OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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イベント・旅行のレポたちです
・2012USJプレショレポ
・2014USJプレショレポ前編 後編
・2015.1.17東京・バラティエに行ってきました
・2015USJプレショレポ
・2016GLC5レポ
・2016GLC7レポ
・2017ワンピサマー!プレショレポ ←NEW!
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*twitterでいただいたネタで、ゾロたしです。
手に提げた小さな袋から、甘いにおいがする。
目の眩むほど遠い昔のように思えるが、まだ道場に通っていたころ、時折近所の民家から昼過ぎにこんな匂いがすることがあった。
粉と砂糖のシンプルな焼き菓子のにおいだ。
袋は薄水色のリボンで結んであった。薄茶色と濃い茶色の丸い菓子が二種類ころころと入っていた。
船までの人通りの少ない道を歩きながら袋を開け、一つ口に放り込んだ。
ガリッと硬い音がして、ざらざらと口の中で砕けた。ものすごく甘い。
船のコックが作った似たような菓子はよく昼のおやつで出てくるが、まったく違う種類の食いもんじゃないかと思った。
コックが作ったものは噛むときに歯が砕けそうな音はしないし、舌の上でいつの間にかなくなってしまう。口に入れる瞬間なんかしら砂糖ではない匂いがして、後味にあまり甘さが残らない。完ぺきに形取られていて、薄く焼き色がついたそれは見た目にも美味そうなのだ。
対してこれは作ったやつの指のあとまで分かるようである。
──硬ェな、と思いながらがりぼりと噛んでいたら、中身があと2つになっていた。
濃い茶色のやつがうまい、と思ったところで、そういやなんの警戒もなく食っちまったがまさか毒でも入ってんじゃねぇだろうなと少々ハッとする。
ハッとすると同時に、あの分厚い眼鏡の向こう側にある目を思い出した。
「あっお前なに食ってんだ!?」
唐突にルフィが角を曲がったところから現れた。
あやうくぶつかりかけて立ち止まったが、ルフィはむしろぶつかる勢いでゾロの元まで詰め寄ると、その手に握る小さな袋に熱い視線を注いできた。
「菓子? クッキー? 珍しいな」
「おう」
「どうしたんだ、それ、買ったのか? いいなー」
くれ、くれ、とでかい黒目が叫んでいる。
咄嗟にズボンのポケットに袋を押し込んだ。
「もらいもんだ。それよりお前昨日の肉屋行くっつってたじゃねェか。骨付き肉売り切れちまうぞ」
「あっおう今から行くところだ! ゾロは船帰んのか? この道まっすぐだぞ!」
「うるせぇなわかってるよ」
じゃーなー! と既に走って遠ざかるルフィの声が背中にぶつかる。
おう、と短く答えて船の方を向き直ると、今度は見慣れた黒いスーツの男がぶらぶらとこちらへ歩いてくるのが見えた。
サンジは手にした小さなメモに視線を落として、なにやら考え込んでいる様子だ。
黙ってすれ違おうとする間際、気付いて顔を上げたサンジと目が合った。
「お、剣士様のおかえりか。よく一人で帰ってこれたな」
「んだよその言い草は」
にやにやとサンジは髭を撫でながら笑って、
「おれぁこれからおれを待ちわびてるレディたちに愛を貰いに行くんだがよ、テメェは侘しく手ぶらだな」
「はぁ?」
「唐変木のテメェにゃ用のないイベントだろうがな、今日はレディが甘いチョコレートと一緒に愛を告白する日なのさ」
「んだそりゃ」
言ってから、ぴんときた。
やけに甘いあの匂いが自分の手から香っていた。
無意識に袋を押し込んだ左ポケットに手をやると、目ざとくサンジが目を留めて「なんか飛び出してんぞ」と言った。
「ハッまさかお前」
「あぁそういやこれ、そういう日だからか」
がさっと袋を出すと、サンジが胸ぐらをつかむ勢いで詰め寄って来た。
「テメェそりゃどこのレディから奪ってきやがった! それを持って可愛いレディが今日どこかの幸せな野郎に愛を伝えに行くはずだっつーのに!」
「あぁ!? 誰が奪ったつった、もらいもんだ!」
「どこのレディがお前なんぞにくれるってんだわきまえろクソマリモ!」
「馬鹿野郎、あの海軍の女剣士だ、テメェがいうような意味があるわけねェだろ!」
離れろ阿呆、とサンジを突き放すと、サンジは若干よろめきつつ数歩後ろに下がった。
引き攣った顔で、「まさかたしぎちゃんが」と呟いている。
サンジに掴まれたせいでよれた襟元を直しながら、中身の残り少ない袋に目を落とした。
サンジが言うような意味はこれっぽっちもたしぎは口にしなかった。
むしろ嫌そうに、決まり悪そうに、押し付けるようだった。
さんざ追いかけっこして、一二度剣を交えて、振り払って逃げようとした矢先、呼ばれた。
──ロロノア! 待ちなさい、ロロノア! ちょっ……待って!
切羽詰まった口調につい振り返ると、たしぎはずれた眼鏡を直しながら立ち上がり、腰に付けたポーチからごそごそと何かを取り出した。
けつまずきながら、立ち止まるゾロの元まで足早に近寄ると、ぎゅっと手元にこれを押し付けた。
せわしく眼鏡を指先で上げながら、たしぎは俯きがちに口を動かす。
「ああああああげます」
「あぁ!? なんだこりゃ」
「いいんです気にしないで、さっさと受け取って適当に食べてください」
「はぁ、どういうつもりだ」
「いいですか、ここでは見逃しますが、あなたたち一味を必ずこの島で捕えますから! 逃げられると思わないでください!」
勢いよく啖呵を切ると、さっきまで追いかけまわしていたくせにこんどはたしぎの方が逃げるようにゾロの元から立ち去って行った。
ラッピングされたクッキーと一緒に残されたゾロには、なにがなんだかである。
サンジは頭痛に耐えるように額を押さえ、「よし、よし、わかった。たしぎちゃんがお前にバレンタインのお菓子を『義理で』渡したっつーことは今なんとか理解した」と一人早口に呟いた。
「バレ?」
「いいか」
またもやずいとサンジが寄って来たので、思わず身を引く。
「義理だろうとなんだろうと、レディから今日この日お菓子をもらっちまったからには、テメェは必ずお返しをしなきゃならねぇ」
「はぁ?」
「テメェは男のくせに感謝の意を素直に表すこともできねぇのか? どうせそれもらったときに礼の一つも言えてねぇんだろ」
そういえばそうである。
ぐ、と押し黙ると、サンジは腹の立つ顔でハンと鼻を鳴らして笑った。
「本来なら一か月後にお返しをするもんだがな、あいにく明日出航の予定で次いつたしぎちゃんに会えるかわかんねぇんだろ。海軍がいるとなりゃナミさんは早く船を出すっつーだろうし……お前お返しのアテあんのか」
「んなもんあるわけねぇだろ」
「ハーーったくたしぎちゃんはなんでこんなマリモ」
「うるせぇな、じゃあなんか買ってこりゃいいんだろ」
「おうそうだ、きちんと彼女が喜ぶものを見繕えよ」
「酒か?」
ガスッと太腿の辺りを蹴られた。
「クソかテメェは、そりゃお前が喜ぶもんだろうが」
「おれがあいつの喜ぶもんを知ってるわけねぇだろ!」
「んじゃ手作りでもなんでもしてなんとか彼女を喜ばせろ!」
手作り。
コックが作るのか? と一瞬思ったが、すぐにいやちがうおれが作るのか、と思い直す。
想像だにできない作業だが、いいかもしれねぇな、と思った。
思ったのは、たぶん、たしぎにもらったこの菓子を食ったときの、あの作り手の温度がわかるような近さが案外よいもんだということを、ついさっき感じたばかりだったからだ。
「じゃあ教えろ」
「は?」
「教えろ。菓子。おれが作る」
*
船で待ってろと言い渡され、船に戻るとパラソルの下でウソップがなにやら背中を丸めて手元を覗き込んでいた。
おれの方を見もせず「おけーりー」と言う。
おうと答えてキッチンへ向かうと、ウソップが「サンジいねぇぞ、さっき出てった」と言った。
「すれ違ったから知ってる」
「あそー」
誰もいないキッチンに入り、椅子を引いて座った。
もう一度ポケットから袋を出し、机の上に置く。
中身はあと一つだ。
もう一つあったはずだったのに、サンジに食われたのである。
──お前それ、一個渡せ、おれに食わせろ。
──はぁ? なんで。
──悪いこと言わねェから一個食わせろ。教えろっつったのテメェだろ。
しぶしぶ一つをサンジに手渡すと、サンジはためらいなくクッキーを口に放り込んだ。
ガリッ、ジャリッ、ザリッと派手な音が、サンジの口から聞こえる。
しかしサンジは顔色一つ変えず、どこか遠くのゾロには見えないものを見ているような顔つきでクッキーを噛み締め、ゆっくりと飲みこんだ。
──よしわかった。しゃーねぇからおれが材料揃えて来てやる。お前は船で待ってろ。
そのままサンジはまっすぐ街の方へ、ゾロは言われるがまま船に戻った。
手持無沙汰で、酒、と思ったが、酒臭くしているとコックが帰って来たときにまたうるさいんじゃないかと勘が働いて、珍しく自粛しようと腰を下ろした。
ぼーっとしていると寝てしまいそうで、船を漕ぎかけるたびに「ロロノア!」と呼んだ甲高い女の声がこだまして、ハッと目が覚める。
何度かそれを繰り返しているうちに、サンジが帰ってきた。
「おうなんだ、いやに大人しくしてんじゃねぇか」
「テメェが待ってろつったんだろうが」
「おうおういい子だな……っと、よし早速始めるから手ェ洗え。洗剤で、肘までよく洗え。汚いからなテメェは」
「んだと」
噛みつこうとしてもしっしとあしらわれ、やり場のない腹立ちをぶくぶくと腹の中で煮えたぎらせたままどすどすと手洗い場に向かい、手を洗った。
言われた通り肘まで洗った。
ダイニングテーブルまで戻ると、サンジが買い物袋の中身をテーブルの上に広げている。
広げる、と言って、袋から出てきたのはバターがひとつ、それだけだった。
「あいにくこいつだけ切らしてたからな。買ってきた」
「これだけか」
「小麦粉・牛乳・砂糖は船にもうある」
「そんだけでいいのか」
「いい」
スパッと言い渡されると、「そうか」と身を引くしかなかった。
コックがおやつを作るときは、もっと、なんかよくわからない小瓶やらなにやらを駆使しているのように見えたのだが。
「なにを作る」
「あぁ、スコーンだ……っと、お前これ付けろ、エプロン」
顔に放り出された布を受け取って広げる。
紐がどうなっているのかよくわからずなんだか窮屈な感じになったが、とりあえず背中の方で結ぶことができた。
サンジはエプロンをつけたゾロを確かめると、一瞬何か言いたげな顔をしたが、「ん……まぁいいわ」とキッチンの方へ顔を向けた。
サンジはテーブルを挟んで向かい側に仁王立ちする。
「よしまず材料を量るところからだ。そこの量りでまず小麦粉を100g量れ」
「100gってどんだけだ」
「だからそれを量りで量るんだろうが!」
サンジが指さした器具をテーブルまで持ってきて、置く。
ここに小麦粉を乗せればいいのか、と小麦粉の袋を掴んだら、「待て、待て」と声が飛んだ。
「お前まさか直に小麦粉はかりにぶちまける気じゃねェだろな。まず量りにボウルを乗せろ。そんでメモリをゼロに合わせるんだ」
「あぁ」
成程、と一番でかいボウルをはかりに乗せたら、「あー待て」と少し小ぶりのボウルに変えられる。
メモリをゼロにしてから中に小麦粉をぶちまけた。
高いところから落としたせいで、ぶわっと一気に視界が煙った。
「うおっ、テメェもったいねェ入れ方すんな! メモリを見ながら慎重に入れろ!」
「入れすぎたならあとから戻しゃいいじゃねぇか」
「効率悪いし材料が湿気る! あークソ」
サンジは小刻みに革靴で床を叩きながら、身体の前で腕を組んだ。
こちらもうるせぇこと言うなほっとけと言い放ちたいところだが、ほっとかれたら途方に暮れるのはこちらなので、どうしようもない。
入れ過ぎた小麦粉はスプーンで袋に戻した。
「100gだ」
「よし、同じようにバターと砂糖も量れ」
言われた分量を、小さなボウルに入れて量る。
今度は特にサンジがうるさくせず、うまくできた。
「よし、じゃあこのボウルにバターと砂糖を入れて、ひたすら混ぜろ。お前のそのありあまった腕力使え。器具壊すなよ」
へらと一番大きいボウルを渡された。
ざっとバターを砂糖の上にぶちまける。
へらをバターに差してみたが、少し硬くてこねにくい。
ぐりぐりとまわしていたら、やがてバターがクリームのようにまったりと広がってきた。
「混ぜたぞ」
「アホウ、まだまだだ。もっと混ぜろ。白くなるまでだ」
「バターは黄色っぽいじゃねぇか」
「混ぜると白くもっとふわっとなんだよ!」
これが? と思いながらぐるぐると混ぜ続ける。バターが固いうちはなかなか力仕事だと思ったが、続けているうちにボウルの中が柔らかく、そして白く軽くなってきた。
「おぉ、やらけぇ」
「そうだ、もう少し続けろ」
器具がときおりボウルにカツンとぶつかる音と、サンジが煙を吐く浅い音だけが聞こえた。
持久走をしているみたいな爽快感があった。
「ん、よしもういい。んじゃ牛乳はかれ。三回に分けて入れて、入れるたびによく混ぜろ」
言われた通り量ったところまではよかったが、牛乳を入れる間際に「一気に入れるなよ」と言われて手が止まった。
三回に分けろと言われていたのを忘れて一気に入れるところだった。
だまってチョロチョロと牛乳を注いだ。
混ぜて、またもやサンジに言われた通りふるった粉を2回に分けてクリーム状のかたまりに入れていく。
せっかく混ぜてやわらかくなったクリームが、粉を含んでもったりと重い手ごたえとなってきた。
「混ぜすぎんなよ」
「どれくらいだ」
「もっと切るように手を動かせ」
「んなことしたら本当に斬れちまうだろうが」
その言葉にサンジからはなにも返事が返ってこなかったが、特に気にならなかったので顔も上げなかった。
切るように、でも斬らないように、と頭の中でぶつぶつ言いながら手を動かした。
「よし、もういい。ラップして冷蔵庫で寝かせるぞ」
「寝んのか? こいつが?」
「いいから冷蔵庫入れろ」
教え方がぞんざいになってきた、質問に応えやがらねェ、と腑に落ちない気持ちでボウルを冷蔵庫にしまった。
振り向くと、道具入れからサンジが銀色の丸いカップを4つその手にわしづかんでいた。
「型か」
「おう……あーでもどうすっかなー、これより小さいのねェしなぁ」
「あれをそこに入れるんだろ。その大きさでいいじゃねぇか」
いや、とサンジは型をかつかつその手の中でぶつけながら、考えるように上を向いた。
「おめぇのあれじゃ、おそらくたいして膨らまねェから。たぶんこの型じゃ深すぎる」
「あァ? 言われた通りにやったじゃねぇか」
「おう、あれでいい、膨らまなくていいんだ」
どういうこったと目を眇めると、サンジは「お前さぁ」と上を向いたまま言った。
「たしぎちゃんのあれ、あのクッキー、どうだった」
「あァ? 話変えんな」
「変わってねェよ。どうだった。味は。においは。食感は。おれがいつも作るヤツとくらべてどうだった」
「そりゃテメェ」
たしぎの菓子は、端が崩れていて、やたらとガリガリ硬く、砂糖の甘さが舌に残って、まずかねぇけど、コックのとは違う。
それを言葉にするのを一瞬戸惑った隙に、サンジが「おれのとはちがうだろ。当たり前だけど」と掬うように言った。
「おれが作ると、テメェに作らせたやつでもある程度は上手くできる。彼女のよりもはるかにな。テメェも上手にできたおれの菓子を渡してェわけじゃねぇだろ」
レディのプライドの守り方くらいそろそろわきまえた方がいいんじゃねぇの、とサンジは言った。
口を開いて何か言おうとしたが、咄嗟に出てくる言葉を見失うその隙にまたサンジが「んまこれでいいわ。ブサイクな形のができてちょうどいいだろ」
押し付けるように手渡されたそれを受け取った。
サンジがゾロの前に立ち、なにも持たない手で空をなぞって型にバターを薄く塗るそのやり方を教示する。
塗りすぎだアホ、と何度か言われ、そのたびになにかしら口答えして、たった4つの型にバターを塗るだけの作業で少し汗をかいた。
覗き込むように下を向いていたので首が痛い。
「んじゃ、さっきの生地をそこにいれて、あとは焼くだけだ」
少しだけひんやりしたボウルから生地をどろっと流し込む。
バターの乳くささがふっと浮かび上がった。
うまそうだな、と思う。
オーブンに型をよっつ均等に並べ、言われた通りタイマーをセットし、火を入れた。
「おっし、まぁなんとかなるだろ。んじゃ調理器具洗っとけ。おれは一服してくる」
反駁するより早くサンジはさっさとキッチンを出ていって、ふと目についたテーブルの上はごちゃごちゃと汚れていた。
こんなにもある、と面倒くささが先に立ったがなぜだかあんまり厭わしくない。
黙々と器具をシンクに運び、ガツガツと洗った。
机の上が片付くと心なしかさっぱりして、無酸素運動をしたあと詰めていた息を吐き出したときに似ていた。
ウーと低くオーブンがうなっている。
覗き込んだが暗くて中はよく見えない。
見えないのにオーブンの前にしゃがみこんで、褐色の影に沈んだその中をじっと見ていた。
甘い匂いがしてきた。
たしぎにもらったクッキーのにおいに似ていた。
それはやっぱり、コックが作る菓子のにおいとは少し違って、とてもシンプルなにおいだった。
すきだ。
おれはこのにおいがわりとすきだ、と思う。
唐突に背中の扉が開き、サンジが戻ってきた。
オーブンの前にしゃがみこむゾロの背中を見つけて、「ぶ」と口を腕で押さえて吹き出した。
「かーわいー。上手く焼けるか心配してんだ」
「あァ!?」
「まぁそういきり立つな。心配しねェでも失敗しやしねぇよ」
そう言った矢先、タイマーがじじじじじと鳴って思わず叩きつけるようにして音を止めた。
「ほらさっさと火ィ止めろ」と急かされて、あわてて火を消す。
オーブンのドアを開けると、熱気と濃い焼き菓子のにおいが流れ出して足首の辺りを温めるようにまとわりついた。
「素手で持つなよ」とミトンを渡されて、暗がりの中から天板を引っ張りだす。
薄茶色の焦げ目が4つ、綺麗に見えていた。
「んま上出来じゃないの」
頭上で見下ろすサンジが言う。
コンロの上に天板を置き、サンジが指し示したケーキクーラーの上にころころと型をころがした。
ぽこんと中身を取り出すと、ふわっと柔らかいパンのような丸が転がり出てきた。
カップに入れたものよりほんの少し大きくなった程度だ。
「もっと膨らむはずだったのか」
「あ? まぁお前がアホの様にぐるぐる最後混ぜやがったからな。まぁおれにとっちゃ予想通りの出来だ」
悪かねェよ、と言いながらサンジは浅い四角の皿を差し出してきた。
「冷めると多少締まってスコーンらしくなるけども、せっかく近くにいるんだ。焼き立て食ってもらえよ」
皿の上にスコーンを転がし、ほかほかと立つ湯気を目で追う。
これ、おれが作ったのか、と気付けば口走っていた。
「は? そうじゃねぇか。もう忘れたのか」
「おれぁ言われたことをしただけだ」
はぁ、とサンジは気の抜けた声を出して目を丸めた。
「レシピ本みて作るのとなにがちげーんだ。本見て作ったら自分で作ったんじゃなくて本が作ったことになんのか。ちげーだろ」
いいからさっさと渡してこいグズグズすんな、とケツを軽く蹴られる。
こんの野郎、と歯を剥いて振り返ったら、めちゃくちゃに洗った際へし折った泡だて器にサンジがちょうど目を留めたところだったので、すかさずキッチンから滑り出た。
甲板には帰ってきたときにいたウソップがいなくなり、がらんと空いていた。
*
ゾロを認めた途端、たしぎがさっと刀に手を掛けた。
答えるように手が伸びかけたが右手が皿でふさがっていて咄嗟に動けなかった。
町はずれの裏道だ。
ぽつぽつと町の人間が歩いている。
すれ違う人がときおりたしぎに声をかけ、挨拶をした。
そのたびにたしぎは律儀に頭を下げて答える。それを近づきながら見ていた。
戦闘心のないゾロを不可解げに見つめて、たしぎも刀から手を離す。
「……なにか。なんですかそれは」
「食え。礼だ」
礼? と首をひねってから、たしぎはぎゃっと短く叫んで飛びのいた。
「ああああアレのことですか? もういいんですすみません食べました!?忘れてください!」
「食った」
「すみませんヒナさんに教えてもらったレシピの通りに作ったはずが、私メモを見間違えたみたいで砂糖を入れ過ぎて……あとなぜだかものすごく硬くなってあの」
いいから、と言葉を遮って、皿をたしぎの鼻先に突き出した。
やっとたしぎの焦点が皿の上の焼き菓子に定まって、「これは」と呟く。
「礼だ」
「あなたが……作った? のですか?」
「おう」
「いま? さっき?」
「そうだっつってんだろ。いいから食ってみろ」
ちらっと小動物のような目がゾロを仰ぎ見て、スコーンに止まり、またゾロを見てから、おそるおそると言った態でたしぎの手が伸びてきた。
「あつっ」
まだ湯気が立つそれを指先でつまみ、たしぎはゾロがクッキーを口にした時と同じようにためらいなくかぷりとスコーンに噛り付いた。
「あふっ、あ、熱い! あ、でも」
おいしい、と口を押さえ、目を丸くして、たしぎが言う。
「おいしいです。ロロノア、これ」
「そうか」
言いながら、どこかつっかえが外れたような心地よさが腹の辺りに広がるのを感じた。
ふ、と唐突にたしぎが笑み零れた。
「おかしい、ついさっき渡したばかりなのに、もうお礼なんて。しかもあなたがお菓子作り」
「ばっ……笑うな!」
「だって……しかもこれ、あなたの船の食器ですか? お皿ごと持ってくるなんて」
ふ、ふ、と口を押えて笑ってから、たしぎがまた一口スコーンに噛り付く。
そのタイミングで身体が動いた。
たしぎが噛り付いたその反対側を、同じように噛ってやる。
思いもよらない──でもたしかに確信犯的に、至近距離で目が合った。
ぽろっとたしぎが落としかけたスコーンを慌ててゾロが受け止める。
「なっ……たっ……」
「ぼちぼち食える味だ」
「食べないでください!」
「ハァ!?」
「私があなたにもらったんですから! 勝手に食べないでください!」
「おれがやったやつなんだからいいだろうが!」
「ダメです! 一度貰ったら私のものなんだから許可を取りなさい!」
「ケチケチすんな!」
たしぎの代わりにもっていたスコーンの残りをばくっと一口で口に納めると、「ギャー」と悲鳴を上げてたしぎが飛びついてきた。
「なんてことを! 非道! 極悪人! 私のなのに!」
口の中でもそもそとする粉っぽいのを飲み込んで、やっぱりあんまり美味くはねェかもなと考える。
飲みこんで、「まだあるだろが」と皿を差し出したら皿ごとさっと奪われた。
そのまま背を向けてスコーンの皿を隠される。
この野郎と言いかけたら、「これは」と背を向けたままたしぎが遮った。
「飲み物が欲しくなります」
「あ? あー、確かに」
「紅茶がいいと思います。あと、ジャムやクリームをつけたらもっと美味しいかと」
はぁ、と相槌ともつかない声をこぼす。
「それらが美味しいお店を知っていますが」
「連れてってくれんのか?」
「あなたが勝手についてくるということにしてください。でないと私の立場が」
あやうい……と消え入りそうな声で言うのに思わず噴き出したら、「人の気も知らないで」と肩越しに睨まれた。
唐突にたしぎが歩き出したので、言われた通り勝手についてきていると思われたら癪だと思い大股で横に並ぶ。
「あの、これ」
「あ?」
「冷めたらすごく硬くなりそうですね」
「うるせっ、テメェが言うな!」
あははっ、とたしぎが口をあけて笑った。
ぎょっとして、その顔をまじまじと見下ろした。
見られていることに気付いていないたしぎは皿を大事そうに両手でささげ持ち、ふんふん、とほんの一小節ほどの鼻唄をおそらく無意識に歌った。
その顔を初めて誰に似ていると思うでもなく、いいなと思った。
「ここ、あなたの指のあとがついてる」とたしぎが、スコーンのへこみを嬉しそうに指でなぞった。
手に提げた小さな袋から、甘いにおいがする。
目の眩むほど遠い昔のように思えるが、まだ道場に通っていたころ、時折近所の民家から昼過ぎにこんな匂いがすることがあった。
粉と砂糖のシンプルな焼き菓子のにおいだ。
袋は薄水色のリボンで結んであった。薄茶色と濃い茶色の丸い菓子が二種類ころころと入っていた。
船までの人通りの少ない道を歩きながら袋を開け、一つ口に放り込んだ。
ガリッと硬い音がして、ざらざらと口の中で砕けた。ものすごく甘い。
船のコックが作った似たような菓子はよく昼のおやつで出てくるが、まったく違う種類の食いもんじゃないかと思った。
コックが作ったものは噛むときに歯が砕けそうな音はしないし、舌の上でいつの間にかなくなってしまう。口に入れる瞬間なんかしら砂糖ではない匂いがして、後味にあまり甘さが残らない。完ぺきに形取られていて、薄く焼き色がついたそれは見た目にも美味そうなのだ。
対してこれは作ったやつの指のあとまで分かるようである。
──硬ェな、と思いながらがりぼりと噛んでいたら、中身があと2つになっていた。
濃い茶色のやつがうまい、と思ったところで、そういやなんの警戒もなく食っちまったがまさか毒でも入ってんじゃねぇだろうなと少々ハッとする。
ハッとすると同時に、あの分厚い眼鏡の向こう側にある目を思い出した。
「あっお前なに食ってんだ!?」
唐突にルフィが角を曲がったところから現れた。
あやうくぶつかりかけて立ち止まったが、ルフィはむしろぶつかる勢いでゾロの元まで詰め寄ると、その手に握る小さな袋に熱い視線を注いできた。
「菓子? クッキー? 珍しいな」
「おう」
「どうしたんだ、それ、買ったのか? いいなー」
くれ、くれ、とでかい黒目が叫んでいる。
咄嗟にズボンのポケットに袋を押し込んだ。
「もらいもんだ。それよりお前昨日の肉屋行くっつってたじゃねェか。骨付き肉売り切れちまうぞ」
「あっおう今から行くところだ! ゾロは船帰んのか? この道まっすぐだぞ!」
「うるせぇなわかってるよ」
じゃーなー! と既に走って遠ざかるルフィの声が背中にぶつかる。
おう、と短く答えて船の方を向き直ると、今度は見慣れた黒いスーツの男がぶらぶらとこちらへ歩いてくるのが見えた。
サンジは手にした小さなメモに視線を落として、なにやら考え込んでいる様子だ。
黙ってすれ違おうとする間際、気付いて顔を上げたサンジと目が合った。
「お、剣士様のおかえりか。よく一人で帰ってこれたな」
「んだよその言い草は」
にやにやとサンジは髭を撫でながら笑って、
「おれぁこれからおれを待ちわびてるレディたちに愛を貰いに行くんだがよ、テメェは侘しく手ぶらだな」
「はぁ?」
「唐変木のテメェにゃ用のないイベントだろうがな、今日はレディが甘いチョコレートと一緒に愛を告白する日なのさ」
「んだそりゃ」
言ってから、ぴんときた。
やけに甘いあの匂いが自分の手から香っていた。
無意識に袋を押し込んだ左ポケットに手をやると、目ざとくサンジが目を留めて「なんか飛び出してんぞ」と言った。
「ハッまさかお前」
「あぁそういやこれ、そういう日だからか」
がさっと袋を出すと、サンジが胸ぐらをつかむ勢いで詰め寄って来た。
「テメェそりゃどこのレディから奪ってきやがった! それを持って可愛いレディが今日どこかの幸せな野郎に愛を伝えに行くはずだっつーのに!」
「あぁ!? 誰が奪ったつった、もらいもんだ!」
「どこのレディがお前なんぞにくれるってんだわきまえろクソマリモ!」
「馬鹿野郎、あの海軍の女剣士だ、テメェがいうような意味があるわけねェだろ!」
離れろ阿呆、とサンジを突き放すと、サンジは若干よろめきつつ数歩後ろに下がった。
引き攣った顔で、「まさかたしぎちゃんが」と呟いている。
サンジに掴まれたせいでよれた襟元を直しながら、中身の残り少ない袋に目を落とした。
サンジが言うような意味はこれっぽっちもたしぎは口にしなかった。
むしろ嫌そうに、決まり悪そうに、押し付けるようだった。
さんざ追いかけっこして、一二度剣を交えて、振り払って逃げようとした矢先、呼ばれた。
──ロロノア! 待ちなさい、ロロノア! ちょっ……待って!
切羽詰まった口調につい振り返ると、たしぎはずれた眼鏡を直しながら立ち上がり、腰に付けたポーチからごそごそと何かを取り出した。
けつまずきながら、立ち止まるゾロの元まで足早に近寄ると、ぎゅっと手元にこれを押し付けた。
せわしく眼鏡を指先で上げながら、たしぎは俯きがちに口を動かす。
「ああああああげます」
「あぁ!? なんだこりゃ」
「いいんです気にしないで、さっさと受け取って適当に食べてください」
「はぁ、どういうつもりだ」
「いいですか、ここでは見逃しますが、あなたたち一味を必ずこの島で捕えますから! 逃げられると思わないでください!」
勢いよく啖呵を切ると、さっきまで追いかけまわしていたくせにこんどはたしぎの方が逃げるようにゾロの元から立ち去って行った。
ラッピングされたクッキーと一緒に残されたゾロには、なにがなんだかである。
サンジは頭痛に耐えるように額を押さえ、「よし、よし、わかった。たしぎちゃんがお前にバレンタインのお菓子を『義理で』渡したっつーことは今なんとか理解した」と一人早口に呟いた。
「バレ?」
「いいか」
またもやずいとサンジが寄って来たので、思わず身を引く。
「義理だろうとなんだろうと、レディから今日この日お菓子をもらっちまったからには、テメェは必ずお返しをしなきゃならねぇ」
「はぁ?」
「テメェは男のくせに感謝の意を素直に表すこともできねぇのか? どうせそれもらったときに礼の一つも言えてねぇんだろ」
そういえばそうである。
ぐ、と押し黙ると、サンジは腹の立つ顔でハンと鼻を鳴らして笑った。
「本来なら一か月後にお返しをするもんだがな、あいにく明日出航の予定で次いつたしぎちゃんに会えるかわかんねぇんだろ。海軍がいるとなりゃナミさんは早く船を出すっつーだろうし……お前お返しのアテあんのか」
「んなもんあるわけねぇだろ」
「ハーーったくたしぎちゃんはなんでこんなマリモ」
「うるせぇな、じゃあなんか買ってこりゃいいんだろ」
「おうそうだ、きちんと彼女が喜ぶものを見繕えよ」
「酒か?」
ガスッと太腿の辺りを蹴られた。
「クソかテメェは、そりゃお前が喜ぶもんだろうが」
「おれがあいつの喜ぶもんを知ってるわけねぇだろ!」
「んじゃ手作りでもなんでもしてなんとか彼女を喜ばせろ!」
手作り。
コックが作るのか? と一瞬思ったが、すぐにいやちがうおれが作るのか、と思い直す。
想像だにできない作業だが、いいかもしれねぇな、と思った。
思ったのは、たぶん、たしぎにもらったこの菓子を食ったときの、あの作り手の温度がわかるような近さが案外よいもんだということを、ついさっき感じたばかりだったからだ。
「じゃあ教えろ」
「は?」
「教えろ。菓子。おれが作る」
*
船で待ってろと言い渡され、船に戻るとパラソルの下でウソップがなにやら背中を丸めて手元を覗き込んでいた。
おれの方を見もせず「おけーりー」と言う。
おうと答えてキッチンへ向かうと、ウソップが「サンジいねぇぞ、さっき出てった」と言った。
「すれ違ったから知ってる」
「あそー」
誰もいないキッチンに入り、椅子を引いて座った。
もう一度ポケットから袋を出し、机の上に置く。
中身はあと一つだ。
もう一つあったはずだったのに、サンジに食われたのである。
──お前それ、一個渡せ、おれに食わせろ。
──はぁ? なんで。
──悪いこと言わねェから一個食わせろ。教えろっつったのテメェだろ。
しぶしぶ一つをサンジに手渡すと、サンジはためらいなくクッキーを口に放り込んだ。
ガリッ、ジャリッ、ザリッと派手な音が、サンジの口から聞こえる。
しかしサンジは顔色一つ変えず、どこか遠くのゾロには見えないものを見ているような顔つきでクッキーを噛み締め、ゆっくりと飲みこんだ。
──よしわかった。しゃーねぇからおれが材料揃えて来てやる。お前は船で待ってろ。
そのままサンジはまっすぐ街の方へ、ゾロは言われるがまま船に戻った。
手持無沙汰で、酒、と思ったが、酒臭くしているとコックが帰って来たときにまたうるさいんじゃないかと勘が働いて、珍しく自粛しようと腰を下ろした。
ぼーっとしていると寝てしまいそうで、船を漕ぎかけるたびに「ロロノア!」と呼んだ甲高い女の声がこだまして、ハッと目が覚める。
何度かそれを繰り返しているうちに、サンジが帰ってきた。
「おうなんだ、いやに大人しくしてんじゃねぇか」
「テメェが待ってろつったんだろうが」
「おうおういい子だな……っと、よし早速始めるから手ェ洗え。洗剤で、肘までよく洗え。汚いからなテメェは」
「んだと」
噛みつこうとしてもしっしとあしらわれ、やり場のない腹立ちをぶくぶくと腹の中で煮えたぎらせたままどすどすと手洗い場に向かい、手を洗った。
言われた通り肘まで洗った。
ダイニングテーブルまで戻ると、サンジが買い物袋の中身をテーブルの上に広げている。
広げる、と言って、袋から出てきたのはバターがひとつ、それだけだった。
「あいにくこいつだけ切らしてたからな。買ってきた」
「これだけか」
「小麦粉・牛乳・砂糖は船にもうある」
「そんだけでいいのか」
「いい」
スパッと言い渡されると、「そうか」と身を引くしかなかった。
コックがおやつを作るときは、もっと、なんかよくわからない小瓶やらなにやらを駆使しているのように見えたのだが。
「なにを作る」
「あぁ、スコーンだ……っと、お前これ付けろ、エプロン」
顔に放り出された布を受け取って広げる。
紐がどうなっているのかよくわからずなんだか窮屈な感じになったが、とりあえず背中の方で結ぶことができた。
サンジはエプロンをつけたゾロを確かめると、一瞬何か言いたげな顔をしたが、「ん……まぁいいわ」とキッチンの方へ顔を向けた。
サンジはテーブルを挟んで向かい側に仁王立ちする。
「よしまず材料を量るところからだ。そこの量りでまず小麦粉を100g量れ」
「100gってどんだけだ」
「だからそれを量りで量るんだろうが!」
サンジが指さした器具をテーブルまで持ってきて、置く。
ここに小麦粉を乗せればいいのか、と小麦粉の袋を掴んだら、「待て、待て」と声が飛んだ。
「お前まさか直に小麦粉はかりにぶちまける気じゃねェだろな。まず量りにボウルを乗せろ。そんでメモリをゼロに合わせるんだ」
「あぁ」
成程、と一番でかいボウルをはかりに乗せたら、「あー待て」と少し小ぶりのボウルに変えられる。
メモリをゼロにしてから中に小麦粉をぶちまけた。
高いところから落としたせいで、ぶわっと一気に視界が煙った。
「うおっ、テメェもったいねェ入れ方すんな! メモリを見ながら慎重に入れろ!」
「入れすぎたならあとから戻しゃいいじゃねぇか」
「効率悪いし材料が湿気る! あークソ」
サンジは小刻みに革靴で床を叩きながら、身体の前で腕を組んだ。
こちらもうるせぇこと言うなほっとけと言い放ちたいところだが、ほっとかれたら途方に暮れるのはこちらなので、どうしようもない。
入れ過ぎた小麦粉はスプーンで袋に戻した。
「100gだ」
「よし、同じようにバターと砂糖も量れ」
言われた分量を、小さなボウルに入れて量る。
今度は特にサンジがうるさくせず、うまくできた。
「よし、じゃあこのボウルにバターと砂糖を入れて、ひたすら混ぜろ。お前のそのありあまった腕力使え。器具壊すなよ」
へらと一番大きいボウルを渡された。
ざっとバターを砂糖の上にぶちまける。
へらをバターに差してみたが、少し硬くてこねにくい。
ぐりぐりとまわしていたら、やがてバターがクリームのようにまったりと広がってきた。
「混ぜたぞ」
「アホウ、まだまだだ。もっと混ぜろ。白くなるまでだ」
「バターは黄色っぽいじゃねぇか」
「混ぜると白くもっとふわっとなんだよ!」
これが? と思いながらぐるぐると混ぜ続ける。バターが固いうちはなかなか力仕事だと思ったが、続けているうちにボウルの中が柔らかく、そして白く軽くなってきた。
「おぉ、やらけぇ」
「そうだ、もう少し続けろ」
器具がときおりボウルにカツンとぶつかる音と、サンジが煙を吐く浅い音だけが聞こえた。
持久走をしているみたいな爽快感があった。
「ん、よしもういい。んじゃ牛乳はかれ。三回に分けて入れて、入れるたびによく混ぜろ」
言われた通り量ったところまではよかったが、牛乳を入れる間際に「一気に入れるなよ」と言われて手が止まった。
三回に分けろと言われていたのを忘れて一気に入れるところだった。
だまってチョロチョロと牛乳を注いだ。
混ぜて、またもやサンジに言われた通りふるった粉を2回に分けてクリーム状のかたまりに入れていく。
せっかく混ぜてやわらかくなったクリームが、粉を含んでもったりと重い手ごたえとなってきた。
「混ぜすぎんなよ」
「どれくらいだ」
「もっと切るように手を動かせ」
「んなことしたら本当に斬れちまうだろうが」
その言葉にサンジからはなにも返事が返ってこなかったが、特に気にならなかったので顔も上げなかった。
切るように、でも斬らないように、と頭の中でぶつぶつ言いながら手を動かした。
「よし、もういい。ラップして冷蔵庫で寝かせるぞ」
「寝んのか? こいつが?」
「いいから冷蔵庫入れろ」
教え方がぞんざいになってきた、質問に応えやがらねェ、と腑に落ちない気持ちでボウルを冷蔵庫にしまった。
振り向くと、道具入れからサンジが銀色の丸いカップを4つその手にわしづかんでいた。
「型か」
「おう……あーでもどうすっかなー、これより小さいのねェしなぁ」
「あれをそこに入れるんだろ。その大きさでいいじゃねぇか」
いや、とサンジは型をかつかつその手の中でぶつけながら、考えるように上を向いた。
「おめぇのあれじゃ、おそらくたいして膨らまねェから。たぶんこの型じゃ深すぎる」
「あァ? 言われた通りにやったじゃねぇか」
「おう、あれでいい、膨らまなくていいんだ」
どういうこったと目を眇めると、サンジは「お前さぁ」と上を向いたまま言った。
「たしぎちゃんのあれ、あのクッキー、どうだった」
「あァ? 話変えんな」
「変わってねェよ。どうだった。味は。においは。食感は。おれがいつも作るヤツとくらべてどうだった」
「そりゃテメェ」
たしぎの菓子は、端が崩れていて、やたらとガリガリ硬く、砂糖の甘さが舌に残って、まずかねぇけど、コックのとは違う。
それを言葉にするのを一瞬戸惑った隙に、サンジが「おれのとはちがうだろ。当たり前だけど」と掬うように言った。
「おれが作ると、テメェに作らせたやつでもある程度は上手くできる。彼女のよりもはるかにな。テメェも上手にできたおれの菓子を渡してェわけじゃねぇだろ」
レディのプライドの守り方くらいそろそろわきまえた方がいいんじゃねぇの、とサンジは言った。
口を開いて何か言おうとしたが、咄嗟に出てくる言葉を見失うその隙にまたサンジが「んまこれでいいわ。ブサイクな形のができてちょうどいいだろ」
押し付けるように手渡されたそれを受け取った。
サンジがゾロの前に立ち、なにも持たない手で空をなぞって型にバターを薄く塗るそのやり方を教示する。
塗りすぎだアホ、と何度か言われ、そのたびになにかしら口答えして、たった4つの型にバターを塗るだけの作業で少し汗をかいた。
覗き込むように下を向いていたので首が痛い。
「んじゃ、さっきの生地をそこにいれて、あとは焼くだけだ」
少しだけひんやりしたボウルから生地をどろっと流し込む。
バターの乳くささがふっと浮かび上がった。
うまそうだな、と思う。
オーブンに型をよっつ均等に並べ、言われた通りタイマーをセットし、火を入れた。
「おっし、まぁなんとかなるだろ。んじゃ調理器具洗っとけ。おれは一服してくる」
反駁するより早くサンジはさっさとキッチンを出ていって、ふと目についたテーブルの上はごちゃごちゃと汚れていた。
こんなにもある、と面倒くささが先に立ったがなぜだかあんまり厭わしくない。
黙々と器具をシンクに運び、ガツガツと洗った。
机の上が片付くと心なしかさっぱりして、無酸素運動をしたあと詰めていた息を吐き出したときに似ていた。
ウーと低くオーブンがうなっている。
覗き込んだが暗くて中はよく見えない。
見えないのにオーブンの前にしゃがみこんで、褐色の影に沈んだその中をじっと見ていた。
甘い匂いがしてきた。
たしぎにもらったクッキーのにおいに似ていた。
それはやっぱり、コックが作る菓子のにおいとは少し違って、とてもシンプルなにおいだった。
すきだ。
おれはこのにおいがわりとすきだ、と思う。
唐突に背中の扉が開き、サンジが戻ってきた。
オーブンの前にしゃがみこむゾロの背中を見つけて、「ぶ」と口を腕で押さえて吹き出した。
「かーわいー。上手く焼けるか心配してんだ」
「あァ!?」
「まぁそういきり立つな。心配しねェでも失敗しやしねぇよ」
そう言った矢先、タイマーがじじじじじと鳴って思わず叩きつけるようにして音を止めた。
「ほらさっさと火ィ止めろ」と急かされて、あわてて火を消す。
オーブンのドアを開けると、熱気と濃い焼き菓子のにおいが流れ出して足首の辺りを温めるようにまとわりついた。
「素手で持つなよ」とミトンを渡されて、暗がりの中から天板を引っ張りだす。
薄茶色の焦げ目が4つ、綺麗に見えていた。
「んま上出来じゃないの」
頭上で見下ろすサンジが言う。
コンロの上に天板を置き、サンジが指し示したケーキクーラーの上にころころと型をころがした。
ぽこんと中身を取り出すと、ふわっと柔らかいパンのような丸が転がり出てきた。
カップに入れたものよりほんの少し大きくなった程度だ。
「もっと膨らむはずだったのか」
「あ? まぁお前がアホの様にぐるぐる最後混ぜやがったからな。まぁおれにとっちゃ予想通りの出来だ」
悪かねェよ、と言いながらサンジは浅い四角の皿を差し出してきた。
「冷めると多少締まってスコーンらしくなるけども、せっかく近くにいるんだ。焼き立て食ってもらえよ」
皿の上にスコーンを転がし、ほかほかと立つ湯気を目で追う。
これ、おれが作ったのか、と気付けば口走っていた。
「は? そうじゃねぇか。もう忘れたのか」
「おれぁ言われたことをしただけだ」
はぁ、とサンジは気の抜けた声を出して目を丸めた。
「レシピ本みて作るのとなにがちげーんだ。本見て作ったら自分で作ったんじゃなくて本が作ったことになんのか。ちげーだろ」
いいからさっさと渡してこいグズグズすんな、とケツを軽く蹴られる。
こんの野郎、と歯を剥いて振り返ったら、めちゃくちゃに洗った際へし折った泡だて器にサンジがちょうど目を留めたところだったので、すかさずキッチンから滑り出た。
甲板には帰ってきたときにいたウソップがいなくなり、がらんと空いていた。
*
ゾロを認めた途端、たしぎがさっと刀に手を掛けた。
答えるように手が伸びかけたが右手が皿でふさがっていて咄嗟に動けなかった。
町はずれの裏道だ。
ぽつぽつと町の人間が歩いている。
すれ違う人がときおりたしぎに声をかけ、挨拶をした。
そのたびにたしぎは律儀に頭を下げて答える。それを近づきながら見ていた。
戦闘心のないゾロを不可解げに見つめて、たしぎも刀から手を離す。
「……なにか。なんですかそれは」
「食え。礼だ」
礼? と首をひねってから、たしぎはぎゃっと短く叫んで飛びのいた。
「ああああアレのことですか? もういいんですすみません食べました!?忘れてください!」
「食った」
「すみませんヒナさんに教えてもらったレシピの通りに作ったはずが、私メモを見間違えたみたいで砂糖を入れ過ぎて……あとなぜだかものすごく硬くなってあの」
いいから、と言葉を遮って、皿をたしぎの鼻先に突き出した。
やっとたしぎの焦点が皿の上の焼き菓子に定まって、「これは」と呟く。
「礼だ」
「あなたが……作った? のですか?」
「おう」
「いま? さっき?」
「そうだっつってんだろ。いいから食ってみろ」
ちらっと小動物のような目がゾロを仰ぎ見て、スコーンに止まり、またゾロを見てから、おそるおそると言った態でたしぎの手が伸びてきた。
「あつっ」
まだ湯気が立つそれを指先でつまみ、たしぎはゾロがクッキーを口にした時と同じようにためらいなくかぷりとスコーンに噛り付いた。
「あふっ、あ、熱い! あ、でも」
おいしい、と口を押さえ、目を丸くして、たしぎが言う。
「おいしいです。ロロノア、これ」
「そうか」
言いながら、どこかつっかえが外れたような心地よさが腹の辺りに広がるのを感じた。
ふ、と唐突にたしぎが笑み零れた。
「おかしい、ついさっき渡したばかりなのに、もうお礼なんて。しかもあなたがお菓子作り」
「ばっ……笑うな!」
「だって……しかもこれ、あなたの船の食器ですか? お皿ごと持ってくるなんて」
ふ、ふ、と口を押えて笑ってから、たしぎがまた一口スコーンに噛り付く。
そのタイミングで身体が動いた。
たしぎが噛り付いたその反対側を、同じように噛ってやる。
思いもよらない──でもたしかに確信犯的に、至近距離で目が合った。
ぽろっとたしぎが落としかけたスコーンを慌ててゾロが受け止める。
「なっ……たっ……」
「ぼちぼち食える味だ」
「食べないでください!」
「ハァ!?」
「私があなたにもらったんですから! 勝手に食べないでください!」
「おれがやったやつなんだからいいだろうが!」
「ダメです! 一度貰ったら私のものなんだから許可を取りなさい!」
「ケチケチすんな!」
たしぎの代わりにもっていたスコーンの残りをばくっと一口で口に納めると、「ギャー」と悲鳴を上げてたしぎが飛びついてきた。
「なんてことを! 非道! 極悪人! 私のなのに!」
口の中でもそもそとする粉っぽいのを飲み込んで、やっぱりあんまり美味くはねェかもなと考える。
飲みこんで、「まだあるだろが」と皿を差し出したら皿ごとさっと奪われた。
そのまま背を向けてスコーンの皿を隠される。
この野郎と言いかけたら、「これは」と背を向けたままたしぎが遮った。
「飲み物が欲しくなります」
「あ? あー、確かに」
「紅茶がいいと思います。あと、ジャムやクリームをつけたらもっと美味しいかと」
はぁ、と相槌ともつかない声をこぼす。
「それらが美味しいお店を知っていますが」
「連れてってくれんのか?」
「あなたが勝手についてくるということにしてください。でないと私の立場が」
あやうい……と消え入りそうな声で言うのに思わず噴き出したら、「人の気も知らないで」と肩越しに睨まれた。
唐突にたしぎが歩き出したので、言われた通り勝手についてきていると思われたら癪だと思い大股で横に並ぶ。
「あの、これ」
「あ?」
「冷めたらすごく硬くなりそうですね」
「うるせっ、テメェが言うな!」
あははっ、とたしぎが口をあけて笑った。
ぎょっとして、その顔をまじまじと見下ろした。
見られていることに気付いていないたしぎは皿を大事そうに両手でささげ持ち、ふんふん、とほんの一小節ほどの鼻唄をおそらく無意識に歌った。
その顔を初めて誰に似ていると思うでもなく、いいなと思った。
「ここ、あなたの指のあとがついてる」とたしぎが、スコーンのへこみを嬉しそうに指でなぞった。
GRANDLINE CRUISE 7 にサークルFORESTARIN.incとして参加しました。
9/4(日)のことでした。
konoha氏との合同サークルで、初めてのイベントサークル側参加。
参加が決まったときから楽しみすぎて不整脈。
締め切りは一番早く入稿して一番安く抑えようと思っていたのに
8月にならないと9月締切が設定できないと言う印刷会社さんの仕様により
ずーーっとモヤモヤしていて、あぁはやく注文だけでもしてしまいたい・・・と不安な気持ちに。
ところがどっこい7月末から8月第一週はアメリカに行っていて、帰ってきたらイベントまで3週間と少しみたいな悪夢。
帰ってからのバタバタと原稿そのものに追われていたため、
一番安い締切設定の注文日を逃す。
さらに初めて会場直接搬入をお願いしたため、本当に本が当日会場に着くのだろうかという心配が原稿の出来よりも上回る。
新刊だしますでますよろしくですー!!って周知しまくった末、当日
【新刊でませんでした】って厚紙にマジックで書いたボードを立てる羽目になるのではと本当にヒヤヒヤビクビクして当日を迎えました。
前日土曜日の差し入れ・お土産探しの旅で近所をぶらぶらしていたのが今思えば一番平和だったかもしれない。
や、でも、間違いなく一番楽しかったのは当日でした。
当日は6:50の新幹線で東京に向かい、会場前でkonohaさんと待ち合わせ。
ポケモン捕まえながらkonohaさんを待ってた。
彼女が猛者だもんで、入場してホールまですいすいと連れて行ってもらって、イベントの様子だとかをお話聞いてフンフンしながら、わくわくで呼吸困難。
だってこの日、サンナミサークルがなんと8スペも!8スペもあったのです!
今までイベントには2回しか行ったことがなかったけれど、どちらもサンナミスペは2つ3つで、いつもそんなものなのかと思っていたので。
テン上げ~
本は無事、スペース近くの通路まで届けてもらってました~
何か他の人の上に乗せてもらっていたからか、ごとんと落ちて横倒しになっていたのですがこれまた愛嬌。
さて設営。
ほぼ(というか完全に)konohaさんがやってくれた備品もなにもかもすべて彼女のもの。
うろうろちらちらオタオタしてる間にkonohaさんが全部完成させてくれた。
私はその間に自分のスーツケースから既刊と荷物を2回ぶちまけただけだった。
言うてるまに他のサンナミストさんも登場、わいわい挨拶したりお話しながら待ってるのがどきどきしてすごい楽しかった~
と、お話してる間にアナウンスがあり、イベント開始。
「えっ早っ」てなった。だってまだ10時半。11時からだと思ってたー。
早いですねーと言う間もなく、なんと当方スペに人が!
この日、ふぉれすたりんではにいぐらさんのご本をお預かりしていたのですが、
これがもう飛ぶように。飛ぶように飛んでいくのでした。
「ハートの海賊団やべぇ…ローさんすげぇ…にいぐら先生さすが…」
イベント半ば、にいぐらさんのご本を求める人とサンナミ求める人によって、一瞬スペ前に3名の列ができたことを私は忘れない。
それから、サンナミの方たちが知ってる方も知らない方も本を求めてサンナミエリアにわいわいやってきてくださって、も~~~記憶飛ぶくらい楽しくて嬉しかった。
前に立って本を見てもらうとめちゃくちゃ緊張するし、本を手に取って「これください!」って言ってもらえるのがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
話には聞いていたけど、聞いていたのと体感するのは当たり前に全然異なるのであった。
私もスペを抜けてちょくちょく買い物に行って、ほくほくで戻ってきたらサンナミストのおともだちが遊びに来てたりして、お話してほんとうに楽しいひと時でした。
たくさん差し入れ、本当にありがとうございました・・・
今もまだ大事においしくいただいてます。
わりと周囲一帯が盛況だったりもしたけど、落ち着いてきて一息ついて私がぼーっとしてると話しかけてくださるお隣の萌さん。(天使だった
あの冷蔵庫の話が……と私の作品の話をしてくださったけど、咄嗟に「冷蔵庫の話!?どれだっけ!?」となってすぐにこれだとわからず天使様を焦らせてしまった。(【黄色い光】のことだった)
「冷蔵庫の話」というのが今もじわじわきています…(うれしい
私も直接幾人かの方に作品の感想を少しでも伝えられたのがうれしかったなー。
んでも、言うのも聞くのもなんか照れてしまって上手いこと言えないし聞けないのであった…
照れて「いやもうたははすみませんありがとうございますいやいや」とか聞き流してから、あとでもっとちゃんと聞きたかった・・・とひとりぽつんとするのである。
サークル側に座っていると、行き交う方を見ているのがすごく楽しくて新鮮でした。
特に、レイヤーさんをまじまじと眺めてられるのが楽しかったです。
みんなの記憶に残った超ドヤのキッドとか。
ナミさんもいろんなナミさんがいて、みんなスゥーーパァキュートでした。お金あげそうになっちゃう。
イベントはそらもうあっとういうまに終わってしまい、そろそろかなーという具合でお片付けが始まりました。
これもまたこのはさんがサクサクとしてくれて、「こまつなんは自分の荷物整理してもらえればいいよー」とさっぱり優しい。
なんとか在庫をまとめてスーツケースに詰め、新刊が直搬だったぶんちょっぴり重くなったスーツケースを持って、サンナミ一同はイベント会場を後にしたのでした。
なんだか雨だとか曇りだとか聞いていたのに外は西日がさんさんと降り注いでものすごく暑くて、会場内ももんわりと暑かったので今後夏のイベントは対策が必要だな・・・と勉強になりました。
そのまま一同みんなで電車でオフ会場まで移動して、サークル参加はしてないけども~という遠方ミストさんやワンピで参加はしてないけど~という他ジャンルミストさんも加わり総勢十数名でわいのわいのしました。
ちょーーたのしかった。
ハイライトをあげるとすれば、
前夜祭組が目撃! タワーのショーでサンナミが初キス(してない
写真を見せてもらって、びゅーーーんとメーター振り切れるくらい萌えました。
タワーのショーは一回しか見てなくて、しかもなんかキャストさんが変わったりいろいろ変更があって今はセカンドシーズンらしい。
そんでどうしてもusjのキャストさんの方を近くに感じてしまうからか、自分がタワーの彼らを生で見ていない分わりと落ち着いてTLに流れてくる写真とかも見ていました。
が、サンナミがキスとなるとそれはもう鼻血吹きそうでした。
そんな話やあんな話を2時間ほどして過ごし、私は同じく東海組の雪さんと同じ新幹線の隣に座れるようチケットを変更して、ご一緒に帰宅したのでした。
いろーーんなミストさんや、そうでない方ともお話できてものすごく楽しかった!
これは癖になる、と真顔でひとり頷いた。
というか本当にまだ不思議な感じでぽわーっとしているのが、
数年前別ジャンルで初めて二次創作という世界を知ったとき、そこで出会った(というか一方的に知った)別世界の描き手さんが、いま隣に座って一緒に本を並べているということ。
作品を読んで、読まれて、感想ぶつけて、わいわい語って、すごく仲良くしてもらってるのが、ときどき怖いくらいハッピーなことだと思い出してぞぞっとします。
忘れないようにしよう! と思いました。
尊敬してやまない方々と一緒にワンピ―スの二次創作を楽しんでいるということを、ちゃんと感じてのみこんで、ずっとありがとうと叫んでいたいと思いました。
当日お話してくださった方、本を手に取ってくださった方、最後まで遊んでくださったミストの方々、本当にありがとうございましたー!!
これにてイベントレポは終了でっす。
イベントで出した本の通頒はこのサイトのオフラインページにてご案内してますので、よければそちらをどぞどぞー♪
感想は全然気にせず読み捨てごめんで勿論オーケーですが、実はくれくれです!
本の奥付にこれからメールアドレスもちゃんとつけようと思います。
このサイトの拍手ページでも(拍手ってなんか偉そうというか不遜な感じがして恐縮ですが)、通頒用のメールアドレスでも、ツイッター経由でもなんでもけっこうですのでその気になったらぜひぜひ感想くださいですー!
(メールアドレスにだと、個人的にやりとりができてちょっぴり嬉しいです)
よしゃー次は9/12のサンレス・プレショレポだー!
読んでくださってありがとうございました!
9/4(日)のことでした。
konoha氏との合同サークルで、初めてのイベントサークル側参加。
参加が決まったときから楽しみすぎて不整脈。
締め切りは一番早く入稿して一番安く抑えようと思っていたのに
8月にならないと9月締切が設定できないと言う印刷会社さんの仕様により
ずーーっとモヤモヤしていて、あぁはやく注文だけでもしてしまいたい・・・と不安な気持ちに。
ところがどっこい7月末から8月第一週はアメリカに行っていて、帰ってきたらイベントまで3週間と少しみたいな悪夢。
帰ってからのバタバタと原稿そのものに追われていたため、
一番安い締切設定の注文日を逃す。
さらに初めて会場直接搬入をお願いしたため、本当に本が当日会場に着くのだろうかという心配が原稿の出来よりも上回る。
新刊だしますでますよろしくですー!!って周知しまくった末、当日
【新刊でませんでした】って厚紙にマジックで書いたボードを立てる羽目になるのではと本当にヒヤヒヤビクビクして当日を迎えました。
前日土曜日の差し入れ・お土産探しの旅で近所をぶらぶらしていたのが今思えば一番平和だったかもしれない。
や、でも、間違いなく一番楽しかったのは当日でした。
当日は6:50の新幹線で東京に向かい、会場前でkonohaさんと待ち合わせ。
ポケモン捕まえながらkonohaさんを待ってた。
彼女が猛者だもんで、入場してホールまですいすいと連れて行ってもらって、イベントの様子だとかをお話聞いてフンフンしながら、わくわくで呼吸困難。
だってこの日、サンナミサークルがなんと8スペも!8スペもあったのです!
今までイベントには2回しか行ったことがなかったけれど、どちらもサンナミスペは2つ3つで、いつもそんなものなのかと思っていたので。
テン上げ~
本は無事、スペース近くの通路まで届けてもらってました~
何か他の人の上に乗せてもらっていたからか、ごとんと落ちて横倒しになっていたのですがこれまた愛嬌。
さて設営。
ほぼ(というか完全に)konohaさんがやってくれた備品もなにもかもすべて彼女のもの。
うろうろちらちらオタオタしてる間にkonohaさんが全部完成させてくれた。
私はその間に自分のスーツケースから既刊と荷物を2回ぶちまけただけだった。
言うてるまに他のサンナミストさんも登場、わいわい挨拶したりお話しながら待ってるのがどきどきしてすごい楽しかった~
と、お話してる間にアナウンスがあり、イベント開始。
「えっ早っ」てなった。だってまだ10時半。11時からだと思ってたー。
早いですねーと言う間もなく、なんと当方スペに人が!
この日、ふぉれすたりんではにいぐらさんのご本をお預かりしていたのですが、
これがもう飛ぶように。飛ぶように飛んでいくのでした。
「ハートの海賊団やべぇ…ローさんすげぇ…にいぐら先生さすが…」
イベント半ば、にいぐらさんのご本を求める人とサンナミ求める人によって、一瞬スペ前に3名の列ができたことを私は忘れない。
それから、サンナミの方たちが知ってる方も知らない方も本を求めてサンナミエリアにわいわいやってきてくださって、も~~~記憶飛ぶくらい楽しくて嬉しかった。
前に立って本を見てもらうとめちゃくちゃ緊張するし、本を手に取って「これください!」って言ってもらえるのがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。
話には聞いていたけど、聞いていたのと体感するのは当たり前に全然異なるのであった。
私もスペを抜けてちょくちょく買い物に行って、ほくほくで戻ってきたらサンナミストのおともだちが遊びに来てたりして、お話してほんとうに楽しいひと時でした。
たくさん差し入れ、本当にありがとうございました・・・
今もまだ大事においしくいただいてます。
わりと周囲一帯が盛況だったりもしたけど、落ち着いてきて一息ついて私がぼーっとしてると話しかけてくださるお隣の萌さん。(天使だった
あの冷蔵庫の話が……と私の作品の話をしてくださったけど、咄嗟に「冷蔵庫の話!?どれだっけ!?」となってすぐにこれだとわからず天使様を焦らせてしまった。(【黄色い光】のことだった)
「冷蔵庫の話」というのが今もじわじわきています…(うれしい
私も直接幾人かの方に作品の感想を少しでも伝えられたのがうれしかったなー。
んでも、言うのも聞くのもなんか照れてしまって上手いこと言えないし聞けないのであった…
照れて「いやもうたははすみませんありがとうございますいやいや」とか聞き流してから、あとでもっとちゃんと聞きたかった・・・とひとりぽつんとするのである。
サークル側に座っていると、行き交う方を見ているのがすごく楽しくて新鮮でした。
特に、レイヤーさんをまじまじと眺めてられるのが楽しかったです。
みんなの記憶に残った超ドヤのキッドとか。
ナミさんもいろんなナミさんがいて、みんなスゥーーパァキュートでした。お金あげそうになっちゃう。
イベントはそらもうあっとういうまに終わってしまい、そろそろかなーという具合でお片付けが始まりました。
これもまたこのはさんがサクサクとしてくれて、「こまつなんは自分の荷物整理してもらえればいいよー」とさっぱり優しい。
なんとか在庫をまとめてスーツケースに詰め、新刊が直搬だったぶんちょっぴり重くなったスーツケースを持って、サンナミ一同はイベント会場を後にしたのでした。
なんだか雨だとか曇りだとか聞いていたのに外は西日がさんさんと降り注いでものすごく暑くて、会場内ももんわりと暑かったので今後夏のイベントは対策が必要だな・・・と勉強になりました。
そのまま一同みんなで電車でオフ会場まで移動して、サークル参加はしてないけども~という遠方ミストさんやワンピで参加はしてないけど~という他ジャンルミストさんも加わり総勢十数名でわいのわいのしました。
ちょーーたのしかった。
ハイライトをあげるとすれば、
前夜祭組が目撃! タワーのショーでサンナミが初キス(してない
写真を見せてもらって、びゅーーーんとメーター振り切れるくらい萌えました。
タワーのショーは一回しか見てなくて、しかもなんかキャストさんが変わったりいろいろ変更があって今はセカンドシーズンらしい。
そんでどうしてもusjのキャストさんの方を近くに感じてしまうからか、自分がタワーの彼らを生で見ていない分わりと落ち着いてTLに流れてくる写真とかも見ていました。
が、サンナミがキスとなるとそれはもう鼻血吹きそうでした。
そんな話やあんな話を2時間ほどして過ごし、私は同じく東海組の雪さんと同じ新幹線の隣に座れるようチケットを変更して、ご一緒に帰宅したのでした。
いろーーんなミストさんや、そうでない方ともお話できてものすごく楽しかった!
これは癖になる、と真顔でひとり頷いた。
というか本当にまだ不思議な感じでぽわーっとしているのが、
数年前別ジャンルで初めて二次創作という世界を知ったとき、そこで出会った(というか一方的に知った)別世界の描き手さんが、いま隣に座って一緒に本を並べているということ。
作品を読んで、読まれて、感想ぶつけて、わいわい語って、すごく仲良くしてもらってるのが、ときどき怖いくらいハッピーなことだと思い出してぞぞっとします。
忘れないようにしよう! と思いました。
尊敬してやまない方々と一緒にワンピ―スの二次創作を楽しんでいるということを、ちゃんと感じてのみこんで、ずっとありがとうと叫んでいたいと思いました。
当日お話してくださった方、本を手に取ってくださった方、最後まで遊んでくださったミストの方々、本当にありがとうございましたー!!
これにてイベントレポは終了でっす。
イベントで出した本の通頒はこのサイトのオフラインページにてご案内してますので、よければそちらをどぞどぞー♪
感想は全然気にせず読み捨てごめんで勿論オーケーですが、実はくれくれです!
本の奥付にこれからメールアドレスもちゃんとつけようと思います。
このサイトの拍手ページでも(拍手ってなんか偉そうというか不遜な感じがして恐縮ですが)、通頒用のメールアドレスでも、ツイッター経由でもなんでもけっこうですのでその気になったらぜひぜひ感想くださいですー!
(メールアドレスにだと、個人的にやりとりができてちょっぴり嬉しいです)
よしゃー次は9/12のサンレス・プレショレポだー!
読んでくださってありがとうございました!
1←
「誰だオメェ」
仕事の出がけに玄関ではちあった。
真っ黒な髪をぼさぼさ伸ばした、男。ていうかガキだ。
片脇に大きなボール紙をひと巻き抱えている。
「──サンジ。お前は」
「おれはルフィ! なんだ、誰の友だちだ?」
「あ? 誰のっておれは」
あ、と呼び止める声といっしょに、パタパタ軽い足音が背後から駆けてきた。
ナミさんは眠たげに眼鏡の下に指を入れて目元をこすりながら、よっとルフィに片手を上げてみせた。
「おかえり」
「おうっただいま。こいつナミの友だちか?」
「ちがう。サンジ君。新しい住人よ」
おっ、と声をあげたルフィは、すぐさまおれの肩をばしんと叩いた。
「なんだよ新しい仲間かー、よろしくな! おれはルフィ!」
「さっき聞いたよ。あーおれ仕事遅れるから」
「んだ、今から仕事か、なんの仕事だ?」
「またゆっくりな。マジで遅れる」
ひらっと手を振ると、ルフィはあっさりと「おうまたなー!」と手を振った。
玄関を出る間際、そうだ忘れてたと振り返り、奥へ引き返そうとしているナミさんを呼び止める。
さっと手を取ろうと腕を伸ばしたら、それより早く手をひっこめられた。
「キスはいいから。遅れるんじゃないの」
「そうだった。失礼」
彼女の方が一枚上手だったことに苦笑して、アパートを後にした。
*
最寄りの駅まで送迎が来る。おれは襟元とネクタイ締めて突っ立っているだけだ。
黒塗りのセダンを運転するのはまだ18にいったばかりのガキで、おれは偉そうに運転席の真後ろに座ったが別に偉いわけでもない。このあとまだふたりを拾って店へ行くのだ。
開店は19時。明後日の締日までボルテージを上げていかねばならん夜だ。
既に煙草で視界のけぶった控室で仕事前の一服を済ませた。
黒服の従業員が呼びに来て、オーナーに稼げよとどやされて、レディのお出迎えだ。
開店から22時頃までは、仕事終わりのレディ達が羽根を伸ばしに来るにすぎない。
ほぼ水に近く薄めたウイスキーを飲みながら、焼酎のハーフボトルをひとり一本開けさせながら楽しくおしゃべりするだけだ。
だけだが、これがなかなか骨が折れるのだ。
レディとお喋りするのは願ったりかなったりだが、仕事となるとまた別であるというのは働き始めて初めて知った。
望まれればときおり手を握ったり、膝を撫でたりするのも、下心があっては仕事にならないということもまた初めて知った。
22時から1時までが勝負で、ボトルを入れてもらったりカラオケしたり、ほかの奴のシャンパンコールを聞いたりでどちゃどちゃと時間は過ぎていく。
最後のレディを送って、笑顔で腰を折って礼をする。頭を上げるとそのまま後ろに倒れ込んだ。ボフンと厚い革のソファに受け止められ、身体が跳ねる。
「相変わらず弱ェな」と他のホストにからかわれるが、仕事終わりはいつも答える元気もない。
そのままズブズブ眠りかけた頃、また車に放り込まれた。
一緒に放り込まれた野郎二人はぺちゃくちゃと元気に喋り倒していたが、中でも最高齢なおれはガーガー車の中で寝て、はっと起きたときには車内にひとりだ。
窓の外に目を凝らしたらいつもの景色だった。
「ん、あっ、おい! だめだおれぁ引っ越したんだ! こっちじゃねェ」
「はァ? 先言ってくださいよ」
「悪ィ」
車は大通りでUターンし、携帯に登録していた新住所に向かって走り始めた。
最後の一人だったので、迷惑ついでに家の手前の路地まで送ってもらう。
ドアを閉める音が静かな住宅地にやけに響いた。
斜め前の家の庭で、音に反応した犬がわんと1度だけ吠える。
未だ使い慣れない鍵をおぼつかない手先で鍵穴に差し込んだ。
ギュウーと妙に高い音で扉が軋んだのでおいおいと思う。
廊下は暗く、静かだ。
ただしリビングに通じるドアから灯りが漏れていた。
まだ誰かいる。
思えば時刻は夜中の二時半で、起きてるやつがいてもおかしくはない。
水、と思い、灯りに向かう羽虫の様にふらふらと歩いた。
右手に見えるリビングは明るく、左手のキッチンは暗がりに沈んでいる。
一直線にシンクへと向かい、適当なコップを借りてざばざばと水を汲み、煽るように飲んだ。
はぁはぁと息が上がる。飲み過ぎたわけでもないのにいつもこうだ。
この仕事はおれには向いていない。
カタカタと心地よいビートが一定の速度でどこからか走ってくる。
シンクに手をついて、肩で息をして、目を閉じてそのリズムを追いかけた。
「おかえりなさい。大丈夫?」
振り返ると、ナミさんが昼間と全く同じ場所にゆったりともたれ、足に置いたノートパソコンから顔を上げてこちらを見ていた。
「あ、あァ、びびった。ナミさんか」
「家に帰ってきてびびったはないでしょ。それより顔色悪いけど本当に平気なの」
ナミさんは眼鏡を外し、ソファの横に置いてあるカップから一口何かを飲んだ。
「あぁ、ごめん、酒くせぇかも」
「それより煙草くさい。どうやって帰って来たの? 電車?」
「や、送りの車がある」
へぇ、と物珍しげにナミさんはひとつ相槌を打つと、すっと壁に向かって指を差した。
「昼間言い忘れてたけど風呂場はこの裏。一階廊下の突き当りを左に曲がったところよ。シャンプーとか石鹸とか、私たちは自分のを使ってるけど、男たちは共有してるみたいだからあんたも借りれば」
「んあ、じゃあそうさせてもらおっかな」
げほ、と一口むせて口元を拭った。立ちのぼる酒とたばこと香水のにおいに頭がガンガンする。
コップを軽く流してもとあった場所に戻し、部屋を出る間際に「ナミさんは」と尋ねた。
「なに?」
「や……仕事?」
「えぇ。宵っ張りなの。でもそろそろ寝るわ」
「あ、そう」
「起きてた方がいい?」
え? と聞き直すと、ナミさんはぱたんとパソコンを閉じて、噛んで含めるみたいに一字ずつはっきりと言い直した。
「あんたが戻るまで、起きてた方がいい?」
こち、と突然どこからか時計の針の音がした。
責めたてるみたいに針の音が近づいてくる。
口を開くと酒臭い息が漏れ、ゲホッとまたむせた。
ナミさんはクッと小さく笑って、「あんまり遅いと寝ちゃうから」と言った。
「──じゃ、急ぎで」
「あんたが最後だから軽く洗ってきてくれる?」
了解と言いながらリビングのドアを閉めた。
階段目の一段目を踏み外し、ドンと大きく床を踏み鳴らした。
3階まで上がってからおれの部屋はどこだっけと一瞬迷い、廊下の電気を手探りで探してつけると突き当りのドアに見覚えがあった。
ノブを回すと鍵がかかっていて、当然か、とケツのポケットに突っ込んでいた鍵を取り出す。
やけに手汗をかいていた。
引っ越しの荷物の中から着替えとタオルを取り出し、ふたたび階段を降りる。
一階の廊下の電気は消えていたので、リビングからこぼれる灯りがぽかっと浮かんで見える。
しばらく見入って、彼女に言われた通り一階奥の左手に進むと脱衣所と風呂場があった。共用の洗濯機もある。
浴室は広く、清潔で、色とりどりのボトルがいくつか置いてあった。
野郎のものと思われるものを拝借し、ざばざばとかき鳴らすようにシャワーを浴びた。
酒臭さは依然として体の中から染みだすようだったが、香水のにおいは排水溝に惜しげもなく流れていった。
*
脱衣所を出ると廊下に明かりがついていて、代わりにリビングの明かりが消えていた。
間に合わなかった。
タオルを肩に掛け、早いところ自分用の食器を買わねェとと考えながらリビングのドアを引いたら、暗がりからぽんと飛び出すようにナミさんが出てきた。
ぶつかる寸でのところで互いがハッと立ち止まった。
「わっ」
「あ、ごめ」
「お風呂、使い方分かった?」
「あぁ、うん、ありがとう」
ナミさんはTシャツの首回りに眼鏡をかけていた。少し引き下がったその布の先に自然と目が行く。
「電気、消えてるけど」
「あぁ、うん、寝ようかと」
「あ、そう、君の部屋は?」
「一階の右手。風呂場の斜め向かいよ」
あぁ、とクソつまらない返事をしたら、ふふっとナミさんが笑った。
「間に合わなかった、って思ったでしょ」
「あー……うん」
「どうかしら」
くらっと、本当に揺さぶられるようにくらっときたのだ。
腰をかがめると肩に掛けたタオルがずるりと落ちた。
肩を掴むと思いのほか細く骨ばっていて、手のひらに余るほどだ。
ナミさんが少し背伸びをしたおかげで、思いのほかすぐに唇が合わさった。
かくっと頭が引き寄せられ、そのままよろよろと暗いリビングに引きずり込まれる。
引きずり込まれるというか、おれが彼女を押し込んだというか、どっちつかずなところだ。
ただ、ばかでかいソファまでおれを誘導したのは確実にナミさんの方で、重力に任せて倒れ込むとその衝撃でナミさんが小さく「うっ」と呻いた。
服を脱がしたあと、ナミさんがおれの頭を抱えたまま小さな声で「泥酔してるんだと思った」とささやいた。
「覚めたよ」
「風呂場で?」
「君で」
「あっそ」
後頭部を撫でていた手がするりとおれの顔を掴み、自分のところまでもっていく。
全部、彼女が求めるがままだ。
今この家に何人の人間がいるだろう。
ナミさん、おれ。
ゾロとルフィは自分の部屋にいるのだろうか。
彼女は奴らの風呂上りをひっそりとリビングで待つことがあるのだろうか。
食卓にはあと二つ席がある。
まだ見ぬ誰かとも、あるいは。
「サンジ君、サンジ君。持ってる?」
「え、あ、ねぇかも」
「ん、わかった」
突然むくりと身を起こした彼女は、おれがずりさげたハーフパンツをみずから上げると、ぺたぺた足をならしてリビングを出て、すぐに戻ってきた。
「はい」
アホのようにぽかんとするおれの手にゴムを乗せ、よいしょとソファに両足を乗せて座り込む。
「いるでしょ」
「あ、うん、ありがと」
おれがチリチリと袋を破くのを、ナミさんはじっと見ていた。
→
「誰だオメェ」
仕事の出がけに玄関ではちあった。
真っ黒な髪をぼさぼさ伸ばした、男。ていうかガキだ。
片脇に大きなボール紙をひと巻き抱えている。
「──サンジ。お前は」
「おれはルフィ! なんだ、誰の友だちだ?」
「あ? 誰のっておれは」
あ、と呼び止める声といっしょに、パタパタ軽い足音が背後から駆けてきた。
ナミさんは眠たげに眼鏡の下に指を入れて目元をこすりながら、よっとルフィに片手を上げてみせた。
「おかえり」
「おうっただいま。こいつナミの友だちか?」
「ちがう。サンジ君。新しい住人よ」
おっ、と声をあげたルフィは、すぐさまおれの肩をばしんと叩いた。
「なんだよ新しい仲間かー、よろしくな! おれはルフィ!」
「さっき聞いたよ。あーおれ仕事遅れるから」
「んだ、今から仕事か、なんの仕事だ?」
「またゆっくりな。マジで遅れる」
ひらっと手を振ると、ルフィはあっさりと「おうまたなー!」と手を振った。
玄関を出る間際、そうだ忘れてたと振り返り、奥へ引き返そうとしているナミさんを呼び止める。
さっと手を取ろうと腕を伸ばしたら、それより早く手をひっこめられた。
「キスはいいから。遅れるんじゃないの」
「そうだった。失礼」
彼女の方が一枚上手だったことに苦笑して、アパートを後にした。
*
最寄りの駅まで送迎が来る。おれは襟元とネクタイ締めて突っ立っているだけだ。
黒塗りのセダンを運転するのはまだ18にいったばかりのガキで、おれは偉そうに運転席の真後ろに座ったが別に偉いわけでもない。このあとまだふたりを拾って店へ行くのだ。
開店は19時。明後日の締日までボルテージを上げていかねばならん夜だ。
既に煙草で視界のけぶった控室で仕事前の一服を済ませた。
黒服の従業員が呼びに来て、オーナーに稼げよとどやされて、レディのお出迎えだ。
開店から22時頃までは、仕事終わりのレディ達が羽根を伸ばしに来るにすぎない。
ほぼ水に近く薄めたウイスキーを飲みながら、焼酎のハーフボトルをひとり一本開けさせながら楽しくおしゃべりするだけだ。
だけだが、これがなかなか骨が折れるのだ。
レディとお喋りするのは願ったりかなったりだが、仕事となるとまた別であるというのは働き始めて初めて知った。
望まれればときおり手を握ったり、膝を撫でたりするのも、下心があっては仕事にならないということもまた初めて知った。
22時から1時までが勝負で、ボトルを入れてもらったりカラオケしたり、ほかの奴のシャンパンコールを聞いたりでどちゃどちゃと時間は過ぎていく。
最後のレディを送って、笑顔で腰を折って礼をする。頭を上げるとそのまま後ろに倒れ込んだ。ボフンと厚い革のソファに受け止められ、身体が跳ねる。
「相変わらず弱ェな」と他のホストにからかわれるが、仕事終わりはいつも答える元気もない。
そのままズブズブ眠りかけた頃、また車に放り込まれた。
一緒に放り込まれた野郎二人はぺちゃくちゃと元気に喋り倒していたが、中でも最高齢なおれはガーガー車の中で寝て、はっと起きたときには車内にひとりだ。
窓の外に目を凝らしたらいつもの景色だった。
「ん、あっ、おい! だめだおれぁ引っ越したんだ! こっちじゃねェ」
「はァ? 先言ってくださいよ」
「悪ィ」
車は大通りでUターンし、携帯に登録していた新住所に向かって走り始めた。
最後の一人だったので、迷惑ついでに家の手前の路地まで送ってもらう。
ドアを閉める音が静かな住宅地にやけに響いた。
斜め前の家の庭で、音に反応した犬がわんと1度だけ吠える。
未だ使い慣れない鍵をおぼつかない手先で鍵穴に差し込んだ。
ギュウーと妙に高い音で扉が軋んだのでおいおいと思う。
廊下は暗く、静かだ。
ただしリビングに通じるドアから灯りが漏れていた。
まだ誰かいる。
思えば時刻は夜中の二時半で、起きてるやつがいてもおかしくはない。
水、と思い、灯りに向かう羽虫の様にふらふらと歩いた。
右手に見えるリビングは明るく、左手のキッチンは暗がりに沈んでいる。
一直線にシンクへと向かい、適当なコップを借りてざばざばと水を汲み、煽るように飲んだ。
はぁはぁと息が上がる。飲み過ぎたわけでもないのにいつもこうだ。
この仕事はおれには向いていない。
カタカタと心地よいビートが一定の速度でどこからか走ってくる。
シンクに手をついて、肩で息をして、目を閉じてそのリズムを追いかけた。
「おかえりなさい。大丈夫?」
振り返ると、ナミさんが昼間と全く同じ場所にゆったりともたれ、足に置いたノートパソコンから顔を上げてこちらを見ていた。
「あ、あァ、びびった。ナミさんか」
「家に帰ってきてびびったはないでしょ。それより顔色悪いけど本当に平気なの」
ナミさんは眼鏡を外し、ソファの横に置いてあるカップから一口何かを飲んだ。
「あぁ、ごめん、酒くせぇかも」
「それより煙草くさい。どうやって帰って来たの? 電車?」
「や、送りの車がある」
へぇ、と物珍しげにナミさんはひとつ相槌を打つと、すっと壁に向かって指を差した。
「昼間言い忘れてたけど風呂場はこの裏。一階廊下の突き当りを左に曲がったところよ。シャンプーとか石鹸とか、私たちは自分のを使ってるけど、男たちは共有してるみたいだからあんたも借りれば」
「んあ、じゃあそうさせてもらおっかな」
げほ、と一口むせて口元を拭った。立ちのぼる酒とたばこと香水のにおいに頭がガンガンする。
コップを軽く流してもとあった場所に戻し、部屋を出る間際に「ナミさんは」と尋ねた。
「なに?」
「や……仕事?」
「えぇ。宵っ張りなの。でもそろそろ寝るわ」
「あ、そう」
「起きてた方がいい?」
え? と聞き直すと、ナミさんはぱたんとパソコンを閉じて、噛んで含めるみたいに一字ずつはっきりと言い直した。
「あんたが戻るまで、起きてた方がいい?」
こち、と突然どこからか時計の針の音がした。
責めたてるみたいに針の音が近づいてくる。
口を開くと酒臭い息が漏れ、ゲホッとまたむせた。
ナミさんはクッと小さく笑って、「あんまり遅いと寝ちゃうから」と言った。
「──じゃ、急ぎで」
「あんたが最後だから軽く洗ってきてくれる?」
了解と言いながらリビングのドアを閉めた。
階段目の一段目を踏み外し、ドンと大きく床を踏み鳴らした。
3階まで上がってからおれの部屋はどこだっけと一瞬迷い、廊下の電気を手探りで探してつけると突き当りのドアに見覚えがあった。
ノブを回すと鍵がかかっていて、当然か、とケツのポケットに突っ込んでいた鍵を取り出す。
やけに手汗をかいていた。
引っ越しの荷物の中から着替えとタオルを取り出し、ふたたび階段を降りる。
一階の廊下の電気は消えていたので、リビングからこぼれる灯りがぽかっと浮かんで見える。
しばらく見入って、彼女に言われた通り一階奥の左手に進むと脱衣所と風呂場があった。共用の洗濯機もある。
浴室は広く、清潔で、色とりどりのボトルがいくつか置いてあった。
野郎のものと思われるものを拝借し、ざばざばとかき鳴らすようにシャワーを浴びた。
酒臭さは依然として体の中から染みだすようだったが、香水のにおいは排水溝に惜しげもなく流れていった。
*
脱衣所を出ると廊下に明かりがついていて、代わりにリビングの明かりが消えていた。
間に合わなかった。
タオルを肩に掛け、早いところ自分用の食器を買わねェとと考えながらリビングのドアを引いたら、暗がりからぽんと飛び出すようにナミさんが出てきた。
ぶつかる寸でのところで互いがハッと立ち止まった。
「わっ」
「あ、ごめ」
「お風呂、使い方分かった?」
「あぁ、うん、ありがとう」
ナミさんはTシャツの首回りに眼鏡をかけていた。少し引き下がったその布の先に自然と目が行く。
「電気、消えてるけど」
「あぁ、うん、寝ようかと」
「あ、そう、君の部屋は?」
「一階の右手。風呂場の斜め向かいよ」
あぁ、とクソつまらない返事をしたら、ふふっとナミさんが笑った。
「間に合わなかった、って思ったでしょ」
「あー……うん」
「どうかしら」
くらっと、本当に揺さぶられるようにくらっときたのだ。
腰をかがめると肩に掛けたタオルがずるりと落ちた。
肩を掴むと思いのほか細く骨ばっていて、手のひらに余るほどだ。
ナミさんが少し背伸びをしたおかげで、思いのほかすぐに唇が合わさった。
かくっと頭が引き寄せられ、そのままよろよろと暗いリビングに引きずり込まれる。
引きずり込まれるというか、おれが彼女を押し込んだというか、どっちつかずなところだ。
ただ、ばかでかいソファまでおれを誘導したのは確実にナミさんの方で、重力に任せて倒れ込むとその衝撃でナミさんが小さく「うっ」と呻いた。
服を脱がしたあと、ナミさんがおれの頭を抱えたまま小さな声で「泥酔してるんだと思った」とささやいた。
「覚めたよ」
「風呂場で?」
「君で」
「あっそ」
後頭部を撫でていた手がするりとおれの顔を掴み、自分のところまでもっていく。
全部、彼女が求めるがままだ。
今この家に何人の人間がいるだろう。
ナミさん、おれ。
ゾロとルフィは自分の部屋にいるのだろうか。
彼女は奴らの風呂上りをひっそりとリビングで待つことがあるのだろうか。
食卓にはあと二つ席がある。
まだ見ぬ誰かとも、あるいは。
「サンジ君、サンジ君。持ってる?」
「え、あ、ねぇかも」
「ん、わかった」
突然むくりと身を起こした彼女は、おれがずりさげたハーフパンツをみずから上げると、ぺたぺた足をならしてリビングを出て、すぐに戻ってきた。
「はい」
アホのようにぽかんとするおれの手にゴムを乗せ、よいしょとソファに両足を乗せて座り込む。
「いるでしょ」
「あ、うん、ありがと」
おれがチリチリと袋を破くのを、ナミさんはじっと見ていた。
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コミック最新巻ネタバレ注意
残してしまったイカ墨のパスタを、別の小さなお皿に移した。
少し蒸し暑い、特別静かでもない、普通の夜の海で、カチャカチャと私がフォークを動かす音が目立つ。
食べ物を残すのは久しぶりで、残したものに自分で封をして冷蔵庫にしまうのも久しぶりで、手慣れない不器用な私の仕草が目についた。
「食欲ねーのか」
「ん……別に」
ルフィは珍しく私の残り物に手を出さず、隣に立って神妙な顔つきで一緒に冷蔵庫の黄色い光の中に閉じ込められていく小皿を見送った。
「美味かったぞ」
「わかってるわよ」
ルフィはそのままふいっと食堂を出ていって、私一人になった。
カウンターには今日のパスタのレシピを書いたメモが置いてある。
少し水が飛んで染みができている。
なくしてはいけない、と本に挟んで棚に戻した。
ふと唇を指で触って、その指を見てみると黒く墨が付いていた。
舌で舐めとると、魚介の深い旨みだとかぴりっと効かせた青唐辛子の刺激だとかが絡み合ってじわっと広がる。
美味しい。
美味しいのに、足らない。
圧倒的に足らない。
それはスパイスの調合だとか、原材料の良し悪しだとか、火の通し具合だとかではなくて、足らないものは明らかに私たちの方にあるのだった。
決定的に欠けてしまった彼を、私たちと、そしてこの淋しい彼のキッチンが、声を張り上げて呼んでいるのだった。
──すみませんどうしても書きたくて。
底抜けに悲しくて淋しくて、たまらなくサンジに会いたい彼らの気持ちがエネルギーになって、ボスボスとガソリンを燃やして早く彼を奪い返してもらいたいのでした。
残してしまったイカ墨のパスタを、別の小さなお皿に移した。
少し蒸し暑い、特別静かでもない、普通の夜の海で、カチャカチャと私がフォークを動かす音が目立つ。
食べ物を残すのは久しぶりで、残したものに自分で封をして冷蔵庫にしまうのも久しぶりで、手慣れない不器用な私の仕草が目についた。
「食欲ねーのか」
「ん……別に」
ルフィは珍しく私の残り物に手を出さず、隣に立って神妙な顔つきで一緒に冷蔵庫の黄色い光の中に閉じ込められていく小皿を見送った。
「美味かったぞ」
「わかってるわよ」
ルフィはそのままふいっと食堂を出ていって、私一人になった。
カウンターには今日のパスタのレシピを書いたメモが置いてある。
少し水が飛んで染みができている。
なくしてはいけない、と本に挟んで棚に戻した。
ふと唇を指で触って、その指を見てみると黒く墨が付いていた。
舌で舐めとると、魚介の深い旨みだとかぴりっと効かせた青唐辛子の刺激だとかが絡み合ってじわっと広がる。
美味しい。
美味しいのに、足らない。
圧倒的に足らない。
それはスパイスの調合だとか、原材料の良し悪しだとか、火の通し具合だとかではなくて、足らないものは明らかに私たちの方にあるのだった。
決定的に欠けてしまった彼を、私たちと、そしてこの淋しい彼のキッチンが、声を張り上げて呼んでいるのだった。
──すみませんどうしても書きたくて。
底抜けに悲しくて淋しくて、たまらなくサンジに会いたい彼らの気持ちがエネルギーになって、ボスボスとガソリンを燃やして早く彼を奪い返してもらいたいのでした。
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
@kmtn_05 からのツイート
我が家は同人サイト様かつ検索避け済みサイト様のみリンクフリーとなっております。
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