを出し、車をどこかの狭いスペースに停めた。なに? と尋ねかけてからそこが飲食店の駐車場だと気付き、アンもマルコに倣ってシートベルトを外す。


「ここ過ぎるとしばらく何もねェからよい」


マルコが車を停めたそこは小さな町のレストランといった様子で、入り口に小さな黒板が立てかけられていて、今日のメニューが綺麗な字でつつましやかにしたためられていた。
アイボリーの壁に茶色いレンガが埋め込まれた可愛らしい作りの店とその前に立つマルコはあまりにちぐはぐだ。


「なに変な顔してんだよい」


キーをポケットに放り込んだマルコは、いつものように難しい顔でアンを促した。
ドアを開けるとベルが鳴り、ミートソースやホワイトソース、チーズといった洋食の香りが身体を包む。
外気の温度との違いに少し鳥肌が立った。
席まで案内してくれたのは使い古したエプロンをつけたおばさんで、アンたちを席に座らせてメニューを渡すと慌ただしく中へと引っ込んでいった。
店内にはちらほらと客の姿が見える。若い男女や女性のグループが多い所を見ると、近くに大学でもあるのだろうか。
そんなことより、とアンは視線を戻してメニューをさらうように見た。
グラタンとサラダのセットもおいしそうだけど、アサリのパスタも気になる。日替わりは安くて量が多いのが定石だけど、確か外のメニューに今日の日替わりはカレーオムライスと書いてあった。昨日カレー食べたんだよなあ。
ちらりと視線を上げると、マルコはメニューから顔を上げて煙草を取り出したところだった。


「……決めた? なに?」
「パスタ」
「アサリのやつ?」
「あぁ」


「くそう取られた……」と呟くアンに、マルコは今日初めてほんの少し口角を上げた。
その顔のまま、アンのメニューを覗き込む。


「どれとどれで迷ってんだよい」
「グラタン……か、こっちのカツレツのセットもおいしそう」
「んじゃ両方頼めよい」
「えっ」


「そんなのアリ!?」と目を丸くするアンに、マルコは無責任なほど簡単に「アリだよい」と言って笑う。


「どっちかセットで、もう片方単品で頼めばいいだろうがよい。食えなきゃ食ってやる」


たやすくそう言われるとその気になって、結局カツレツをセットにしてグラタンを単品で頼んだ。
マルコはパスタのセットを大盛りにして、注文の品が来るまではたいして話すこともなく火のついた煙草をゆっくりと吸っては窓の外を見ていた。
そういうマルコを目の前にしていると、改めて今ここにふたりでいることがとてつもなく不思議なことに思えてくる。
なんとなく尻の座りが悪いような居心地と、誰も知らない──つまりは知った人がいない場所に二人でやって来たことへの開放感。
そのふたつが同居して、繊細な柔らかい刷毛で心の表面を撫でられるようなこそばゆさを感じさせるのだ。

20分ほど待って届いた料理は結局グラタンもカツレツもアンはぺろりと平らげて、マルコのパスタまで一口ちょうだいと言ってのけた。
マルコはためらいなくアンにフォークを渡してくれたので、嬉々としてパスタを絡め取る。


「あっ」
「なんだよい」
「アサリももらっていい?」
「好きにしろい」


んじゃ遠慮なく、と大きなアサリの身を口に運んでから、自分がまるでサボやルフィに対するみたいにマルコにも接していたことに気付いて咀嚼が止まった。
マルコが目を留め、どうしたと尋ねる。
いや、べつに、ごめん、と急にしどろもどろになりながら、口の中のものをろくに噛まずにのみこんだ。
パスタの皿に視線を落としたままありがと、とフォークを返す。
突然行ったり来たりする自分の感情に目が回りそうだ。







マルコの言った通り、昼食を摂ったレストランを過ぎるとあとはひたすら住宅がぽつりぽつりと現れる程度で、広がる麦畑であったり長い工場の塀であったり、殺風景な景色が続いた。
窓を開けて煙草の煙を逃がすマルコに、なんとなしに尋ねる。


「今から行くところ、行ったことあるの?」
「あぁ……随分前に何度か。アイツと同じ課のときがあってねい」


なるほど仲の良いはずである。
アンがふっと笑いをこぼすと、マルコは不可解なものを見る目でアンをちらりと見たが、なにも言わなかった。

それからまた1時間。同じような景色が続いていたかと思えば、視界にちらりちらりと映るものがある。


「あ、雪!」
「結構登ったからねい」


言われてみれば、運転席の窓から入り込む外気はするどく冷たい。
元来体温が高いほうな上に、食事をしたばかりで身体が温まっていて気にならなかったが、アンの住む町よりずいぶん標高が高いところまで来たらしい。
窓に額をくっつけると一瞬身がすくむほど冷たく、でも軽くほてった顔には気持が良くてそのまま窓の外を見ていた。
ぼたん雪はあっというまに車道の両側を白く染めていく。


「あと一時間はかかるからよい」
「うん?」
「寝てろ」


マルコの方を振り返ると、備え付けの灰皿に吸殻を放り込んだマルコは窓を閉め、何か空調のボタンをいじっていた。


「眠くないよ」
「暇だろい」


言われてみれば、暇だ。
運転を代わることができるわけでもないし、ただ座って外の景色を眺めているのは退屈といってもいい。
満たされたおなかはあったかく、心地よい満足感でいっぱいだ。
ただ少しでも微睡んでしまえばあっという間に時間が過ぎてしまう。


「もったいないから寝ない」


そう言うとマルコは、意味を汲み取りかねるとでも言いたげな顔でアンを見たが、「そうかよい」とだけ言って前を向いた。

こめかみのあたりを窓に付けて、白さを増していく外の景色を見遣る。
聞き取れないほどのボリュームに絞られたラジオがか細く耳に届く。
カーヒーターの稼働音が低く唸るように足元のあたりに響いていた。
道はただまっすぐで、マルコは地図もナビも見ることなく車を走らせる。
やがて道は真っ白に染まり、きゅるきゅると柔らかい雪を踏みしめるタイヤの音が聞こえてきた。





「……アン。起きろい」
「……んはっ!」


咄嗟に体を起こすと変な声が出て、口のあたりに少し垂れていたよだれをすかさず拭った。
一瞬どこにいるのかわからなくなるが、変な角度に折れ曲がって痛む首とすっかり慣れたマルコの車の香りで、今いる現実を思い出す。


「……寝てた!!」
「着いたよい」


フロントガラスの向こうには、木造の大きな家がそびえたっていた。
三階建てはありそうな立派な別荘だ。
落ち着いた色の枕木が、マルコが車を停めた場所から玄関まで道を作っている。


「ここ? すごい、でかい」
「課の旅行で宿にするのにゃちょうどいいんだよい」


行くぞ、とマルコは車を降りる。
助手席のドアを開けると、足を下ろしたすぐそこは一面の雪景色だった。


「すっ、すごーー!! 雪!! すごい積もってる!!」
「転ぶなよい」


後部座席からアンのボストンバック、それにマルコのものらしいナイロンのバッグを担ぐと、マルコはためらいなく玄関へと雪を踏みしめて歩いていく。
アンは初めおそるおそる足を踏み出し、踏んでも蹴っても茶色い地面が出てこないことに感動し、すごい、とさむい、を交互に繰り返しながらマルコの後を追いかけた。

ベイから預かった鍵で大きな扉を開ける。
中は薄暗く、ほんのり埃のにおいがする。
外と同じく家の中の空気もキンキンに冷えていた。
マルコは入ってすぐのカウンターに荷物を置いた。


「とりあえず全部の部屋の電気をつけて回るよい」
「全部?」
「ここを使う交換条件みたいなもんだい。つかねェ部屋があったら呼べ」


お前は一階、と言い渡すとマルコはさっさと廊下の向こうに歩いて行ってしまった。
きっとその向こうに階段があるのだろう。
アンはお邪魔しまーすと誰にともなく呟きながら、コテージ内へと足を踏み入れた。
入ってきた玄関扉が開けっ放しになっていたことを思い出し、重たいそれを引っ張って閉める。と、ブレーカーが落ちた時のように突然視界が真っ暗になった。
慌てて近くの壁を叩くように触り、電気のスイッチを探す。
手触りで目星を付けたボタンを押すと、今度は一気に視界が明るく開けた。
玄関だけでなく廊下の灯りのスイッチだったようだ。
そして明るく照らされた家の中の景色に息を呑む。
廊下だと思っていた入ってすぐのそこは、大きなエントランスホールになっていた。
真っ白なソファにベージュ色のカーペット。低いテーブルが据えてある。
背の高い椅子が4脚並んだカウンターには色とりどりの酒瓶が並び、壁には電気屋でしか見たことのない大きなテレビが貼りついていた。
テレビの横には引き出しや棚のついたウッド調のボードが置いてあり、その上には大きなステレオとスピーカーが鎮座していた。
深い朱色のカーテンはぴっちりと閉じていて、その向こうには雪景色が広がっているのだろう。


「……すんごい」


部屋の中を眺めまわしていると扉があったので、開けてみる。
中は真っ暗で、灯りのスイッチを探して押した。
また、リビングだ。
ただ今度の部屋はリビングとダイニング、そしてキッチンがひとつの大きな空間になっていた。
大きなシャンデリアがぶらさがり、煌々と光り輝いている。
リビングのつきあたりには暖炉があり、部屋の隅には薪が積まれていた。
ダイニングはいったい何人で食事をする気かといいたくなる大きなテーブルが据えられており、巨大な食器棚が壁沿いに屹立していた。
対面式のカウンターキッチンはからっと乾いて清潔だった。
キッチンの棚を見ると調味料や乾物、インスタント食品などがそろっている。
部屋が少し埃臭いのに対して、こういった食品は一切埃がかぶっていない。
もしかして、と隣にある大きな冷蔵庫を開けてみた。
当然電源が入っており、中にはぎっしりと食料が詰まっていた。
目を瞠って、中を物色する。
新鮮な野菜、肉、魚の切り身。いちごやりんご、ぶどうといったフルーツまで季節関係なくそろっている。
アンとマルコが来る前に、ベイが食料を用意してくれていたのだ。
至れり尽くせりのその状態に、アンはいたたまれないような申し訳ないような気分になりそわそわした。
今から帰ってベイのところに行って、ありがとう行ってきますと改めて告げたくなる。


「おい」
「おっ……!」


すっかり夢中になって冷蔵庫を覗いていたので、人の気配に気付かず変な声が出た。
マルコはほんのり呆れ顔で立っている。


「まだ二部屋しか点けてねェのかよい」
「マルコもう済んだの?」
「明かりつけるだけじゃねェか」


マルコはダイニングの壁まで歩くと、灯りとは別の小さなリモコンをいじる。
ピッという電子音と共に天井のエアコンが動き始めた。


「エアコンあるんだ……」
「当たり前だろい。こんな寒くちゃコートも脱げねェだろい」
「でも暖炉がある」
「ありゃ飾りみてェなもんで、なかなかあったまらねェんだよい」


それより、とマルコはアンを見る。


「部屋があったまるまでその恰好じゃ寒いだろい。来い」


アンの返事を待たずに踵を返したマルコは、先ほど消えた階段の方へと歩いて行った。
なんだなんだとついていくと大きな螺旋階段があり、そこをのぼるとホテルのように小さな扉がいくつも続く廊下が伸びていた。
マルコは二階に上がってすぐのドアを開けて中に入っていく。


「わっ、なにここ」
「ベイの衣装箪笥みてェなもんだ。あいつから、お前に好きなモンを好きなだけ持ってかせろって言われてんだよい」


マルコが明かりをつけると、アンの家のリビングほどの広さいっぱいのスペースを埋め尽くさんばかりの衣服がかかっていた。
そしてそれらは洋服だけでなく、靴、鞄、ショールや手袋などまでそろっている。


「まずコートだな。選んでこいよい」
「えっ、そんな」


ウソじゃん、とこぼすアンにマルコは真顔でさっさと行けとせかす。
だからあのとき、コートを取りに行く必要はないと言ったのか。
それにしてもこんなの聞いてない。


「あぁ、それでいいじゃねェか」


おもむろにマルコが入り口近くにあった深緑のモッズコートをつかんだ。


「他に気に入るのがありゃそれも持ってけ。ついでに他も全部変えちまったらどうだよい」
「えぇ……」


困惑するアンにお構いなく、着替えたら降りて来いよいと言い渡してマルコは部屋を出て行ってしまった。
とりのこされて、アンは自分の格好を見下ろした。
着古した白いパーカーとジーンズ。それに擦り切れたスニーカー。
なじんでいるぶんどれもお気に入りだけど、今日にはふさわしくなかったのかもしれない。
朝仕事をしてサボとルフィのご飯も作ったし、少し匂いが移っていてくさかったかな。
くんくんと袖のにおいをかいで首をかしげるも、ぶるっと急に足元から冷えが這い登ってきてそれどころじゃないかと思い直した。
本当にいいのかな、と思いながら部屋全体がクローゼットとなったそこを少し歩き、服を探す。
なるべくあったかそうなもの、動きやすくて着心地のいいやつ。
洋服はラグジュアリーなドレスからフォーマルなワンピースやジャケット、そしてラフなパーカーやジーンズまであらゆるタイプがそろっていた。
その中からアンは今着ているものに似た紺色のパーカーを手に取る。
似ているのは形だけで、アンのものよりずっと厚手で裏起毛になっており、着てみたら驚くほど温かかった。
ジーンズは…いいや、着替えてもそう変わらないだろう。
脱いだ服とマルコに手渡されたコートを手にして部屋を出ようとしたとき、出口のすぐそばに一脚の椅子が置いてあるのが目についた。
椅子の上に、封筒が置いてある。
かがみこんで覗くと、小さな文字で「アンへ」と書いてあった。
宛名を見なくてもわかる、ベイだ。

『寒いところ、こんな場所まで来てくれてありがとうね。
言った通り、家の中も置いてあるものも好きに使ってくれて構わないし、気に入ったのなら好きなだけ持って帰っていいよ。
この部屋の服も靴も全部あんたのモンみたいなものだから、好きなのを選んで。
寝間着代わりになるようなものも全部用意してある
マルコにいい思いをさせるのは癪だけど、楽しんでくれたらうれしいよ。
帰ってきたら今度は私が会いに行くからね』


ベイはあたしがマルコとここに来ることになると初めからわかっていたんじゃないか、そう思うと気恥ずかしさに俯きそうになる。
次々と与えられる好意はアンの手に余るほどで、感謝の言葉はひとことでまとまりそうになかった。

アンは古びたスニーカーを脱ぎ、薄茶のムートンブーツをありがたくいただくことにした。
めちゃくちゃあったかい。






階下へ行くと、マルコは暖炉に薪を放り込んでいるところだった。


「温まらないんじゃなかったっけ」
「使ってみてェんじゃなかったのかい」


こちらを見ずにそう言って、マルコは火種にライターで火を点けた。
なんでわかったんだろう。
ぽっと小さな赤色は、暗い暖炉の中でちらちらと揺れて頼りない。
「本当に火、つくの?」と尋ねると、「さぁな」とそっけない。
部屋の中はエアコンの暖房機能で少しずつだが温かくなっていた。
火種に薪をくべるマルコの横顔に、アンは声をかける。


「ねぇ」
「あ?」
「今からなにすんの?」


部屋には大きな柱時計が立っており、時刻は16時少し前を示していた。
窓の外は相変わらず銀世界で、寝てしまったせいでわからないが周りにこのコテージ以外の何かがあるとは考えにくい。
閉ざされたこの家にふたりきり。
なにすんの、と尋ねたくせに変に意識してしまう。
誤魔化すようにきゅっと唇を引き結んだ。
無事薪に火が燃え移ったのか、ぱちぱちと爆ぜる音が小さく聞こえる。


「家の中でできることなら、何でもできるよい」
「……なんでも?」


マルコは立ち上がると、すぐそばにあるソファの背もたれに腰を下ろした。


「来たやつが暇しねェように、たいていのモンが揃ってる。本が読みたきゃ2階に小さい書庫があるし、確かゲーム機の置いた部屋もある。ゆっくりしたきゃそこそこ広い風呂と露天風呂がついてる。確かジムもあったな。テレビは見ての通りそこにあるし、映画も何本か揃えてあるっつってたねい」


マルコはちらっとアンを見て、妙に楽しげに片眉を上げた。


「何するよい」


呆気にとられて、「じゃ、じゃあ」とアンは息継ぎするように言葉を繋ぐ。


「いっこずつ、全部!」


そりゃあいい、とマルコは俯いて笑った。
笑ったマルコに驚いて目を逸らしてから、もっと見ておけばよかったと後悔した。




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あけましておめでとうございます(違

今年はたーくさんサンナミストの方との出会いがありました。
ほとんどの方を一方的に存じておりましたが。
我が家に遊びに来てくださってる方ともお知り合いになれたのも本当に嬉しかったです。
私がすきな描き手書き手さんにコメントを送ったりコンタクトを自分から取りに行く方じゃなかったので、こうして感想やら送ってくださるありがたみをほんといつも噛み締めてます。
それがわかってるぶん、今年はすきだ!すごい!もっと!と思ったものには積極的に伝えに行く姿勢になれたかなーなれてたらいいなーと思います。

あと初のオフ会で恥をさらしたり、さちさんwithキッズとプレショに出かけたり。
オタ面ではkonohaさんのご好意で新刊にゲスト寄稿させていただき、初のオフデビューしたり。
サンナミすばらしい!サンナミストのパワーすごい!!と常々思った一年でした。

マルアンは、2年半ちかくかけてリバリバをようやく書き終えることができました。
すっかりサンナミ一色になったようでいて、時々思い出したように更新するマルアンにも反応いただけるのがほんっっっと嬉しかったです。
ただでさえマイナーなマルアンクラスタさん。
沼へ!ようこそ!!!!

とか言いながら自分に何度も言い聞かせてることを年の瀬に復習したいと思います。

アンちゃんは、原作に存在しません。



口に出して確かめとかないと時々本気でわからなくなるので。
それでもいいの。



マルコもサッチもイゾウにいさんも、もちろんジョズもハルタも16人みんなずっとだいすきです。
そしてオヤジ。
ワンピキャラの投票があったとき、私なら誰かなと考えたらわりと迷わず私はオヤジに投票するなと思いました。
今でも戦争編のアニメだけ何度も見ます。
かっこよくて優しくて強くて愛に溢れててでもクサくなくて、だいすきです。


決意表明みたいに自分のことばっか書きましたが、改めて今年もお世話になりました。

来年もよろしくお願いいたします。



さて。

私事で申し訳ないんですが、今インドネシアのバリ島に来てます。
これ、あいほんでぷちぷち打ってます。
3年半ぶりくらいのバリはめちゃくちゃ現代化しててびっくりします。
空港が新しくなってたり、ハイウェイが海の上を通ってたり。
もう瓶やバケツで煙草吸いながら受け渡しするガソリンスタンドはなかったり。

移動含め約一週間の旅行ですが、初っ端からトラブルがあったり、大晦日の大渋滞に巻き込まれたり、まあいろいろあります。
旅行記的な覚え書きをアナログでメモしてますが、またブログでピックアップしてレポ書けたらなあと思ってます。

今は紅白みながら(えねっちけーだけ映るんです)ルームサービスのサラダむさぼってビンタンビール飲んでます。
こっちが23時のときに日本では年が明けるので、テレビのカウントダウン見てからビーチのカウントダウンを見に行こうと思います。

明日の夜の便で1/2着で帰国するんですが、なんか日本大荒れの模様なので若干飛行機不安です。
がんばる()


それでは良いお年をお過ごしください!



こまつな

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



我が家は同人サイト様かつ検索避け済みサイト様のみリンクフリーとなっております。
一声いただければ喜んで遊びに行きます。

足りん
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