OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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【波の間に間に漂うもの】
エニエスロビーでの戦いが終わった。ロビンも取り戻し、ウソップもなんだかんだで帰って来た。が、世界政府に喧嘩を売った事実はこれからの航海をより厳しいものにするだろう。
皆わかっているが、フランキーという新しい仲間や新しい船、跳ね上がった一味の懸賞金に心がたかぶっていた。
こうして美しい水の都市ウォーターセブンをあとにし、数日が過ぎた頃…。
初めはちょっと変だな、と思うくらいだった。ナミがサンジにおはよう、と声をかけた時の反応が。すれ違う時の態度が。
いつもなら朝からうるさいくらい、
「ナミさん、おはよう♡」
「ナミさん、何飲む?」
「ナミさん、もうすぐ朝飯できるよー。」
などなど。嫌というほど言ってくるのに。
今朝はこちらから声をかけても、フイと横を向いて一言返してくるだけ。機嫌が悪いのだろうと気にも留めていなかったのだが。
昼食後。お決まりの"レディ限定スペシャルデザート"が、まずダイニングにいるナミの前にコトリと置かれた。
「どうぞ。 」
の一言のみ。次にロビン。
「はい、ロビンちゃん♡スペシャルデザートだよ。」
といつも通り。ナミへの素っ気ない態度が引っ掛かり、ナミもロビンも顔を上げてサンジを見た。
サンジはニコニコと、笑顔をロビンに向けている。
ナミは、自分がサンジを見れば必ずと言って良いほど目が合う日常に慣れていたので何とも言えない違和感を感じた。ロビンも戸惑いを隠せないようだ。
しかしサンジは笑顔のまま。
「ゆっくり召し上がれ。」
と言い残してキッチンへ戻って行った。
まあ考えてみれば普段が過剰なのであって、これが普通と言えなくもない。心のモヤモヤは残るものの、思い過ごしだろうとまだそれほど深くは考えなかった。
サンジがナミをないがしろにした事などない。出来るはずが無いと信じている。多少様子がおかしくても、ナミは声をかけるのに何のためらいもなかった。
「サンジ君、後でちょっとミカンの木の手入れ手伝ってくれる?」
デザートの皿を取りに来たサンジに言った。
ところが。
ロビンの方を向いたままで、
「悪い。今日はちょっと。」
とボソボソ答えると二人分の皿を持ってサッサと行ってしまった。
(なに?何なのあの態度!そういえば朝から機嫌悪そうだったけど?でもロビンには笑顔で接してたのに!)
ナミもムカっとしたが仕方ない。
ウソップにでも頼もうと、彼を探しに足音高くダイニングを後にした。
まだ残っていたロビンは面白そうにその後ろ姿を見送り、サンジに声をかけた。
「良いの?ナミ、怒ってたわよ?…珍しいこともあるのね。あなたが彼女を怒らせるなんて。」
皿を片付けながら、サンジは笑顔で答えた。
「良いもなにも。そう?ナミさん怒ってたかい?」
誤魔化そうとしている、そう思った。若いこの二人がこれからどうなっていくのか、ロビンは楽しくて仕方ない。
「ふふ、たぶん。…ごちそうさま。」
ロビンも出て行き一人になったサンジは、ほぅーっと大きく息を吐く。
今まで通りに接したいが、どうしてもまともにナミの顔を見る事ができない。
(情けねえな、全く)
キッチンを片付け終わると、胸ポケットから取り出した新しいタバコに火をつけ紫煙をなびかせながら甲板へと向かった。
「あ?サンジがおかしい?そんなの、今に始まったこっちゃじゃねえだろ。」
ナミとミカンの木の手入れをしながらウソップが答える。
「そうなんだけど。なんか私を避けてるっていうか。機嫌悪いって言うか…。」
芝の甲板ではしゃいでいたルフィ、チョッパーと笑い合っているサンジを見て、
「機嫌?あいつ、あそこで笑ってるじゃねえか。気のせいだろ。もともとデレデレしたり怒ったり、すぐ気分の変わるやつだ。なんだ?サンジが気になるのか?」
とウソップは取り合わない。
「別にそうじゃないけど。まあ良いか…」
モヤモヤは募るばかりだが、考えたってどうにもならない。本人にたずねるしかないのだ。
(それとも…。まさか…?)
昨夜のちょっとしたイタズラに気付いたのか。気付いたにしてもなぜあんな態度をとるのか。
サンジは時々皆の前でナミに好きだと叫ぶ。だが本音が見えない。だから対応に困る。
それはまるで波の間に間に漂う木の葉のようだ。見えたと思えばまた波に隠れ、手を伸ばして掴もうとすればスルリと波に流される。
(本当の海に漂うものなら、波を読んで摑まえるのに…)
その時。後方を見張っていたフランキーの、
「おいっ!海軍が来るぞっ!」
という声と、砲弾がすぐ近くの海面に落ちる音がほぼ同時に聞こえてきた。
「ゾロッ、サンジッ!後ろだっ‼」
ルフィが叫びながら後部甲板へすっ飛んでいった。
ナミもすぐ、航海士の顔になる。
「ウソップ、舵お願い!」
「おうっ!」
ナミは舳先へと走って行った。海面を覗き込み、海流をよむ。風向きはどうだ?海軍の船は何隻来ている?後方から追いかけて来たのか。
後ろへ行かないと確認できない。
「ウソップ‼ 2時の方向へ!」
「わかったっ!」
指示をとばしてナミも右舷を後部甲板へと走る。砲弾は止まない。
サニー号が向きを変えたことでナミにも海軍の船が見えてきた。2隻だ。
(よし!逃げ切れる!)
そう判断して、再び前へ戻ろうとした時。
「ナミ危ねえっ!」
ハッとした時には突き飛ばされて倒れていた。慌てて振り向くと、ゾロが砲弾を両断したところだった。
「あ、ありがと。」
「油断すんな。」
ゾロが背中を見せたまま言う。
サンジはやや離れた所から、ゾロを睨みつけていた。
噛み付かんばかりの表情だ。ゾロの背中越しにそれを見たナミ。
(あー、また喧嘩かな。こんな時に…)
とすぐに思ったのだが、サンジはふいっと顔を背けるとまた戦闘に戻って行く。
ありえない。
こんなサンジはありえないのだ。
(ナミさんは俺が守る、が口癖のくせに!やっぱり絶対おかしい!)
この瞬間、ナミは確信した。
ゾロの向こう側でナミが訝しげな表情をしているのが見えた。朝から何度もあんな顔をさせている。
(ごめん、ナミさん。俺が守りてえのに。そんな顔させたくねえのに。)
自分でもどうしようもない。ナミの前だとどうして良いのか分からない。14,5歳のガキじゃあるまいし。
ナミの事を考えていて、一瞬反応が遅れた。
「危ねえっ!ぐる眉!」
横からフランキーが砲弾を殴り飛ばす。
「アゥ、ボオッとしてんじゃねえぞっ!」
怒るのも当然だ。
ナミと舵を交代したウソップがそれを見てサンジに駆け寄る。
「サンジっ!大丈夫か?」
怒鳴られ、心配され、余計に自分が情けない。サンジは自分に腹が立った。
(何をやってんだ俺は!)
「悪い!大丈夫だ!」
やるせない気持ちを振り払うかのように、船べりに飛び乗り砲弾を蹴り返す。
ウソップはナミの言葉を思い出した。確かにサンジがおかしい。
余裕のない表情。
ジャンプしてまた一発の砲弾を蹴り返し、船べりに着地した時。もう一発の砲弾がサンジに向かって来た。とっさに身体をひねり直撃は避けたが。
(つぅっ‼ しまった!)
戦闘に集中出来ていなかった。
ケガをしたなどと知れたら、また何を言われるか。
サンジは痛みをこらえて、身構える。スーツのおかげで傷は見えないだろう。
しかし、サンジを冷静に観察していたロビンは気付いた。
サンジの動きがおかしい。
砲弾はサンジの軸足をかすめていた。蹴り技が出来ない。
仕方なく蹴り足でジャンプし、その足で蹴ってその足で着地する。サンジだからこそ出来る至難の技。
その技の意味にウソップも気付いた。
ナミがサニー号を巧みにあやつり、海軍との距離はほぼ一定に保たれていた。逆に言えば、やられないがやっつける事も出来ない。
「このままじゃ埒があかねえ。逃げるぞ!」
ルフィが決断した。
「逃げるとなればこのウソップ様の出番だ!」
ウソップがたまらず叫んだ。
「ナミっ!俺が煙幕はったら全速力で海軍振り切れ!」
「わかった!風も潮流も大丈夫よ!チョッパー!帆をお願い!左舷後方から風受けてっ!」
一味の中では逃げるのが得意な三人。
「わかった!任せろ!」
人型になったチョッパーが答える。連係も鮮やか。
「超煙星(スーパースモークスター)‼︎」
サニー号と海軍の間に特大の煙幕が張られた。
ナミが舵を切る。
チョッパーが帆をあやつり、滑るようにサニー号が走り出した。
その間、突っ立っているサンジの襟首をロビンがハナハナの手で掴みあげた。
「おわっ⁉︎ロ、ロビンちゃん?」
慌てるサンジにも構わず、
「百花繚乱(シエンフルール)!」
次々とハナハナの手に渡されて行く。
ドサリ、と落とされたのはミカン畑の片隅だった。
サニー号は素晴らしい速さで進んで行く。砲弾の音も止んだ。
サンジをここへ運んだきり、ロビンが様子を見に来る気配もない。
ホッと息を吐き、サンジは自分の足の傷を見ようとズボンの裾を捲った。
「何してんのよ、こんな所で。」
操舵中だとばかり思っていたナミが現れた。
俯いたまま咄嗟に、
「いやー、足滑らせちゃってさ。ちょっとひねっちまって。」
と誤魔化しながら裾をすぐ戻す。ケガに気づかなければいいが。
座ったまま顔も上げずそう言うサンジに、ナミはツカツカと歩み寄り見下ろして言った。
「あんた、私に何か隠してるでしょ。」
腰に手をあて、ジッとサンジを見つめている。ちゃんと答えないと怒られそうだ。
「ナミさんこそ。…俺に何か隠してねえ?」
ギクッとした。まさか、昨夜…。いや、サンジは完全に寝ていた。
「は?何を隠すってのよ。どうゆうこと?」
憤るナミ。気付かれている訳がない。…はずだった。
「俺、気がついてたんだ。ナミさんが近づいて来て。寝顔を覗き込んだのかと思った。なのに、あんな…」
昨夜。お風呂上りに喉が渇いたのでナミはキッチンへ行った。すると珍しくサンジがキッチンのカウンターに突っ伏して寝ていたのだ。
「サンジ君、起きて。眠いなら部屋で寝たら?」
肩を揺するものの、全く反応は無かった。頬を軽くぴたぴたと叩き、そのままサンジの顔に手を置いたまま金色の髪に指を潜らせた。
サンジの温もりとサラサラの髪の感触。考える間も無く、吸い寄せられるようにナミは口付けていた。
「起きてたの?」
小さく問い返すとナミもサンジの隣に座った。
「目が覚めた時にはキスされてた。どうしていいのかわかんなくて、寝たふりしてたんだ。」
ずっと俯いて喋っていたサンジが、スッとナミに目線を合わせる。
「ホント訳わかんねえよ。あんな事されて俺が平常心でいられるわけねえだろ。」
正直、ナミ自身にもあのキスの意味は説明出来ない。
「女好きのあんたがそんなにショックを受けるなんて。ホントかしら?」
彼の真意を探るつもりで、サンジの足にそっと手を置くと。
「っつ!」
サンジは急に顔をしかめ足を引いた。
「どうしたの?痛むの?」
反射的に引いた手を見てナミは目をみはった。
薄っすらと血が付いている。
そっとナミから足を遠ざけようとしているサンジ。構わずナミが足を捕まえる。
「ナ、ナミさん!そんな大胆な!」
茶化して気を逸らそうとしている。が、捕まえた足のズボンにはじわりと血が滲み出していた。
「何ウソついてんのよ。」
明らかに傷を負っている。サンジも観念した。
「それならナミさんだって…。」
少し拗ねているのか、恨みがましい目でナミを見る。
「私はウソついてないもん。」
こちらもちょっと口をとがらせて。
黙って見つめ合いながら、お互いの腹を探り合っていた。沈黙の時間に押しつぶされそうになった時、唐突にナミが、
「じゃあ、ジャンケンしよっか。」
と言い出した。あっけにとられているサンジに構わず、
「最初はグー、ジャンケンポン!」
節をつけて言いながら目の前にチョキを突き出すナミ。ついサンジもつられて出した手は、グーだった。
「何でこんな時に限って負けちゃうの?」
だがナミの表情は、怒っているようでもあり喜んでいるようでもあり。複雑な色を浮かべている。
「俺の勝ちだね。ナミさん、ウソついてねえって…」
「サンジ!ケガしてんのか!」
サンジの言葉を遮るようにチョッパーが叫ぶ。ロビンにでも聞いたのだろう。
「続きはまた後ね。」
肩をすくめて言うとナミは立ち上がり、
「こっちよ、チョッパー!出血してるの!」
優秀で愛すべき船医を呼んだ。
海軍を振り切り、サンジのケガの手当ても終え(結局一味全員の知るところとなった)慌ただしく午後は過ぎていった。
ごたごたなどというものは案外続くもので、今日の締め括りとでもいうようにそれは夕食後に起こった。
「色ボケしてっからそんなケガすんだ。海軍の砲弾ごときで。あほコック。」
ケガをしていても完璧な夕食を提供したサンジだったが、一味の三番手戦力と頼みにもしているからだろう。苛立ちを隠しもせず、酒を飲みながらゾロが絡んだ。きっかけなど思い出せない程些細なこと。
「ぁあっ⁈何だと?このくそマリモ!ナミさん助けたからって調子に乗ってんじゃねえぞ。」
サンジ自身、朝からモヤモヤと燻っていた感情が爆発したようで。
とうとうゾロに掴みかかって行った。
「やんのか、こるぁっ!」
受けて立つゾロ。ウソップ、チョッパー、ナミが慌てて止めに入る。
「待て待て、お前ら!落ち着けよ!ゾロもサンジも!」
ウソップがゾロを後ろから引っ張る。
「サンジ!お前ケガしてんだぞっ!大人しくしてくれよ!」
チョッパーがサンジの胸に飛びつき押さえようとする。
「やめんか、あんたら!」ボカッ!ボカッ!
ナミが二人の頭を殴った。
しゅ〜。
「ウソップ。今のうちにゾロ部屋に連れてっちゃって。サンジ君は私がなだめる。」
確かに適任だ。
「おう、そうしよう。チョッパー、手伝ってくれ。」
他の面々もロビンに促され、後よろしく、とばかりにゾロを囲い酒瓶を持たせダイニングを出て行った。残されたのはナミとサンジ二人きり。
皆の足音と声が遠ざかって行く。静かな夜のダイニングキッチン。
沈黙を破ったのはナミだった。
「ジャンケン、しましょ。負けたら相手の質問に答えなきゃいけないってのはどう?」
さっきジャンケンで負けたのが悔しかったのだ。絶対勝ってやる。自分が負ける事は想定していない。
「嘘は無しだぜ、ナミさん。」
「そっちこそ。」
カウンターのヒップバーに並んで座る。
「最初はグー、ジャンケンポン!」
今度はナミが勝った。
「私の勝ち!」
「うぁ、しまった!」
軽く咳払いをして、ナミが問いかける。
「えぇっと。…質問。あんた女好きでいわゆるその手の経験も多そうなのに、何であんな触れるだけのキスでそんなに動揺してんの?」
言ってるナミも照れ気味だが、サンジの方も頬を染めている。
「いや、そんなに多くねえって。……それに…」
逡巡するサンジをナミが促す。
「それに?ちゃんと答えて。」
意を決するサンジ。
「それに、いつもは軽くかわされてる本命のレディにされたら。そりゃどんなつもりなんだって混乱もするさ。わかったかい?」
「ふうん、そう。」
素っ気ないナミにサンジが、
「ナミさん!もう一回ジャンケンしよ。最初はグー、ジャンケンポン!」
と詰め寄った。考える間も無くナミも手を出してしまった。サンジの勝ち。
「うしっ!質問!ナミさん、最初のジャンケンはどういうつもりだったんだい?」
「私が勝ったら、…あんたに…キスするつもりだったのよ。」
サンジがニヤリとする。
「じゃあ、俺が勝ったから今度は俺からキスしていい?そもそもナミさんはどうして俺にキスしたの?」
「もう。質問は一回にひと…」
重なる二人の唇。
ゆっくりと離れた後。
「私に質問したかったら、もう一回ジャンケンに勝たないと。」
微笑みながらナミが言う。もう負ける訳にはいかない。
「じゃあ。最初はグー、ジャンケンポン!」
気合いでサンジが勝った。悔しがるナミ。
「改めて質問。ナミさんは昨夜、何で俺にキスしたの?」
「あれは…」
逡巡するナミをサンジが促す。
「あれは?ちゃんと答えて。」
まるでさっきの繰り返し。仕方ない。言い出したのは自分だ。こんな何度もジャンケンをするつもりは無かったのだが。
「あれは、自分でも正直わかんない。サンジ君寝てるの珍しいから。寝顔見てたらなんか、いつもありがとうって気持ちになって。感謝の気持ち…が近いかな。」
サンジがグッと顔を近付け、
「好きだから、じゃなくて?」
前のめりで聞く。
「こら!質問は一回!」
サンジの顔を手で押し返すナミ。
「あ、じゃあもう一回。最初はグー、ジャンケンポン!あいこでショ!あいこでショ!
ぃやった!勝った!」
はしゃぐサンジ。
「質問質問!ナミさんは…俺が好き?」
問われてナミは、うっ、とつまる。しかし至近距離で熱っぽく待つサンジ。逃げられそうに無い。
「そりゃあ…す、好きじゃなきゃいくら何でも…キスなんてしない。」
ナミは言い終わる前に、ガバッとサンジに抱きしめられた。
「すげえ嬉しいよ、ナミさん。」
ジャンケンに負けたのも悔しいが、告白させられたのもナミは悔しかった。
「あんたはどうなの?真剣に言われたこと無いけど。」
「ナミさん、質問するなら…」
「最初はグー、ジャンケンポン…」
何度も何度もジャンケンをする。
お互いに好きだった事とか、どこが好きとか、いつからとか。もうジャンケンを介してただいちゃついてるだけになってきた。もちろん、その間もサンジはナミを離さない。
「ナミさん、好きだ。」
「サンジ君、私も…好き。」
熱い抱擁。
何度目かのキスをする頃には、東の空がほんのり白み始めていた。
終 (ノノ。^)y=~~
作品ページへ戻る
==================
あまーーーーい!!
いつものサクミさん節で、同じプロットがこんなにあまくなっちゃうのかー!となんだか嬉しくなっちゃう。
サンジの怪我にナミが気付いたシーンで、サンジの「そんな大胆な!」に不覚にも笑いました。
時間軸がW7出航後に設定されてるのを踏まえて読んでみたら、
3Dのサンナミが動いている様子がリアルに想像できて楽しかったです。
==================
エニエスロビーでの戦いが終わった。ロビンも取り戻し、ウソップもなんだかんだで帰って来た。が、世界政府に喧嘩を売った事実はこれからの航海をより厳しいものにするだろう。
皆わかっているが、フランキーという新しい仲間や新しい船、跳ね上がった一味の懸賞金に心がたかぶっていた。
こうして美しい水の都市ウォーターセブンをあとにし、数日が過ぎた頃…。
初めはちょっと変だな、と思うくらいだった。ナミがサンジにおはよう、と声をかけた時の反応が。すれ違う時の態度が。
いつもなら朝からうるさいくらい、
「ナミさん、おはよう♡」
「ナミさん、何飲む?」
「ナミさん、もうすぐ朝飯できるよー。」
などなど。嫌というほど言ってくるのに。
今朝はこちらから声をかけても、フイと横を向いて一言返してくるだけ。機嫌が悪いのだろうと気にも留めていなかったのだが。
昼食後。お決まりの"レディ限定スペシャルデザート"が、まずダイニングにいるナミの前にコトリと置かれた。
「どうぞ。 」
の一言のみ。次にロビン。
「はい、ロビンちゃん♡スペシャルデザートだよ。」
といつも通り。ナミへの素っ気ない態度が引っ掛かり、ナミもロビンも顔を上げてサンジを見た。
サンジはニコニコと、笑顔をロビンに向けている。
ナミは、自分がサンジを見れば必ずと言って良いほど目が合う日常に慣れていたので何とも言えない違和感を感じた。ロビンも戸惑いを隠せないようだ。
しかしサンジは笑顔のまま。
「ゆっくり召し上がれ。」
と言い残してキッチンへ戻って行った。
まあ考えてみれば普段が過剰なのであって、これが普通と言えなくもない。心のモヤモヤは残るものの、思い過ごしだろうとまだそれほど深くは考えなかった。
サンジがナミをないがしろにした事などない。出来るはずが無いと信じている。多少様子がおかしくても、ナミは声をかけるのに何のためらいもなかった。
「サンジ君、後でちょっとミカンの木の手入れ手伝ってくれる?」
デザートの皿を取りに来たサンジに言った。
ところが。
ロビンの方を向いたままで、
「悪い。今日はちょっと。」
とボソボソ答えると二人分の皿を持ってサッサと行ってしまった。
(なに?何なのあの態度!そういえば朝から機嫌悪そうだったけど?でもロビンには笑顔で接してたのに!)
ナミもムカっとしたが仕方ない。
ウソップにでも頼もうと、彼を探しに足音高くダイニングを後にした。
まだ残っていたロビンは面白そうにその後ろ姿を見送り、サンジに声をかけた。
「良いの?ナミ、怒ってたわよ?…珍しいこともあるのね。あなたが彼女を怒らせるなんて。」
皿を片付けながら、サンジは笑顔で答えた。
「良いもなにも。そう?ナミさん怒ってたかい?」
誤魔化そうとしている、そう思った。若いこの二人がこれからどうなっていくのか、ロビンは楽しくて仕方ない。
「ふふ、たぶん。…ごちそうさま。」
ロビンも出て行き一人になったサンジは、ほぅーっと大きく息を吐く。
今まで通りに接したいが、どうしてもまともにナミの顔を見る事ができない。
(情けねえな、全く)
キッチンを片付け終わると、胸ポケットから取り出した新しいタバコに火をつけ紫煙をなびかせながら甲板へと向かった。
「あ?サンジがおかしい?そんなの、今に始まったこっちゃじゃねえだろ。」
ナミとミカンの木の手入れをしながらウソップが答える。
「そうなんだけど。なんか私を避けてるっていうか。機嫌悪いって言うか…。」
芝の甲板ではしゃいでいたルフィ、チョッパーと笑い合っているサンジを見て、
「機嫌?あいつ、あそこで笑ってるじゃねえか。気のせいだろ。もともとデレデレしたり怒ったり、すぐ気分の変わるやつだ。なんだ?サンジが気になるのか?」
とウソップは取り合わない。
「別にそうじゃないけど。まあ良いか…」
モヤモヤは募るばかりだが、考えたってどうにもならない。本人にたずねるしかないのだ。
(それとも…。まさか…?)
昨夜のちょっとしたイタズラに気付いたのか。気付いたにしてもなぜあんな態度をとるのか。
サンジは時々皆の前でナミに好きだと叫ぶ。だが本音が見えない。だから対応に困る。
それはまるで波の間に間に漂う木の葉のようだ。見えたと思えばまた波に隠れ、手を伸ばして掴もうとすればスルリと波に流される。
(本当の海に漂うものなら、波を読んで摑まえるのに…)
その時。後方を見張っていたフランキーの、
「おいっ!海軍が来るぞっ!」
という声と、砲弾がすぐ近くの海面に落ちる音がほぼ同時に聞こえてきた。
「ゾロッ、サンジッ!後ろだっ‼」
ルフィが叫びながら後部甲板へすっ飛んでいった。
ナミもすぐ、航海士の顔になる。
「ウソップ、舵お願い!」
「おうっ!」
ナミは舳先へと走って行った。海面を覗き込み、海流をよむ。風向きはどうだ?海軍の船は何隻来ている?後方から追いかけて来たのか。
後ろへ行かないと確認できない。
「ウソップ‼ 2時の方向へ!」
「わかったっ!」
指示をとばしてナミも右舷を後部甲板へと走る。砲弾は止まない。
サニー号が向きを変えたことでナミにも海軍の船が見えてきた。2隻だ。
(よし!逃げ切れる!)
そう判断して、再び前へ戻ろうとした時。
「ナミ危ねえっ!」
ハッとした時には突き飛ばされて倒れていた。慌てて振り向くと、ゾロが砲弾を両断したところだった。
「あ、ありがと。」
「油断すんな。」
ゾロが背中を見せたまま言う。
サンジはやや離れた所から、ゾロを睨みつけていた。
噛み付かんばかりの表情だ。ゾロの背中越しにそれを見たナミ。
(あー、また喧嘩かな。こんな時に…)
とすぐに思ったのだが、サンジはふいっと顔を背けるとまた戦闘に戻って行く。
ありえない。
こんなサンジはありえないのだ。
(ナミさんは俺が守る、が口癖のくせに!やっぱり絶対おかしい!)
この瞬間、ナミは確信した。
ゾロの向こう側でナミが訝しげな表情をしているのが見えた。朝から何度もあんな顔をさせている。
(ごめん、ナミさん。俺が守りてえのに。そんな顔させたくねえのに。)
自分でもどうしようもない。ナミの前だとどうして良いのか分からない。14,5歳のガキじゃあるまいし。
ナミの事を考えていて、一瞬反応が遅れた。
「危ねえっ!ぐる眉!」
横からフランキーが砲弾を殴り飛ばす。
「アゥ、ボオッとしてんじゃねえぞっ!」
怒るのも当然だ。
ナミと舵を交代したウソップがそれを見てサンジに駆け寄る。
「サンジっ!大丈夫か?」
怒鳴られ、心配され、余計に自分が情けない。サンジは自分に腹が立った。
(何をやってんだ俺は!)
「悪い!大丈夫だ!」
やるせない気持ちを振り払うかのように、船べりに飛び乗り砲弾を蹴り返す。
ウソップはナミの言葉を思い出した。確かにサンジがおかしい。
余裕のない表情。
ジャンプしてまた一発の砲弾を蹴り返し、船べりに着地した時。もう一発の砲弾がサンジに向かって来た。とっさに身体をひねり直撃は避けたが。
(つぅっ‼ しまった!)
戦闘に集中出来ていなかった。
ケガをしたなどと知れたら、また何を言われるか。
サンジは痛みをこらえて、身構える。スーツのおかげで傷は見えないだろう。
しかし、サンジを冷静に観察していたロビンは気付いた。
サンジの動きがおかしい。
砲弾はサンジの軸足をかすめていた。蹴り技が出来ない。
仕方なく蹴り足でジャンプし、その足で蹴ってその足で着地する。サンジだからこそ出来る至難の技。
その技の意味にウソップも気付いた。
ナミがサニー号を巧みにあやつり、海軍との距離はほぼ一定に保たれていた。逆に言えば、やられないがやっつける事も出来ない。
「このままじゃ埒があかねえ。逃げるぞ!」
ルフィが決断した。
「逃げるとなればこのウソップ様の出番だ!」
ウソップがたまらず叫んだ。
「ナミっ!俺が煙幕はったら全速力で海軍振り切れ!」
「わかった!風も潮流も大丈夫よ!チョッパー!帆をお願い!左舷後方から風受けてっ!」
一味の中では逃げるのが得意な三人。
「わかった!任せろ!」
人型になったチョッパーが答える。連係も鮮やか。
「超煙星(スーパースモークスター)‼︎」
サニー号と海軍の間に特大の煙幕が張られた。
ナミが舵を切る。
チョッパーが帆をあやつり、滑るようにサニー号が走り出した。
その間、突っ立っているサンジの襟首をロビンがハナハナの手で掴みあげた。
「おわっ⁉︎ロ、ロビンちゃん?」
慌てるサンジにも構わず、
「百花繚乱(シエンフルール)!」
次々とハナハナの手に渡されて行く。
ドサリ、と落とされたのはミカン畑の片隅だった。
サニー号は素晴らしい速さで進んで行く。砲弾の音も止んだ。
サンジをここへ運んだきり、ロビンが様子を見に来る気配もない。
ホッと息を吐き、サンジは自分の足の傷を見ようとズボンの裾を捲った。
「何してんのよ、こんな所で。」
操舵中だとばかり思っていたナミが現れた。
俯いたまま咄嗟に、
「いやー、足滑らせちゃってさ。ちょっとひねっちまって。」
と誤魔化しながら裾をすぐ戻す。ケガに気づかなければいいが。
座ったまま顔も上げずそう言うサンジに、ナミはツカツカと歩み寄り見下ろして言った。
「あんた、私に何か隠してるでしょ。」
腰に手をあて、ジッとサンジを見つめている。ちゃんと答えないと怒られそうだ。
「ナミさんこそ。…俺に何か隠してねえ?」
ギクッとした。まさか、昨夜…。いや、サンジは完全に寝ていた。
「は?何を隠すってのよ。どうゆうこと?」
憤るナミ。気付かれている訳がない。…はずだった。
「俺、気がついてたんだ。ナミさんが近づいて来て。寝顔を覗き込んだのかと思った。なのに、あんな…」
昨夜。お風呂上りに喉が渇いたのでナミはキッチンへ行った。すると珍しくサンジがキッチンのカウンターに突っ伏して寝ていたのだ。
「サンジ君、起きて。眠いなら部屋で寝たら?」
肩を揺するものの、全く反応は無かった。頬を軽くぴたぴたと叩き、そのままサンジの顔に手を置いたまま金色の髪に指を潜らせた。
サンジの温もりとサラサラの髪の感触。考える間も無く、吸い寄せられるようにナミは口付けていた。
「起きてたの?」
小さく問い返すとナミもサンジの隣に座った。
「目が覚めた時にはキスされてた。どうしていいのかわかんなくて、寝たふりしてたんだ。」
ずっと俯いて喋っていたサンジが、スッとナミに目線を合わせる。
「ホント訳わかんねえよ。あんな事されて俺が平常心でいられるわけねえだろ。」
正直、ナミ自身にもあのキスの意味は説明出来ない。
「女好きのあんたがそんなにショックを受けるなんて。ホントかしら?」
彼の真意を探るつもりで、サンジの足にそっと手を置くと。
「っつ!」
サンジは急に顔をしかめ足を引いた。
「どうしたの?痛むの?」
反射的に引いた手を見てナミは目をみはった。
薄っすらと血が付いている。
そっとナミから足を遠ざけようとしているサンジ。構わずナミが足を捕まえる。
「ナ、ナミさん!そんな大胆な!」
茶化して気を逸らそうとしている。が、捕まえた足のズボンにはじわりと血が滲み出していた。
「何ウソついてんのよ。」
明らかに傷を負っている。サンジも観念した。
「それならナミさんだって…。」
少し拗ねているのか、恨みがましい目でナミを見る。
「私はウソついてないもん。」
こちらもちょっと口をとがらせて。
黙って見つめ合いながら、お互いの腹を探り合っていた。沈黙の時間に押しつぶされそうになった時、唐突にナミが、
「じゃあ、ジャンケンしよっか。」
と言い出した。あっけにとられているサンジに構わず、
「最初はグー、ジャンケンポン!」
節をつけて言いながら目の前にチョキを突き出すナミ。ついサンジもつられて出した手は、グーだった。
「何でこんな時に限って負けちゃうの?」
だがナミの表情は、怒っているようでもあり喜んでいるようでもあり。複雑な色を浮かべている。
「俺の勝ちだね。ナミさん、ウソついてねえって…」
「サンジ!ケガしてんのか!」
サンジの言葉を遮るようにチョッパーが叫ぶ。ロビンにでも聞いたのだろう。
「続きはまた後ね。」
肩をすくめて言うとナミは立ち上がり、
「こっちよ、チョッパー!出血してるの!」
優秀で愛すべき船医を呼んだ。
海軍を振り切り、サンジのケガの手当ても終え(結局一味全員の知るところとなった)慌ただしく午後は過ぎていった。
ごたごたなどというものは案外続くもので、今日の締め括りとでもいうようにそれは夕食後に起こった。
「色ボケしてっからそんなケガすんだ。海軍の砲弾ごときで。あほコック。」
ケガをしていても完璧な夕食を提供したサンジだったが、一味の三番手戦力と頼みにもしているからだろう。苛立ちを隠しもせず、酒を飲みながらゾロが絡んだ。きっかけなど思い出せない程些細なこと。
「ぁあっ⁈何だと?このくそマリモ!ナミさん助けたからって調子に乗ってんじゃねえぞ。」
サンジ自身、朝からモヤモヤと燻っていた感情が爆発したようで。
とうとうゾロに掴みかかって行った。
「やんのか、こるぁっ!」
受けて立つゾロ。ウソップ、チョッパー、ナミが慌てて止めに入る。
「待て待て、お前ら!落ち着けよ!ゾロもサンジも!」
ウソップがゾロを後ろから引っ張る。
「サンジ!お前ケガしてんだぞっ!大人しくしてくれよ!」
チョッパーがサンジの胸に飛びつき押さえようとする。
「やめんか、あんたら!」ボカッ!ボカッ!
ナミが二人の頭を殴った。
しゅ〜。
「ウソップ。今のうちにゾロ部屋に連れてっちゃって。サンジ君は私がなだめる。」
確かに適任だ。
「おう、そうしよう。チョッパー、手伝ってくれ。」
他の面々もロビンに促され、後よろしく、とばかりにゾロを囲い酒瓶を持たせダイニングを出て行った。残されたのはナミとサンジ二人きり。
皆の足音と声が遠ざかって行く。静かな夜のダイニングキッチン。
沈黙を破ったのはナミだった。
「ジャンケン、しましょ。負けたら相手の質問に答えなきゃいけないってのはどう?」
さっきジャンケンで負けたのが悔しかったのだ。絶対勝ってやる。自分が負ける事は想定していない。
「嘘は無しだぜ、ナミさん。」
「そっちこそ。」
カウンターのヒップバーに並んで座る。
「最初はグー、ジャンケンポン!」
今度はナミが勝った。
「私の勝ち!」
「うぁ、しまった!」
軽く咳払いをして、ナミが問いかける。
「えぇっと。…質問。あんた女好きでいわゆるその手の経験も多そうなのに、何であんな触れるだけのキスでそんなに動揺してんの?」
言ってるナミも照れ気味だが、サンジの方も頬を染めている。
「いや、そんなに多くねえって。……それに…」
逡巡するサンジをナミが促す。
「それに?ちゃんと答えて。」
意を決するサンジ。
「それに、いつもは軽くかわされてる本命のレディにされたら。そりゃどんなつもりなんだって混乱もするさ。わかったかい?」
「ふうん、そう。」
素っ気ないナミにサンジが、
「ナミさん!もう一回ジャンケンしよ。最初はグー、ジャンケンポン!」
と詰め寄った。考える間も無くナミも手を出してしまった。サンジの勝ち。
「うしっ!質問!ナミさん、最初のジャンケンはどういうつもりだったんだい?」
「私が勝ったら、…あんたに…キスするつもりだったのよ。」
サンジがニヤリとする。
「じゃあ、俺が勝ったから今度は俺からキスしていい?そもそもナミさんはどうして俺にキスしたの?」
「もう。質問は一回にひと…」
重なる二人の唇。
ゆっくりと離れた後。
「私に質問したかったら、もう一回ジャンケンに勝たないと。」
微笑みながらナミが言う。もう負ける訳にはいかない。
「じゃあ。最初はグー、ジャンケンポン!」
気合いでサンジが勝った。悔しがるナミ。
「改めて質問。ナミさんは昨夜、何で俺にキスしたの?」
「あれは…」
逡巡するナミをサンジが促す。
「あれは?ちゃんと答えて。」
まるでさっきの繰り返し。仕方ない。言い出したのは自分だ。こんな何度もジャンケンをするつもりは無かったのだが。
「あれは、自分でも正直わかんない。サンジ君寝てるの珍しいから。寝顔見てたらなんか、いつもありがとうって気持ちになって。感謝の気持ち…が近いかな。」
サンジがグッと顔を近付け、
「好きだから、じゃなくて?」
前のめりで聞く。
「こら!質問は一回!」
サンジの顔を手で押し返すナミ。
「あ、じゃあもう一回。最初はグー、ジャンケンポン!あいこでショ!あいこでショ!
ぃやった!勝った!」
はしゃぐサンジ。
「質問質問!ナミさんは…俺が好き?」
問われてナミは、うっ、とつまる。しかし至近距離で熱っぽく待つサンジ。逃げられそうに無い。
「そりゃあ…す、好きじゃなきゃいくら何でも…キスなんてしない。」
ナミは言い終わる前に、ガバッとサンジに抱きしめられた。
「すげえ嬉しいよ、ナミさん。」
ジャンケンに負けたのも悔しいが、告白させられたのもナミは悔しかった。
「あんたはどうなの?真剣に言われたこと無いけど。」
「ナミさん、質問するなら…」
「最初はグー、ジャンケンポン…」
何度も何度もジャンケンをする。
お互いに好きだった事とか、どこが好きとか、いつからとか。もうジャンケンを介してただいちゃついてるだけになってきた。もちろん、その間もサンジはナミを離さない。
「ナミさん、好きだ。」
「サンジ君、私も…好き。」
熱い抱擁。
何度目かのキスをする頃には、東の空がほんのり白み始めていた。
終 (ノノ。^)y=~~
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あまーーーーい!!
いつものサクミさん節で、同じプロットがこんなにあまくなっちゃうのかー!となんだか嬉しくなっちゃう。
サンジの怪我にナミが気付いたシーンで、サンジの「そんな大胆な!」に不覚にも笑いました。
時間軸がW7出航後に設定されてるのを踏まえて読んでみたら、
3Dのサンナミが動いている様子がリアルに想像できて楽しかったです。
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ウェイク・アップ マイ xxx
ラブロマンスは昔から苦手だった。
わくわくする冒険物のお伽話は大好きだったが、お姫様や王子様が口づけをきっかけに目覚めたり、人間に戻る話は現実離れしていると思ったし(や、冒険物のファンタジーだって、充分現実離れしているけど)、なによりラブロマンスは受動的というか受け身な話が多くて、なんというのか、幼いながらに性に合わないと感じたのだ。
子供の頃、眠る前にベルメールさんが読み聞かせてくれた本の中にはラブロマンスもあって、そんな時ノジコは「素敵だね」と、ヒヒヒと歯を見せて笑っていたけど、私は「どこがよ?」なんて、怪訝な面持ちでいた記憶がある。
その度ベルメールさんはちょっと困ったように笑いながら「あんた達にもそのうち王子様が現れるよ」と、私達の頭をぐちゃぐちゃに撫でた。
私は、ベルメールさんとノジコがいてくれればそれで良かった。
別に王子様なんて現れなくていいのにと、いつもそう思っていた。
時は流れて今は二人と遠く離れてしまったけど、
だけど私の周りには仲間がいる。
今も王子様は現れていない。
まあ、海賊だもの。そんなの当たり前なんだけどさ。
ただ子供の頃の様に、王子様なんていなくていいとは思ってないの。
仲間がいてくれればそれで充分なのに変わりはないのだけど。
だけど、昔ラブロマンスを聞いた後に「素敵だね」と笑ったノジコの気持ちが、なんとなく今は分かるのだ。
「ねえ、ロビンはもう王子様に出会ってる?」
「どこの国の王子の話かしら」
「んー、ロマンス王国?」
「なぁに?それ」
「…なんなんだろうね」
「ナミ、なんの話?」
ロビンは本から顔を上げ、訝しげに私を見つめた。
「さて、なんの話でしょう」
お昼過ぎのラウンジ。
私たちは二人並んでのんびり読書を楽しんでいる。
ロビンはコーヒーを一口啜り、一瞬考察顔をすると、ああ、と、納得した様子でカップを置いた。
頭の回転が早い人との会話は、本当に助かる。
「ナミは出会っているの?」
「んも、私が質問してるのよ」
「あなたの話も聞きたいわ」
「私の話はいいの」
「あら、フェアじゃないわね。じゃああなたが勝ったら、私の話をしましょうか」
「なに、賭けでもするの?」
「賭けだとナミに勝てる気がしないから、そうね・・・。ジャンケンなんてどう?」
「はぁ?」
「ふふ、最高にフェアでしょ?はい、最初はグー」
ジャンケン ポン
思わず手を出してしまった。そして、負けた。
「はい、私の勝ち。勝った方が一つだけ、質問できるルール」
「ええっなによそれ」
「じゃあさっきの質問。ナミは王子様に出会っているの?」
ロビンは面白くて堪らないといった様子でニコニコと聞いてくる。
彼女の前だと、まるで子供な私。
「出会ってないわよ!…いや、出会ってる…のかな?」
「質問できるのは勝った方だけよ?」
「…ロビンって結構意地悪よね」
「ふふ、冗談よ。それで?出会っているというのは?」
「質問は一つまででしょ?」
「あら、じゃ、この話やめる?」
「ウソウソ!冗談!…私の話、聞いてくれる?」
ロビンは本を閉じ「もちろん」と、優しく微笑んだ。
「それで?コックさんがどうかしたの?」
「いや、サンジ君ってさ…って、なんでサンジ君の話って分かるのよ?!」
「あら、当たり?」
「はぁ…もう。勘が良すぎるってのも、考えものね。お陰で話しやすいけど」
「それはどうも、続けて?」
「…サンジ君ってさ。…なんなんだと思う?」
「随分あなたらしくない質問ね」
「私、自惚れてもいいの?」
カチャリと、ロビンは静かにカップを置いて「なるほどね」と、独り言のように呟いた。
静かな瞳で私をじっと見つめ、一息ついた後にようやく口を開く。
「ねぇ、ナミ?彼って女性と見れば見境ない所もあるけれど…」
「んナミすぁ〜〜ん、ロビンちゅぁ〜〜ん!レディ特性スペシャルデザートお持ちしたよほぉぉぉう!」
どきっとした。
噂をすれば影とはこのことだ。
サンジ君はトレイを持ちながらクルクルと器用に回り、私たちの前に美しく盛り付けられたデザートと飲み物を置く。
ロビンにはコーヒーを、私にはオレンジティーを。
「本日のデザートはフォンダンショコラ オレンジピールならぬミカンピール入りでございます、マドモアゼル。冷めても美味しいよ」
サンジ君は上機嫌な様子で説明をしながら新しいティーセットにコーヒーと紅茶を注ぎ入れる。
フォンダンショコラにフォークを入れると、とろりと中のチョコレートと、ミカンピールの香りが溢れ出た。
「いい香り」
「ん、おいし」
「それはよかった、それでは優雅なティータイムを」
丁寧にお辞儀をしてからクルリと後ろを向き「野郎ども!おやつの時間だぞ!」と怒号にも似た声をあげてキッチンの方へ消えていった。(サンジ君の号令の後には、他のクルーたちの雄叫びの様な賛美の声付きだ。)
それは普段通りの光景だったけど、なんだか引っかかる。なんというのかよそよそしい気がした。
何より目が合わなかったもの。
いつもはうざったいくらいの視線が全くなかった。
少しモヤモヤしつつオレンジティーを一口。
すると「さっきの続きだけど…」と、ロビンは私に静かに耳打ちした。
*
オレンジティーは優しい味がした。
フォンダンショコラの甘さに合わせて、いつもよりもハチミツが控えめに入れられていたから。
そのきめ細やかな優しさが嬉しかった。
先ほど感じたモヤモヤが晴れる様な味の紅茶。こんな芸当ができるのは、きっとサンジ君だけ。
ロビンの耳打ちも、優しく私の中へ入り、スッと溶けた。
一人で考えても仕方がない、私は空いた食器を下げにキッチンへ向かうと、丁度中から出てきたサンジ君と鉢合わせた。
「!」
「ああ、ありがと。下げに来てくれたの?」
「ね、サンジ君…」
私から食器の乗ったトレイを受け取るとそのままキッチンへと戻ろうとする彼に、慌てて声をかける。
…パタン
ちょっと意味がわからない。
私、声かけたわよね?
サンジ君は何も言わずにキッチンへと入って行った。
聞こえなかったのかしら…というか、今も目が全く合わなかった。
思わず扉の前で固まっていると、食器を下げたサンジ君が再びキッチンから出てくる。
「ちょっと」
今度はそのまま私の隣を通り過ぎた。
えーっと、これは、無視ってやつ?
腹立つ…
再び声をかけようとした刹那
ドドーン!!
突き上げるような衝撃と共に大きな爆発音。
「て、敵襲ーーー!!!」
見張り台からウソップの声が響く。
なんてタイミングなのよ…!少しよろけて手すりにつかまりながら、自分の間の悪さを呪った。
というか、大丈夫?の一言もないってどうなのよ。キッとサンジ君の方を睨むと、彼はとっくに船縁の方にいて、海軍からの砲弾を蹴り飛ばしていた。
ああ。嫌になる。
私たちは海賊なのよ。
油断と言ったら変だけど、こんな時に素早く切り替えができない自分に苛立つ。と同時に、切り替えの早い彼にも苛立った。そしてそんなことで苛立つ自分に、嫌気がさした。
パンッ!と両手で自らの頬を叩き、スイッチを入れ替える。
気を取り直して辺りを見回すと、サニー号はすっかり海軍の船に取り囲まれていた。
何かの実の能力者の仕業かしら。こんなに近くに来るまで姿が見えなかったなんて。
そんなことを考えても仕方がない、とにかく今は船へのダメージを最小限に抑えつつ、応戦しないと。
それにしても、敵の数が多い。
「ルフィ!指示を!」
マストの上で砲弾をはじき返す船長へ要請を。
「よし・・・逃げるぞーーー!!」
「了解!キャプテン!」
そうと決まれば私の出番。
航路を探すため船首の方へと急ぎ、双眼鏡を覗いて波と風をよむ。
…あった
南南西に海流を見つけた。あれに乗れば海軍の船から逃げ切れる。
ただ少し距離があるわね…。だったら…
「フランキー!クー・ド・バーストの準備を!
チョッパーは船を3時の方向に!パドルをチャンネル0にして対応して!
残りは急いで帆をたたんで!逃げるわよ!!」
「よ〜〜〜し!みんな!ナミの言う通りにしろォーーー!!」
「「うおおおお!!」」
クルー各々、自分の仕事を急ぐ。こんな時にもどこか楽しそうなルフィを見ると少しだけほっとした。
大丈夫。私たちは、大丈夫。
その時。
砲弾の一つが私目掛けて飛んできた。
走馬灯を見こそはしないが、こんな時って本当に、世界がゆっくりと動いて見えるのね。初めて知った。
ああ、避けきれないな。
不思議と冷静だった。
冷静に、もう逃げられないと悟った。
砲弾の先にサンジ君の姿を見た。
彼もこちらを見ていた。
ああ。ひどいわね。
なんて顔しているのよ。
感情が入り乱れた、とても歪んだ表情。
馬鹿ね、だからあの時、言ったじゃない。
どうして何も応えてくれなかったの。
あの時、
どうして…
ズバッ!!!
衝撃で我に返った。我に返ったというか、通常の時間軸に連れ戻されたと言った方が適切か。
衝撃というのは、どうやら私が尻餅をついた時のものだったらしい。
砲弾は真っ二つに切り裂かれていた。
私を助けたのは、ゾロ。
「ルフィ!なにやってる!」
「わりィ!一個弾き返せなかった!ナミ、大丈夫か?!」
「…う、うん」
先程の刹那、サンジ君のいた方を見やったが、そこにもう彼の姿はなかった。
「おい、立てるかよ」
「あ、ありがと…」
ゾロが私に手を貸す。
なんだか胸が、ギリリと痛んだ。
*
その後、クー・ド・バーストと海流、それからウソップの煙幕により、私たちは無事海軍の手から逃れた。
船上戦の後は必ずみかん畑へ行く。
みかんの木の無事を確認するのと、生きていることをベルメールさんに報告するため。
階段を上がっていくと、怒鳴り声が聞こえたきた。
声の主はゾロと、サンジ君。
「うるせェ、おれに当たるな」
「んだとこのクソマリモ!突っかかってきたのはてめぇだろーが!」
「喚くな。てめぇの不調を人のせいにするんじゃねェよ」
「誰が不調だ!分かった口きくな緑ヘッド」
「んだと?さっきはえらく散漫な動きしやがって。ナミを自分で守れなかったのはてめぇの日頃の鍛錬が足りねェせいだろうが」
「…あんだとォ?!帆を畳む筈なのに船首の方に直行しちゃったアホに言われたくありませんーーこの迷子の筋肉バカが!」
「お前は一々語尾に人を不快にさせるワードをくっつけないと気がすまねェのか?!」
「るっせェ!見たままの事実を述べてるだけだ!三年寝太郎!!」
いつもの喧嘩の筈なのに、止めに入れない。それどころかみかん畑にすら近づけずに、階段の途中で座っていた。
いつの間にか喧嘩の声は止み、足音が私に近づく。硬いブーツの音の主が、すれ違いざまに私に言った。
「あいつ、なんか変だぞ。ナミお前、様子みてやれ」
…言われなくても。
私は小さく呟いて、サンジ君の元へと向かった。
「サンジ君」
みかん畑の隅の方に、彼は座っていた。
少しビクリと肩を震わせた様に見えたが、振り返りはしない。
「ねぇ。なんなのよ」
「ナミさんだって」
「なにが」
「昨晩のこと」
「…それで、その態度なの?」
先刻の、ロビンの耳打ちの優しい響き。
まるで魔法の言葉の様に私の心に染み渡ったそれは、あっと言う間に干上がってしまった気さえした。
『ナミと他の女性とじゃ、まるで扱い違うわよ?気付いていて?』
うん。知ってる。気付いている。
サンジ君は女と見れば片っ端から口説き回るくらいの人だけど(少しオーバーかしら)、私だけは特別だった。
何が、と聞かれればうまく説明できないのだけど。
視線の熱量だとか、語尾のニュアンスだとか。
だから、自惚れてもいいのかと、思ったの。
だけどこの男は。
何時まで経っても、確信に触れようとしない、この男ってやつは。
それともずっと、私がただ勘違いしていただけ?
なによ、それ。だとしたら、すっごく惨めじゃない、私。
するとサンジ君がこちらを向いた。立ち上がって、泣きそうなのかなんなのか、さっき、私が砲弾に倒れそうになった時に見たそれと似た表情。
「わけがわからん、あんなことされて、平常心でいられるわけがねェよ」
*
深夜のキッチン。
これは昨日の夜の事。
その夜、なかなか寝付けなかった私はアテがあるわけでもないけどなんとなく、女部屋を出た。
すると正面向い、2階の部屋の明かりが点いていたから。
吸い寄せられるようにキッチンの扉を開けると、そこにはダイニングテーブルで頬杖を付いているサンジ君がいた。
どうやら食料の在庫チェックをしていたみたい。
帳簿を広げたまま、眠っている。
私は肩にかけていた羽織りを彼にかけると、そのまま頬にキスをした。
自分でも驚いた。
なんでこんな事したのか分からない。
分からないけど、自分の唇が彼の頬に触れた瞬間。
知っているようで知らなかった彼の体温が、私に伝染したように移り、そしてそのまま、私の中にとどまった。
まるで最初からそこにあったみたいに。
それでもそれは、あっという間に空気と混ざり合って、そしてやがて、壊れて消えた。
サンジくんは、嘘がヘタね。
彼が目覚めているのには気がついていた。だけど、何も言ってこない。
きっと、何もなかったことにしたいのだろう。
「ねえ、サンジ君。私達、海賊なのよ…」
それだけ言って、私はキッチンを後にした。
*
「わけがわからん、あんなことされて、平常心でいられるわけがねェよ」
バカな男。
口笛鳴らして人の気を引きたがるくせに、いざ振り向くとそっぽを向く。
自信家のように見せかけて、随分と小心者なのね。
「だったら…」
サンジ君がいるみかん畑に一歩一歩近づく。
すると、彼のパンツが赤く染まっているのに気がついた。
「ちょっと…怪我してるの」
「してないよ…」
「なによその嘘」
「君の方こそ」
「私は嘘ついてないもん」
二人の間に流れる静寂。
それを破ったのは、私。ねえ、サンジ君。
「ジャンケンしよっか」
「…え?何?」
「最初はグー…」
ジャンケン ポン
「はい、私の勝ち。勝った方が一つだけ、質問できるルール」
「えっ…と。なんだいそれ」
「昨夜どうして、何も言ってくれなかったの?」
「ああ、気づいてたのか。狸寝入り」
「バレバレなのよ」
「無理言わないでくれ。おれも必死だった」
「何に?」
「質問は一つだけだろ?」
「まず私の質問に答えて」
「…そうだったな。あーっと、なんだったか…なんで何も言わなかったか?」
「うん」
「何も言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだよ」
「なによそ…」
最初はグー
私が言い終わらないうちに、サンジくんがジャンケンをはじめて、思わず手が出てしまった。
「おれの勝ち」
「…何勝ってんのよ」
「無茶言わないでよ…さて、おれの番。いい?」
「・・・」
「なんで昨夜キスしたの」
「したいと思ったからよ」
「どうして?」
「質問はひと…」
今度は言い終わる前に、唇を塞がれた。
彼の様子がおかしかったのは私のせい。
そんなことは初めから分かっている。
だけど、問題はそこじゃないの。
ねえサンジ君、あんたはどうしたいのよ?
私を目で追って、私を口説いて、私の気を引いて
それでその後は?
優しく優しく優しくされて 時に力強く守られて
私が何も思っていないとでも?
何時までたっても確信に触れないあんたがもどかしかった。
ずっと、ずっと、ずっと、もどかしかったんだ。
唇が離れた瞬間。
頬に生暖かいものが一筋流れる。
サンジくんは私を強く抱きしめた。
「届かないと思ってた」
「なにがよ」
「おれの想いなんてのは、届かないと思ってたんだよ」
「・・・」
「尚且つ、それでいいと、思ってた。君がおれのそばにいて、何時でも守れる距離にいてくれれば、それだけでいいと」
「そんなの勝手だわ」
「だけど今日、おれは君を守れなかった」
「ねえ…サンジ君」
「ナミさん、昨日言った君の言葉。今やっと、理解できたよ」
『ねえ、サンジ君。私達、海賊なのよ…』
そう。私たちは海賊なの。
いつ何刻、どうなるか、全くわからない。
デッド・オア・アライブ。生死問わず。
そのままの意味。
私達の首には懸賞金も懸かっている。
今度でいい、いつかやればいい、は、通用しないの。
明日が来る保証もないのだから。
「もっと早くに、こうしてれば良かった」
「ほんとよ」
「もしかして、ずっと待っててくれてた?」
「・・・自惚れないで」
「そりゃあ、自惚れもするさぁ〜」
「…待ちくたびれたわよ」
「・・・もう一回言って」
「待ちくたびれた!」
「ごめんごめんって!いたた、叩かないで」
「バカ!!」
「ナミさん好きだよ」
「知ってるわよ!」
「いや、きっと、君が思ってる以上に、君のこと好きなんだよ、おれ」
「私だってそうよ!!」
「・・・え?何、もう一回言って・・・」
「ほんと、バカね」
私の涙を拭きながら、サンジくんは心底優しい顔で微笑んだ。
「もうジャンケンは、必要ねェよな」
そう言って彼は優しく、私に口づけするのであった。
*
ねえ、ベルメールさん。
ようやく王子様を見つけたよ。
私の王子様は情熱的だけど、怖がりな男。
だからお姫様自らが、少しエスコートしてあげなくちゃいけないの。
だけど、このくらいがきっと丁度良い。
受動的で受け身なのは、性に合わないしね。
end
2015.12.01 モンモトxxx
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==================
ベルメールさんたちとの回想で、初っ端からきゅんとさせられました。
今回のプロットの中で一番楽しくて難しいじゃんけんの扱いが、ハアアモンモトさんすげぇえとなりました。
だってだって初めのナミさんとロビンちゃんの会話の中で登場したのにオオ―! となるじゃないですか。
なのでそこから俄然わくわくしながら読みました!
ナミとサンジの内緒のやり取りが、なんとなく恋のはじめの初々しさを匂わせながらもモンモトさんの文章のおかげでどこか大人チックに感じて、そのバランスがすごくすきだーと思いました。
==================
ダイニングテーブルに片手をつくと、張りつめた堅い木の板がぎゅっと鳴ってどきりとした。
掛け時計の大げさな針の音が、いつもより早く聞こえる。
今夜は波が高く、船がよく揺れた。
ともすると風の音のようにも聞こえる波のうねりが、足の裏から体の奥の方を震わせるように響いてくる。
にもかかわらず、机に突っ伏した金色の頭はみじろぎひとつしなかった。
しばらく、じっと見ていた。
無造作に垂れた長い前髪から、筋の通った鼻梁が飛び出している。
耳を澄まさなくても、ときおりすーっと細い風が通り抜けるみたいな寝息が聞こえた。
薄いブルーのシャツの背が、呼吸に合わせて上下している。
やわらかな、平和な呼吸。
テーブルについた手に体重をかけると、またぎぃっと音が鳴る。まるで責められてるみたいだ。
精巧な金糸のような髪をそっとめくり上げた。
*
はちみつのもったりと濃い香りがただよいはじめたときから、みんながソワソワし始めるのが手に取るように分かった。
ルフィだけはすかさずキッチンにすっとんで行ったが、他のみんなは大人ぶった顔でいつもの時間を待っている。
かと思いきや、いつのまにかみんなにじり寄るようにキッチンの周りへと集まっていた。
ゾロはキッチンと甲板を隔てる壁に背をもたせかけて目を閉じているし、フランキーもコキリコキリと首を鳴らしながら工房から顔を出した。
ウソップとチョッパーがなんどもキッチンのドアを開けたり閉めたりを繰り返す。
そのたびに、あぶらっぽいにおいと一緒に、あの魅惑的な甘い香りが甲板いっぱいに広がった。
「いい香りね」
部屋で本を読んでいたはずのロビンも、いつの間にか顔を出している。
私だって、ウソップたちのことを笑えない。
あまいにおいに惹かれて、こうしてキッチンのそばの階段に腰かけて日誌を読み返している。
ロビンが私の隣に腰かけた。
「今日はね、サンジ君の故郷のおやつなんだって」
「あら、素敵」
「なんてったっけ、ビ……ベ……ベニヤ板みたいな名前のおかし」
ベニヤ板? とロビンが吹き出したとき、サンジ君の「レディ達―!」という臆面もない声と共に、キッチンの扉が大きく開いた。
「りんごのベニエ。あったかい、冬のおやつさ」
甲板に青々と茂った芝生の上に大きなランチョンマットを広げて、私たちはあぐらをかいてそれを取り囲む。
サンジ君は、ほかほかと湯気を立てる円盤状のおやつを私とロビン同時に差し出した。
りんごの甘酸っぱいかおりが、熱と共に立ち上ってくる。
「ノースの伝統菓子なんだ?」
行儀悪く鼻をひくひくとさせながら尋ねると、「あ、うん」とサンジ君。
「伝統っつって、そんな上等なもんじゃねェよ。家庭のおやつって感じかな」
そう言いながら、手際よく女性陣のお茶を淹れていく。
私はつと顔を上げて彼を見た。その目線はカップに注がれている。黄金色の液体と一緒に流れていく。
ねぇ、と声を掛けようと口を開いたら、それより早くサンジ君がさっとポットを上げて遮った。
私にはそう思えた。
「さ、熱いうちに。生クリームが溶けちまうからさ」
そう言った矢先、私の皿の上でつんと尖った生クリームがぼてっと横に倒れた。
いただきましょ、とロビンがフォークを手に取る。
サンジィー! おかわりー! とキッチンから野性児たちの声が飛ぶ。
先に餌付けしておいたのだろう。でなければこんなふうにゆっくり給仕したりできない。
「うっせェな、今日はそんでしまいだ!」
途端に尖った声を出して、サンジ君はキッチンを荒らされてはたまらないとばかりに室内へ戻っていった。
足早に、規則正しく脚を運んで。
私たちの方を、自意識を持っていうなら私の方を、まるで見もしなかった。
初めからそうしようと考え抜いて実行したみたいな、正しい視線の運びだった。
「布巾を忘れていったわ」
ロビンが、ランチョンマットの隅にちょこんとうずくまった薄黄色の布巾を目顔で示す。熱いポットの敷物にしていた布巾だ。紅茶の染みがついていた。
ほんとうね、と答えて、フォークをナイフのように使ってベニエを切り分ける。
ざくっとりんごそのものの手ごたえを感じ、同時に透明の果汁が溢れてはすぐ生地に沁み込んだ。
口に入れた途端、甘くて薄い衣はほろっと溶けた。
熱いりんごはとんでもなく甘く、あとから少しすっぱい。
冷ますのを怠って口に放り込むと、はふっと呼気が漏れた。
さすがに白く煙るようなことはなかったけど、冬島の気候に頭を突っ込んでいるいまの海域にはぴったりのおやつだ。
「ねぇ、さっき」
最後のひと切れで生クリームをさらって、口に含んでから言う。
つと視線を上げてロビンを見ると、彼女の上唇の真ん中にちょこんと生クリームが乗っていた。
思わず笑み零れて、自分の唇をとんとんと指差すと、ロビンはすました顔で舌をぺろっと出して舐めとった。
「なにかしら」
「んーん、なんでもない」
おいしかったわね、とフォークを置いて紅茶を飲んだ。
少し冷めて、飲みやすかった。
「サンジ君、ごちそうさまー」
二人分の皿を重ねてキッチンに入っていく。てっきりルフィたちがわいわいやっているかと思っていたのに、行ってみればサンジ君一人がいつも通りカウンターの向こうに立っていた。
「あれ? あいつらは?」
「あー、さっさと食って出てったよ」
「そう」
サンジ君はちらりと私を見遣ると、くるっと背を向けて洗い物に精を出し始めた。私が手にした皿を取りに来ることもない。
流し目なんて、下品な見方をされたのも初めてだ。
なによ、と気持ちがつんつんしてくる。
ずかずかと彼の聖域に足を踏み入れて、シンクの横にどんと皿を置いた。
「ごちそうさま!」
「はいよー」
肩を並べた私のわきをするっとすり抜けて、今度は彼がキッチンカウンターの外側へと出ていく。
酒の並んだ棚に向かって、数を数えるようにいくつかのボトルを指差し始めた。
つんつんとしていた気持ちが、急速にしぼんでいく。
反比例して、薄い色の淋しさが胸に広がった。
私に背中を向けたシャツが見慣れなくて、どんなに顔を上げても絶対に繋がることのない視線の行先に戸惑う。
どうして、と訊くことすらできなかった。
こちこちと時計が鳴る音がやけに大きい。
「うっひょー!」とルフィの声変わり前の少年みたいに高い声が聞こえるまで、私もサンジ君もかたくなにそこを動かずにいた。
「海軍! 海軍だー!」と騒ぐルフィの声を皮切りに、慌てて外へまろび出る。
「すんげェー! ひっさしぶりだなぁ、何隻いんだろ」
興奮したルフィが羽虫の様にびょんびょんとあちこち飛び回って、水平線に目を凝らす。
目の前をちらつくルフィの影に怒鳴りながら、私もオペラグラスを覗き込んだ。
3,4……5。いや、さらにその向こう、霧に隠れてもう少し数がいる。
「オウオウ、おれらを狙って軍艦引っ張って来たんじゃねェだろうな」
「まさか、偶然だろ。巡視船だ」
「4,5匹も巡視船が居合わせるかァ?」
理論と推論で水を掛け合うフランキーとゾロの声をぶった切るように、大砲が水しぶきを吹き上げた。
ギャーッとウソップの叫びが響く。
ばちばちと音を立てて甲板に降り注ぐ水しぶきを浴びながら、ルフィがついに我慢しきれない、というように声を張り上げた。
「戦闘だァ!!」
どどん、と祭りが始まる太鼓のように一斉に大砲が打ち込まれた。
ぐんぐんと軍艦が詰め寄ってきて、サニー号を取り囲むように輪を描きはじめる。
「ナミィ! 舵はどっちだ!」
「とりあえず6時!」
風の向きには逆らうことになるけど、とりあえず海軍から距離を取らなければならない。
西の空が開けていた。逆に、東から一筋冷たい風が吹いた。
気圧の高低が肌に触れて、ぴりぴりと痺れる。その感覚が西へ逃げろと告げる。
「フランキー! 舵を8時の方角に切って! もうすぐ東から風が吹く、帆を張って風を受けて!」
「コーラは!」
「いらない! 風だけでいけるから!」
声を張り上げているうちに、びゅんとまた冷たい風が一陣頬に吹き付ける。
来た来た、と胸が熱くなる。
と、目の端で砲弾が弧を描いた。
突然方向転換をしたサニー号からてんで外れたほうに打ち込まれた砲弾だ。
そのまま何もない海に落ちていく──はずが、またもや吹き付けた強い風を真横に受けて、砲弾が向きを変えた。
通常よりもずっと遅いスピードで、だからこそ鈍重そうに、ゆっくりと視界に飛び込んでくる。
まっすぐ確実に、私の方へと飛んできた。
黒く重たい球体がどんどん近づいてくるのを、瞳孔を開いて食い入るように見つめた。見つめていたって消えやしないのだけど、足も手も動かなくて、握りしめた天候棒を手汗で落とさないようにするのが精一杯だった。
ナミ! と叫んだのがチョッパーの声だったかウソップの声だったか、どちらにせよそれらの声が耳に届くと同時に、私の身体は風圧で浮かび上がっていた。
ドンとおしりから甲板にぶつかり、ハッと顔を上げる。
私に向かって飛んできたはずの球体は、真っ二つに割れて海へと落ちていくところだった。
「──ゾロ」
「まだ来るぞ、さっさと立て」
巨大な苔の生えた壁みたいなゾロの背中は私の前に立ちはだかり、私の鼻先で刀の切っ先がぴかっと光った。
ありがとうと言う私の声を聞きもせず、ゾロは甲板の端までさっさと走っていく。
「大丈夫?」と、すかさず背中を合わせるようにロビンが寄り添ってくる。
「へーき。びっくりした」
私をちらりと見ると、ロビンはウソップの方へ加勢するためするりと走り去って行った。
おしりをはたきながら立ち上がる。まったくなんて乱暴な守り方だろう、なんて守ってもらった分際でアレだけど。
──あぁそうか。
気付くと同時に振り向いた先に彼がいた。
ほんの少し肩で息をしている。黒いスーツの生地が白く汚れていた。
砲弾が海に落ちるたびに水柱が立ち上がり、わあわあとわめきたてる敵船と私たちの船。
ウソップがぶっ放す大砲からは絶えず硝煙が上がり、チョッパーの蹄が力強く甲板を叩いている。
ルフィが心底楽しいというように技名を腹の中から叫んでは、爆風を吹き上げて軍艦をひとつ沈めた。
そんな喧噪の中、サンジ君はすごく遠いところから私を見ていた。
遠いと言っても同じ船の上、甲板の端から端と言った距離でたかが知れてる。
それでも私のピンチに駆けつける背中が今、こんなにも遠い。
あんたなにしてるの、と思わず口の中で呟く。
そんな遠くでなにをしてるのと。
サンジ君はぎゅっと固く唇を結んで、何か言おうとしたはずの言葉をのみこむように少し口もとを動かした。
時間にすればほんの数秒、その数秒を食い入るように私たちは見つめ合って、そしてサンジ君の方からふいと目を逸らした。
タンと船の縁に飛び乗って、踊るみたいに足技を繰り出す。
後甲板でゾロの斬撃が突風を吹き出し、船がぐわんと前後に揺れた。
たたらを踏んだそれを機に、私もやっとサンジ君から視線を外す。
こんなときに、私はサンジ君のことばかり。
それに気付くと途端にむくむくと苛立ちが沸き起こり、ブンと大きく天候棒を振りかざした。
「わぁーっ!!」
突然上がった叫び声に、咄嗟に声の方を振り仰ぐ。ウソップだ。
「なに!?」
「どうした!」
私の声にフランキーのガラガラ声が被さって、それにウソップが「頼む―!」とどこからか答えた。
「フランキー、バーストの準備だ!!」
「ンだぁ! どうした!」
「頼む! 非常事態!」
フランキーは迷わず船室のコックピットに巨体を滑り込ませた。
なにがなんだかわからないまま、咄嗟に近くの柱にしがみつく。
ボフンと気の抜ける空気音がして、一瞬で視界が乳白色に煙った。ウソップの煙幕だ。
途端に海軍側の号令に似たわめき声が遠ざかる。
次の瞬間には、ぐんと重力で体が下に引っ張られた。しがみついた腕に力を込める。
「つかまれェ!」とどこかから仲間の声が飛ぶ。
ぐいぐいと頬が風を切り、船が傾き、空を目指していく。
浮いている、と実感したのは煙幕を突き抜けはるか上空に辿りついたあとだった。
*
船底を海面に叩きつけるように着水して、やっと一心地ついたころ、ようやくしがみついていた柱から手を離した。
指先がぴりぴりと熱を持って痺れている。
「は、まったくもう」
憤った声を隠せないまま呟くと、甲板にあおむけで倒れ伏したウソップが「すまん」と小さく答えた。
幸いコーラエネルギーは十分だったし、ウソップが張った煙幕はすぐに風で飛ばされたけど目隠しにはなって、混乱する海軍を残して私たちははるか西の空へと逃げおおせることができた。
最期までケリをつけられなかったルフィは、ウソップとフランキーに不満タラタラだ。
「バーストで逃げるまでもなかったろ! おれまだ試してェ技があったのに」
「非常事態て叫ばれたァああするしかねェだろう、今更ゴチャゴチャ言うな」
ルフィをいなすように、あやすように答えていたフランキーが、ふと顔を上げた。正面から目が合う。
割れた顎がクイと左を指し示す。つられるように目を遣った。
生い茂ったつややかな広葉樹が、なにごともなかったかのように潮風でさわさわと揺れている。私のみかん畑。
もう一度フランキーを見遣ると、いい加減いやになったのかウルセェウルセェとルフィを蹴散らすように既にこちらに背を向けて歩きはじめていた。
──えーっと。
フランキーの目配せを、どういうふうに受け取ったらいいのか持てあます。
甲板には遠ざかるフランキーとルフィ、未だ倒れ伏せったウソップ、その場で寝始めたゾロ。
チョッパーとブルックはさっき一緒に船室へ引っ込むのを目にしたし、ロビンは能力でメインマストを調節していた。
みかん畑の方に足を向けると、なぜか呼吸が早くなる気がした。
──緊張、してるみたい。
植樹されたみかんに対面するように壁に背中を預けた横顔を目にしたときも、その心地は変わらなかった。
「サンジ君」
「う、おっ! ナミさん、びびったぁ」
「こんなところでなにしてるの」
両足を伸ばして座る彼の横に仁王立ちして見下ろす。
サンジ君はちらりと私を見上げて、いやぁとはにかむように俯いた。
「バーストしたときつかまり損ねて吹っ飛んじまってよ。ここに落っこちたからちょっとそのまま休憩を」
あだいじょうぶ、ナミさんのみかんに被害はねェから、と後頭部をガシガシやる。
ふぅうううん、と思いっきりいやみったらしく言ってやった。
サンジ君はぽかりと口をあけ、目元の笑い皺をぴくりと動かした。
「な……なんでしょう」
「サンジ君私になにか隠してるの?」
カマをかけたつもりだった。
あわてふためいていやだなぁと笑ってごまかすところも簡単に想像がついたし、一方で「へ?」と丸い目を向けられるところも、それは簡単に。
だからこんなふうに突然、サンジ君の目がすっと静かに私を見つめ返すなんて思ってもみなかった。
苦笑の余韻を残していた口元が、音もなく引き締まって閉ざされる。
なにか取り返しのつかない失態を犯してしまったような心細い心地になり、息を詰めて彼を見下ろす。
サンジ君はなかなか口を開かなかった。
我慢比べのようにお互い黙りこくる。
今日の私たちは変だ。
真正面から視線を交わすことも、噛み合う会話を楽しむことを一度もせずに、それでもずっと互いのことを意識し続けている。
だからサンジ君が口を開いて小さく息を吸ったとき、あまりの緊張感に眩暈がした。
「──ナミさんこそ」
「は?」
サンジ君は一瞬私を見上げるように顔を上げたが、視線を交わすことなくすぐに俯いた。
「なにって?」
「ナミさんこそ、おれに隠してることあんじゃねェの」
「どういうことよ」
サンジ君が床に手をつく。
立ち上がるのかと思いきや、そうはせずに今度こそ私を見上げて目を合わせた。
「昨日おれ、起きてた」
あ、と誰かが呟く。
私の声だとは思いもしなかった。
「起きてたんだよ」
私を見上げるサンジ君はなぜか泣きそうに不安定な顔をしていて、こんな顔、絶対に私以外の前では見られないと不意にそう思った。
やわらかな、平和な呼吸。
くたびれて、息をついて、そのまま落ちるように寝入ったその姿が珍しくて私は息を忍ばせる。
そっと触れてみた手は洗い物を終えたばかりで冷えていた。
彼の顔を隠す前髪をめくり上げたのは、どちらかというと悪戯心に近い。
伸びかけたひげや、口の端に咥えたままの火の消えた煙草や、伏せた金色の睫毛や。
そのひとつひとつをじっくりと見ていたら、吸い寄せられるように動いていた。
煙草をつまむとすんなりと抜けた。
唇なのか頬なのか、わからないようなところにそっと自分の唇を押し当てる。
そのあと少し、彼の頬に自分の頬をくっつけてじっとしていた。
そうか彼は起きていたのか。
サンジ君は珍しく怒ったような、どこか拗ねているようにも聞こえる口調で言った。
「わけわかんねェって、あんな、クソ、あんなことされて平気でいられるわけがねェ」
なにかいけなかったかしら。
そんな言葉がぽんと飛び出しかけて、すんでのところで口からは零れなかった。
はあ、とサンジ君は大きく息をついて、平べったい手のひらで口元を覆い隠す。
昨日の感触を閉じ込めるみたいに、空気を包んだ手のひらを唇に当てている。
ふいに潮風がおおざっぱな印象で吹き付ける。
みかんの枝がざわざわとこすれ合い、硝煙のにおいが漂った。
「え、なに? このにおい」
私の声にサンジ君が顔を上げる。
「におい?」
「焼けるにおいがする」
はっとサンジ君がみじろいだ。
その動きに視線がとまる。不自然に伸ばされた彼の脚。
よく見たら、黒いスラックスはすり切れて破れている。
逃げ場がなくうろたえるように、私から遠いほうの脚がぴくっと動いた。
「ちょっと! もしかして」
目を瞠ってしゃがみこむと、サンジ君は往生際悪く逃げるように身を引いた。
「あんた怪我してるの」
「や、ちがうってちがうって」
「ばか、見せなさいよ」
無事に見えた彼の太腿の辺りをがっと掴むと、う、と眉間に皺を寄せてサンジ君が片目をひきつらせた。
スーツの上着に隠れていて見えなかったが、彼は自分で足の根元をネクタイで縛って止血している。
それでも、よく見たら彼の両足の下は滴った血でひどく汚れていた。
まるで隠すみたいにその上に脚を伸ばして、サンジ君はテディベアのように座っていたのだ。
「やだ、ひどい傷──あんたこれやけどもしてるんじゃない。撃たれたとかじゃないでしょ」
サンジ君は本当に珍しく私の言葉を無視した。
覗き込むように顔を傾けて、彼を睨み上げる。
「──なに嘘ついてんのよ」
「そりゃナミさんこそ」
「わっ……たしがいつ嘘ついたってのよ」
やおらサンジ君は押し黙り、つづいて私もむっつりと口を閉ざした。
意味のない沈黙がまあまあの気まずさで足元に積もっていく。
遠くの方でフランキーのがなり声が空中に広がって、こっちのほうまで届いてきた。
彼の脚からじわじわと黒いしみが広がるのにちらちら目を遣る。
ああ早くチョッパーを呼ばなきゃ。
「じゃあさ」
サンジ君は不本意そうに口を開き、「なんでナミさんは……」と言葉を続けた。
咄嗟に「ねぇ」と私が大きめの声で遮ったのは、反射に近かった。
「ねぇ、じゃんけんしよっか」
「え」
「はい、最初はグー」
拳を突き出すように胸の前に上げると、サンジ君も慌てて左手をグーの形で差し出した。
「じゃんけんぽん」
「あ、勝った」
サンジ君はグーの形のまま、困ったように私に目を遣る。
言い出したくせに負けた私は、フンと目を逸らした。
「な、これなんのじゃんけん」
「知らないわよ」
「なんだソレ……ってかそれより」
サンジくんが口を開いた矢先、蹄が床を叩く独特の足音が耳に同時に届いてサンジ君は言葉をのみこんだ。
「サンジ! あぁーっやっぱり怪我してるな! 怪我してるだろ! このあたりサンジの血のにおいでぷんぷんなんだからな! まったくこんなところでなにやってんだよ!」
チョッパーは現れた途端ぷりぷりと怒りながら私たちの間に割って入り、あっけにとられる彼の脚をささっと検分すると、大人びた声で「ナミ、お湯を沸かしてきてくれ」とこっちを見もせず言った。
もちろん私はすぐに立ち上がる。
キッチンへ向かう間際、サンジくんと一瞬視線がかすめ合う。
その一瞬では、彼が口を開いてなにを言おうとしていたのかはわからなかった。
*
なんにもないまっすぐな水平線に太陽が沈むころ、いつもと変わらず船の中を芳醇なソースの香りが漂い始めた。
あんなに血を流していたのが嘘みたいに、サンジ君はいつものように立ち働いて夕食を準備している。
不気味な外見の魚をソテーしたメインディッシュは無論そつがなくおいしい。
チョッパーは「安静にしろって言ったろ!」とまだぷりぷりしていたが、はいはいあとでとサンジ君は聞く耳を持たない。
けれど、カウンターの角を鋭角に曲がるときやっぱり少し片方の足が不自由そうにひきつり、よろめいた彼をロビンのハナの腕が支えた。
「大丈夫?」
「や、すまねぇロビンちゃん」
目に留めたウソップが「おおい無理すんなよ」と不安げな声を出し、ゾロが「あんな海軍戦なんぞで負傷たぁフ抜けてやがる」と酒を飲むついでのように言った。
当然サンジ君はねめつけるように顔を上げてゾロを睨み据える。
「ちょっとぉ」と不穏になり始めた食卓に声を割り入れてみたが、二人はテーブルの角で睨み合ったまま剣呑な目つきをやめない。
「テメェが切り損ねた砲弾がいくつ船に飛んできたと思ってやがる。周りも考えず好き放題刀振り回しやがって偉そうに」
「アァ!?」
野良犬が食ってかかるようなゾロの声を機に、サンジ君が怪我をしている方の足を振り上げる。
壁に立てかけてあった刀を太い腕からは思いもよらない速さでゾロが掴み、サンジ君の靴底をその鞘で受けた。
風圧で全員の前髪が浮かび上がり、テーブルの中心にあったサラダボウルからレタスがふわっと浮かんで散った。
「表ェ出るか」
「上等だ、テメェの下手こいた脚が使いモンになるなら相手してやる」
「オイオイオイいい加減にしろ」とフランキーが立ち上がる。つられてウソップもオロオロと腰を上げ「やめろよぉ」と気弱な声を出した。
「サッ、サンジ! そんな脚で喧嘩なんかしたら悪化するだろ!」
「るせぇ黙ってろ」
「おうおう悪化するってよ。どうせなら潰れるまでやってみるか」
分かりやすく煽る言葉にサンジ君はカッと眉を吊り上げてゾロの胸ぐらをつかんだ。
彼らの怒気で、くらっと視界が揺れる。
「ちょ、やめなさいって」
あまりの剣幕に私まで驚いて立ち上がり、サンジ君の平たい胸を突き飛ばすように押してゾロから引き離した。
ゾロの方は、フランキーの無機質で大きな手が押さえつけるようにその肩を掴んでいる。
「なにやってんのよ、食事中よ」
サンジ君は私と目を合わさないように扉の方を見て、小さく舌を打った。
ばか、と掴んでいた彼のシャツを離す。
ゾロの方はフンと大きすぎる鼻息をひとつついてから、椅子に座り直した。
そしてすかさず素っ頓狂な声をあげた。
「あぁっ、おれの魚がねェ!」
「あ、わりぃ食った」
なにっ、と全員がテーブルに視線を戻すと、皿という皿がすべてきれいに平らげられている。
ルフィこのやろう、と男たちが今度はルフィに殴りかかって取っ組み合うのを見ていたら、険悪だった空気はいつのまにか空中分解されてどこかに散っていった。
ただ、サンジ君だけはふらりと食堂の扉を開けて外に出ていって、戻ってこなかった。
洗った皿を水切りに並べていたら、空気が動いてふわっと毛先が泳いだ気がして振り向いた。
サンジ君がうつむきがちに扉のそばに立っている。
帰ってきた家出少年みたいだ。
「すまねェ」
「ほんとよまったく、どこでフケてたの」
「……展望台に行ってみたんだがマリモの汗臭いにおいがしてむかついたから、アクアリウムバーでぼーっとしてた」
「脚は」
「さっきチョッパーに捕まって、診られた」
「そ」
はぁ、と息をついてからサンジ君は私の横に並び、「代わるよ」と小さく言った。
「いいわよ、はいもう終わり」
最後のお皿を水切りに差し込むように置いて手を拭く。
それでも彼が所在なさ気にしょんぼりと立っているので「じゃあお茶淹れて」と言ってみたら、水を得た魚のごとくそそくさと動き始めた。
誰もいないダイニングテーブルに腰を下ろして、彼が慣れた手つきでお茶を淹れるのを眺めた。
「ねぇ、なにをあんなムキになってたのよ」
「あぁー、や、ムキになったわけでも」
ごにょごにょと言葉尻をごまかして、熱いお湯をポットに注ぐ。
その音が途切れても私がなにも言わないのを見ると、サンジ君は観念したように「たぶん」と言った。
「図星だったから」
「なにが?」
「フ抜けてるってのが」
カップを受け取りながら首をかしげた。
濃くて華やかな紅茶の香りが手の中から広がる。
「昨夜のこと考えてたら気もそぞろになっちまって、それでナミさんがあぶねぇときに間に合わなかった。んでそのお鉢奪われたゾロにフ抜けなんて言われたらごもっともすぎて腹も立つって」
自嘲気味に苦笑を噛み潰して、サンジ君は私の隣のイスに腰を下ろした。同じ紅茶を手に持って。
──つまりは私のせいか。
自分から申告するのも癪で黙っていたら、一口紅茶に口を付けたサンジ君が急に意を決したようにカップをテーブルに起き、「ナミさん」と私に向き直った。
「じゃんけんしよっか」
「……なによ急に」
「昼間のナミさんも急だったろ。で、じゃんけんに勝った方は相手にひとつ質問ができる」
「そんなルールなかったわ」
「負けた方は絶対ェ答えること。はい最初はグー」
やるつもりなんかなかったのに、グーを突き出されたら昼間のサンジ君のように私も咄嗟に手を出していた。
「じゃんけんぽん」
またしても負けた手首の先を疎ましく見下ろす。
「おれの勝ちだ」サンジ君は特に嬉しそうでもなく、むしろ困り顔のまま私を見据えた。
何を言うのやらと、わたしは神妙な心持ちで彼の唇が動くのを見つめる。
「今日のメシは旨かった?」
「は?」
だから、とサンジ君が繰り返すのを聞いて、なにそれと呟いた。
「そんなことが訊きたいの」
「ほら、絶対ェ答えることっつったろ」
「──美味しかったわよ。当たり前じゃない」
サンジ君は顔を隠すように笑ったので、もしかして泣くんじゃないかと不意に心配になる。
けれども泣くはずもなく、サンジ君は顔を上げて「はい、じゃーんけん」と手を出した。
「えっ、またやるの」
「ぽん」
「あっ勝った」
初めて勝ってしまって、狼狽えるように彼をみつめた。
どうぞ、というように彼は手のひらを私に向けてひるがえす。
少し考えてから、口を開いた。
「どうして怪我したこと、すぐに言わなかったの」
「かっこ悪かったからに決まってんだろ。あとすぐに動けなかったしどうすっかなーと思ってるうちにあんた来ちまうし」
サンジ君は途端に子供に戻ったかのようにふてくさった顔をそむけた。
「もしかして、ウソップがバーストだって叫んだのもあんたの怪我に気付いて」
「質問はひとつだけ」
サンジ君は私の言葉をさえぎって、またこぶしを突き出した。
──それから何度愚にもつかない子供の遊びを重ねただろう。
「なんでじゃんけんなんて言い出したのナミさん」
「なんとなくよ! ていうかそうでもしないとあんたからちゃんと話聞けない気がしたから」
「どうして怪我なんてしちゃったの」
「……ゾロとナミさんのことでイラついて、やけくそで砲弾6つくらいいっきに飛んできた中に飛び込んだらひとつ避けきれなかった」
「ばか! ばかじゃないの!」
「おれじゃなくてゾロがナミさんを助けたとき、どう思った?」
「どうって助かったって思ったけど……あんたじゃなかったからちょっと」
「ちょっとって?」
「質問はひとつなんでしょ!」
「──なんであのときすぐに起きなかったの」
サンジ君は私を見つめて、「あのときって?」と静かに訊いた。
しばらく睨み合うように時間が止まったけど、結局私が視線から逃げるように目を逸らし「わからないならいいわ」と落とした。
しばらくサンジ君は黙ったまま、慣れた仕草で煙草を取り出し火をつける。
「直前までマジで寝てたから。夢かと思うだろ。そったら起きたくねーじゃん」
「いつ夢じゃないって気付いたのよ」
「そりゃあんた──」
答えかけて、サンジ君はやられたというように片目をすがめて小さく笑った。
「質問はひとつ」
もう一度、じゃんけんをする。
私がグーでサンジ君がパー。負けた。
はあ、と息をついて手を下ろしかけたとき、その手をサンジ君が包むように掴んだ。
ぬるくあったまった手。
脈の音が聞こえそうなほど静かだ。
私のグーを包んでいた手がそっと滑って、手首を掴み直す。
「最初、ナミさんがじゃんけんって言い始めたとき。勝ったらどうするつもりだった?」
「別に。だからなんとなくだって──」
「嘘だ」
サンジ君は私の方に少しにじりよる。向き合った膝頭がぶつかる。
「嘘だろ」
「本当だって──」
本当に、考えなしに始めただけだった。
だけどサンジ君の少し近づいた顔を否応なしに見ていたら、どんどん昨夜の記憶があふれてきて、尖った鼻梁とか、少し下に落ちた目尻とか、灯りを吸い込んだ金色の髪だとか、そうそうこれこれ、私この全部がほしくなったんだと思い出した。
まるで観念したようなふりをして、私は言い直す。
「私が勝ったら、キスしようと思ってた」
サンジ君はそれを聞いても表情を動かさず、口の端に挟んでいた煙草をそっと手に取った。
「じゃあおれが勝ったからキスしてもい?」
「だめ。あんたもう質問したから」
「なんで昨夜おれにキスしたの」
「だから質問はひとつ」
椅子が床を叩く。彼が手をついたテーブルが軋む。
直前まで吸っていた煙草のかおりが、昨夜の記憶そのままのかおりだった。
ゆっくりと押し当てられた唇も、昨夜初めて知ったそのものだ。
そっと離れて、それでも額だけはくっつけたまま、サンジ君は「けむたいな、ごめんな」と場違いなことを言った。
あまりに静かで、彼の指の間に挟まった煙草のフィルターが焼ける音まで聞こえてくる。
「昨夜も」
「ん?」
「昨夜も煙たかったけど」
うん、とサンジ君は頷いて先を促した。
「それでもしたかったの」
サンジ君は手を離し、私の髪を一束そっとうしろへ払って首筋に触れる。
「それ答えになってねーけど」とサンジ君は笑って、「でもすんげ殺し文句」と低い声を私に吹き込むようにつぶやいた。
Fin.
作品ページへ戻る
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スミマセン主催作品なのでただのあとがきです。
自分のものじゃないプロットで話を書くってまったく想像のつかない作業でしたが
いつもより難しいところもあり楽ちんなところもあり、どちらにせよ新鮮で楽しかったです。
プロットで、各作者におまかせで~という部分(じゃんけんで質問する内容とか)を考えるときが一番悩みました。でもなんでもありなんだーと思うと楽しくて。
一応13個すべてのプロットをつかわせていただきましたが、他の方と同じくなかなかプロットそのままに細かいところあわせていくのは難しくていくつか好き勝手にやらせてもらっています。
個人的には、プロット全体を通してサンナミ以外のクルーがふたりの行く末をちょっとハラハラしながら見守っている雰囲気がすごくいーなーと思いました。
ゾロとの喧嘩とか書くのは楽しかったです。
戦闘シーンとか海賊らしい部分を盛り込むのが好きなので、海軍が現れたところとかも楽しく書きましたー。
他の方の作品も含め、楽しんでいただけたらうれしいです。
ありがとうございました!
こまつな
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年の瀬ですね。年の瀬ってことばがすきです。
仕事は28日までだけど午後休みとるのであと半日。
おひるに職場でうなぎ食って帰ってくるだけの簡単なお仕事です(誤
なんにせよもう終わった感はんぱなくてしあわせー
年末年始の休みなんかねぇよという方もいるだろうし、私も就職試験勉強中とかそうだったし、主婦の方はお子さんが家にいたり掃除にご飯にむしろ仕事が増えたり
いろんな形があるんでしょうがともかく私はおやすみなので。うれしい。
大掃除しておせちの買い出しに行って~と純日本的な年越しを迎えるために着々と準備しています。
そういや去年は海外だったので、2年ぶりの日本正月です。
やっぱ正月は家がいい。
こないだ更新したサンナミ【そんなことより会いたい】にコメントたくさんありがとうございます~
まだお返事できてないんですが、近いうちに。
いちおうクリスマスを意識して書いたひさしぶりのお話だったのでなんか恥ずかしかったです
おまえクリスマスすきだな~みたいなのが恥ずかしくて。
こういう季節イベントもので書くサンナミは、現パロにしたくなります。
あのサンジがフランス行ってるやつ。
【恋は百万光年】ってこっぱずかしいタイトルのが元ネタです。
せっかくクリスマスなんだからいっしょにいさせてあげりゃいいのに、ナミさんはひとりで、サンジがサプライズで帰ってきたわぁい! みたいなお決まりだけどおいしいおいしい展開もなくて、ちょいと寂しいお話にしてしまったのが心残りなんですけど、別に気持ちがすれ違ってるわけではないので私的にはハッピーエンドです。
このサンジはウィンターバケーションで年末年始はごっそり店が休みになって帰国するから、そのときはナミさんと過ごすはず。
ナミさんもそれをわかってるから、サンジや周りに対してゴチャゴチャ言ったりしないと思うのです。
そもそも彼女はクリスマスを特に重視していないような。
でもイベントごとやみんなでわいわいするのは好きだから、乗っかれるイベントには乗っかる。
プレゼントも貰えるし。
だから恋人とのクリスマスがなんやらみたいなことよりも、そういうわいわいするイベントごとにサンジがいないということがちょっとさみしいみたいな気持ちかな~
サンジからのクリスマスプレゼントはカシミヤのマフラーとダイアモンドのネックレスで、彼女へのプレゼントとしてコテコテだけどそのコテコテを順調にクリアしていくようなカップルのサンナミがすきです。
ところでサンナミもあれなんですが、ゾロビンが書きたいな~
最近ちょくちょくゾロビンの作品を目にしてわくどきっとするんですが、いまいち妄想が働かなくて書く気にまでならない。
小説書いてる方もいるのかな~
自分が知っていてかつ趣味嗜好の合う方の作品しか読まなくてすんごい狭い世界の中でオタクやってると重々承知なので、その視野をちょっと広げりゃいろいろ入ってくるんでしょうが、これがなかなかめんどくさい。
手に届く範囲で好きなものだけみていたい。
このCPなら何でもいいとかにはならない。
はあゾロビンで萌えたい。
いまいちうまくいかない彼らをスコープしたい。
ゾロの恋ともつかない思考回路をのぞきたい。
ゾロが恋……っていうのにいまいち踏み切れない気持ちはあるので、どっちかっていうとロビンちゃんからぐいぐい行ってほしいです。
うーんやっぱりゾロビンはカップリングじゃなくてもいいのかもしれない。
なんかあのふたりが隣り合ったり、会話したりしているのを見てほのぼのしたい。
ああでもやっぱゾロビンがキスしたりすると思うとどういうシチュエーションか気になるし萌えるのでカップリングも捨てがたいあああああ
なんかネタください萌えたら書きたいな……
あんまりゾロビン好きな方いない気がする。こっそり教えてね。
あーと、リレー作品ちょいと増えましたので年末12・31第一弾発表を予定したいと思います。
1・1とどっちがいいかな。
元旦はおいそがしいよね。私が。
すごいすごいほんとうに楽しい作品ばっかでなにより全部サンナミ!ホントにサンナミばっかりだから(あたりまえだけど)
サンナミストのあったかい沼みたいなページを作るので、どうぞ見に来てください~
漫画もイラストも小説もあるとか……ほんとどこの天国だみたいになるから。
サイト中心に訪問してくださってる方は、12・31の16時あたりを目安に遊びに来てくだされば更新できてるようにします。
更新でき次第ツイッターにリンクを上げるので、ツイッターの民たちはそちらから。
どうぞよろしくおねがいします。
──こちらは昨日から大雪で、朝から店の玄関が雪に埋もれて開かねェとかでひと騒動ありました。
こんな日でも酔狂なお客さんは(ありがたいことに)来るもんで、仕事が休みになったりはしません。
とはいえ来週のクリスマスには呆れるくらい予約が詰まってるので、今はクリスマス前のひと段落ってとこで客入りはぼちぼち。
てなわけで今日は2週間ぶりに丸一日休みがとれました。
今から君のクリスマスプレゼントを選びに行こうと思います。
*
サンジ君からの手紙を2段目の引き出しにしまい込み、部屋のカーテンを大きく開けた。
薄曇りの空は冬らしく、見える景色はなんとなく灰色がかっていて、窓が結露している。
昨日一日降り続いた温かな雨は夜のうちにやんで、今は地面が少し湿っている程度。雪なんて振る気配もない。
部屋着がわりの毛羽立ったパーカーを脱いで、裏起毛のセーターを身に付ける。
髪をひとつにまとめ、薄めのコートを羽織って、淡いクリーム色のマフラーをぐるりと巻いた。
買い物に行ってくる、とノジコに告げて家をでる。
ブーツに足を突っ込むと、ツンと冷たかった。
並木道は枝ばかりの木々が寒そうに立ち並び、根元には落ち葉がふかふかと敷き詰められている。
ときおり緑の葉を生い茂らせた木がぽんとあらわれ、そこには身を寄せ合って止まる小鳥の姿があった。
うってかわって街の中は店先に商店街のアーケードにバスのロータリーに、あらゆるところに電飾が巻き付いている。
とはいえ昼間なので光は灯っていなくて、露骨に電飾のコードが目についた。
ショーケースの中はクリスマス商戦まっただなかというように、でかでかと描かれたセールの文字にプレゼントやリボンの飾りつけが目立つ。
すれ違う人は心なしかいつもより身を寄せ合って、歩みもゆっくりとしている気がする。
例年より暖かな日になりそうな今年のクリスマスは、私のように人々は少し薄着だ。
目についた雑貨屋にふらりと立ち寄る。
ビビと何度か来たことのある店で、地下1階から5階までフロアごとジャンルに分かれてたくさんの品がそろっている。
一歩店内に入ると、暖かいとはいえ12月の外気になぶられ続けた頬が緩む。首元を引っ張ってマフラーを少し緩めた。
わかってはいたけど、ファンシーな女性向けの雑貨が多い。
エプロンを手に取って、花柄はだめでしょ、とまた戻す。
シリコン製のキッチン用品を見て回って、彼が琺瑯の高価な鍋一式を使っているのを思い出す。
部屋ばきのスリッパは……あっちの家だと部屋の中では何を履いているんだろう。
なんにしろ、フリルはなしだ。
望み薄と知りながらとりあえず5階まで昇りきって、単調な足取りでまた1階まで降りる。
外は少し人ごみが増していた。
どこかでお昼を食べようと目的を変えて街をぶらつき、こんがり焦げた焼き魚の香りに引かれて定食屋さんに入る。
日替わりの焼き魚定食を注文し、レジ近くのテレビを見るともなしに眺めていたら携帯が着信を告げて震えた。
「はいはーい」
「もしもしナミ、今日は何時に来られそうかしら」
ロビンの声の後ろからは、いつもの仲間たちのやんやと騒ぐ声が散り散りに聞こえた。
「16時には行こうと思ってるけど。なに、もうあいつら集まってるの?」
「えぇ、9時からいるわ」
9時! と思わず叫んだ。二つ隣の席の2人客が同時にこちらを振り返ったので、肩を縮めて声を落とす。
「そんな時間からなにやってんのよ」
「今はね、えぇと、折紙でほら、わっかを作って……部屋を飾りつけてるわ」
「何歳児だ」
ロビンはあくまでも楽しそうに笑って、「お料理は出来合いのを頼むつもりだけど、いいかしら」と言った。
「うん、一から作るのも手間だしね」
「ケーキはウソップが用意してくれるみたいよ」
こんなとき、彼がいたらね。
その一言をロビンが飲みこんでくれたのがわかる。
だから私も触れたりしなかった。
なるべく早く行く、と伝えて電話を切った。
「何歳児だ」のくだりの辺りで、定食は届いていた。
魚の皮がぱりっと焼けていてこうばしい。
私には少し塩辛く感じた。
温かいお茶を飲んで、身体の中からあったまったところで店を出る。
日が高く、道を行く人の中には上着を手に持っている人さえいる。
とはいえけして暑いわけではないので、私はきちんとマフラーを巻いて歩き出した。
紳士服のショップを覗いていると、すぐに店員が声をかけてくる。
プレゼント用ですか? の決まり台詞に、えぇ、まぁ、ともごもご答えつつ後ずさり、結局何も買わずに店を出ること数軒。
これまでサンジ君へのプレゼントを見立てたことも何度かあるんだから、気後れすることなんてなにひとつないのに。
次の店でも、これじゃないんだよなぁ、とジャケットやらコートやらをちらちらひっくり返し、値札を探してがさがさやってはため息をついて店を出た。
店を出たところで、見知った顔にばったりと出くわしてお互いに足を止めた。
まぁ! の形に口が開いたかと思えば、みるみるうちに顔がほころぶ。
ダークブラウンのタートルネックに水色の髪が良く似合っていた。
「ナミさん! 奇遇ね」
「わ、びっくりした。ビビはまだ行ってなかったんだ」
「えぇ、みんなへのプレゼントを用意してからいこうと思って」
そう言ってビビが両手に掲げたえんじの紙袋には、ビニール包装された品物がいくつも入っていた。
「うわ、すごい。そんなの用意しなくてもいいのに。たぶん誰もそんなの準備してないわよ」
「いいの。私がやりたいだけだから。それに選ぶの、すごく楽しかったし」
みてみて、とビビは往来でがさがさ紙袋を漁り始める。
「これはルフィさん。彼はたぶん一番大きいのを欲しがるでしょう。こっちは長鼻くん。ミスターブシドーへのプレゼントが一番重たくって……あ、中身はまだ内緒よ」
いたずらっぽく笑うビビは心底ここちよさそうに笑う。
私のもあるんでしょうね、と尋ねてみたら、もちろん、と自信満々に鼻先を上げて答えた。
「私、あとひとつ用意したら向かおうと思ってるんだけど。ナミさんはまだ買い物の途中?」
「うん、あとから行くわ」
「そう、今日は暖かいから街中も歩きやすいものね」
ふふっと唐突にビビが笑み零れた。
「なに?」
「ううん、ナミさん随分暖かそうなマフラーしてるから。今日は少し暑そうだなあって」
クリーム色のマフラーに手を遣る。なめらかな手触りに指先が埋まる。
「──うん、してきたんだけど結構暑いわね」
「明日は寒くなるみたいだからあったほうがいいかもね。似合ってるわ」
それじゃあとビビはふさがった両手を小さく動かして、揚々と歩いて行った。
手に触れたマフラーをほどいてみる。
冷たい空気が首筋に入り込んできて、少し気持ちいいくらいだ。
──サンジ君、ほんとうに遠いところにいるのね。
そのことが妙に実感されて、耐えようもなく苦しくなった。
サンジ君のいるところは本当に本当に寒いのだろう。
マフラーと薄手のコートなんてありえない、ダウンコートにマフラーに毛糸の帽子に、靴下を何枚も重ねて厚い手袋をはめて、彼は店先の雪かきをしたのだろう。
吐く息は濃く白く、湿った欧州の空気に彼の金髪は凍ってしまいそうになったかもしれない。
店に戻って熱いコーヒーを自分で淹れて、そうだナミさんにはマフラーを送ろうと彼は思い立つ。
ここはこんなに寒いのだから、彼女の冬もきっと寒いはずだ。
風邪を引いたら大変だから。
彼女はすぐに薄着をしたがるから。
今から君のクリスマスプレゼントを選びに行こうと思います。
──選んできました。
これを巻いて、暖かくして、風邪を引かないように。
絶対に君に似合うと思う。
今年のクリスマスは帰れないんだと、まだ秋の頃から聞いていた。
彼の方が泣きそうだった。
コースのメインを任されるようになったから、かきいれどきのクリスマスに帰ることはできない。
そんなの全然かまわないわー、でもかわりにクリスマスプレゼント奮発してね。
まかせてくれと彼は胸を叩いていた。
マフラーには、瀟洒なダイアモンドのネックレスがひっかかっていた。
──ばかね。本気にしちゃって。
ぐいと目元をぬぐって、私はマフラーをきつく巻き直した。
今ここに彼がいなくても、サンジ君のことを思えば歩く気力がわいてくる。
さぁさぁクリスマスも本番よと言わんばかりに、腕を組んで歩くふたりの姿が街の中で目立ち始めた。
そんな彼らの間を縫うように、ひとりタッタカ顔を上げて歩いていく。
ゆたんぽ、でいいか。
温かいし。向こうでも使えるし。あんまり高くないし。
かわいいカバーも買ってやるかと、電飾が灯り始めた街を私は歩いていく。
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