OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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じっとりと湿って蒸された空気は故郷の風を思い出して嫌いではなかったが、寝苦しい夜に変わりはなかった。
酒、と思って体を起こしたが、いや違う水か、と考え直して部屋を出た。
ベッドがあるのに床やソファで寝るのはメリーからの習性に近い。
無造作に転がる野郎どもを避け、時には踏み、部屋を出ると空は隅から隅まで深い紺色に染まっていた。
ぽつぽつと虫食いのようにところどころ星が小さく光っている。
月が明るい。不器用が書いたような丸だ。
月の隣に、展望台がにゅっと伸びていてそこは明かりがついていた。どおりで影がよく伸びるはずだ。
今日の見張り当番は誰だったろうと考えてあくびをし、まあどうでもいいとキッチンへ歩いた。
足元が海鳴りで震えている。
手探りで灯りをつけ、気付けば習性で酒瓶に手を伸ばしていた。
おっと違うと手を引っ込めて、グラスを手に取り水を注ぐ。
2杯ほど飲んで喉が潤うとちょうどよく身体は冷えた気がしたが、今度は眠気がとんでいってしまった。
自分のことだろうからきっと横になれば一二もなく眠れるのだろうが、なぜか、きっと大した理由もないだろうが、もったいねぇなと思ってしまった。
夏島へと向かうこの船は近頃平和な空気に包まれていて、誰もが安穏と穏やかに、そしてにぎやかに船での生活を楽しんでいる。
平和は結構だがそれでは剣が鈍って困る、とブルックと手合せをしたり鼻持ちならないクソコックとやり合ったりはしているが、どこか体が落ち着かないのはきっと騒ぎ足らないと内奥が疼いているのに違いない。
──少しだけトレーニングでもするか。
多少身体に負荷をかければ眠気もすぐに戻ってくるだろう。なんだったらジムで横になったっていい。
ゾロは重たい靴の底を鳴らすことなく、見た目に似合わない静かさで梯子を上っていった。
*
蓋のような扉を開けると灯りがついていたので、ああそうか、ジムは展望室と一緒になっているんだったと顔をしかめたがもう遅い。
今日の見張り当番は、ひょこりと顔を出したゾロの顔を眺めていた。
「あら」
「今日の見張りはてめぇか」
仕方がないので声をかける。
扉を開けて挨拶をしてまた閉めるというわけにもいかないので、これまた仕方がなく部屋に入る。
ロビンは展望室の壁に沿うよう取り付けられたソファに腰かけて、膝の上には分厚い本を乗せていた。
ぱら、とそよいでいたページが一枚捲れる。
「こんな時間にトレーニング?」
「いや…や、まぁ、眠れねぇついでに」
ロビンはふふっと声に出して笑った。
その笑い方が「嘘でしょう」と言っているようにも、子供を扱うような笑い方にも聞こえてむっとする。
おい、と呼びかけた。
「なに?」
「ページ」
「え?」
「本、捲れてってんぞ」
ロビンはゾロの視線の先を辿って、自分の膝に目を落とした。
ぱら、ぱら、ぱら、と見えない手がページを捲っていく。
あら、とロビンが手を差し込んだ。
「ありがとう」
そんなことで礼を言われてもこまる、と返事をしなかった。
広い窓から見えるのは紺。
空ばかりなのか海ばかりなのか、どこかにその境目があるのか全く分からない。
ウソップがこの景色を絵に描けば、きっとその違いをうまく表すんだろうと思った。
「ねぇ」
「ああ?」
「立っていないで座ればいいのに。それともトレーニングをするのかしら」
そう言われて、自分がまだ入り口のすぐそばに立っていることに気付く。
あぁー、と不明瞭な声を出して仕方がなく鉄の絨毯の上に腰を下ろした。
目についたダンベルを持ち上げる。
もう眠気など戻ってきそうにない。
「おい、お前、あのー、あれだ、おれぁここにいるから、寝ていい。代わってやる」
回らない舌は暑さのせいだ、と無理のある言い訳を自分に言い聞かせてそう言った。
手の中のダンベルに目を落としていても、ロビンがじっと見つめてくる視線がまっすぐ額辺りにぶつかる。
そうだ、おれはこの目が好きじゃない、といつか思ったことを思い出した。
いつまで経っても返事がないので、怪訝な顔つきで視線を上げた。
向かい合うロビンの顔を見て、ぽかんと口を開けてしまった。
「お前、なんて顔してやがる」
まるで菓子を買ってもらえない子供のような顔で、ロビンはゾロを見つめていた。
すねているような、怒っているような、哀しんでいるような。
ロビンはその表情を隠すことなく、ぱたんと音を立てて本を閉じた。
せっかく取り戻したページが無駄になる、とどうでもよいことが頭をよぎる。
「あなたはいつまで経っても私のことが嫌いね」
「は?」
「いいの、仲間だって認めてくれてるのはわかってるし、それはとても嬉しい」
「おい」
「じゃあ代わってもらうわ。おやすみなさい」
「ちょっと待て!」
本を片手に腰を上げたロビンは、声を上げたゾロを驚いたように見下ろした。
「お前、なんだ、その、嫌い、とか」
ぶつ切りの言葉が気持ちより先に転がり出てしまってまとまりがない。
おれのほうこそすねているみてぇじゃねぇかと嫌になる。
ロビンは腹が立つほどきょとんとした表情で立っている。
いつもすかした顔ばかりしているのに、さっきのごちゃまぜになった表情や今のようなあどけない表情は慣れないからやめてほしい。
だけどそう口にするわけにもいかず、結局「わけわかんねぇこと言うんじゃねぇ」と締めた。
「だって」
「だってとか言うな、子供じゃあるめぇ」
違う、そんなことはどうでもいい、と頭ではわかっているのにどうでもいいことに限って口走る。
ろくでもないこの口をえぐり落としてやろうか、と思わず腰に手が伸びたが残念、今は刀を差していない。
ロビンは相変わらず困った表情で立っていた。
「おれがお前を嫌いだなんていつ言った」
「言わなくてもわかるわ」
「妄想だ」
「ちがうわ、わかるもの」
「知ったようなことを」
「ほら」
顔を上げると、苦しげに眉を寄せてロビンは目じりを下げた。
笑っているつもりらしい。
「私はあなたのことも知りたいし、知っているつもりになりたいのにあなたはそれを許さない」
虚を突かれた。
違う、さっきのはそういう意味じゃないと否定しかけて、いや、案外そういう意味かもしれないと口を閉ざす。
しかしだからといっておれがこいつを嫌いだという理由にはならないはずだ。
「…お前がそう思っていようが、おれは誰にだってこんな感じだろうが」
「ちがうわ」
またきっぱりと否定する。
顔つきは曖昧なままなのに、言葉尻だけはやけにはっきりしているところがロビンらしい。
「あなたは私の名前を呼ばないし、目もあわさない。まるで私に見られることを避けてるみたい」
そうだったろうか。
思わず真面目に考え出して、返事を忘れた。
無言を肯定と受け取ったのかロビンは目を伏せた。
「ごめんなさい、どうでもいいのに。見張りお願いね」
ロビンが背を向けて、梯子へつながる床の扉に手を伸ばす。
気付けば立ち上がっていた。
すぐそこにある手首を掴む。
ロビンは切れ長の目を大きく開いて振り返った。
その目を見て、間違えたとすぐに手を離した。
近くで対峙すると、やっぱりまっすぐな視線が射抜いてきた。
なにか言わなければととりあえず口を開く。
「別に嫌ってなんかいねぇ」
ぶっきらぼうな言葉がぽとんと落ちる。
参ったこれじゃ思春期のガキだと思ったが出てしまったものは戻らない。
ロビンは、思春期のガキを宥める年上の女の役割を自覚しているように苦笑した。
「ありがとう」
「おまっ…口先だけじゃねぇぞ」
「いいのよ、なんだって」
「違うって言ってんだろ」
「わかったわ、大きな声出さないで頂戴、みんなが起きてしまったら、」
「お前がわかんねぇことばっかり言うからだろうが!」
怒鳴った拍子にもう一度手首を掴んだ。
ロビンは怒られた子供の仕草そのもので肩をびくつかせた。
泣くか、と身構えたがロビンはぐっと耐えるように唇を引き結んだ。
色の薄い唇がますます白くなる。
荒い自分の息だけが部屋の中に溶けていく。
顎を引いて押し黙ったロビンは、濁流を留めていた塀の留め具を静かに外すように、「あなたが」と声を絞り出した。
「あなたが悪いわけじゃないのに、悪いのは私なのに、忘れられないの、あなたが、私のこと、敵を見るときと同じ目で見てた頃のこと、忘れられないの。もうそんなことはないってわかっているけど、それでも、ちがうと思ってしまう。みんなと同じふうに見て、話しかけてほしい。私にも笑いかけてほしい…!」
歪んだ口元の動きを見ていた。
震えるそれは、エニエスロビーの頃を思い出させた。
今は泣いていないが、あの時と同じくらい、今ロビンが放った言葉は大きな衝撃となってぶち当たってきた。
ロビンの目を直接見ると、湿った瞳に吸い込まれるように引き寄せられた。
そうだ、この目の色は夜の海の色だと気付いた時には唇を重ねていた。
バサッと重たい本が落ちた。
ロビンが愕いて身を引く。
逃がさないよう腰に手を回した。
10センチも自分より背の高い女にキスをするのは初めてだ。
身体を引き寄せて腰をしならせる。
サブリナパンツの太腿が荒い生地のゾロのズボンに擦れて当たる。
脚の間に脚を割り入れると細くて頼りなかったロビンの身体が安定した。
唇全体を覆うようにかぶりついたので、歯がガツガツと何度もぶつかった。
かまわず何度もぶつけてやる。
目を開けると、丸く開いた紺色の瞳と目があった。
嫌いじゃねぇな、と思う。
見られるのが嫌なのはまっすぐすぎるからだ。
ルフィのまっすぐさとは違う、見透かそうとするかのような直視。
負けん気が働いて、対抗するようにロビンの目を見つめた。
困ったようにその目が泳ぐ。
そうだ、そういう迷った目もたまにはしてみやがれと場違いなことを思う。
しかしすぐにロビンの目がうつろになって、いかんこれは酸欠だと気付いて慌てて唇を離した。
「…あなたって…本当…」
呼吸を整えながらロビンが言葉を紡ぐ。
荒々しく口元を腕で拭って、ふんと鼻を鳴らした。
「わかったか、この理屈女」
「何もわかるわけないでしょう、ひどい人」
ひどいというわりに、目は笑っていた。
「見張り当番なのに…こんなことしていたら船長やナミに怒られるわ」
「ルフィの奴が見張りなんかするもんか、ナミだってクソコックが夜食だなんだって持ってきて見張りどころじゃねぇよ、気にすんな」
駄目な人たちね、とロビンが笑った。
ページが擦れるようなカサカサと細い笑い声だった。
「おい、やっぱりおれぁここで筋トレする。お前は外見張ってろ」
ロビンの返事を待たず背を向けて、冷たい鉄の絨毯に腰を下ろしてダンベルを手に取った。
後頭部に感じていた視線はすぐに外れて、ロビンは黙ってゾロの向かい、さっきまで座っていた元の位置に戻った。
手には落としたはずの分厚い本を持っている。
しなやかな白い手は、本のちょうど真ん中あたりを開いてぱらぱらと少しページを捲り、目的の箇所に辿りついたのか手を止めた。
凪いだ波の音。
寝ぼけた海獣の吠え声。
刀がなくても聞こえる鉄の呼吸。
紙をこする指の音。
自分とロビンの吐息。
すべてがちょうどよいバランスで配合されて、音楽のように心地よく部屋を満たしている。
そうだ、とゾロはダンベルを上下する手の動きを止めた。
言っておかなければ気のすまないことがある。
「おい、ロビン」
形の良い目がゾロを見た。
「お前…人のことああだこうだ言っておいて、お前こそおれの名前を呼ばねぇ」
ロビンは一瞬キョトンとして、言われたことを反芻するようにじっとしていたかと思うとふわっと笑った。
「そうね、ゾロ、ごめんなさい」
花が開くときというのはこんな感じだろうと思わせる笑い方だった。
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あっついですね!扇風機をもらいました!快適です!
買おうとしていた矢先だったのでうれしい!
リバリバ8更新いたしましたー
ちょっと切りどころがわかんなくなったので、金髪碧眼のイケメンが現れたところでブツ切りに。
それにしてもびっくりするくらいなげぇよい。
アンちゃんがぐるぐる悩んでると私はよしよしするより一緒にぐぉおお…と辛くなる派なので、今たのしい気分ではないですら。
サボがかわらず聖母の如く優しかったり、サッチがかわらず明るく気の利くおじさんだったりに救われます。
こういうとこで、キャラが勝手に動くってほんとだな!っておもいますの。
でもなんとなくアンちゃんとサボの間があれこれひずんで来てもまたオツ!!とか思っているので、当分のところ終わりは見えないでしょう。
あとマルコね、マルコ。
あんたどこにいるんだい。
早くもっとマルアンマルアンしたいよ。
イゾー兄さんもまたスタイリッシュにいてくれることだろうし、この話はいっぱいキャラがでてきてたのしいなーフーン♪という気分。
あとがきではないこれは。
あと最近妄想は、イーストブルーに飛んでいます。
突飛すぎるな…と我ながら。
アツイカラカナ?
イーストブルーだけじゃなくても、麦ちゃんずのいろいろを考えてるだけで辛くもありながらしあわせ。お得!
ナミとルフィのココヤシ村でのあれこれを知らないロビンとか、
カヤに手紙を書くウソップが不思議なチョッパーとか、
ウソップが一度船を降りたことを知らないブルックとか。
ウソップン多いなおい!
ぽろぽろとりとめのないネタばっかりで、お話にはならんなこりゃ。
気が向いたらついったや雑記で妄想して自家発電します。
節電の夏なんてヘノカッパ!
はい、
ひょぉぉおーー、ぽぽぽん、という音楽が街中鳴り響いてて、圧倒的和み感が溢れる古き都ですが、暑さにはマイッタゼ!
8月すぎまでちょっと頑張りどきでありますので、そこを過ぎたら烈火のごとく更新する所存であります!
拍手いつもありがとうございます!(右に)ありがとう!(左に)いやいやありがとう!ありが…イタッ石を投げないで!
子供の頃、家族で海に行ったことがあった。
父さんと母さんがいて、サボとルフィもその頃には既にいたから、アンとサボが学校に行き始めて少しした頃だったかもしれない。
母さんはきっとそのときも赤い髪飾りを左の耳の少し上につけていて、事故で二人と共にひしゃげた車の一代前のものを父さんが運転して、家から1時間と少し走ったところにある静かな海岸へ行ったのだ。
夏が始まる少し前の、ちょうどいまくらいの季節だった。
時刻はなぜか日暮れ時で、中途半端な季節と時間帯のせいで人は少なく、砂浜でランニングをする若い男や犬の散歩をする近所のおばさんくらいしかいなかった。
きっとその日の昼下がりになって、急に父さんが『海に行こう』と言いだしたに違いない。
アンにその覚えはなかったが、そう言って呆気にとられる家族の意見に耳を貸さずにいそいそと準備を始める父の背中は簡単に思い浮かべることができた。
ぺたっと頬にくっついてから過ぎ去っていくような独特の潮風と、思わず口を開けて吸い込みたくなる磯の匂いをアンは気に入った。
風が強く、べたつくそれが髪にまとわりついてこんがらがっていたがそんなことは気にも留めず、アンはサボとルフィと三人で一気に駐車場から砂浜へと坂を駆け下りた。
はじめての、海。
ざああっと迫りくる波は気迫がありまるでアンたちを脅かそうとしているように大きな音を出す。
アンはその音にひるむことなく両脇の二人と手をつないで、スニーカーの底で滑る砂を踏みしめ波間へ近づいた。
「おおい」と後ろで父さんが呼ぶ。
振り返ると、母さんが手招いていた。
せっかくここまで近づいたのに、と名残惜しく思いながら3人はまだ海水に濡れたことのないサラサラの砂の上にいる両親の下へ駆け戻った。
父さんがサボとルフィの、そして母さんがアンの靴を脱がせてサンダルをはかせてくれた。
明るい黄色と赤のストライプのゴムがアンの小さな足を包む。
母さんはマジックテープをしっかり止めてから、アンを見て笑った。
アンも笑い返して、既にサンダルに履き替えたサボとルフィの駆けだした背中を慌てて追った。
寄せる波に足を浸すと、ひんやりとした刺激が足の甲から膝のあたりまで駆け上る。
高い声でうひゃあと叫ぶ。
波の動きに合わせて、砂がさらさらと足の甲の上を転がっていく感覚が気持ち良くて笑った。
ルフィが高く足を蹴り上げて、水を蹴散らす。
赤さを増してきた夕日の光が透き通ってきらきら光る水滴に目を奪われ、しかし次の瞬間頬に冷たい飛沫がかかった。
Tシャツにも点々と飛沫が斜めに道を作った。
アンは口だけ怒りながら同じように足を蹴り上げる。
サボも同じことをした。
笑い声が途切れない。
アンは、細かい砂が巻き上がって茶色くなった波打ち際の水が小さな粒になるとこんなにもきれいだということに驚いていた。
そのことを口にすると、サボは「アンは変なことを考える」と言ってルフィは「本当だ」と素直に感心した。
笑い疲れて、はぁはぁ息を継ぎながら何気なく砂浜のほうに目をやった。
サボとルフィもアンの目の動きにつられて同じ方を見た。
父さんと母さんが並んでにこにこと3人の遊ぶ姿を眺めているはずだった。
ふたりは確かに並んで、テトラポットの手前の乾いた砂浜の上にシートを広げて腰を下ろしていた。
アンははしゃいでいた動きをぴたりと止めて、思わずじっと両親を見た。
サボとルフィも同じように二人を見ていたが、どちらかというとアンが動きを止めたのを不思議そうにしていた。
両親はアンたちの目の前でハグもするしキスもする。
そのハグとキスは、彼らがアンたちに行うハグとキスと同じだ。
いってきますのとき、おやすみなさいのとき、なんとなく母さんにくっついていたいとき、父さんが気まぐれに抱き寄せたとき、しあわせなとき。
サボの両親もルフィのじーちゃんもそんなことはなかったと言っていたので、アンは母さんに聞いたことがある。
『母さんと父さんはなんでそんなにぎゅってしたりすんの?』
母さんはきょとんとした顔をアンに向け、すぐにはにかむような笑顔を見せてアンを抱き寄せた。
『知りたいからよ』
アンはソファに腰かける母さんの膝に乗るような形で向かい合い、すべすべする鎖骨の下あたりに頬をくっつけたまま尋ねた。
『? なにを?』
『お母さんはアンが大好きだけど、アンが今何を考えてどう思ってるのか全部はわからないの。でもこうやってしてると、少しはわかる気がするの』
『いまも?』
母さんがくすくす笑って、甘い香りが広がる。
『そうね、アンは今眠くなってきた』
『! すごい…!』
母さんの穏やかな体温に包まれて、とろとろと緩んできた瞼。
アンはぼんやりし始めた頭で、ふと続けて疑問を口にした。
『母さんは…父さんのこともこうやってしてわかってんの…?』
アンから見ると、母さんは父さんのしたいこと考えていることなんでもわかっているように見えた。
父さんが欲しいと思ったものをすぐに差し出す。
父さんが捜しているものをなにも言わずに見つけ出す。
父さん自身分からない父さんのことを、母さんはすぐに答えてしまう。
そのたびにハグやキスをしているわけではなかった。
母さんは、少し考えるような間を開けてからふふっと笑いをこぼした。
今ならそれが、まるで少女のようなあどけなく若い笑い声だと分かる。
『そうね、全部はわからないから』
『…でも』
『お父さんはね、ずっとお母さんや、アンたちのこと抱きしめてるのよ。今もね。だからお母さんは、いつでもお父さんのことがわかるのよ』
母さんのその言葉には不思議なことが多かったが、アンはもう眠気にあらがうことができなくて、続く疑問を口にすることなく眠りに落ちた。
だから、父さんがずっとアンたちを抱きしめているとはどういうことなのか、それに言葉はいらないのか、わからないことはわからないままアンの心の奥の方に沈んでいって、静かに疑問の形で残り続けた。
砂浜の上で寄り添う二人は、何を分かり合っているんだろう。
アンは水打ち際で足を濡らしながら、そのことを思い出していた。
ふと思い立って、サボとルフィを手招く。
ふたりは大した疑問も持たずにすぐアンに近寄った。
荒いルフィの歩き方がアンの太腿を濡らす。
アンは近寄ってきた二人を、正面からがばっとぶつかるように抱きしめようとした。
ふたりの顔の間に顔を入れて、両手をそれぞれの脇の下に回す。
腕の長さが足らずに到底抱きしめているとは程遠い形だった。
『アン?』
ふたりが不思議そうに耳元で尋ねる。
アンは黙って吟味した。
あたしはわかるだろうか。
抱きしめたら、ふたりの考えていることが、言葉もなしに、わかるだろうか。
濡れたシャツ同士がくっついて、心地がいいとは言えない感触が腹のあたりに伝わったがアンは腕を離さなかった。
『あ、ひこうきぐも』
サボがアンに抱きしめられたまま空を仰いだ。
ルフィとアンも顔を上げた。
橙色と水色の狭間を突き抜けるようにまっすぐの白が伸びている。
アンはその直線のほど遠さにクラクラしながら考えた。
きっと抱きしめてわかることができるのは、父さんと母さんだけだ。
あたしはわからないから、「いま何考えてるの?」と言葉で聞いてしまうだろう。
わかるのは、触れた場所から伝わる体温。
どちらが始まりでどちらが終わりなのかわからないひこうきぐもは、広がりのあるはずの空をまるで水色の画用紙のように見せていた。
*
パチン、と金属音が静かな朝の空気を震わせた。
ビジネスケースの金具を留めたアンは、やっぱりそろそろ現金を家に保管するのは難しいかもしれないと考えた。
3人の衣服や季節外れの家具などが収納されている小さな小部屋。
そこにあるタンスの空いているスペースに、黒ひげから手渡された現金を詰め終わったところだった。
すっかり軽くなったビジネスケースは今度黒ひげに返さなければならない。
特にそうと要求されたわけではないが、別にアンの方もいらないのでそうしているだけだ。
空っぽのケースを手に立ち上がると、足に脱ぎ捨てられたルフィのパーカーが絡まった。
つまずいて、まったくとため息をつきながら足でそのままパーカーを隅に寄せる。
かなり雑な扱いをしたが、タンスの足元にうずくまったパーカーを見下ろし、思い直して拾い上げた。
一度ケースを下に置き片手で軽くパーカーをはたいて皺を伸ばし、目についた場所にかかっていたハンガーに手を伸ばす。
ルフィのパーカーをきちんとハンガーにかけて、観音開きのクローゼットのノブの部分にかけておいた。
散らかった部屋。
畳みかけの洗濯物。
埃の匂い。
3人がここで生活しているしるし。
ありふれたそれらのものを見て、近頃何かこみ上げるものが多くなった。
とんとんとん、と靴下をはいた足が床の上を歩いてくる音がして、サボがひょこりと顔を覗かせた。
「アン、めーしー」
「ん、ありがと。サンドイッチ?」
サボはアンの紺色のエプロンをつけたまま、木べらを片手に下がり眉で笑った。
「今日は違うって。オムライス。作りすぎてもない」
以前のように大量生産されたサンドイッチではないと思った通りの返事を聞いて、アンも笑いながら部屋を出た。
食卓はケチャップの酸味ある香りと卵の焼けた香ばしいにおいで満ちていた。
アンはその空気を吸い込んで、同時にぐうと鳴いたお腹がきちんと減っていることを確認する。
既に日は空の一番高いところまで昇りきり、むしろ下降線をたどっているが、サボのオムライスがアンにとって昨日の夜から数えて初めての食事だ。
なにしろ起きたのがほんの30分ほど前なのだから。
起きてすぐ胃袋に物を入れることになんのためらいのないアンは、すぐさま自分の席についてスプーンを取った。
「暑いから、ソーメンとかのがよかった?」
「んん、ソーメンだと食っても食ってもお腹膨らんだ気がしないから、こっちのがいい。おいしい」
サボはアンの向かいに腰をおろして、同じようにオムライスに手を付け始めた。
サボの作るオムライスは、冷蔵庫にある野菜をとにかく細かく刻んで、ベーコンをちぎるように小さくして、ひたすら炒め、ごはんを混ぜ、また炒め、そしてケチャップを混ぜて、皿に盛る。
それから薄焼き卵を作って、さっきのライスの上に被せて完成。
ケチャップは自分でかける。
一方アンが作れば、材料が一緒でも効率をよくするため野菜は同じ大きさに小さく刻み、できれば鶏肉を使いたいし、いろどりも考える。
そして卵は薄焼き卵ではなくて、牛乳や少しチーズを混ぜてとろけた風にしてみたり、上にかけるのはケチャップではなくてハヤシライスの残りで作ったデミグラスソースだったりする。
ルフィは「サボのオムライスの卵はパサパサしてる」とバッサリ切り捨てで、サボのほうも当然アンのオムライスのほうが美味しくて好きだという。
それでもアンは、サボのオムライスが好きだった。
たまに作るそれはアンのものより貴重に思えた。
ケチャップが多くて少しべたつくライスも、ところどころ焦げてカリカリになった卵もおいしい。
2人のためにご飯を作ることはアンにとって「すき」と種類分けする以上のもので、もはや生き甲斐に近かったが、サボに作ってもらい据え膳で食べるしあわせも知っていた。
ライスのオレンジと卵の黄色とケチャップの赤は穏やかにアンに活力を与える色だった。
「ルフィ普通に学校行った?」
「うん、今日は早く帰ってくるって」
「部活は?」
「今日金曜」
ああ、と頷きで納得して大きな一口分を口に含んだ。
ルフィが所属するバスケ部は、バレー部や卓球部やその他室内スポーツの部活と交代制で体育館のスペースが割り当てられるので、金曜日はその「ハズレ」の日らしい。
だから校内で軽くトレーニングだけして帰ってくるか、友達と遊びに行くのが常道の金曜日だが、今日はその後者を切り上げて帰ってきてくれるのだろう。おそらくアンが心配で。
金曜日か、とアンは心の中で呟いた。
毎週金曜にやってくるお客さんの顔を思い浮かべて、ああもうあたしも立派な商売人だとこっそり苦笑いを漏らす。
そして2日続いた不定休に不平不満を漏らすお客さんの姿を思って、ふとよぎった二人のスーツ姿にどきりとした。
そう、今日は金曜日。
マルコはきっと来なかっただろう。サッチは…わからないけど。
マルコの暗い灰色の背広の背中に、アンに向けてためらいなく引き金を引いた長身が重なった。
アンはゾッとする数日前の光景をかき消すようにギュッと強く目を瞑り、それからは一気にバクバクとサボのオムライスを平らげた。
サボはそんなアンの様子に何を言うこともなく、もくもくと食事を続けていた。
*
暗闇の中でマルコの深い蒼の目だけが妙に光ったように見えた。
思わずカーテンを握りしめる手が緩む。
しかしそのマルコから発される殺気に似た空気を感じ、アンはすぐさま正気を取り戻しカーテンでマルコの視界から自分を消した。
アンが感じた殺気に間違いはなく、カーテンに隠れるその一瞬で見えたマルコの指先には間違いなく引き金への力が加わっていた。
そしてアンがベランダの床を蹴ったその次の瞬間には、アンが今しがた立っていたその場所を銃弾が削っていた。
ひとつ上の階のベランダに鉤爪がしっかりと引っかかり、アンはシュンと耳元を風が切る音を聞いた。
辿りついたベランダの手すりに手を掛けると、そのまま前転する要領で中に転がり込み、腹筋を使い勢いよく立ちあがったアンは次にその上、屋根に向かってロープの先を投げた。
黒ひげがアンに示した邸宅の製図の通り、屋根のふちにある排水路に鉤爪が引っ掛かる。
そしてまた同じ要領でロープがアンを屋根へと運ぶ。
パンと乾いた音が響いてアンが屋根に両足をかけた矢先、そのすぐ左側の屋根のふちがぽろっと崩れ落ちた。
続いてパン、パンと2回銃声が鳴ったがアンは振り向かずに屋根の中央へと走りっていく。
まったくノーマークの屋根の上ではアンは身を隠す必要もなく、猫のような俊敏さで広く平らな屋根の上を横切った。
走りながら、正面少し下に3本の煙突の先端が見えてきた。
隣家のものだ。
黒ひげの言葉が正しいことを確信したアンは迷わず足を動かした。
下方には喧騒が増してくる。
アンはその煙突のある隣家に一番近い屋根の端まで来ると立ち止まり、下を確認した。
屋根から3メートルほど下に薄暗い中でぼんやりと、白濁色のプラスチック素材のような屋根が浮かんで見えた。
温室の屋根だ。
そしてその向こうにはこの邸宅を囲う塀があり、2メートルほどの幅の狭い道路を挟んですぐ向こうにはこの邸宅より背の低い隣家の屋根がある。
アンはすでに使い慣れたロープをぎゅっと握りこんでからその先端を隣家の煙突に向かって無造作に放った。
適度な質量をもった鉤爪はちょうど良い速さで隣家の煙突の吹き出し口に引っ掛かる。
アンはその強度を確かめてから、薄暗さでおぼつかない落下先に怯える余裕もなく屋根のふちを蹴っていた。
温室の屋根は格子のように鉄の骨組みが組まれており、その表面を透明の天板が覆っているだけの脆いものだと聞いていたので、アンは淀みなく骨組みの部分に足をつけ、その骨組みの上を器用に走り出した。
ミシミシっとしなる音がやけに大きく響いて心臓が跳ねたがだからといって止まることはない。
ふと昔、自宅を囲む2メートルの高さの塀の上を平均台のようにしてサボとルフィと追いかけっこをした、何とも平和な記憶を思い起こす。
「危ないからやめなさい!」と血相変えて叫んだのは母さんだったろうか、もしかすると父さんだったかもしれない。
しかしそれでもアンたちはやめず、奇妙なスリルと足元から駆け上る少しの恐怖に突き動かされて遊び続けた結果、驚異のバランス力が養われ、今こうして役立っているというわけだ。
思わぬ感傷に浸りながら、アンは温室のふちまで辿りつき、4メートル強の幅があいたその向こうにある目的の屋根に視線を移した。
背後で生ぬるい空気をかき混ぜるようなごちゃごちゃした喧騒が聞こえるが、温室とそこを囲むように屹立する樹木がアンをそれらの視界から隠してくれる。
アンは温室の屋根のギリギリふちに立っていたが4,5歩下がり、手に握るロープを引いてもう一度鉤爪がしっかり煙突を捉えていることを確かめる。
そして走り幅跳びの要領で、上体を低くし数歩の助走をつけて温室のふちを蹴りつけて跳んだ。
ふわっと内臓が浮かぶ、吐き気を催すような感覚が一瞬したと思った矢先にはもうアンのつま先は隣家の屋根を捉えていた。
しかし4メートル強の幅をしなやかに飛び越えたものの、そのかかとは宙に浮いていた。
「っ!」
体重が後方に移動し、アンの身体は後ろに倒れていく。
しかし右手に握りこんだロープがすぐさまぴんと張って、アンの身体が背中から落下するのを防いでくれた。
右腕の筋肉がきつく緊張する。
背中に流れかけた冷たいものがすっと引いていき、アンは思わずふうと息をつく。
アンは力を込めてロープを手繰り寄せて身を立て直すと、足音立てずに屋根の上を移動した。
煙突から鉤爪を外し、指示された通りその家の南西の角まで走ると一気に下へ飛び降りた。
2階程度の高さから降りることは、すでにアンにとって自分の足で支えられる衝撃だった。
「こっちよ」
背後から夜の闇に似つかわしい低い女の声がかかった。
アンはその声の主を確かめることなく振り向いてすぐその声の主が開いた裏口と思わしき扉の中へ身を滑り込ませる。
アンが中へ入ると、すぐさま何者かの腕がぬっと伸びて静かに扉を閉めるのが暗闇の中でかろうじて見えた。
外は弱弱しい月明かりと非常灯の灯りでぼんやりとした明度のある視界だったが、一方アンが踏み入った家の中は真の闇だった。
これも黒ひげの指示した通りだとはいえ、何も見えない視界の中で得体の知れない人の気配だけ感じるというのは心地いいものではない。
アンは警戒を張り巡らせた身体を固くして、じっとその『誰か』が声を出すのを待った。
『誰か』の気配はアンのすぐそばにあり、身動き一つしない。
アンのこめかみをべたついた汗が一筋トロリと伝った。
「…時間帯が時間帯だから、灯りは付けられないんだよ」
やっと声を発した女は歩き出したのか、すっと遠ざかる気配がした。
暗闇の中で目が慣れているのか、その人物は何かにぶつかったり物音ひとつさせることなく遠ざかっていく。
アンはその背に続こうか迷って、しばらく壁に背をつけて浅い呼吸を繰り返していた。
やっと今回の任務が『成功』したのだという実感が鼓動の音ともに蘇ってきてアンの胸を打つ。
アンはふっと頬を緩めた。
今更過ぎる、膝が笑っている。
アンはずるりとその場にしゃがみ込んだ。
膝がしらに額をつけて、まさぐるように右手を動かして腰のポーチを確認する。
つむじのあたりにそんなアンの姿をじっと見つめる視線を感じた。
「中に入ったらどうだい。歩いても大丈夫さ、物はあんまり置いてないからね」
アンはその声に顔を上げることなく、暗闇の中で固く目を瞑った。
視線はしばらくの間アンに留まっていたが、長くは続かず女がアンの傍から離れていく気配がした。
ひとりにしてくれるらしい。
黒ひげの中の一人だと分かっていながら、女のそれが心遣いだろうが単にアンに付き合ってられないと判断しただけだろうが、ただ今はその行動に感謝するしかなかった。
カタカタと痙攣するように震える脚はなかなか収まらず、それを留めようと膝を抱える腕にさえ力が入らなかった。
逃げ切った安心感と、のしかかる罪の重さがまたもやないまぜになってアンを襲う。
どこまでも煮え切らない自分に嫌気がさした。
綺麗ごとだ、と口だけ動かす。
この罪悪感は綺麗ごとだ。
罪悪感を感じるなら初めから犯さなければいい。
後悔するなら初めからしなければいい。
そう思いながらもアンの心にずんと残るしこりは紛れもなく罪悪感と後悔そのものだった。
初めてのときよりもそれは深い。
きっと慣れることはない。
暗闇の中アンを見つけ出そうと光るライト。
やたらに危険心を煽る赤いパトカーの光。
警官の怒声。
銃口の黒さと「敵」とみなされたときに向けられる目。
そのすべてを思い起こして、ああこれは罪悪感じゃないと気付いた。
怖い。
警察が、捕まることが怖いのだ。
完全に犯罪者の心理に染まっているということに愕然とした。
罪悪感だと認識していた心のしこりが一瞬で霧散し、すぐさま恐怖という感情が胸をいっぱいにした。
もう戻れない。
何度も何度も繰り返し脳裏をよぎる言葉が、このときもまたアンの鼓膜を内側から打った。
そうだ、もう戻れない。
母さんの髪飾りを取り戻したいという強い思いと使命感は今も変わらない。
それでも温かく光の差す家の匂いと兄弟の笑顔を思うと、もうそこには戻れないという実感が液体となって目元にじわっと滲んだ。
黒ひげとの関係をすべてゼロにして平凡な3人の暮らしを取り戻したいという思い。
取り返した髪飾りを両親の墓前にかざして見せたいという思い。
黒ひげの言葉を黙って受け入れたときの決意。
マルコとサッチからあわよくば情報を聞き出そうとした自分の卑小な考え。
マルコが見せた笑い方に物珍しさを感じてもっと見たいと思ったこと、そのマルコの目がアンを打ち抜くように見つめ銃口を向けた際紛れもなく哀しいと思ったこと。
そのすべてが本当で、だからこそ何を信じていいのかわからない。
泣くな、泣くな、泣いたら全部流れてしまう。
崩壊しかけた涙の蛇口を必死で固く締めようとするとその方法はもう思考を止める以外になく、こんな右も左もわからない場所でという警戒心に包まれながらも、アンはうずくまったまま意識が抜かれるように眠りに落ちた。
*
ハッと目を起こして目に入る天井の色を確認する暇もなく、アンはすぐさま上体を起こした。
すると突如ぐにゃりと視界の景色が歪み、顔をしかめて俯いた。
思わずうめく。
外からは平和にさえずる鳥の声が聞こえていた。
眩しさといまだ平衡感覚の定まらない頭に目を細めた。
肌に触れた布の柔らかさとその色に見覚えがあり、アンはゆっくりと辺りに視線を走らせた。
「…いえ…」
自宅の寝室だった。
3つのベッドの一番窓側、間違いなくアンのベッドの上だ。
アンはしばらくの間、何から考えればいいのかわからなくてぼんやり目の前のクローゼットを見つめた。
いつ帰って来たのか、どうやってここまで来たのか、今が何日の何時なのか。
とりとめない疑問が一気に押し寄せるがそれにひとつずつ回答を考える余裕はまだない。
とりあえず外は明るく、今は日中だ。
その平凡さに安心して、アンはサボとルフィはどこだろうとベッドから足を下ろした。
そしてそこにすぐ、自分のスリッパがきちんと揃えて置いてあることに気付く。
サボの気遣いの痕跡にアンは思わず頬を緩めた。
それに足を突っ込んで立ち上がってから、自分がちゃんとパジャマのTシャツを着ていると知った。
これまた記憶にないことだ、と思いながらアンはペタペタと平たい足音をさせながら寝室を出た。
リビングに入ると、ソファに腰かけるサボの後頭部が見えた。
何か読み物をしているらしく、俯いている。
サボ、と声をかけるとサボはアンが驚くほどのスピードで振り向いた。
まるで隠れていたのに思わぬところで見つかった泥棒のような顔をしている。
アンの方こそそれに驚いて少し目を丸くした。
しかしアンの顔を見て、少し強張っていたサボの表情がゆっくりと溶けていく。
「…ああ、アン、おはよ」
「おはよ…今何時?」
「13時」
「あたし…いつ帰ってきたっけ?」
サボは苦笑を隠さず「昨日の明け方くらい」と答えながら立ち上がった。
ローテーブルに置いてあった自分のグラスを手に取り台所へ向かう。
アンはサボの背中をぼんやり見つめながら、「昨日…?」とこぼした。
そしてすぐ、「えっ、あっ!」と声を上げてソファに放られていた新聞を慌てて手に取った。
新聞の上端に記してある小さな文字に目を凝らす。
虫のような文字の小ささにいらいらしながら今日の日付を読み取ると、アンはあんぐりと口を開けてサボの背中に呟いた。
「…あたし丸一日寝てた…?」
サボは笑いながら頷いた。
コップを濯ぐ音がさわやかに部屋の中で跳ねる。
きゅっ、と蛇口をひねる音までよく聞こえた。
「飯作っとくからさ、顔洗ってくれば?」
アンは素直にうなずいた。
ああ、また母さんのと違ったのかもしれないと理由もないのに確かに思った。
寝室に戻ると、2つのベッドの間にある小さなテーブルの下に隠すように置いてある黒いビジネスケースを見つけて、少し気分が沈んだ。
*
サボの計らいで店は2日間休業していた。
事件が起こるたびに休業になる怪しい店になってしまったが、まさか誰も宝石盗難事件と街の端にある小さなデリの開店状況を結び付けて考えたりはしないだろう。
少し心配なのは、あの刑事の二人の男だけだ。
マルコはアンの事件のせいでのんきに遅い昼食を取りに来る余裕もないはずだからいいとして、もしかしたら事件とは無関係のサッチはひとりでやってきたかもしれない。
そして店が休業であることをマルコに与太話のついでに伝えて、前回の事件のときも休業のことを万一覚えていて、少しでも怪しまれたら…とそこまで考えてアンはぎゅっと目を閉じて考えを追い払った。
考えすぎだ、明らかに。
アンは二日間の売り上げを取り返さなければと意気込みを込めて、午後はひたすら惣菜を作った。
野菜炒め、かぼちゃのサラダ、鶏肉とナッツのソテー、つみれ団子とほうれん草のスープ。
ルフィが帰ってくると作るそばからひょいひょい食べられて何のために作っているのかわからなくなる。
だからアイツが帰ってくる前にできるだけ作り貯めて置こうとアンはせっせと手を動かした。
サボはバイクに乗って、お得意の八百屋や魚屋に明日の注文を直接取り付けに行っている。
ビジネスケースのことを尋ねると、眠るアンと一緒にラフィットと、もう一人背の高い女が届けに来たらしかった。
『髪飾りは…』
『まだわかんねぇけど、留め具が外れかけててどう見ても紛いモンっぽいから違うだろうって』
そう、とアンは静かに頷いた。
驚きはそれこそ驚くほど少なくて、悔しがり残念だと涙をこぼしてもおかしくないサボの言葉はアンの中でしゅわっと炭酸の泡のように小さな粒となって広がり、溶けて染み込んでいった。
サボはアンの代わりに悔しがるようなそぶりを見せることもなく、アンが頷いたのを確認して発注に出かけてくる旨を伝えた。
フライパンの中で彩り鮮やかな野菜たちが油をまとってつやつや光っている。
ざっざっと機械的に動く手は慣れたもので、次々に惣菜を量産していってくれる。
静かで、落ち着いた気持ちがアンを満たしていた。
数か月前、銀行を破り手に入れた髪飾りがハズレだったときに流した涙と同じ種類のそれはもう出ない。
なんでだろうと自問するも、明確な答えは内側から帰ってこなかった。
ブゥンと大きな蜂が耳元を飛んだような低いバイクの音が店の前を横切った。
「ん、あぁー…」
ふと、驚きとため息が混じったような男の声が店の外から扉越しに聞こえてきた。
そしてすぐ、カシャンとシャッターに何かがぶつかったような音もする。
アンはフライパンの中身を皿に移し替えながら、思わず見えもしない外側に目を向けた。
通行人だろうか、もしかするとお客さんだろうかと思って壁の時計を見上げた。
15時を少し過ぎたところ、うちの店に来るには遅すぎる。
残念、ゴメンナサイと心の中で謝って聞き流すことはできた。
そうするべきだったのに、どうしてか、たった一言言葉でもない声がどこかにひっかかり、気付いたらシャッター横のドアに手をかけていた。
ドアを開けると、シャッターに背中を預けて携帯を覗き込む男の横顔が思いのほかすぐそこにあった。
男は開いたドアに気付いて振り向き、すぐさま顔を綻ばせた。
「…サッチ?」
「おお!アンちゃんだ!やりっ」
サッチは嬉しげな顔を隠そうともせずにかにかと笑いながら携帯を無造作にパンツのポケットに突っ込むと、「いやぁやっぱり今日は遅すぎたよなぁ」と眉を下げた。
なにが「やりっ」なのか理解できず、アンは微妙な顔のままサッチを見上げる。
「ちょっと仕事のほうでメンドーがあって遅くなって…あ、今日はマルコの奴はいねぇんだけどさ。ほら、もうテレビとかでやんややんや言ってる事件あるだろ?アレでさ」
アンは曖昧に頷いた。
サッチはつとアンを見下ろして、口元だけ笑ったまま考えるように動きを止めた。
サッチの笑顔から「ニコニコニコ」と効果音が出ているとするなら、ぷつ、と途中で途切れた感じに。
「アンちゃん疲れてんね。今日忙しかったんか?」
「え、や…」
そうか、サッチは今日店が休業だったことを知らない。
否定しかけたアンは、ええいいいかと「うん、まぁ」とぼかした返事をした。
するとサッチは、「んー」と考えるそぶりを続けて空を仰いだ。
アンはドアノブに手をかけて体は店の中に入ったままという中途半端な体勢で、サッチとの会話をどう切り上げていいのか、そもそも切り上げたいのかもわからない。
「よしアンちゃん、オレのメシ付き合ってくんない?」
「えっ」
「アンちゃんの店の片づけが終わってからでいいよ、待つから。夜は家のことしなきゃなんねーんだろ?なら夜までに帰ってくるからさ」
男の一人飯ってほんとつまんねーのよ、ほんと、とサッチはまるで拝むようにアンの前で手を合わせた。
「飯でもデザートでも奢るし!」となんとも魅力的なセリフを言われたが、アンが一も二もなく頷けるはずもない。
だって、サボやルフィはいかなくてあたしだけっていうのもなんかちょっとアレだし、そもそも今サボがいないから書き置きしていくしかないし…それってどうなの?
それにアンは目覚めてからまだ一度もルフィに会っていない。
店は実際今日はやってないから片付けもないし、作り置きの惣菜はさっきのを冷蔵庫に仕舞ったらおしまい。
今から夕飯の準備までは、自由の時間だ。
それでも、「えーっとぉ…」と間延びした返事をしながら、アンは自然とどう断ろうかという言葉を探していた。
アンの前で拝むように姿勢を低くしていたサッチが、ふと視線をアンからその背後へスライドさせた。
「あ」の形で口が開く。
ぶぶぶ、と低く空気を震わすような振動音が二人の真横で止まった。
サボはジェットヘルをかぶったまま、片足を地につけた。
「お客さん」
「にーちゃん、アンちゃんのにーちゃんだ」
サッチはわざわざサボを指さし確認する。
アンは二人の間で視線を行き来させ、どんな顔を作ればいいのかわからなくて、結果困ったような表情をサボに向けた。
サボはそんなアンの顔を見て、「ごめん、今日は店早く閉めたんだ」と気の利いたことを言った。
「おうおう、そりゃいいからよ、今お宅のお嬢さんをオレの遅いメシにつき合わそうって魂胆だったんだけど、こりゃまた優秀なボディガードがいるもんだ」
サッチはもともと下がり気味の眉を寄せて苦笑した。
サボとアンはまるで写し絵のように揃った表情できょとんとする。
しかしすぐ、「あぁ」とサボが呑気な声を上げた。
「メシ行くの?いいよ、行ってきなよ」
げっ、とまでは言わなかったものの、言ってもおかしくない形相でアンはサボに視線を走らせた。
ぎょっとするとはまさにこのことだ。
今度はサッチの方がきょとんとして、ぱちぱちと瞬いた。
そしてぱぁっと笑みが広がる。
目元の笑い皺が濃くなったのがアンには見えた。
「マジ?いいの?」
「晩飯オレやっとくし、ルフィにも言っとくから」
「やっ、それまでにはかえ…」
ハッと口をつぐんだアンの向かいで、サッチがヨッシャ―と高らかに叫ぶ。
サボは「出かける準備してこれば?」と何でもないように笑って、隣の空き地までまたバイクを走らせていった。
アンは続きの言葉も口をつぐんだ言い訳も言うことができず、ただただサボの言う通り出かける準備に中へ引っ込むしかなかった。
*
サッチがアンを連れて行ったのは、小奇麗なスタジオの上階にある小さなバーのような店だった。
バーのようというのは外見だけで、酒は置いてありそうだがまだ日も落ちてない時間帯のこと、怪しい雰囲気はないこじゃれた店だ。
アンの店からふたりでてくてく歩いて15分ほどというとんでもない近所だというのに、少し大通りを反れてしまえばそこはアンの知らない場所だった。
ふたりで道を歩いている間、サッチの口は壊れた電化玩具のようにぺらぺら動き続けたが、会話にそつがないのでアンからも自然と返事がこぼれ出る。
サッチが「ここよここ」と足を止めるまでの間に、サボとルフィのことや3人での生活などをうわべだけではあるが洗いざらい話させられていた。
サッチの声や目まぐるしい表情は、オッサンのくせになんとなくアンにとって眩しく思えた。
木の扉を引きあけて、サッチはそつなくアンを先に店へ入れる。
アンがおずおず足を踏み入れると、薄暗い店内の奥のカウンターの向こうですらりと綺麗な男が立っていた。
ぼんやりと白い灯りが店内を照らしているが、床に敷かれた絨毯が濃い青色なので店中が薄く青に染まっている。
まるで幽霊のように、その男は立っていた。
グラスを拭いている手がびっくりするほど白い。
男はアンが入って来たのにまったく気付いていない様子で顔も上げない。
それをいいことに、アンは思わずしばしの間男に見入った。
しかしすぐ、後ろから陽気な声が飛ぶ。
「よーう!オヒサシブリ」
さっ、立ってないで入った入った、とサッチに軽く肩を押されて、アンはおずおず中へと歩き出した。
サッチの声に反応してすいと顔を上げた長身の男は、まるで絵のように左右対称に目鼻がついていて、通った鼻筋はぴんとまっすぐ顔の真ん中にあり、切れ長の目が真っ黒で印象的だった。
こんなにきれいな人間は見たことがない。
背中に一本線を引くように垂れている髪束は女性のようだが、高い身長と何よりその見目の麗しさに目を奪われて立ち止まる女は多いだろうと思われた。
アンが男を凝視しているのに対抗するように、男もアンを捉えてじっと黙ったままだったが、それも納得できた。
美しいものはたいてい静かである。
男は手にしていたグラスを、カウンターの上のホルダーにぶら下げた。
「最近見ねぇと思ったら、今度は犯罪か」
凛とした見た目に反して低い声。
サッチは「バッカ、犯罪じゃねぇよ、立派なデートだ。しかも今度はってオレが前になにしたってんだ」
「羅列してほしいか?」
「…いいです」
しょぼんとしたサッチの声に思わずアンが噴き出すと、男は意外にも愛想のよい笑みを見せて、カウンター前の席を顎でしゃくった。
「立ちんぼしてねぇで座んな、そんなオッサンよりオレの方が数倍楽しい」
アンが曖昧にうなずいてサッチを振り向くと、若干しおれたように見えないでもないリーゼントを撫でつけながら、サッチは「座ろうぜ」とアンを促した。
*
「オレ腹減ってんだけど、お前んとこのコックは?」
「まだ来てねぇよ、こんな微妙な時間に客なんてこねぇからな」
「んだよ、店開けてんのはソッチだろ…アンちゃんなに飲む?」
「あ、えっと」
慌てて目線を彷徨わせてメニューを探したが見当たらない。
「オレは酒しか作れねぇぜ」
無駄の一切ない顔が、それに似合った淡泊な告白をした。
サッチが「飲みモンくらいできるだろー」と顔をしかめても、意に介した風もない。
「冷蔵庫の中いじるとあのガキに怒られんだよ」
「お前ほんとにオーナーかよ…」
「アン、お前さん甘いもんは食えるか」
ためらいを微塵も見せずアンの名を口にした男は、尋ねたにもかかわらず返事を待たずに背を向けて、長い足を二三歩動かして冷蔵庫の戸を開けた。
「た、食べられる、すき」
その背中に向かって返事をすると、冷蔵庫の中から目いっぱい白い何かが詰まったガラスケースを取り出して男は満足げにうなずいた。
白い冷気がその容器からすうっと煙草の煙のように立ち上る。
「うちのコックが昨日作っておいてったチーズケーキがある。売りもんじゃねぇけど、食うか?」
「ケーキ!?食べる!」
思わず子供のように勢いよく答えてしまい、ハッと気づけばサッチの物珍しげな視線を感じた。
少し気まずさをにじませて乗り出した身体を椅子に戻す。
「アンちゃん、チーズケーキ好きなんか?」
「や…うん、すき、だけど」
サッチが追求してくるのでますます萎縮する。
アンの向かいで白い手が同じくらい白いレアチーズケーキにスプーンを突き刺し、ぽこっと四角く取り出している。
ハハハ、と明るい笑い声がアンの隣で広がった。
なんで笑う、と少しむっとした顔をサッチに向けてみると、サッチは「いや、ごめん、いいじゃんと思って」と何が嬉しいのか目じりの皺を最大限に増やして言った。
「あんまり笑わねぇ娘だと思ってたからさ、なんだちゃんと元気じゃんって」
アンは目玉がぽろっと落っこちてしまいそうなほど目を見開いてサッチを見つめた。
笑わないって、笑わないって、
うそ、と言葉がこぼれかけたとき、カウンターの向こう側、デシャップと裏を繋ぐ扉が開いてちわーっすと気だるげな声が空気に溶け込むように入って来た。
アンとサッチは自然とそちらに目をやる。
長身の男が「おう」と応えた。
黒いエプロンの腰ひもを結びながら入って来た男は、つと視線を上げてまず客がいたことに驚いたように少し足を止めた。
そしてすぐ、アンとぱちっと視線を合わしてカクッと顎を外した。
「レ、レディがいる!!」
うるっせぇ、と長身が鬱陶しげに眉を眇めた。
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更新から日を置いて更新報告をするのは既にデフォルトになりつつありますね。
リバリバ書いて、サンナミ書いて、よしまとめて雑記書こうという怠惰が働くとこうだらだらと延びて、結局更新は一週間近く前とかいうことになるんですよ。
リバリバ7とサンナミ【呼んでサファイア】更新です。
リバリバは、ここまで、せめてここまで…と思って進めていくととんだ長さになりました。
圧倒的文量の不安定さ。
それはともかく、私の一番の悩みどころは目下のところサボの立ち位置であります。
彼は き ょ う だ い だよ!!
って常に自分の言い聞かせて、そう、これはマルアン、ここはマルアンサイト…と念じながらキーボードをたたく。
うっかりするとほんとにうっかりしちゃうかもしれないから。
うっかりアッーーーみたいなことになると笑えないしマルコの引っ込みがつかないから(やめ
んで、アンちゃんがお仕事をするシーンは私の中ではきっともっとスタイリッシュ。
さらに言うとキャッツアイ的要素満載で、王道万歳!
んでも今のところリバリバは全体的に深刻な糖分不足で、我ながらムネキュン展開はまだかよ、てか来るのかよ、と若干訝しく思いながらダカダカ書いてます。
そう、唯一のムネキュンがサボアンでしかないから、こういうカップリングのあっちこっちが起こるんだよ…!
それでもいっかー☆って思っているのでさらに収拾がつかない(致命的)
ということで、マルアンの糖分補給はもっぱらハナノリさんちの新しい連載で補ってもらえるので、存分に摂ってくるべきだと思います。
マルコがオッサン属性発揮して知らず知らずのうちにデロデロにされるアンちゃんとか。
若干香るシリアスの香りとか(シトラスではない)
先は長いらしいので、しばらくの甘味補給には困らなさそう。
んで、アウトプットのほうの糖分補給も欲しいところなのでサンナミ更新しましたん。
現パロ【恋は百万光年】の続きっぽくなっております。
てか続いてないと設定がよくわからんかんじ。
S氏はあれからまたナミさん置いてフランスに戻り、ナミさんは辛抱強く待って待って、
でも今までみたいに連絡とらんとかそういうことはなく適度に電話やメールのやり取りがあって、
一年が過ぎ
ナミさんの誕生日に貢ぐためサンジ君が帰ってくるとそういう話。
相変わらずナミさんは素直じゃなくてサンジはお構いなしにデレデレしてて、
でもナミさんががんばって素直な一面を見せるとサンジはさらっと切り返すか流してしまう。
その噛み合わなさにナミさんが「ああああもうっ!」って苛立つのがかわいい。かわいいよ!
たまーにサンナミのお話を書くと、それに対してメッセいただけるので
いつも「ああよかったサンナミクラスタさんも来てくれておる…」とうれしくなりますの。
ありがとうございます。
いま(6/28)までにいただいたコメントにはすべてお返事させていただきました。
コメントが届くと私の携帯にメールが来るようになっていて、そのメールを見たときの私の顔がこの世で一番気持ち悪くてしまりがないと豪語できる。
あざっす!
これを原動力にリバリバ続き書きます、書くんですが、ちょっと忙し度がアップしてきたので少し遠くなるかもしれない。
そんなことないかもしれない。
もし思いのほか更新が早かったら、「やることやらんかったんだな…」と生暖かく蔑んでください。
リバリバ書いて、サンナミ書いて、よしまとめて雑記書こうという怠惰が働くとこうだらだらと延びて、結局更新は一週間近く前とかいうことになるんですよ。
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リバリバは、ここまで、せめてここまで…と思って進めていくととんだ長さになりました。
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彼は き ょ う だ い だよ!!
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うっかりアッーーーみたいなことになると笑えないしマルコの引っ込みがつかないから(やめ
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S氏はあれからまたナミさん置いてフランスに戻り、ナミさんは辛抱強く待って待って、
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一年が過ぎ
ナミさんの誕生日に貢ぐためサンジ君が帰ってくるとそういう話。
相変わらずナミさんは素直じゃなくてサンジはお構いなしにデレデレしてて、
でもナミさんががんばって素直な一面を見せるとサンジはさらっと切り返すか流してしまう。
その噛み合わなさにナミさんが「ああああもうっ!」って苛立つのがかわいい。かわいいよ!
たまーにサンナミのお話を書くと、それに対してメッセいただけるので
いつも「ああよかったサンナミクラスタさんも来てくれておる…」とうれしくなりますの。
ありがとうございます。
いま(6/28)までにいただいたコメントにはすべてお返事させていただきました。
コメントが届くと私の携帯にメールが来るようになっていて、そのメールを見たときの私の顔がこの世で一番気持ち悪くてしまりがないと豪語できる。
あざっす!
これを原動力にリバリバ続き書きます、書くんですが、ちょっと忙し度がアップしてきたので少し遠くなるかもしれない。
そんなことないかもしれない。
もし思いのほか更新が早かったら、「やることやらんかったんだな…」と生暖かく蔑んでください。
夜風が心地よい冷たさで頬を撫でて過ぎ去っていく。
ベランダの手すりに肘をついて顎を支えると、金属のそれから風とは質の違う冷たさが這い上ってきた。
乾かしたつもりでもまだ湿り気の残っていた髪が冷えて、ぶるっとひとつ体を震わせた。
それでもなんとなく、中に戻る気にはなれない。
今日の昼間は梅雨の中休みで暑かったけれどいい天気だったから、夜空に星は多く見えた。
少し高台にあるあたしの家からは余計たくさんの星が見つけられる。
よっと身体を手すりの向こうに少し乗り出して右側を仰ぎ見ると、ぺらぺらに薄く細くなった月がほのかに光っていた。
月の光が少ないと、星がたくさん見える。
その月のすぐそばをかすめて言った薄い雲の動きを見て、明日もいい天気だけど少し風が強いかもしれない、と誰に言うわけでもないのに一人天気予報を告げる。
唇を少し開くと、冷たい空気が口内にも流れ込んできた。
その冷たさに少し怯んで、それでもおずおずと音を舌先に乗せた。
サンジ君サンジ君、あたしの声は聞こえてる?
*
「明後日?」
『そう、明後日の、14時半着だから』
携帯電話は、数千キロの距離を一気に縮める魔法の箱だ。
いつもいつもどこかに置き忘れたりコンクリートに落としちゃったりしてごめんね、と思いながら電話の向こうで『ナミさん聞いてる?』と訝しげに聞こえた声に、慌てて「聞こえてるわよ」と返事をした。
「じゃあ空港、迎えに行くから」
『え、いいよいいよ。ナミさんとこから遠いだろ?オレがバスでさっさとかえるよ』
せっかくの出迎えの提案を、彼はあっさりと否定してみせた。
まったく、いつもは会いたい会いたい早く会いたい帰りたいナミさんに会いたい!!と電話口でわめきたてているくせに、いざ帰るとなると至極あっさりしているのだから、あたしが今までのサンジ君の言葉を疑ってしまうのも仕方のない話だと思う。
「いいから、行くの!」
『…そ?わかった、ありがとう』
否定したくせに、ありがとうと言った言葉がひどくうれしそうで、ふわりと跳ねるように耳に届いてあたしはくすぐったくなる。
くすぐったいくせに素直になれないのはあたしの悪い癖だけど、そういうところも好きだといってくれる人がいるのでなかなか治せない。
耳にぴったりくっつけた携帯電話のスピーカーの向こう側で微かに聞こえる彼の吐息にさえ、あたしは瞼を震わせてすぐに反応してしまうというのに。
『…ナミさんナミさん』
「なによ」
『空港で抱きしめても怒んないでね』
「怒るわよ!バカ!」
恥ずかしい奴、と口では言いながら、見えてないからいいものの、頬はあたしだってきっとサンジ君に負けず劣らず緩んでいる。
サンジ君はそれに気付いているのか気付いていないのか、まるで絞り出すような声で『会いてぇ』と呟いた。
あたしは震える瞼をぎゅっと瞑った。
*
空港のざわめきは外とは異質な興奮を秘めていて、結構好きだ。
国内線より俄然国外線の方がその度合いは大きくて、だから国外線出口の真ん前のベンチに座りながらもあたしは何度もキョロキョロあたりを眺めていた。
腕時計に視線を落とす。
ちょうど14時半。もう飛行機は着いただろうか。サンジ君は降りただろうか。
彼の乗る飛行機が日本から発つときも、逆に日本へ来るときも、いつもいつも飛行機が空を飛んでいる間はそわそわして落ち着かない。
何度もテレビのニュースを確認して、たとえ無関係のニュースだろうとテロップが流れると一々びくびくして、何度も安堵の息をつく。
だから今日も、彼が乗ったはずの飛行機が経ってから今の今までびくびくしていたわけだが、何の知らせもないのできっと無事についたのだろう。
今頃はスーツケースの受け取りをして、入国審査に向かっているのかもしれない。
今回の帰省は少し長くて、サンジ君は2週間近く日本に留まる。
彼が修行させてもらっているお店に許しをもらって帰ってくるのだ。
そしてその2週間の間には、あたしの誕生日が含まれている。
彼が帰ってくると言ったときからすでにそのためだろうと気付いていたし、サンジ君はすぐに「今年はナミさんの誕生日、まるごと一日近くで祝えるぜ」と言ったのであたしも期待して少し、いやすごく、嬉しい。
右手の薬指で水面のように光る青色の表面を反対の指先で撫でて、サンジ君の姿を脳裏に思い浮かべた。
前に会ったのはもう一年前の、あの時帰って来たきりだ。
髪は伸びているだろうか。
服装は私服か、まるで普段着のように着こなすスーツだろうか。
背は…伸びているわけないか。彼はもう20歳を過ぎている。
でもあたしだって、もうすぐ20歳だ。
あたしってば足は長いし腰は細いし胸はそこそこあるしで我ながら悩ましい身体だから、今までは下品にならない程度に魅せられる服を選んできた。
そのせいか、わりと体のラインに沿った服が多い。
それでももう20代になるわけで、見せるばかりが魅力じゃないと気付いた。
だから今日は少し大人っぽい服を選んだ。
柔らかい素材のクリーム色の生地で、裾の方に茶色と水色の糸でアラベスク調の刺繍が施されたロングスカートと白のブラウス。
空港の中は空調が効いていて涼しいので上に紺色のカーディガンを羽織っている。
あたしの明るいオレンジ色の髪がその大人しさの邪魔になる気がして、わざわざロビンに見せに行ったりしたけれど、ロビンは「アクセントになってちょうどいいじゃない」と言って褒めてくれた。
大人っぽい服はずっとロビンを見て憧れていた。
服だけ見れば無地で野暮ったくさえ思えるセーターでも、ロビンが着れば驚くほどスマートな印象に映る。
そしてそれをサンジ君が褒めるたび、あたしはなんとなく羨ましいような悔しいような思いを感じてしまうのだ。
もちろんサンジ君はあたしを頭のてっぺんからつま先まで褒め倒すけれど、褒めてほしいわけでもないあたしはひたすら拗ねていた。
今思うと恥ずかしいくらい子供だった。
だから今日はリベンジだ。むしろ挑戦に近い。
サンジ君はあたしを見て何か言ってくれるだろうか。
いつものように、まるで機械音声のようななめらかで美しい褒め言葉を並べるのではなくて、今のあたしを見て何か思って欲しかった。
まるで初めてのデートの待ち合わせのときのようだ。
いやむしろ、この昂揚感はそれ以上かもしれない。
だってあの頃あたしは根拠もなく自分に自信があったし、彼が常にそれを教えてくれていたので必要以上に心配していなかった。
それでも今は、目に見えるきらびやかなものや人が褒める美しいものがすべてじゃないのを知っている。
あたしはあたしの中にある澱んだ思いを知っている。
そういうマイナスもまるごとひっくるめて好きだと言ってくれるサンジ君を手放さないためにも、あたしは努力が必要なのだと知った。
もう一度腕時計に視線を走らせる。
14時40分。
入国審査が混んでいなければ、日本の審査は拍子抜けするほど簡単だからそろそろやってくるだろう。
そう思っていると、国外線出口の自動扉が開いた。
どきりとして顔を上げたが、出てきたのは初老の夫婦。
一組目の帰国者らしい。本当にそろそろだ。
そう思うと、一気に胸の鼓動がスピードを増した。
髪は変なふうになっていないだろうか。もう一度化粧室に行って確認してきた方がいいかもしれない。
ああでも、もう彼が出てきてしまうからそんな時間はない。
服はおかしくなっていないだろうか。スカートの皺を確認して、パタパタと用もないのにはたいた。
(サンジ君サンジ君、)
服装だとか髪型だとか、本当はそんなこと些末なことなのだ。
会いたくて逸る胸は期待に押しつぶされて、圧迫されたぶんが形を変えて涙になって目からこぼれそうだ。
1年前、フランスへ帰ってしまったサンジ君が乗る飛行機を見送って、彼が安心していられるよう強くあろうと決めたのに、すぐにへこたれた日々を思い出す。
会いたい会いたいと現実味のない願いをかけるたびにむなしさに息がつまった。
つい名前を口ずさんで、返事がないという当たり前のことに何度も落ち込んだ。
どうして返事しないのよ。
あたしの声が聞こえないの?
あたしは何度も、あんたを呼んでるのに。
かなり無茶苦茶な言い分だ、自分でわかっている。
それでもこのどうしようもない思いが原動力となってあたしという歯車を回している。
(サンジ君、)
早く早く、名前を呼ばせて。
それで返事をして、あんたもあたしの名前を呼んで。
すきだと言って抱きしめて、飽きるくらいキスをして。
あたしに会えてうれしいと笑って。
出口の自動扉は次から次へと吐き出される人人人で開きっぱなしだ。
その人波の中で、ひと際眩しい金色の髪が揺れた。
人が左右に捌けていくと、ただひとりだけがあたしの前に立っていた。
(サンジ)
あたしの右薬指と同じ青を宿して、変わらない垂れ目がゆっくりと微笑む。
「ただ…うぉっ、」
「ただいま」と続けられるはずの言葉はあたしが邪魔をした。
立ち上がった勢いそのままにサンジ君の胸にぶつかって、冷房のせいで冷えたシャツの背中側を握りしめる。
見えないけれど、サンジ君が両腕をホールドアップして、あたしを見下ろし固まっている姿が目に浮かぶ。
「ナミさんここ空港だけど」と若干おろおろした声に、このヘタレとこっそり悪態づいた。
『空港で抱きしめても怒んないでね』
『怒るわよ!バカ!』
そうよ、あたしが先に抱きしめるんだから。
ベランダの手すりに肘をついて顎を支えると、金属のそれから風とは質の違う冷たさが這い上ってきた。
乾かしたつもりでもまだ湿り気の残っていた髪が冷えて、ぶるっとひとつ体を震わせた。
それでもなんとなく、中に戻る気にはなれない。
今日の昼間は梅雨の中休みで暑かったけれどいい天気だったから、夜空に星は多く見えた。
少し高台にあるあたしの家からは余計たくさんの星が見つけられる。
よっと身体を手すりの向こうに少し乗り出して右側を仰ぎ見ると、ぺらぺらに薄く細くなった月がほのかに光っていた。
月の光が少ないと、星がたくさん見える。
その月のすぐそばをかすめて言った薄い雲の動きを見て、明日もいい天気だけど少し風が強いかもしれない、と誰に言うわけでもないのに一人天気予報を告げる。
唇を少し開くと、冷たい空気が口内にも流れ込んできた。
その冷たさに少し怯んで、それでもおずおずと音を舌先に乗せた。
サンジ君サンジ君、あたしの声は聞こえてる?
*
「明後日?」
『そう、明後日の、14時半着だから』
携帯電話は、数千キロの距離を一気に縮める魔法の箱だ。
いつもいつもどこかに置き忘れたりコンクリートに落としちゃったりしてごめんね、と思いながら電話の向こうで『ナミさん聞いてる?』と訝しげに聞こえた声に、慌てて「聞こえてるわよ」と返事をした。
「じゃあ空港、迎えに行くから」
『え、いいよいいよ。ナミさんとこから遠いだろ?オレがバスでさっさとかえるよ』
せっかくの出迎えの提案を、彼はあっさりと否定してみせた。
まったく、いつもは会いたい会いたい早く会いたい帰りたいナミさんに会いたい!!と電話口でわめきたてているくせに、いざ帰るとなると至極あっさりしているのだから、あたしが今までのサンジ君の言葉を疑ってしまうのも仕方のない話だと思う。
「いいから、行くの!」
『…そ?わかった、ありがとう』
否定したくせに、ありがとうと言った言葉がひどくうれしそうで、ふわりと跳ねるように耳に届いてあたしはくすぐったくなる。
くすぐったいくせに素直になれないのはあたしの悪い癖だけど、そういうところも好きだといってくれる人がいるのでなかなか治せない。
耳にぴったりくっつけた携帯電話のスピーカーの向こう側で微かに聞こえる彼の吐息にさえ、あたしは瞼を震わせてすぐに反応してしまうというのに。
『…ナミさんナミさん』
「なによ」
『空港で抱きしめても怒んないでね』
「怒るわよ!バカ!」
恥ずかしい奴、と口では言いながら、見えてないからいいものの、頬はあたしだってきっとサンジ君に負けず劣らず緩んでいる。
サンジ君はそれに気付いているのか気付いていないのか、まるで絞り出すような声で『会いてぇ』と呟いた。
あたしは震える瞼をぎゅっと瞑った。
*
空港のざわめきは外とは異質な興奮を秘めていて、結構好きだ。
国内線より俄然国外線の方がその度合いは大きくて、だから国外線出口の真ん前のベンチに座りながらもあたしは何度もキョロキョロあたりを眺めていた。
腕時計に視線を落とす。
ちょうど14時半。もう飛行機は着いただろうか。サンジ君は降りただろうか。
彼の乗る飛行機が日本から発つときも、逆に日本へ来るときも、いつもいつも飛行機が空を飛んでいる間はそわそわして落ち着かない。
何度もテレビのニュースを確認して、たとえ無関係のニュースだろうとテロップが流れると一々びくびくして、何度も安堵の息をつく。
だから今日も、彼が乗ったはずの飛行機が経ってから今の今までびくびくしていたわけだが、何の知らせもないのできっと無事についたのだろう。
今頃はスーツケースの受け取りをして、入国審査に向かっているのかもしれない。
今回の帰省は少し長くて、サンジ君は2週間近く日本に留まる。
彼が修行させてもらっているお店に許しをもらって帰ってくるのだ。
そしてその2週間の間には、あたしの誕生日が含まれている。
彼が帰ってくると言ったときからすでにそのためだろうと気付いていたし、サンジ君はすぐに「今年はナミさんの誕生日、まるごと一日近くで祝えるぜ」と言ったのであたしも期待して少し、いやすごく、嬉しい。
右手の薬指で水面のように光る青色の表面を反対の指先で撫でて、サンジ君の姿を脳裏に思い浮かべた。
前に会ったのはもう一年前の、あの時帰って来たきりだ。
髪は伸びているだろうか。
服装は私服か、まるで普段着のように着こなすスーツだろうか。
背は…伸びているわけないか。彼はもう20歳を過ぎている。
でもあたしだって、もうすぐ20歳だ。
あたしってば足は長いし腰は細いし胸はそこそこあるしで我ながら悩ましい身体だから、今までは下品にならない程度に魅せられる服を選んできた。
そのせいか、わりと体のラインに沿った服が多い。
それでももう20代になるわけで、見せるばかりが魅力じゃないと気付いた。
だから今日は少し大人っぽい服を選んだ。
柔らかい素材のクリーム色の生地で、裾の方に茶色と水色の糸でアラベスク調の刺繍が施されたロングスカートと白のブラウス。
空港の中は空調が効いていて涼しいので上に紺色のカーディガンを羽織っている。
あたしの明るいオレンジ色の髪がその大人しさの邪魔になる気がして、わざわざロビンに見せに行ったりしたけれど、ロビンは「アクセントになってちょうどいいじゃない」と言って褒めてくれた。
大人っぽい服はずっとロビンを見て憧れていた。
服だけ見れば無地で野暮ったくさえ思えるセーターでも、ロビンが着れば驚くほどスマートな印象に映る。
そしてそれをサンジ君が褒めるたび、あたしはなんとなく羨ましいような悔しいような思いを感じてしまうのだ。
もちろんサンジ君はあたしを頭のてっぺんからつま先まで褒め倒すけれど、褒めてほしいわけでもないあたしはひたすら拗ねていた。
今思うと恥ずかしいくらい子供だった。
だから今日はリベンジだ。むしろ挑戦に近い。
サンジ君はあたしを見て何か言ってくれるだろうか。
いつものように、まるで機械音声のようななめらかで美しい褒め言葉を並べるのではなくて、今のあたしを見て何か思って欲しかった。
まるで初めてのデートの待ち合わせのときのようだ。
いやむしろ、この昂揚感はそれ以上かもしれない。
だってあの頃あたしは根拠もなく自分に自信があったし、彼が常にそれを教えてくれていたので必要以上に心配していなかった。
それでも今は、目に見えるきらびやかなものや人が褒める美しいものがすべてじゃないのを知っている。
あたしはあたしの中にある澱んだ思いを知っている。
そういうマイナスもまるごとひっくるめて好きだと言ってくれるサンジ君を手放さないためにも、あたしは努力が必要なのだと知った。
もう一度腕時計に視線を走らせる。
14時40分。
入国審査が混んでいなければ、日本の審査は拍子抜けするほど簡単だからそろそろやってくるだろう。
そう思っていると、国外線出口の自動扉が開いた。
どきりとして顔を上げたが、出てきたのは初老の夫婦。
一組目の帰国者らしい。本当にそろそろだ。
そう思うと、一気に胸の鼓動がスピードを増した。
髪は変なふうになっていないだろうか。もう一度化粧室に行って確認してきた方がいいかもしれない。
ああでも、もう彼が出てきてしまうからそんな時間はない。
服はおかしくなっていないだろうか。スカートの皺を確認して、パタパタと用もないのにはたいた。
(サンジ君サンジ君、)
服装だとか髪型だとか、本当はそんなこと些末なことなのだ。
会いたくて逸る胸は期待に押しつぶされて、圧迫されたぶんが形を変えて涙になって目からこぼれそうだ。
1年前、フランスへ帰ってしまったサンジ君が乗る飛行機を見送って、彼が安心していられるよう強くあろうと決めたのに、すぐにへこたれた日々を思い出す。
会いたい会いたいと現実味のない願いをかけるたびにむなしさに息がつまった。
つい名前を口ずさんで、返事がないという当たり前のことに何度も落ち込んだ。
どうして返事しないのよ。
あたしの声が聞こえないの?
あたしは何度も、あんたを呼んでるのに。
かなり無茶苦茶な言い分だ、自分でわかっている。
それでもこのどうしようもない思いが原動力となってあたしという歯車を回している。
(サンジ君、)
早く早く、名前を呼ばせて。
それで返事をして、あんたもあたしの名前を呼んで。
すきだと言って抱きしめて、飽きるくらいキスをして。
あたしに会えてうれしいと笑って。
出口の自動扉は次から次へと吐き出される人人人で開きっぱなしだ。
その人波の中で、ひと際眩しい金色の髪が揺れた。
人が左右に捌けていくと、ただひとりだけがあたしの前に立っていた。
(サンジ)
あたしの右薬指と同じ青を宿して、変わらない垂れ目がゆっくりと微笑む。
「ただ…うぉっ、」
「ただいま」と続けられるはずの言葉はあたしが邪魔をした。
立ち上がった勢いそのままにサンジ君の胸にぶつかって、冷房のせいで冷えたシャツの背中側を握りしめる。
見えないけれど、サンジ君が両腕をホールドアップして、あたしを見下ろし固まっている姿が目に浮かぶ。
「ナミさんここ空港だけど」と若干おろおろした声に、このヘタレとこっそり悪態づいた。
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